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帰りがけ

僕らは王宮から服飾店に戻った。

リネとフランとターラントの服を注文したりしたのだが、肝心の代金をまだ払っていないからだ。


「すみません。

 先ほど支払いも済ましていれば、また対応していただく手間を掛けてもらわなくて済んだのに。」

「いえいえ、お気になさらず。

 すぐにお戻りの予定でしたが、何かトラブルでも。」


すぐに戻る予定が大幅に変わり、かなりの時間が過ぎてから戻ったことを店長さんに心配されてしまった。

「いえ、私たちはただ王宮に納入するだけのつもりで行ったのですが、陛下よりプライベートの場の方に呼ばれまして、少し話をさせていただいていました。」

「それは、予定が変わるのも仕方ありませんね。」

店長さんはちょっと驚いたようだ。


「私が領地の方に移住してどうしているかを、少し心配してくださったのでしょう。

 たまたま王宮に伺う事となったので、その機会を捉えてくれてアドバイスをいただきました。

 ま、私たちのような、元からの貴族ではなくて、庶民出の者は珍しいのでしょう。

 妻が王妃様に少し気に入られて、『定期的にこちらに来て奥に立ち寄るように』との命をいただいたので、その時にはまたこちらから向かわせてください。

 今日は急でしたので、この格好で陛下や王妃様の前に出ることになってしまったのですが、いくらプライベートの場といっても、もう少し着ている物に気を配らなければ、陛下に失礼かと思うので。」

店長さんは今度は本気で驚いた顔をして、ちょっと重々しく言った。

「承りました。

 王宮に上がる日の大体の予定が決まったら、私のところにご一報ください。

 その時に合わせたご衣装を用意させていただきます。」

「よろしくお願いします。

 僕たちは元々そういったことには疎い上に、今は王都から遠く離れた地で、王都の流行だとかも全く分からない場所に暮らしていますから、全面的に店長さんをこの店を頼らせていただきたいのです。」

「私どもでお役に立てるなら、精一杯の努力をさせていただきます。」


「ところで、まずは今日の朝注文した3人の分の払いをさせてください。」

僕と店長さんの話が一区切りついたところでエリスが声をかけた。

「奥方様、支払いはお気になさらないでください。

 私どもの店はブレイズ子爵家の皆様がご利用なさってくださっていることで、王都で有名店になりました。

 その上、この度は肌水をウチで売らせていただいたので、それを買いに来られたお客様が皆、ついでに服を注文していってくださって、とても大きな利益になっています。

 ですから、ブレイズ子爵家の方々のお買い上げは、店持ちとしようと考えているのです。」

「いえ、それはいけません。」


僕が反対する前に、エリスが即座に店長さんの言葉を遮った。

「私たちが利用させていただくようになったのも、元はといえばグロウヒル伯爵家が利用していたからですし、ハイランド伯爵家でもこのお店を知っていました。

 つまり私たちが利用させていただく前から有名だった訳で、有名店になっていることに対する私たちの貢献なんて微々たる物だと思います。

 肌水に関しては、私たちが置いてもらっている立場ですし、その代価も売上金の1割しか払っていません。

 そんな私どもが、大きな優遇を受けて良いはずがありません。

 それにこれは商売人として言いますが、私どもをそれだけ優遇すると、その優遇する分の金額を他で得ることになります。

 それは不公平で、私どもへの優遇する分を優遇しなければ、それだけ安く他の人に提供できるはずです。

 安くすることが全ての場合正しいとは限りませんが、私はそう考えてしまうので、支払いをしなくて良いと言われると、どうも心が重いのです。」


「すみません、これは参りました。

 ただ私どもがブレイズ子爵家の方々にご贔屓していただいたことで、大きく利益が上がったことは事実なのです。

 ですから、その感謝の気持ちをと思ってのことだったのですが、言われてみると、実際はともかくとして、他の顧客からはそのように見られる可能性があるのは確かでしょう。

 そして、それはカランプル様たちには不本意なことでしょう。

 そこまで考えが及ばず失礼しました。」

店長さんは、エリスの言葉にそう言って謝ってきた。

「いえ、そんな大したことではありません。

 僕たちは子供の頃より、妻のエリスの父に、『商は誰とでも分け隔てなくきちんと正当な取引をしなさい』と教えられてきたので、きちんとした対価を払わねばなんとなく気持ちが悪いんです。」

「そうでした、奥方様のご実家は東の町であの百貨店を経営されておられるのでしたね。」

「はい、僕もエリスもその店の店員という立場もあるのですよ。」

「子爵になられてもまだその立場もあるのですか。」

「僕とエリスにとっては、子爵などという貴族の立場の方が、現実と離れた仮初のモノという感じで、店員の立場の方が余程しっくりくるのです。

 それに領地の村では、エリスは今でも店頭に立っているんですよ。」

「それはそれは、領民の方々はちょっと困るでしょうね。」

店長さんは楽しそうに言った。

「はい、最初はなんだか戸惑ったようですが、最近は慣れて、普通に接してくださるようになりました。」

エリスが答えた。


「しかし、私どもも気持ちを表したいのです。

 それでは皆様のご注文の分は、これからは原価で売らせていただく、ということでしたらいかがでしょうか。

 私どもも気持ちを表せるし、きちんと代金をいただけるということで。」

僕はエリスの顔を見て確認してから答えた。

「分かりました、ありがとうございます。

 お言葉に甘えます。」

うん、服飾店の方の顔を立てるのも商売のうちだよね。


今回の支払いをエリスが小切手で済まし、僕らは東の町の家に戻った。

遅い昼食となってしまったのだが、家で昼食を一緒に済ますと、ターラントは

「私も今晩は実家の方で過ごしてきます。

 馬車は引き続き使わせていただいてよろしいでしょうか。

 明日の朝は、フランとリネの実家も寄って、2人を連れてこちらに戻ります。」

そう言って王都に戻って行ってしまった。


僕とエリスは、久々に空いた時間をのんびりと過ごしても良いのだけど、とちょっと思ったのだけど、おじさんとおばさんも百貨店の方に行って働いている時間なので、それを知っていながらのんびりするのは気が引けて、動くことにした。

「僕は一応、組合長のところに顔を出してくるよ。

 こっちに来たのに顔を出さないと、怒られるかもしれないから。」

「そうね、それじゃ私は百貨店の方で、肌水の販売状況を見てくるわ。

 ま、心配している訳じゃないのだけどね。」


僕が組合に行くと、もう自動的にという感じで組合長の部屋に通される。

「おっ、カランプル、今回は随分とすぐにやってきたな。」

「はい。 王宮に行かねばならない用事が出来ちゃって、行ってきたんです。」

「なんだ、あの肌水ってやつのことか。」

「組合長、よく知ってますね。」

「ああ、組合の女性陣がそれもお前のところで作っている、って話題にしていたし、

この前アークとリズもここに寄って行って、『献上に行く』って言ってたからな。

 それなら王宮に行く用事はそれかなって思うだろ。」

組合長はちょっと得意気だ。


「組合の馬車はお前の領地に通うのに慣れたみたいだし、砂漠の道の中間点の小屋が快適になって喜んでいたぞ。」

「僕もあんなに快適な場所になっていることは知らなかったのですよ。

 今回はちょっとびっくりしました。」

「組合の馬車で行っている連中は一応冒険者クラスのレベル2だから、少しは魔法も使える。

 あいつらも、毎回いくらかづつ許されている範囲内で、利用させてもらっている礼として、いくらか手を入れてるみたいだからな。」

「なるほど、それもあったのですね。

 なんだかどんどん施設として充実している感じがしたんですよ、本当に。」

「ま、俺も一度お前の領地に行ってみるかな。

 支部がどうなっているかも見てみたいしな。」

「ええ、ぜひ来てください。

 まだ何もない小さい村ですけど歓迎します。」

「そうそう、お前の領地に行ってる連中が一つだけ愚痴っているんだ。」

「なんですか、それは。」

「いや、飯と酒の楽しみがないってな。」

「いえ、酒はエリスの店で売っているし、食事は支部長の奥さんや、受付やっている人が作っているって話ですけど。」

「うん、支部長の奥方が作っている時は文句がなかったんだが、どうも受付の娘は料理が上手ではないらしくてな。

 最近、支部長のところは子供が生まれて増えただろ。

 そしたら、そっちに手が掛かるようになって、荷運びの奴らの飯の面倒まで見きれなくなってきたみたいなんだ。

 それで受付の娘の料理ばかりになったら、盛大に愚痴が出るようになったという訳さ。」

「なるほど、それは知りませんでした。」

「そろそろ食い物屋兼酒場を勧誘したらどうだよ。

 そうすればそいつらも助かる。」

「いえ、村の人口がそんなにいないですからね。

 お店を出してもらってもなかなか経営が苦しいんじゃないですかね。」

「それじゃあ、誰かいないか。

 村で探してみれば、そういう店をやってみたいという者もいるかもしれないぞ。」

うん、ちょっと心に留めておこう。


「で、仕事の話だ。

 どうだカランプル、そろそろまた魔石を大量に使う魔道具を何か思いついたか。」

「組合長、そんな物思い浮かぶはずがないじゃないですか。

 今僕たちは領地に木を植えるんで精一杯です。

 その為の水の魔道具用の魔石を随分と多く購入しているつもりなんですけど。

 それに魔技師の数が足りなくて、それさえこれからどうしようかと思っているところです。

 もっと言えば、今はカンプ魔道具店が投資する形で、その魔石の代金を払っているのですけど、それでは領地経営としてはダメなので、その辺をどうにかしようと頭を絞っている真っ最中で、新しい魔道具を考えるというところまで行ってないんです。」

「うーん、それじゃあ仕方ないなぁ。

 実はな、つい最近までは、お前の魔力を貯める魔石のおかげで余るようになった魔石を、水の魔技師が買って、新たに畑なんかを広げることに使われて、帳尻が合っていたんだ。

 ところが最近になって、魔物の発生量が多くなって、少しダンジョンが広くなったと言われている。

 まあ、魔物の数やダンジョンの広さは直接関係ないから置いとくが、その結果組合に持って来られる魔石の数が前より多くて、魔石がダブついているんだよ。

 おい、助けると思って何か新しいこと考えてくれ。」

うーん、なんだか宿題出されちゃったよ。


夜、おじさんとおばさんに詰め寄られました。

僕とエリスは家はもう出来たから、すぐに引っ越しの手配をすると約束する羽目になりました。

うーん、やれやれ。


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