表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/167

王都の服飾店に

町の百貨店で実の種から取った油で作った肌水が売れることが分かったので、戻ってきた僕たちは本格的にその仕事を行うことにした。

それからまずは最初に持って行った分の報酬を働いてくれた村人に支払った。

支払いの方法は、ドライフルーツを売った時を基にして考えたが、今回は種の提供だけに関しては値を低く設定して、その後の労働をした人の取り分を多くした。

誰がどれだけ仕事に参加して時間を使ったかは、毎日しっかりと記録していたので、それを基にして報酬を出したのだ。


肌水は百貨店で売る値段を、僕から見たらそんなに高くて良いのかという値段にエリスが設定したので、実を売った時と同じ様に、町で売った値の4割が働いた村人の報酬となるのだが、結構な報酬となった。

とは言っても、働いた人に払えた報酬は、大体一人当たり、魔技師が魔石に魔力を込めて得られる報酬の3個分くらいだ。

まだ、魔力があった村人が得ている1ヶ月あたりの収入と比べると少ない。

だが、在庫の種をきちんと毎月出荷できる様に等分すると、仕事量が半月分にも足りない程度なので、毎日肌水作りの仕事がある訳ではないので、働いてくれている村人はそれが少ないとは思わなかった様だ。


「ま、魔力があった者の多くの収入には及びませんが、彼らはほぼ毎日の結果ですからね。

 私たちは月の半分もこの作業場で仕事していませんから、そこは仕方ありませんや。

 毎日の仕事にして、半年以上もここでの仕事がなくなっても困ります。

 種の量には限りがありますから、それは仕方ないですから。」

働いてくれている村人はそう言って納得してくれている。

魔力がない村人も、今まではなかった収入が得られる様になり、村長の村が二分すると懸念した事態はなんとなく避けれる様だ。


とりあえず僕たちは肌水作りの事業が軌道に乗ることを優先させつつ、もう2つのことを進めた。

1つは当然の事ながら木を植える事だが、もう1つは僕らの住んでいる館に隣接して、もう1つ区画を作り家を作ったのだ。

なんのための家かというと、もちろんおじさんとおばさんの住むための家だ。

細かいことはおじさんたちが移住してきてから考えれば良いだろうけど、とりあえず住む家の希望はこの間、町に行った時に聞いてきたので、それに沿った形でこの村に合わせて家をアークとリズも含めて考えたりした。


それからもう1つ、僕とエリスとサラさんが戻ってすぐ、次のおじさんの店の荷馬車が来た時に手紙が届いた。

誰からの手紙かというと、学校で会った3人組だ。

内容は、卒業したら即座にこちらで働きたいという希望が書いてあった。

移住してくることも、もちろん店の秘密に関しても了承するとのことだ。

本当は学校で僕と話した時に即答しても良かったのだが、僕が「よく考えてから決断してね。」と言ったので、その場で即答するのは無礼かと思って、即答しなかっただけらしい。

決心は既にしていて、魔石の回路に関しての秘密保持のことも、フランとリネの手紙で僕が話す前から知っていたらしい。

うん、確かにそのことを、フランやリネに伝えてはいけないと禁止してはいなかったからね。


そんな訳で、彼女たち3人のための家も建て、ペーターさんたちには最近はちょっと中断していた移住のための馬車を、また出してもらうことになる話をした。

馬車を出してもらうのは、ちょっと申し訳ない気持ちもある。

というのは、最近はペーターさんも含めてなのだが、女性土の魔技師さんの旦那さんたちは、奥さんと一緒の仕事である植樹はもちろんだが、草刈り、植樹した木の手入れ、植樹する苗木の育成などとても忙しいのだ。

月に60本づつ木が増えていて、もっと大きくなれば手をかける必要も少なくなるのだろうが、最初の小さいうちは何かと手が掛かる訳で、どんどん仕事量が増えている。

女性土の魔技師さんの家族の移住が早く進んだのは、どうもそのせいらしい。

初めの予定では、この村で畑の目処がついたら呼び寄せるつもりだったらしいのだが、旦那さんが木の方の仕事で忙し過ぎて、このままでは全く畑の目処が立たないと、家族を先に呼び寄せてしまうことに方針が変わったらしいのだ。

呼び寄せられた家族は、この村での畑の作り方などを村長さんを中心とした村人に教わっているらしい。



その次のおじさんの店の定期馬車には、また違って手紙が二通託されていた。

それぞれアークの実家と、リズの実家からのものだったのだが、書かれていた内容は同じだった。

要するに、肌水を手に入れたいということだった。

百貨店で売っている肌水の人気は、貴族たちも知るところとなり、貴族たちも手に入れようとしている様だ。

だが、百貨店では入荷と同時に売り切れるため、人をやって買おうとしても買えないことが多いらしい。

流石に貴族の身分でゴリ押しして百貨店で買うことは、百貨店がエリスの家のものであることもあり、出来ないのでどうにもならないらしい。


僕はどうしたものかなと思ったのだが、

「放っておこう。

 本当に欲しければ、百貨店に入荷した時に、買う列に朝から並べば良いのだから。

 肌水を欲しい女性が、入荷日には朝から並んでいるということだから。」

アークがそう突き放したことを言った。

まあ、誰かを特別扱いするのは、相手が貴族だからっていってもちょっと嫌だから、それで仕方ないのかな、なんて僕も考えていた。


貴族関係のことに関しては、いつもそういったアークの言葉にすぐに同調するリズが、今回はちょっと考え込んでいる。

「あのね、これ儲け話にならないかな。」

リズはそんなことを言い出した。

「何も全部同じ値段で売らなくてはいけない訳ではないよね。

 貴族に売るのは高値を付けて売れば、働いてくれる村人により多くの報酬が出せるし、村も潤うわ。」

「リズ、そういう悪どい商売は、ダメよ。

 同じ物を貴族だからとか、庶民だからといった理由で値段を変えるのは間違っているわ。」

エリスが反対した。

「同じ物でなければ、値段が変わっても良いのでしょ。

 貴族用の特別なのも作って売りだすのよ。

 ほら、油を絞る時って、最初は透明な油が出るけど、最後の方は濁ってくるじゃない。

 今は一番最後の方のすごく濁っている部分だけは別にして、これから行う木材加工用にしようと別に取ってあるけど、他は混ぜちゃうじゃない。

 そこを最初のすごく透明な部分だけを貴族用として別にするのよ。」

「でも、サラさんが効果は変わらないって言ってたよ。」

「それは良いのよ。

 一番最初の透明な部分だけです、っていう違いがあることで十分よ。

 それを使って、入れる容器も、そうね特別感が出る様にそれも透明な瓶にして・・」

「いや、透明なのはダメだろう。

 サラさんが『透明だと変質しやすい』と言ったから今の容器になったんだろ。」

アークが言った。

「でも、透明な容器にしないと、最初の透明な部分だっていう特別感が目立たないじゃない。

 んー、それなら、こういうのはどう。

 変質しないうちに使いきれちゃうくらいの小さな容器にするの。

 そしてこれは、町に持って行ってから水を足すのではなくて、ここで作ってしまって、その容器を小さな箱に入れて売ることにするの。

 これなら変質も防げるし、中の瓶が透明だから透明なのもはっきり伝わって、高級感も出るんじゃない。」

「リズ、値段はどうするの?」

エリスが値段をどうするか尋ねた。 かなり乗り気になった様だ。

「これだけ特別で、手間もかかるし、入れ物も箱も作らなければならない、運ぶのもずっと重くなって大変になる。

 倍じゃダメね、三倍の値段で売りましょう。」


すぐに次の日から試作が始められた。

油は最初に流れ出す部分を別にとり分ければ良いだけだから、何も問題はない。

瓶はアークが透明な瓶を作るのに適した砂を、ターラントと2人で3日がかりで探してきて作った。

村の周りは砂だらけなのだから、すぐに見つかるだろうと門外漢の僕は思っていたのだが、見つけだすのはなかなか大変だったみたいだ。

瓶の大きさもどのくらいが良いか分からずにアークは三種類ほど作ったのだが、リズはそれよりも高級感が足りないとアークの作った瓶が不満だった。

結局、この小さい瓶も火の魔道具を使って彫刻を施すことになった。

で、出来上がったかと思ったのだが、木で作った栓が全体のバランスを崩すと、栓まで透明なガラスで作ることになった。

簡単な小さな石の箱(当然土魔法で作った。)にガラスの瓶を入れて、割れない様に運ぶということで、箱の中には藁で詰め物をして瓶を入れた。


ここまで特別で面倒なことをしたのなら、三倍の値段でもおかしくはないなと僕は思ったのだが、エリスも

「うん、これだけ手間を掛けた物なら、全然悪どい商品じゃないよ。」

と言っていた。


ところが僕たちは大きな見落としをしていた。

この貴族用の肌水をどこで売るのかを完全に忘れていたのだ。

東の町の百貨店にこの貴族用の特別な肌水を並べて売るのは、ちょっと違う気がするのだ。

東の町の百貨店はあくまで庶民の店であってほしいという気持ちが、僕とエリスには、そしてきっとおじさんにもあると思うのだ。


「そうだよなぁ。

 王都にはカンプ魔道具店王都支店とか、カンプ魔道具店と提携している魔道具店はあるけど、北の町みたいにおじさんの店がある訳じゃないからな。

 作ったは良いけど、どこで売ってもらおうか。」

アークの言葉に僕は、

「どこかそういうものを扱う店を知らないかな。

 僕は魔道具店しか繋がりがないけど、アークとリズなら実家の関係で色々な店を知っているだろ。」

「そうは言っても、色々と逆にしがらみがあるからなぁ。」

「それなら、いっそ私たちが服を作っているお店に頼んでみたら。

 全く違う業種だから、しがらみとかないだろうし。」

エリスがそういうとリズが、

「確かに、それも1つの手かもしれないわ。

 ダメ元で置いてくれないか、頼んでみましょうよ。」


そうして今回は、アークとリズの実家に寄らねばならないから、アークとリズが貴族用の馬車に、2人の家の紋を合わせて作ったグロウランド家の家紋をつけた馬車で、御者としてダイドールが同行して王都へと向かった。

アークは貴族の格好をしなければならないし、派手な貴族の馬車で行くのが気が進まないみたいだったが、リズはちょっとウキウキした感じだった。

リズも貴族扱いされるのを最近は好まなかったはずなのに、気が変わったのかなと思ったのだが、リズのウキウキ気分の訳をエリスが教えてくれた。

「リズはこの村では、アークと結婚する前から村人に呼びかけられる時は『リズ様』で、それはアークと結婚しても変わらないでしょ。

 でも今回の旅では、宿なんかで呼びかけられる時は『奥方様』とか『奥様』とか『グロウランド夫人』と呼ばれることになるでしょ。

 それが嬉しくて、ウキウキしているのよ。」


アークとリズは貴族用の肌水をそれぞれの家に5本づつ土産とし、10本を陛下に献上して来た。

といっても、陛下に直接渡した訳がない、その様な献上物を扱う部署にブレイズ家からの献上品として納入しただけのことだ。

持って行った残りの30本は、いつもの服屋に快く置いてもらえることになった。

売れた時の利益も、

「私どもは何もせずに置いているだけですので、売り上げの1割だけでけっこうです。」とのことだったそうだ。

アークとリズはこの貴族用の特別な肌水について、宣伝もせず、ただ自分の実家に

「使い切ったらば、服屋に置いてもらったから、そっちで買ってほしい。」

と伝えただけだそうだ。

たくさん売れる様になっても、こっちは普通の肌水以上に作れる数が限られるから、宣伝をする必要もない。

少しづつ口コミでいくらか売れるようになれば十分だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ