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植樹の進み具合と村長の相談

元の村人さんたちから、魔石に魔力が込められる人たちが出たおかげに、とりあえず魔力を溜めた魔石の供給に目処がついたのだけど、流石にそんなに一度に植樹が進む訳ではない。


リネは水の魔石を日に6個作れるから、目一杯毎日休みなく作ってもらえば月に180個の水の魔石が作れる。 休みを取ることを考えても、150個なら大丈夫だ。

でも、それだけでは役に立たず、水の魔石用の魔力を溜めた魔石も必要になる訳で、そっちも作らなければならない。

水の魔石用の魔力を溜める魔石は、リネでなくても作れるのだけど、今は新しい魔道具の開発をちょっと中断して、フランにはフルで組合に収めなければならない普通の魔力を溜める魔石を作ってもらっているように、魔石作りが間に合っていない状況なのだ。

魔力を溜める魔石の方はリネは日に8個作れるので、結局リネは1ヶ月に水の魔石を80個に、水の魔石用の交換の魔石を100個作ることとなった。


魔石に魔力を込められるようになった村人たちの1ヶ月に込められる数は120個なので、その水の魔石用だけでなく、普通の交換の魔石にも魔力を込めてもらう。

村でも当然火の魔道具なんかも使っている訳で、その分も出来たら村の中でどうにかしたいからね。


月に作っている水の魔道具80個の内、植樹に使っているのは60個で、後の20個は他の用途に使っている。

少し町との行き来が増えて、馬が増えたので、牧場を増設したり、ラーラの家族を始めとして、移住してくれた土の魔技師さんの家族も徐々に移住してきた。

火の魔技師さんの家族もいる。

そういった人たちの分の生活用水用の水の魔道具も必要だったし、移住してきた家族のほとんどは元々畑をしていた人たちなので、その人たちが畑に使う水も必要だったのだ。

新たに作った畑には栄養がないから、大した収穫にはならないのだが、水を撒いて雑草を生やして、それを切り飛ばしてミミズに処理を任せるということを何度かすれば、畑として少しは使えるようになることが、苗木を育てる時の副産物としてわかったからだ。

草の切り飛ばしは、普通にすると大変なのだが、フランがエアカッターの魔術を使って行えば簡単だった。

そんな訳で、フランは頼まれて草刈りを良くするようになったのだが、それに魔力を使うようになったら、魔石作りの数が苦しくなった。

僕も、少し建物作りが落ち着いたアークもせっせと魔石作りをしなければならなくなった。

まあ、アークは少し前からリネの植樹用以外の水の魔道具作りも手伝っていたのだけど。


ま、とにかく、それでも月に60本の植樹がなされたのだが、今現在この60本の植樹にかかる費用はすべて僕らのというか魔道具店の売り上げから出ていることになる。

木の実の売り上げで入った税は今年は例年より多かったらしいが、今までの街作りに掛かった経費をも充填仕切れなかったらしい。

その辺はダイドールに任せていることなので良く分からないけど。

それでも魔石だけでも120個の費用となる訳で、結構な経費がかかっている訳だが、エリスが何も言わないから、魔道具店の売り上げなどからなんとかなっているのだろうと思う。


新たに作っている町の街路樹は3ヶ月ほどで、一応植え終わった。

街路樹を植えた囲いの中は、木を育てるための水の魔道具が設置されているから、いくらかの水分があるため、最初はその中は雑草が生い茂った。

土の魔技師さんの旦那さんたちは、交替で馬車で町に向かうとともに、その街路樹の雑草を処理したりの作業が仕事になった。

街路樹の囲いの中の雑草は、刈ったらそのまま囲いの中に放置される。 ミミズによって土に栄養を与えたいと思ってのことだ。

それを何度か繰り返すと、急に植えた木の勢いが増して、植えられて3ヶ月もすると成長の早さから、一応街路樹と言って良いような大きさの、とはいってもやっと2mを超えて3mを目指しているという背丈だが、木になった。

そうして木の囲いが葉陰に覆われるようになると、雑草は生えなくなる。


新しく作っている町の街路樹を植え終わってからは、半分の30本分は新しく作っている町も含めて4つある、この村の集落をつなぐ道沿いに街路樹を植えることにした。

新しく作った町は、街路樹を植えることを前提に道を作ったのだが、元からの集落はそんな前提はなかったので、残念ながら集落の中に街路樹は植えられない。

集落どうしを繋ぐ道の街路樹が終わったら、その後は砂漠の道に中間点までは街路樹を植えるつもりだ。

これは距離があるから、長くかかる事業になるだろう。

そして半分の30本分は、砂が移動してくる風上側の地に、防風林を兼ねて林、出来れば森を作るつもりだ。

林にする木は、街路樹とは違い、何を植えるのが良いのか分からないので、広葉樹を何種類か、適当に混ぜて植えることにした。

広葉樹にしたのは、落ち葉を肥料にするにはその方が良いからだが、単純にこの地方で建材として用いられる他の国から買い入れている針葉樹は、実験として植えていたのが上手く育たなかったことにもよる。

まあ、これからの試行錯誤でどうにかしたくはある。



ある時、村長さんが深刻な顔をして僕たちを訪ねてきた。

「皆様、ちょっとご相談があるのですが、今の時間はよろしいでしょうか。」

「もちろんです。 村長さんが話があるというなら、他のことは置いても、すぐに時間を作ります。」

村長さんは、時間が空くとサラさんと連れ立って、情報交換と言う名の世間話をしたりに時々来るのだが、こんな風に相談があると言ってくるのは珍しい。

それに時間も夕食後の、僕たちがみんないるであろう時間を見計らってきたようだ。

つまり僕とエリス、それにアークとリズだけでなく、まだダイドールとターラント、それにフランとリネも、僕らの家というか、領主の館にいる時間を狙って来たのだ。

みんなは僕と村長さんのまわりに集まった。

フランとリネがどうするべきか迷ったみたいだったが、僕が目で「2人も参加して」と促した。


「それで村長さん、あらたまって相談とはどのようなことですか。」

僕はまわりにみんな集まったのを確認して、村長さんに切り出した。

「この村が以前とは変化しているのは、みなさんはあまり実感がないかもしれませんが、私ども元からの村民にしてみれば、大きな変化です。

 その変化は私からしてみれば好ましいもので、木ノ実の売り上げが以前の誰もが倍以上になったこともあり、水をずっと豊富に使えるようになったことだけでも大きなことです。

 街路樹が植えられて、日陰がたくさん出来るだろうことも、私は楽しみでしょうがありません。」

村長さんは僕たちのしていることを、そう言って讃えてくれた。

うん、今のところは問題ない。

「それから畑の給水機も、私もいくつか付けてみたのですが、給水機を付けた所は朝晩の水遣りの必要がなくなり、作業がとても楽になります。

 村人もポツポツと少しづつ給水機を取り付けているようです。」

うん、給水機もコンスタントに少しづつだが売れているので、それも知っている。

「ただ、ちょっと問題も出て来ています。」

村長さんの話は本題に入るようだ。


「どんな問題が出て来ているのですか。」

アークが合いの手を入れるという感じで村長さんに聞いた。

「元の村人の中から、リズ様が魔力のある者を見つけ出してくれて、カンプ様たちと火の魔技師さんたちで、彼らに魔石に魔力を溜めることを教えていただきました。

 とてもありがたいことで、彼らはそれにより、今までにはない新たな収入の道を得ることができました。

 それはとても素晴らしいことなのですが、そこでちょっと問題が出て来ました。」

僕は村長の言おうとしていることが理解できた。

「その新たな収入の道ができたおかげで、今までにはなかったことなのですが、元の村人たちのそれぞれの家で、得られる収入に大きな差が出来てしまったのです。

 魔力を持った者が出た家は、それまでとは桁違いの収入が得られることになったのですから、魔力を持つ者がいなかった家と軋轢が生まれてしまうのは仕方のないことかもしれません。」


うーん、そりゃそうだよね。

村の元からの住人は40戸あまりだけど、魔力を持っていた人は18人。

魔力を持つかどうかは遺伝的なことも絡むから、家族で2人いるところも5組あり、結局家で言えば、13戸の家に魔力を持つ者がいて、その倍以上の家にはいないことになる。

魔技師は月に10個以上の魔石に魔力を込めれば家族を養えている訳だから、魔力があった人が魔力が少なくて、ダイドール以下の3-4個しか月に魔石に魔力を込められなかったとしても、今までは木ノ実を売る時以外はほとんど現金収入のなかった元の村民にとっては大きな収入である。

ましてや、魔力が多くて8個込められる人や、一家に2人の魔力持ちがいた家などは、とても大きな収入になる。


「そして、彼らはその得られたお金で畑の給水機を買って増やしています。

 そうすると、高収入を得ている上に、普段の農作業は楽になっています。

 また、作業場に集まって火の魔技師さんたちと一緒に魔石に魔力を込めているようなのですが、私どもが側から見ていると、ただ単に集まっておしゃべりをしているだけのように見えてしまいもするのです。」

ああ、確かに。

魔石に魔力を込めるのに慣れてくると、魔力を込めながら話したりは出来るようになるから、周りからはそんな風に見えるだろうなぁ。

「つまり魔力を持つ者がいなかった家の者たちには、彼らは楽して贅沢をしているという風に見えて、ちょっと今、元からの住民が2つに分かれてしまいそうなのです。」

村長は苦慮しているという感じで僕たちに事情を説明した。


話を聞いた僕たちも、ちょっと沈黙してしまった。

「まあ、そうだよなぁ。

 今までは木ノ実を売ること以外にほとんど現金収入がなかったところに、一部だけ新たな大きな現金収入があることになったのだものなぁ。」

「普通の魔技師ほどの魔力を持つ人は流石にいませんから、それだけで生計が成り立つという人はいないのでしょうが、いや、今まで現金収入がほとんどなかったところに、コンスタントに現金収入があれば、結構成り立つのでしょうか。

 一家に複数の魔力を持った人がいる家は、それだけで十分成り立ってしまいそうですね。」

アークの言葉に、ダイドールが続いた。

「確かに、今まではなかった収入格差が村人の間に出来てしまったわね。

 その対策を考えてから、村人の中にいる魔力を持った人の活用を考えるべきだったかしら。」

リズの言葉に僕が言う。

「いや、それじゃあ、村の発展に必要な水の確保がもっと難しくなる。

 組合にどんどん町の魔技師さんに頼むという方法もないこともないけど、水の魔道具用の魔石は、この村でしか使えないから、あまり外に出したくないし、何かトラブルがあって町から魔力を込めた魔石の供給が止まったら、大問題になる。

 やっぱり、村で魔力を持った人の活用をしないというのはあり得ないよ。

 それに、もう始めてしまったことを元には戻せない。」

僕がそう答えると、みんなその言葉に納得して沈黙してしまった。


「他に村の人が現金収入を得る手段て何があるのですか。」

フランが誰に聞けば良いのか分からないという感じで、口を開いた。

「もちろん、店で野菜とかの買取販売をしているのはわかっていますけど。」

それを受けてエリスが言った。

「かと言って、野菜の買取値段を上げるという訳にもいかないわ。

 適正価格の取引をしないと、それを買っている人たちが今度は困ることになるから。」

「はい、それは分かっています。

 それ以外今までは何があったのだろうと思ったのです。

 やっぱり村長さんに尋ねるべきですね。」


村長さんはその言葉に

「うーん、今までは木ノ実と、それを干した物を売る以外に、現金収入って、これといってなかったように思うのですよ。

 貧しい村ですし、町に持って行くこと自体が大変ですから。」

それは最初から分かっている。

暑い砂漠の道を二日かかりで行かねばならないから、普通の作物ではダメだしね。

「あと、売れた物といえば、そうそう火の魔技師さんたちは来た時に油を買ってくれましたね。」

油って何だろう、この村で特別な油ってあるのだろうか。

僕たちは、みんな訳が分からないという顔をしていた。

「みなさんが日頃、顔や体に塗っている油ですよ。」

えっ、僕たちがサラさんにもらって塗っているのって油だったの。

僕たちの国は砂漠の中の国だから乾燥が強い。

町にいた時には郊外に出たり、町をつなぐ道を行ったりしなければ、そんなに乾燥を気にすることはなかったのだけど、この村に来たら、常に乾燥が気になるくらいだったのだ。

そしたら、サラさんが瓶に入った液体をくれて、「肌に塗ると良いですよ」と教えてくれたのだ。

「えっ、これって油だったのですか。

 サラさんには『よく瓶を振ってから、塗ってください』って言われましたけど。」

エリスがそう村長に言った。

「はい、木ノ実の種を割って、その中の柔らかい部分を蒸して絞って取った油なんですよ。

 水で三倍くらいに薄めて使うので、塗る前によく振って、瓶の中で分かれているのを混ぜる必要があるのです。」

「まずはこれです!! これ絶対に町でも売れます。

 リズ、フラン、リネ、これ絶対に売れると思うよね。」

エリスの興奮した言葉に女性陣はみんな即座に同意した。

「私たちもサラさんから貰っていて、すごくラッキーだと思っていたのです。

 塗っているのといないのとでは肌の調子が段違いですから。

 町でも売っていたら、女性はみんな買うと思います。」

リネがそう言った。


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