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火の魔技師さんと魔石

元の村人200人といっても、その中にはまだ学校に行っていない子も含めて50人以上の子供がいるから、大人の村人は150人に足りない。

だから、その10%として15人くらい魔力を持った村人がいるかと思ったのだが、ちょっと多くて18人の魔力を持っている人がいた。

ちなみに学校に来ている子供たちの中にも魔力を持っている子がいないかを、リズはそれもしっかり確認していて、30人少しの子供の中に8人も魔力を持っている子供がいた。

それは将来を考えて、別のことを考えようと思っている。


さて、作業場で始まった魔技師の初歩の授業だが、サラさんが懸念したように、村人たちは僕が教えようとすると緊張して、なんだか授業にならない。

それはダイドールだと幾らかはマシ程度で、結局ラーラが教えるのが一番まともな授業になるということが分かった。


まあ、なんというか疎外感を少し感じてしまったのだが、サラさんによると

「今までいた代官は、なんていうか威張っていた人でしたから、カンプ様はその代官よりずっと立場的には偉い人なのですから、元からの村人にするとどう接して良いか分からないのですよ。

 流石に私は慣れて、普通に接して大丈夫だと分かっていますけど、私がそう伝えてもなかなかすぐにそう思える人は、やっぱりいないと思います。」

「うーん、そんなものなのかな。

 僕とエリスなんて、つい最近まで普通の庶民だったんだから、そんなに気にすることないと思うのに。」

「それは無理だと思いますよ。

 この間の木の実の件でも、カンプ様のおかげで例年とは全く違う収入をみんな得られた訳で、その後で父がカンプ様たちの恩を忘れるなと発破をかけていましたから。

 元の村人にとって、カンプ様たちは本当に特別な人です。

 学校の子供たちのようには、やはり無理だと思います。」

うーん、そんなものなのだろうか。


ラーラが主に教えるということで、それなりに上手く行き始めた、と思っていたのだが、気づけばラーラに対する村人の態度も、僕たちと変わらないように段々なっていってしまった。

「うわあ、失敗したわ。

 私まで様付けで呼ばれるようになっちゃった。

 それは誤解で、私は様付けで呼ばれるような立場じゃない、と言っても止まらない。

 で、カンプや、ダイドールさんに対する態度と、私に対する態度も変わらなくなっちゃった。」

「えー、今まで上手く行ってたのに、なんでそうなっちゃったの。」

「ほら私って、あなたたちを呼ぶのに普通に名前を呼び捨てじゃない。」

「そりゃ、以前からの友達だから普通だろ。」

「私たちにとってはそれが普通だから何も意識しなかったけど、他の人にとっては領主様たちを名前で呼び捨てにするのは全然普通じゃなかったのよ。

 私たちだけの時はともかく、外ではきちんと自覚してあなたたちのことを様付けで呼ばなければいけなかったんだわ。」

えー、ラーラにまで様付けで呼ばれるのは、違和感なんてもんじゃないし、なんだかとても嫌だ。


僕は教わりに来ているみんなに説明する。

「ラーラは僕たちとは学校時代からの友人だから、互いに名前を呼び捨てしているけど、何か特別な立場があるという訳じゃないから、みんな、普通に接してあげてほしい。

 僕たちも領主だとか、貴族だとかという立場はあるけど、それもつい最近陛下にいただいたもので、それまでは普通の庶民だったのだから、全然偉いとかそういうことはないから。

 みんなも僕らの呼び方なんて、様なんて付ける必要はないから、普通に話してくれたらその方が僕らは嬉しいから。」

続けてラーラが言った。

「私はつい学生時代と同じ口調でカランプル様に話しかけて、みなさんに私のことを誤解させてしまいました。

 どうもすみませんでした。

 私はカランプル様たちとは違い、本当にただの庶民ですから、様付けで呼ばれたりすると本当に困ってしまいます。

 普通に接してください。」

僕はちょっと焦って言った。

「ラーラ、ちょっと待った。

 そのカランプル様っていうの何だよ、気持ち悪いよ。」

「いや、ちゃんと立場を弁えた言葉使いをしないといけないと反省したんだけど。」

「ちょっと待って、僕、今、みんなにも様付けなんてする必要ないから、普通に接して欲しいってお願いしたところだよ。

 それなのに、何ですぐにラーラがそれを覆すのさ。

 それに、ラーラに『カランプル様』なんて言われたら、気持ち悪くて何だか蕁麻疹でも出そうだよ。」

「カンプ、『気持ち悪くて、蕁麻疹』て何よ。 ひどい言い方じゃない。」

「ほら、だから、それでいいって。」

「あ、しまった。 つい。」


僕らが言い争ったので、何となく場が和み、結局ラーラは「さん」付けに戻り、僕のことは「カンプ様」と呼ばれることになった。

ま、「カランプル様」よりはいくらかは、それでも親しみの持てる感じなのかな。


蛇足だけど、ラーラの夫であるペーターさんも、僕たちを呼ぶ時になんて呼んで良いのか迷っていたらしい。

立場的にはきちんとフルネームを様付けで呼ぶべきなのではと考えたようだが、妻であるラーラが略称呼び捨てだから、同じ場に居てあまりに差がありすぎて場の空気を乱しそうでどうしようかと。

僕たちはラーラの旦那さんだから、ラーラと同じ様に呼んでもらえたらそれで構わなかった、ペーターさんは年上だしね。

けどまあ、そういう訳にもいかず、略称に「さん」付けで呼ばれることになった。


組合の支部長もちょっと困っていたみたいだったが、今まで通りに「カランプル君」と呼んでもらうことにした。

学校出た時から、そう呼ばれて色々と面倒を見て貰っていた人に、貴族になって領主になったからって、「様」なんて付けられたら違和感しかないもんね。



と、まあ、ラーラから始まった名前騒動は割と簡単に収束したのだが、ラーラが教えるのでも緊張してしまう事態は、結局そのままだった。

呼び方は「さん」に戻ったのだが、より一層僕たちにとても親しい人なのだという認識が強くなり、口調は普通に戻ったけど、緊張は残ってしまった。

ま、一時よりはマシになったから良しとしなければいけないか。


そんな風な微妙な雰囲気のまま、作業場で僕らは村人に魔石に魔力を込める基礎を教えていたのだが、ある時、村に移住してきた、この村に火の魔石を売っていた魔技師さんが、何をしているのかと中を覗いてきた。

覗いてしていることが分かると、

「領主様、私、最近この村に越してきた火の魔技師のフラネルといいます。

 今、領主様たちは魔石に魔力を込めることを教えているのだと思いますが、私も時間がありますから、教える方に加わっても良いですか?」

「あ、ありがとうございます。 そうしていただけると助かります。

 でも、領主様と呼びかけてくるのは勘弁してください。

 ここでもやっと『カンプ様』まで、呼び方が普通に近づいたんです。 ですから、あなたもそのように、いや出来たら単なる『さん』付け程度で呼び掛けていただけると嬉しいのですが。」

「えーと、流石に領主様に向かって単に『さん』付けで呼びかけることは私には出来ないので、私も『カンプ様』と呼ばせていただくということで良いですか。」

「はい、まあ、それなら。」


火の魔導師のフラネルさんに、教えることを手伝ってもらいながら、ちらちらと話を聞くと、こちらに来てからは、今までのように火の魔石を持ってこの村への旅をする必要もなく、魔石の交換のために呼ばれることもなくなったので、今までよりも魔石に魔力を込められる数が増えて生活が楽にはなったのだが、ちょっと暇なのだという。

「この村は、まだカンプ様たちが来られて発展させ始めた所ですから、ま、町から来た私たちから見ると、まだ娯楽がありませんから、どうにも時間を持て余しているのですよ。

 人は贅沢ですね。 以前は時間に追われ、金銭的にも余裕がなかったのですけど、いざいくらか金銭的にも楽になり、時間が出来ると、その時間をどうして良いかわからないなんて。

 ま、それもこちらに引っ越してくるにあたり、家まで用意していただいているからなのですけど。」


なんかそういった訳で、ダイドールに言って招聘してもらった、元々この村に火の魔石を売っていた魔技師さんたちは、ちょっと暇を持て余していたみたいで、5人とも村人に魔石に魔力を込めることを教えることを手伝ってくれるようになった。

村人たちは、以前から火の魔技師さんたちと面識があったからか、僕たち3人に習うより火の魔技師さんたちに習う方がずっと気楽なようで、結局村人に魔石に魔力を込めることを教えるのは、火の魔技師さんに任せることになってしまった。


僕ら3人はお役御免となってしまったのだが、火の魔技師さんたちが教えるのなら、その行為に対して報酬を出さねばと相談したのだが、火の魔技師さんたちは単なる暇潰しだし、家ももらっているのだからいらないと言ってきた。

「それだと、これから僕たちが何か仕事を頼みたい時に頼みにくくなってしまうから、そういう前例を作りたくない。」

と説得して、月に1人魔石2個分の報酬を払うことにした。

ま、それはたった2ヶ月のことではあったのだけど。


教えている内容は魔石に魔力を込めることのみに特化していることもあり、村人たちは2ヶ月ほどでだいたい魔石に魔力を込められるようになった。

そしてそのまま毎日作業場で、火の魔技師さんたちと一緒に魔石に魔力を込めるようになった。

一月に火の魔技師さんたちは1人あたり10個から12個魔力を込めてくれる。

その火の魔技師さんが込めてくれる魔石の数は、ほぼ村で使う水の魔石の数だった。

つまり火の魔技師さんが移住してきてくれて、やっと村で使う水の魔道具に使う交換の魔石の自給が出来るようになったのだ。

一番最初は水の魔道具のための交換の魔石も、組合を通じて町の魔技師さんに頼まねばならなかったのだが、水の魔道具の為の交換の魔石はこの村の中でしか使えないので、出来れば他の場所に持ち出したくなかった。

だから、火の魔技師さんが招聘に応えてくれて、この村に移住してくれたことは本当に助かったのだ。


村人たちはもちろんそんなに沢山の魔石に魔力を込めることができる訳はなく、多い人で月に8個、ほとんどの人は5個程度を1ヶ月に込めてくれる。

これも例えばフランやリネも交換の魔石に魔力を込めようとすれば月に8個ほどなのだが、それは十分な休養というか休みの日も作ったり、他のことにも魔力を使ったりもしての結果なのだが、村人の場合は毎日全力で魔力を込めての結果なのだ。

無理はしないようにと伝えてはあるのだが、魔石に魔力を込めるということが良い収入になるということが分かったからか、村人は毎日全力で魔石に魔力を込めてくれている。

この事によって、一人一人が込められる魔石の数は少ないけど、人数が18人もいるので、毎月村人たちの分で120個ほどの交換の魔石が得られるようになった。


木を育てる為の水の魔道具や、牧草を育てる為の水の魔道具、そしてそれを応用しての畑に水をやる魔道具を、この事によってやっと本格的に作成していくことができるようになった。

今まではまだ実験的に行っていたに過ぎない。

まずは街路樹を植えていくことを優先した。

街路樹として植える木は、最初に決まったこともあるし、実のなる木の次に育ちが良いし増やしやすいので、苗木の数もすでにかなり揃っていた。

そして木の本数が増えるにしたがって、苗もたくさん作れるようになり、街路樹が次々と植えられていった。

植えるのはもちろん畑にする為の囲い作りをほぼ終えた土の魔技師さんの仕事だ。

木を植えるために、低い円形の囲いを作る為にもそうなる訳だが、木を育てる為の魔道具をその囲いと一体化させてもらうにも土の魔技師さんが都合が良かったのだ。


なんだかやっと僕たちの、木を増やして村を住み良く変えて、発展させていくという計画が動き出した気がする。

まだ小さいけど道にズラッと街路樹が植わっていくのは、変わっていく景色を見るだけで心が躍った。

とはいっても、木よりもそれを守っている囲いの方が、今はまだ目立っているのだけどね。


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