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学校と植樹

学校の建物は、教室として使うのだから、なるべく広い空間となるように作られている。

とは言っても、小さな村の学校だから、そんなに大きなものではない。

それでもある程度の大きさの建物なので、その構造を支える為に柱や壁が必要になるのだが、窓を大きくすることにこだわった。

なるべく風が通るようにして、少しでも教室が涼しいようにと思ってのことだ。

それから、学校の建物の前、つまり日の当たる側には、例の実のなる木を4本植えた。 これも暑さ対策だ。

当然のことだが、子供たちが集まれば、トイレも使い、木はすぐにスクスク育って、どんどん大きくなり、目的の葉陰を作ってくれた。


こうして子供たちを集めて学校を始めてみると、予想外のことも起こった。


授業は、子供たちにとって、単純に物珍しいからか、まだ本当に簡単なことしか教えていないせいか、子供たちは素直にリズ、フラン、リネに教わっている。

前の黒板に書かれたことを、読んだり、自分のところの石版で練習したり、計算したりという形だ。

植物の少ないこの国では、紙は高価な物なので、石版にチョークで書くという方法が取られているのだ。


予想外だったのは、子供たちが思っていたよりも早い時間に学校にやって来ることだった。

僕たちは昼の時間が過ぎて、ゆっくりと昼食をとって、それから徐々に学校に集まってくるだろうと思っていた。

ところが学校が始まってしばらくすると、子供たちは昼ごはんを本当に食べたのだろうかと思う時間に、走って学校までやって来るようになった。

遊ぶためである。


今まで村では子供たちはほとんど家庭内で育つことになり、家庭内の労働力の一助にもなっているから、本当に隣近所の子供同士が少し一緒に遊ぶ程度で、子供が集まって何かする機会などほとんどなかったのだ。

それが学校が始まり、学校に来れば同じ同世代の子供たちといつでも遊べることとなり、多くの子供がとにかく早く学校に行って、友達と遊ぼうとするようになったのだ。


僕たちはそれを見て、当初全く考えていなかったのだが、学校の敷地内の環境を整えて、安心して遊べるようにした。

学校を囲む塀に沿って色々な木を植えた。 これは影を作ろうという目的は小さくて、木には色々な種類があることを覚えてもらう為の、学習目的でもある。

そして広場となっている地面にも牧草を植えた。 ただし普通の牧草地とは違い、配管を工夫して、ちょっと効率は悪くなるけど、水撒きの魔道具の四角い箱の部分は全て壁際に設置して、広場の上に障害物はないようにした。

それからベンチを置いた東屋も四隅に作って、座って休んだり、日陰で話したりできるようにもした。


それから必要になったのは水飲み場だった。

子供たちは学校前の校庭というか広場で走ったりして遊んでいるから、当然喉が乾くのだ。

最初に屋内に作ってあった水場だけでは足りず、外にも水飲み場を作った。

村の大人たちは、子供たちが自由に飲めるようにした水場を、大丈夫なのですかと心配した。

村で水は貴重なので、水の魔道具を子供たちが自由に使うということはない。 それを子供たちが自由に使うことにして大丈夫なのかと心配したのだ。

ま、いくらかはその使う水の魔石の代金を心配したというのもあるみたいだけど、学校の水の魔道具の魔石は、僕がというか、領主家で持つということにしたので安心したみたいだ。


当初、もしかしたらなかなか子供たちが学校に集まらないかと考えていたのだが、学校に来れば、みんなと遊べると覚えた子供たちは、みんなきちんと毎日学校に来るようになった。

そして学校に毎日通うことは簡単に習慣化してしまった。


授業の方は、最初は子供たち全員を対象にして、同じことをしようとしたのだが、流石にこれは無理があった。

ま、考えれば、下は5-6歳から、上は10歳を超える子供が来ているのだから、それを一律に教えるというのは無理があって当然だ。

そこで、机と椅子の配置を変えて、一律に全体に対するだけでなく、年齢で3つのグループに分けてそれぞれに教えるようにもした。

リズ、フラン、リネがそれぞれに20人弱ずつ担当する形になった。


学校の授業は、子供たちの親には何をしているのか分からなければ不安だろうから、いつでも見に来て構わないと言ってあるのだが、親が見にくることはなかった。

子供が体調が悪くて学校に来れない時などに、それを知らせに来るくらいで、親が学校に来ることはほとんどない。

逆に子供を学校に行かせておけば、労働力にはならないけど、安心して子供に関わることなく他のことが出来ると思われるようになったようだ。

それはそれで悪くはないと思うので、そのまま続けていくことになった。



元からの村人の畑を増やすことは、土の魔技師を優先して移住していたので、最初の計画の分はすぐに終わりを迎えた。

現状はこれ以上畑を増やすことができない。

あと増やせるのは、移住して来た魔技師さんの家族が使う畑を作るくらいのことしかない。

そこで、土の魔技師さんには、僕たちの次の計画である植樹に取り掛かってもらうことにした。


僕たちの家の敷地内に試験的に植えてみた色々な木は、苗から植えたモノはきちんと根付き少し大きくなり、タネから植えたモノもちゃんと芽吹いている。

水分さえあれば、きちんと育つことは実証できた。


そんな色々な木の中で、各家の植えてある実の成る木を除いて、一番元気よく成長しているのは、予想はしていたのだが、王都でも街路樹として植えられている木だった。

王都では王宮から真っ直ぐに伸びる広い道の両側にこの木が植えられていて、朝晩水をやったり、枝の選定をする専門の職があるのだ。

王都とそれを囲む4つの町の雰囲気の違いには、その街路樹の存在も大きいのではないかと僕は思っている。


とにかく、実の成る木ほどではないが、水分だけでかなりスクスクと大きくなるので、最初に進める植樹は、町に街路樹を作ることを計画していたので、この木を植えていくことにした。


とは言っても、まずは植える木を増やさねばならない訳だが、この木は水分だけでも良く育つことから分かるように、なかなか生命力が強いらしくて、切った枝を刺しただけでも、水分があれば根を出して簡単に根付く。

そこで、その木の苗を増やす畑を作ることにした。

実験的に植えた木の枝を切って、畑に植えて、朝晩の水やりをするとすぐ根付くのだが、それではまだ小さ過ぎて、流石にそのまますぐに街路樹として植える訳にはいかない。

ある程度大きく育ててから植えなければならない。


実際に作業を始めてみると、切った枝を刺して、街路樹として植えられる程度、1m程度の背丈まで育つのに3-4ヶ月掛かることがわかった。

実験的に植えた木から切り取ることができる枝も、そんなに沢山ある訳はなく、最初のうちは木を増やすこともなかなか進まなかった。

それにやってみて分かったのだが、最初のうちは枝を刺して水をやると、その水によって雑草が先にすごい勢いで伸びて水を吸ってしまう。

だからその雑草をこまめに抜いて処理することが必要だと分かったのだが、その作業が結構大変だった。

でも、雑草抜きは良いこともあって、抜いた雑草をその場に置いておくと、すぐに砂漠ミミズがそれを処理してくれて、肥料になることが分かった。

そして雑草は木が少し大きくなって葉陰が出来ると、途端に生えなくなった。


そうして最初はなかなか植える木が増えなかったのだが、少しづつ苗木が育つといらない枝も出たりして、苗木の数の増え方が徐々に早くなっていった。


それでも街路樹として植林するまで苗木が育つのを待つ時間があったのだが、その間に土の魔技師さんには街路樹を植える場所に、直径1m程度、高さ70-80cmほどの囲いを作ってもらった。

木が小さいうちは、風がまともに当たると折れてしまったりすることが考えられるし、それだけでなく成長が遅くなってしまうからだ。

それと、雑草が出てそれを刈って肥料にしても、風に飛ばされて溜まらなかったり、砂が移動しないように風除けを作るのは必須のことのようだ。


新しい町の道の両側に、丸い囲いが5mおきに次々と並んでいった時に、元からの村人たちは、何なのだろうかと疑問に思ったようだ。

そこに、しばらくしたら小さな苗木が植えられていったので、「ああ、このための物だったのだ。」と納得したみたいだが、わざわざ水の魔道具を1箇所ごとに付けて街路樹を作るということを元の村人たちは、「新しい領主様は何故あんなことをなさるのか。」と不思議に思っている様だった。

正直に言えば、「そんなことに水の魔道具を使うのなら、もっと他のことに使ってくれ。」というのが、元からの村人たちの本音だったと思う。


苗木を育てた畑は、育った苗木を移植したら、まずは移住してくれた土の魔技師さんの家族のための畑とすることにした。

苗木を育てるには、最初は別に肥料分が必要ではなく、囲って作ったばかりの区画でも構わないことが分かり、育った苗木を移植した後の畑は、雑草をミミズが食べて処理したりしているので、ある程度は最初より肥えているからである。

まあ、それもその後入れられる肥料分は限られているから、そんなに増やせる訳ではないけど、少しでも食料生産量を増やしたいからね。


移住してきた魔技師さんの家族は、ペーターさんの様に移住の馬車の仕事をしてもらう人以外は、その畑と街路樹の管理の仕事をしてもらうことになった。

今のところまだ木の数も少ないから、とても簡単な仕事というか暇な仕事なのだけど、これからどんどん木の数が増えてくると、どんどん大変になり、人員を増やすことになっていくと思う。 というか、そういう風にしていきたい。


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