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合作しての魔道具

次の日の指定された時間、アークと一緒にベークさんの店に行く。

「ベークさん、こっちは僕の学生時代の友人でアークといいます。

 僕と一緒に窯を作ります。」

「アークです。 よろしくお願いします。」

「私はカランプル君に窯作りを頼んだベークといいます。

 こちらこそよろしくお願いします。」

簡単な挨拶の後、すぐに調理場を見せてもらう。

「ベークさん、とりあえずは今使われてる窯はそのままにしておいて、新しい窯を別の使い易いと思われる場所に作るのが良いと思うのです。

 それで提案なのですが、出来るだけ大きな窯を作るのが良いと思うのです。

 その方が一度に焼ける量が増えて、仕事が楽になるのではと考えます。」

「私としてはそういう窯が出来れば、価格的なことを除けば嬉しいのですけど、そういう大型の窯を作るのは技術的に難しいと聞いたことがあるのですが、大丈夫なのですか。」

「はい、僕は大丈夫だと考えています。

 でも試してみないと確実とは言えないと思うので、それで今使われている窯はそのままにと提案している訳です。

 料金も満足していただける物が出来てからいただく契約なので、十分吟味していただいてからで構いません。

 と言うより、使ってみて、満足がいかないところをどんどん指摘していただきたいと考えています。

 その指摘していただいたところを改良して完成形が出来て満足していただけたら、お買い上げください。」

「何だかそれでは申し訳ない様な気がするのですが。」

「とんでもないです。

 最初から完成形を納入できない僕の力不足のせいですから、そこは気にしないでください。

 こちらに昨日お話しした通り、今の内容をきちんとした文章にした契約書を、作ってもらって持ってきました。

 一応目を通して、サインをお願いします。」


僕たちは契約を取り交わし、調理場を見学させてもらった。

新しい窯を設置する場所をベークさんの奥さんも加わって考えた末、今までの窯の4倍の大きさの窯を作ることにした。

ベークさんはそんな大きさの窯が作れるか心配していたが、確かに挑戦である。

僕はその後、アークに基本となるエリスの家のパン焼き窯を見てもらった。

アークは僕の工夫にとても興奮した。


「なるほど、この工夫を考えついていたから、大きな窯を作ろうと思ったんだな。

 実はベークさんの店では、こんな大きい物できないだろうと思っていたんだ。

 だけど確かにこれなら出来そうだ。」

僕とアークは僕の部屋で、ベークさんの家に作る窯の設計図を共同で描いた。

「俺の方は、窯の外枠の材料だが、それはその辺の砂で構わないから問題ない。

 前側の扉だけは中が見える様に透明にしたいから、これからちょっと取りに行って来る。

 これも任せてもらって大丈夫だ、材料になる白い砂がどこにあるかも分かっているからな。」

「じゃあ、そっちはよろしく頼むよ。」

「それは良いが、問題は回路用のミスリルと魔石だな。

 この設計だと魔石が9個も必要だぞ。

 悪いが俺は魔石も今一個もないし、ミスリルもないぞ。」

「そっちは俺が何とかするよ。

 流石に魔石を狩に行って取って来る時間はないから、今回は組合で買うしかないな。

 今2個持っているから、7個も買わなくちゃならないのか、金の蓄えが全部なくなるな。

 回路の組み込みと魔力込めは手伝ってくれ。」

「お前、俺は知っての通り土属性だぞ、回路の組み込みと魔力込めを手伝える訳ないだろ。」

「バカ、何言ってるんだよ。

 この新型は魔力を貯めておく魔石と、熱を発っしたりする魔石は別だから、貯めておく方は属性関係ないだろ。」

「おお、そうだった。 俺の魔力でも役に立つんだな。」

「立ってくれなきゃ困る。」


アークは砂を取りに行き、僕は組合に行く。

「おっ、カランプル君だったな、今日も新しい魔道具の登録かい。

 それとも新しい回路の登録かな。」

組合の職員さんに、顔と名前を覚えてもらっている様で、僕の方から声をかける前に声をかけてもらった。

「こんにちは。

 今日はそうではなくて、買い物にきました。

 魔石を7個とミスリルをこれで買えるだけください。」

「カランプル君が魔石を買うのは初めてじゃないかい。

 それも7個も買うなんて、何かあったのかな。」

「はい、初めて僕の魔道具を買ってくださる人が出来て、そのためです。」

「それは良かったね、と言いたいところだけど、大丈夫かい。

 こんなに買うのは大変だろう。」

「はい、僕のほとんど手持ちの全財産です。」

「おいおい、本当に大丈夫かい。」

「はい、何とかなると思っています。」

「それなら良いけど、あまり無理をしない様にするんだよ。」

「心配していただいて、ありがとうございます。

 上手くいった暁には、登録と相談をさせていただくことになると思うのですが、よろしくお願いします。」

「そうなのか。 それじゃあ、登録と相談しに来てくれることを楽しみにしているよ。」

「はい。」


それから7日目のベークさんの店の休日に合わせた設置日まで、僕とアークは大忙しだった。

その間に行った実験では作った回路はきちんと作動したのだが、実際に作ってどうなるかは分からない。

当日まずは調理場に普通の砂を持ち込み、アークの魔法で床と奥と左右の石壁を作る。

次にアークがわざわざちょっと遠い所から取ってきた白砂も使い扉の石壁を作る。

この扉は大きく透明な窓が付いている。 開閉もとてもスムーズで、アークの技量の高さが分かる。

そして天井部分を作ってきた魔石や回路を埋め込みながら作っていき、箱型の天井とし、最後に全体を一体化して出来上がった。


作業を見守っていたベークさんがちょっと狼狽えた様な声で聞いてきた。

「カランプル君、何だかとてつもない量の魔石を使っていた様な気がしたのですが、この窯は何個の魔石を使っているのですか?」

「はい、内側に5つと、この外側に付いている取り替え用の4つで、全部で9個の魔石を使いました。」

「9個ですか!!」

ベークさんが驚きの声を上げた。

「はい、でも魔力が切れた時に取り替えるのは外側の4個だけです。

 それに、今まで二週間に一度魔石を交換していたということですから、同じ量のパンを焼かれるとしたら、二ヶ月以上交換にはならないと思いますよ。

 とりあえず一度試してみてください。」


ベークさんは用意していたパン生地を4箇所に分けてパン焼き窯の中に入れて試してみた。

窓から中を見ながら火力の強さのスイッチを切り替えたりしているが、そこは試行錯誤が必要な様だった。

それでも焼きあがったパンを見て、ベークさんはとても喜んでいた。

「食べてみてください。

 まだ火力の調整は試行錯誤が必要ですが、今までの火力の調整のない窯よりもずっと上手に焼きあがっています。

 それに生地を置いた場所による焼きムラがほとんどありません。

 これなら一度に今までの4倍以上焼くことが出来て、仕事の効率がずっと上がります。」

 「これほど素晴らしい窯になるとは思っていませんでした。

 代金はこれだけ魔石やミスリルを使えば高くなるのは分かっていますが、できる限りすぐにお支払いします。」

「あの、その評価は嬉しいのですけど、使っているとまだダメな点が絶対に出てくると思います。

 とりあえず一回魔力がなくなるまで使っていただいて、それからということで。」

「でもそれですと、先ほどの話ですとお支払いするのが、2ヶ月以上先ということになってしまうのですが、良いのですか。」

「はい、僕もまだこのまま上手くいく自信を持てていないのです。

 ですから、大丈夫だと自信を持ててから、代金はいただきたいのです。」

「わかりました。 それでは私もその間、一生懸命代金を貯めていますね。」

「はい、それからとりあえず次のこちらの休日に調子を伺いにまた来させていただこうと思っているのですが、それ以外の時も何かありましたら、いつでも呼んでください。

すぐに飛んできますので。」


一応納品が終わって、お客さんであるベークさんには喜んでいただけたのでホッとした。

「アーク、すぐに金にならなくて済まないな。」

「いや、気にするな。 俺も楽しかったし、土属性でも少し希望が持てる気がしたから大満足だ。

 また何かあったら声かけてくれ。 いつでも手伝うぜ。」

「ありがとう。 とりあえず二ヶ月後を期待していてくれ。

 お前の取り分はちゃんと渡すからな。」

「ああ、ありがとう、期待して待ってるぜ。」


エリスとおばさんは心配して、その翌日のベークさんの店の開店直後にパンを買いに行ってくれた。

おばさんは、ベークさんと奥さんにとても礼を言われ、

「今すぐにでも代金を払いたいのだが」と相談されたそうだ。

おばさんは「カランプルの思っている通りにしてあげてください。」と言っておいたと、嬉しそうに笑って僕に伝えてきた。

「それにしても、カンプ、あんなにたくさんのパンが一度に店頭に並ぶと、きっとベークさんのお店評判になるわよ。」

とエリスが言っていたのだが、どうなることか。


僕はとにかく魔石の予備もないし、懐も寒いから、とにかく火鼠を狩りに行く。

今、魔石の交換のお客さんが入ったら、対応できなくてお客さんを逃してしまう。

僕はいつもよりずっと勤勉に、普段の魔技師の仕事をこなそうとしている。

パン焼き窯の最初の交換用の魔石も用意して置かないといけないしね。

予定通りなら、2回目以降は前のが使えるから楽になるはずだ。


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