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村の畑事情

村のそれぞれの世帯に食料増産をお願いするために、30m四方の畑の用地を土魔法で壁を作ることによって贈った。 風を遮った土地があり、水の魔道具を配れば、食料の増産ができるだろうという単純な考えだった。

でも、事はそう簡単には進まなかった。

僕たちはどうやら、家の前や砂漠の道の中間点の小屋に植えた実のなる木があっという間に大きくなるので、植物を育てるということを簡単に考え過ぎていた様だ。


そもそもこの村の一世帯あたりの畑は、僕たちが標準的に考えている30m四方の土地で考えると多くの世帯で、3枚ほどにしかならない。

だいたいそのうちの2枚で、穀物を作り、一枚でその他の野菜を作っている。 また、その一角に牧草などを栽培して、家によって牛、豚、鶏などを飼っている。 鶏の数が多く牛が少ないのは必要とする水の量が違うからだという。

でもまあ、基本30m四方の畑2枚の穀物で一家の主食を賄っている訳で、一家が四人と考えても、かなり無理がありそうな気がするのだが、僕たちが暮らす地方は、雨はとても少ないけれど、気温は温暖なので、年に三度の穀物の収穫が出来るからだ。


僕たちは畑にする土地を作るのに、土魔法で1.5mくらいの壁を10mの格子状に作った。

魔法を使える者がいない村民が普段畑を作るのにどうしているかというと、穀物を採った後の藁を束ね、剪定した木の枝とで風除けの壁を作って、畑を作っている。

束ねた藁だけでも壁は作れない訳ではないみたいだが、やはりそれでは強度が不足してすぐ壊れるので、とりあえずで緊急的に作る以外は藁だけの壁はなしの様である。

とにかく風による砂の移動が止まれば、この砂漠に近い土地でも少ない雨によるだけでも、幾らかの植物は芽を出したりするのだ。


壁を作る補強にするために必要な木の枝は、家の前に植えられている実のなる木を剪定した物だから、そんなに量が取れるものではないことは解る。

それでも毎年実が成り、新しい枝が出る木なのだから、邪魔になったり、古くなって枯れる枝なども出るはずで、それを集めていれば、もっと畑がたくさん作られていても良いはずだと思う。

それなのに畑が増えていない理由を、僕は水が足りないせいだと考えていた。


この村の水事情は今まで水の魔技師がいなかったこともあり、普段の生活でも節水が徹底していた。

僕たち四人が暮らす家は、多少人の出入りが多く、村の一般家庭より多くの水を使っているという自覚はあるけれど、最初は月に2個の水の魔石を必要とした。

町に居た時も、今よりは人の出入りが家自体では少なかったとはいえ、平均的には1個半の水の魔石を使っていた。 それでも、僕が風呂を沸かせば、エリスだけでなくおじさんとおばさんも入りにきた様に、僕たちの国はどこであっても水は貴重だから、決して無駄に消費していたわけではない。

たぶん、人の出入りがあまりない普通の家だとしたら、つまり僕がまだおばあさんやおじいさんが生きていた時の様な暮らしだったら、きっと月に1個程度の水の魔石で済んでいたのではないかと思う。

だとすると、たぶん1家族で月に生活用の水だけで水の魔石が1個必要で、その他に村人は畑に撒く水の分の魔石が必要となる訳だ。


だが、村長の話によると、村民達は1家族あたりだいたい年に20個の水の魔石しか使用していないという。

この数は、村では誰かしらが代表して水の魔道具の魔石の交換のために町に定期的に行くしかなく、その取りまとめは村長がしていたのだから、確実な数字だ。

畑に撒く水の方が生活に必要とする水よりも多量に必要だと思うのに、この数はいかに節水が徹底されてきたかということだと思う。


「何しろ、売り物もほとんどない貧しい村ですから、それだけの魔石を買うのがやっとのことなのですよ。

 火の魔石は、村に好意的な魔技師さんが来てくれて、売ってくれましたから、魔技師さんが来た時には我が家に泊まってもらい歓待するだけで、町での値段と変わらずに売ってもらえましたが、水の魔石は、こちらから売ってもらいに魔道具自体を持って町まで行かねばならなかったので、村でまとめて買いに行くことで経費を下げてはいたのですが、それでも負担が増えてしまうのは仕方ないことでしたし。」

村長さんの言葉からすると、水の魔石が町での普通より高いものになってしまうのは確かに仕方ないことだったと思う。

「調理器や、水の魔道具のための魔石が、いつでも簡単に手に入る様になったことだけでも、カランプル様たちがこちらにいらしてくれて、本当に村は暮らしやすくなりました。

 その上、エリス様のお店では、今まで町まで行かないと手に入らなかった物が、なんでも手に入ります。 ない物は持ってきてももらえます。

 村民はみな感謝しております。」


村長さんの言葉は今の問題から脱線してしまった。

今の問題は畑が今までどうして増えなかったのか、という問題だ。

1家族あたり30m四方の畑を1枚づつ増やすというのは、村長さんが

「その程度なら、水の問題をクリアできれば、なんとかなると思う。」

と賛成してくれたことによって、行った事業だ。

僕はこの言葉を、”水の問題さえクリア出来たら、畑を増やすことが出来る”という風に解釈していたのだが、実際は違っていた。

村長さんは、どちらかと言うと、「その程度なら」という限定の方を強調していたのだった。

僕は自分に都合の良い解釈をしてしまっていたのだ。


何が問題かというと、畑を作って、種を蒔いて、水さえやれば作物は育つ訳ではないということが僕には分かっていなかった。

元々砂漠の様な土地だから、そのままではほとんど栄養のない砂地の様なもので、まともに作物は育たないのだ。 そこで作った畑には、肥料として木の葉や、人の排泄物を入れたり、砂地でも育つ草を植えて、そこで家畜を飼ったりして、土地に栄養を与えなければダメなのだ。

僕はそういう必要を完全に忘れていたというか、思い至っていなかったのだ。


それは僕だけでなく、みんなだった。

まぁ、アークやリズに畑仕事が分かるとは思わない。 何だかんだ言っても、二人とも大貴族に生まれた訳だから、そんなことは全く知らないだろう。

でも、僕も含めて、エリスも、ダイドールも、ターラントも全くそこに思い至らなかったのは問題だと思う。


「私はもともと庶民だから、もちろん畑に肥料になる物が必要なのは知っていたわよ。

 だけど、あの木が水分だけでどんどん育つじゃない。

 だから、この地方の作物はみんなそういうものなのかと思っちゃったのよ。」

エリスの言い訳は僕と同じだから、文句の付けようもない。


「私もエリス様と同じ様なものなのですが、それでとても納得しました、この村の貧しさに。

 私は作物を売るにしても二日掛かりで砂漠の道を行かねばならないので、ほとんどの物が商品にならず、この村は貧しいのかと思っていましたが、それだけでなく、そもそも作物を作るのに大きなハンデがあったのですね。」

ダイドールの言うことは、まあ、理解できるけど、気づかなかったことに対する弁明になっていない。


「私は畑を作っていて、確かにこれ以上は無理だなと感じていました。

 流石に自分が作った畑の使われ方は気になりますから、その後をチラチラと見ていましたから。

 ここではそもそも人の数が少ないですから、町の様に人の排泄物などを集めても量がないですし、落ち葉などもあまりない。

 それにここには迷宮がなくて魔物もいませんからね。」

流石にターラントは自分で畑を作っていたので、問題に気づいていた様だ。

気づいていたなら教えて欲しかった。


ターラントの言葉に、ちょっと気になるところがあった。

「迷宮がなくて魔物がいないのは、魔石が獲れないという問題があるのはわかるけど、それと今の問題に何か関わりがあるの?」

「ええ、魔石を獲った魔物の死骸は、人間や家畜が食べることはないのですけど、細かくすれば良い肥料になりますからね。」

「ああそうか、それで死骸を買い取りもするのか。」

僕の質問にターラントが答え、アークが何だか納得した様な事を言った。

「ですから死骸を売るのも冒険者の大きな収入源ですね。」

僕は顔には出さなかったけど、魔物の死骸も売れるなんて、全く知らなかった。

僕は今まで魔石を獲ったら、死骸はそのまま放置していた。

うーん、すごく勿体無い事をしていた気がする。


「それから、家の前の木なんですけど、村長によると、家の前の木も水だけではダメで、汚水だからという事らしいですよ。

 まあ、木も草も全く成長しないという訳ではなく、肥料を入れないと成長がとてもゆっくりだったり、大きく育たないという事らしいですけど。」

なるほど家の前の木が大きく育つのはやはり理由があるという事なのか。

とても強くて少しの水分でどんどん大きくなるというのは変わらないらしいけど。

とにかくこの地の農業は、水がないのに加え、肥料分が少ないので、使える水の量、得られる木の葉などの量で作れる畑の大きさが決まってしまうのだ。 


もう1つこの地の農業を支える存在に、砂漠ミミズという動物がいる。

この雨が少ない土地でも時々は雨が降ることがある。

そうして砂地が水気を帯び、砂の移動が治ると、普段は砂漠の様な周りの土地にも、一斉に草花が芽吹き青々とした草原に変わる。

でもそれは本当に一瞬という感じで、すぐに水気がなくなると枯れてしまう。 

その一瞬の草花が枯れ始めたその時こそが砂漠ミミズの活躍する時だ。

草花が大きくなりきった時を待っていたかの様に、枯れ始めた草花を砂漠ミミズは根の方からどんどん食べ尽くしていくのだ。

そして水気が完全になくなり乾いた地に戻った時には、自分たちも干からびていくのだが、そのカラカラになった姿は死んでいる訳ではなく、半分に千切れていても、次にまた水が掛かれば復活を遂げたりもするのだ。


この地方の人たちは、雨が降った後、また地が乾ききって、以前と同じ様に砂が移動する様になる寸前に、草原になった地の表面の土を採取して、畑に入れる。 つまり砂漠ミミズが消化して排出した、草花の成れの果てが最も良い畑の栄養となる訳だ。


こうして可能な限りの手段を講じて、畑の地味を上げて、やっと畑は機能する。

僕たちはその事を知らなかった、いや忘れていた。 


「つまりやっぱり、なかなか畑を増やすことは難しくて、急激に人口を増やすことはできないということだよね。

 水の魔道具を量産して、もっと水をたくさん使える様にすることが第一何だろうけど、畑を増やすには、他にはどうしたら良いのだろう。」

アークが話を大きくまとめた。

「やっぱり、僕らができるのは、木を増やすことしかないな。

 木が増えれば、風を遮るし、落ちる葉や小枝などを肥料にすることが出来る。

 それしか今は考えられないな。」

僕がそう言うと、リズが言った。

「出来る事を地道にやっていきましょう。

 急に村を大きくしようとしても、それはやっぱり無理よ。

 私たちが出来る事を1つづつしていくことしかできないわ。」


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