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村人たちも集めて

ラーラたちがやって来て、翌日にその引越しが僕たちも手伝って終わったかと思ったら、その次の日には予定より早く、雑貨屋の馬車がやって来た。

予定より早いと思っていたのは僕とアークとリズの三人だけで、エリスや他の人にとっては予定通りだったらしい。

フランとリネは雑貨店の手伝いもしているから当然なのだろうが、ラーラもさっさと雑貨店の方に行ってしまい、子供を預けられたラーラの旦那さんのペーターさんは、子供をあやしながらダイドールと街に行く予定の確認をしている。


次に町に行くときはダイドールとペーターさんで行き、今までもずっと店で働いてくれている土の魔技師さん一家を連れてくるのだ。

そして今回の魔技師さんの旦那さんも馬車を操ることはできる人で、その次はペーターさんとその人とが町に行くことになっている。

その次の魔技師さんの旦那さんも馬車を扱える人で、それからはペーターさんを含めた三人で町へ往復しての移住サポートを当面はお願いすることに決まっているのだ。

 

「ダイドールはもう一回使ったから少しは慣れたと思うけど、ペーターさんも町に行ったら、まだご両親たちが住まれている家もあると思いますけど、僕たちが住んでた家も自由に使われて構いませんから。」

僕の家は、僕たちがこっちに移住して来た時に、領地の方から用事で町に出て来た者が泊まることができる場所にすることにして、家の中を片付けたのだ。


それに合わせて、家の中でそのままになっていた、じいさんとばあさんの遺品も本当に大事な物を除いて整理した。

ちょっと切ないけど、家を離れるのにそのままにはしておけないからね。

僕らが寝室に使っていた部屋だけは、鍵を掛けてそのままにしてあり、僕らが町に行った時に使うことにした。


「はい、カンプさん、ありがとうございます。

 でも、今回はこっちの様子を親父とお袋が聞きたがっていると思うので、そっちに泊まることにします。

 その家や、向こうの畑の処理などの話ももう少ししなければなりませんし。

 それでまあ、ダイドールさんも向こうでしなければならない仕事もあるそうですし、どのように移住の仕事を向こうでするかを打ち合わせているのです。」

「ああ、そうですね。 ペーターさんのご両親はこっちの話を聞きたがりますよね、当然。

 ペーターさんとラーラの家は、一応ご両親も来られることを前提に建てておいたのですけど、まだ畑には手が回ってないのです。

 ご両親にもこちらに来てもらうのは、すみませんがもう少し後になっちゃいそうです。」

「あ、もちろんその辺のことは私も理解していますし、まずはこっちに来てくれる魔技師さんの移住が先なのも解っていますから、気にしないでください。」


アークは次にやって来る魔技師さんたちの家の建設に行き、ターラントはいつも通り村人の畑作りに出ている。

その上、リズも今日は村の方に行って、村人の中に魔力を持つ者がいないかを確かめている。

僕はなんとなくあぶれてしまい、魔石に回路を書き込みながら、ダイドールとペーターさんの話に加わっている。


僕たち、元からカンプ魔道具店にいた者は、フランとリネも含めて、話をしながら魔石に回路を書き込んだり、魔力を込めたりするのは、当たり前のこととして行っていた。

ダイドールは魔力が少ないこともあり、そういった魔技師の技は普段していなくて、というか魔技師らしいことは全くしてこなかったので、今はそれを練習している。

まだ、どちらかに集中してしまって、片方が疎かになるという状態のようで、四苦八苦しているようだ。 ま、慣れの問題だから、時間が解決することだろう。


「ところで、ダイドール、次はいつ町に向かうの?」

「はい、一応明後日を予定していますが、場合によってはその次の日になるかもしれません。」

僕は、あれっ、明日ではないんだと、ちょっと思ったのだが、ペーターさんが何の反応も示していないから、それが予定通りなのだと理解した。



その晩、いつもより少し遅くエリスたちは雑貨店から戻って来た。

リズも外に出ていたから食事の準備もしていなくて、食事の時間が遅くなるかなと思っていたのだけど、雑貨屋の馬車が来たばかりで、村人からの買取もいくらかはあり、エリスとリズだけでなくラーラという強力な助っ人もいたので、食事はすぐに出来上がった。

最近はフランとリネも食事の準備に加わり、二人は色々と教わっているようだ。

エリスによると、リズの最初の頃よりはずっと上手とのことなので、すぐに戦力になるだろう。


「やっぱり村人の中にも魔力を持つ人はいたわ。

 魔力を持っている可能性があるなんてことを全く考えたこともなかった、ということで、とてもびっくりしていたわ。

 ただ、まあ、今まで全く魔力持ちの教育というか訓練を受けていないから、魔石に魔力を溜めるということが出来るようになるためには、一から教えないとダメね。

 それに若い子を除けば、今からまともな魔技師や冒険者になるのは無理だろうけど。」

「うん、まあ、それはそうだよね。

 僕みたいな庶民でも、学校に上がるときに魔力があることが分かったら、すぐに訓練を課せられて、それから上の学校に行く時は魔法学校に入れられて、魔技師の基礎をしっかりと勉強させられたのだから。

 それを大人になってから一から始めてというのは、時間的にも無理があるよね。

 本来の自分の仕事だって、家庭だってもうあるだろうし。」

「でも、魔石に魔力を込める程度なら、少し教えれば出来るようになると思うわよ。

 それが出来るようになれば、私たちも助かるし、そのひとの今までとは別の収入になるわ。」

「そうだね。 うん、やっぱり学校を早期に作って、子供たちとは別に、魔力のある人を集めて、魔石に魔力を込めることを教えることにしよう。」


「今日はそういう話は早めに切り上げて、明日のために早寝をしましょう。

 明日は村長さんによると、村民全員が集まるそうだから、私たちも気合を入れないとね。」

「あれ、エリス、明日は何か行事があったっけ。」

「カンプは関与していない行事があるの。 カンプがここの領主だからって、何でもかんでもカンプの命令で動いている訳ではないわ。」

「それはもちろん当然だけど。」

「今はもうグズグズ言ってないで、早寝するわよ。

 みんなもそれじゃあよろしくね。 とりあえず今日は解散。」

僕とアークとリズは何だか良く分からなかったが、他の者たちはみんなエリスの命令に何の抵抗感も見せずに従って姿を消して行った。

エリスが一番権力があるのは、やっぱりどこに来ても変わらない気がする。



翌朝、目が覚めると、何だか外が騒がしい気がした。

この領地の家の悪いところは、周りが高い塀で囲まれている上に、窓の外にはもうかなり大きくなった木が枝葉を茂らせているので、外の様子が家の中からは良く見えないのだ。

砂や風、そして強すぎる日光を避けるためには仕方ないことだが、何だか急に外が見えないのが、不安というか気になった。

僕が外を見て来ようかと腰を浮かしかけたら、エリスにぴしゃりと言われてしまった。

「後の予定が立て込んでいるのだから、早く朝食を食べて。」

同様にエリスに起こされたアークとリズも、テーブルで理由は分からないけど、こういう時のエリスに逆らってはいけないことを知っているので、僕と同様に静かに食事をしている。


食事が終わるとエリスは言った。

「今日はみんな、最も貴族らしい、一番上等な服を着てちょうだい。」

「一番上等なって、国王陛下の前に出たときに着た服を着ろってこと。」

僕がそう問い質すとエリスは

「そうね。 みんなで叙勲式の時にした格好をしましょう。

 あの服が一番格式が高いはずだから。

 リズは私たちの部屋の方で着替えて、私も自分の服を一人では着れないし、リズも同様でしょ。

 カンプはアークとリズの部屋の方で着替えて。」

僕たちはそれぞれの着替えを取りに行った。


「なあ、カンプ、これは一体どういうことなんだ。」

「僕が知る訳がない。 アークと一緒でまるで訳が分からない。」

「でも、あれだな。 フランとリネも全然動じてなかったよな、昨晩。」

「ああ、何となく訳が解っている感じだった。

 村長がどうとかとも言っていたから、もしかすると雑貨屋の方で話がされているのかもしれないな。

 雑貨屋のサラさんは村長の娘だから、それで雑貨屋の方で何らかの話が村長を含めて進んでいたのかもしれないな。」

「ラーラも昨晩は素直に従っていたよな。」

「そう言えば、昨日はラーラも子供はペーターさんに任せて、ずっと雑貨屋の方に行っていたな。」

僕たち男はそんなに着替えに時間が取られることもないので、早々に着替えてそんな話をリビングでしていた。

しばらくそんな風にして待っていると、きちんと正装し髪を整え、化粧をしたエリスとリズが部屋から出てきた。

エリスは僕を見ると、髪の毛を整えて、服装に変なところがないか確認してくれた。

隣を見るとアークもリズに同じことをされていた。



エリスが先導する形で僕たちは家を出た。

こんな格好でどこに行くのかと思ったら、ただ単に家の敷地の隣の実験用と言った方が良い牧場の入り口に来た。

それぞれの塀で仕切られた区画は防犯の為ではなく、風の通るのを塞ぐ目的で、出入口には扉がつけられている。

その扉を開けてみたら、牧場の区画には人が溢れ、立食のパーティー会場になっていた。

僕たちが現れると、会場となった30m四方の区画は一気に歓声が上がった。


エリスに連れられて僕たちが、自分たちが立つことになっているらしい位置に移動すると、フランが大きな声を出して会場のみんなに言った。

「それではみなさん、一斉に拍手を。」

また一斉に拍手と歓声になった。 一通りそれが終わると今度はダイドールが話し始めた。

「みなさん、それではお静かに。

 今日、村の皆さんをこちらにお呼びしたのは、祝いの席を設けて、みなさんにもエリズベート_グロウヒル男爵とアウクスティーラ_ハイランド男爵の婚姻を祝って欲しかったからです。

 今、それぞれの男爵の家名を私はお呼びしましたが、実はすでに貴族局において、お二人が新しくグロウランドの家名を共に名乗ることが承認されています。

 つまりはお二人がご夫婦になられることが国王陛下からも許されているということです。」

またしても歓声が上がった。 それが鎮まるのを待って、

「しかし、ご夫婦となられるには、貴族局の承認だけでは足りません。

 みなさんもご承知の通り、婚姻には教会での署名が必要となりますが、この地には残念ながら教会がありません。

 でもそのような場合、領主またはその代官が教会の代わりに、署名を受け取り、その婚姻を証明することができます。

 そこで、今ここに、領主であるカランプル_ブレイズ子爵の前にて、婚姻の儀を行い、お二人に署名していただくことにします。

 そして皆さんには、その見届け人になっていただきます。」


なるほど、そういうことか。

僕は二人の前で、自分たちが教会で神父さんにしてもらったことを思い出しながら、与えられた役を演じていく。

最後の署名の時になり、二人に署名を促すと、ターラントがちゃんと署名をする為の台を持ってきて、リネがペンとインクを差し出した。

「まさか、こんな恥ずかしいことを急にするとは思わなかったよ。」

アークは小声で僕にそう言って、署名した。

「エリス、ありがとう。 突然で驚いたけど、とても嬉しい。」

リズはそう言って、署名した。

僕はその署名した紙を受け取り、高らかに宣言した。

「これで二人は晴れて夫婦となった。 それでは二人は証のキスを。」

真っ赤になったリズにアークが照れ臭そうにキスをした。



30m四方の会場は、下はもう草が生えていて気持ちが良い。

会場に置かれたテーブルには、この地で取れる様々な食べ物と、昨日町から届いた食べ物が並べられている。

メインは豚の丸焼きだったのだが、驚いたのは焼いている魔道具が僕が以前作って、一回だけ使ってみた物だったことだ。

わざわざ町のエリスの家の物置に放置されていたのを持ってきて、火の普通の魔石4個は、こちらに通っていた魔技師さんに魔石を作ってもらったのだという。

ま、はっきり言って、子供のいたずら程度の魔道具で、僕としては恥ずかしいのだけど、ちょっと懐かしかった。


こちらに来ることが出来なかった、おじさん、おばさんからもアークとリズにお祝いの手紙が渡された。

それから支部長さんからは、東の組合長はもちろんだけど、北と南の組合長さんからのお祝いの手紙が渡された。

でも、会場のみんなに一番喜ばれたのは、パン屋のベイクさんがお祝いに送ってきたケーキだった。

ベイクさんの手紙では「砂漠の道を運ばねばならない為、日持ちの良いパウンドケーキ」になってしまったことを謝っていたが、油を塗った紙に包まれて、乾燥を防ぐ工夫がされたケーキはとても美味しくて、全員に配ると一切れづつにしかならなかったけど、一番記憶に残る物となった。


 

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