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初めての自分の魔道具の契約

パン焼き窯は調子良く、おばさんのお気に入りになった。

僕はというと、ま、変わらずに同じ様な日常を送っていた。

パン焼き窯を新しくしてから、もう少しすれば一ヶ月になろうとする頃、夕食の時におばさんに言われた。

「カランプル、パン焼き窯の魔石は特殊で、カランプルにしか作れないものなのよね。」

「はい、おばさん。 組合でしっかり登録してありますから、僕以外は作れません。」

「それなら尚更なのだけど、そろそろ何時パン焼き窯の魔石の魔力が切れてもおかしくない頃だわ。

 パン焼き窯の魔石をちゃんと用意しておいてね。」

「はい、大丈夫です。 もうちゃんと用意してありますから、何時でも交換できます。

 今度のパン焼き窯は魔石の交換は普通の調理器より簡単ですからすぐですし、それにまだ交換は先だと思いますよ。」

「そんなことないわ。 もう新しくしてから随分と使ったもの。

 今日にも魔力がなくなってもおかしくない状態のはずよ。」

確かに以前のパン焼き窯なら、そろそろ魔力が無くなってもおかしくない時期になってきている。

でも僕はまだまだ魔石が持つ自信があった。

事実、それから10日も魔石の魔力は持ち、魔石の取り換えも本当にあっという間だったことに、おばさんは驚いていた。

「カランプル、この新しいパン焼き窯は、扉を開けて置かなくて良いだけじゃなくて、本当に色々と改良してあったのね。

 おばさん、本当に今になって驚いたわ。」

僕はおばさんに本気で褒められて、とても嬉しかった。

自分が作った魔道具が、お世辞でなく本気で褒められたのは初めてのことで、こんなに嬉しいとは思わなかった。


「カンプ、お母さんに褒められたからって、何そんなにニタニタ・ニマニマしているのよ。見てると気持ち悪いわよ。」

「なんとでも言ってくれ、自分が作った魔道具が本気で褒められたんだ、魔技師として嬉しいに決まっているじゃないか。」

「何よ、まったく。」

エリスは僕のベッドに寝転んで膨れっ面をしているが、そんなことで今の僕の機嫌は変えようがないのだ。

数日経って、僕はおばさんに次の日の午後を空けておくように言われた。

そしてその日はちゃんと家にいる様にと。

僕はその日、きちんと家で待機していると、エリスが呼びに来た。

おばさんは調理場の方に来て欲しいとのことだった。

僕が行ってみると、おばさんと同年輩の夫婦らしい男女が居た。

おばさんは僕を二人に紹介した。

「この子が、このパン焼き窯を作ったカランプルっていうの。

 学校を卒業したばかりの新米の魔技師だけど、手前味噌かもしれないけど、とても優秀なのよ。」

そして僕に向かって

「カランプル、こちらは2つ先のパン屋のベークさんよ。

 私のパンのお師匠さんなのよ。 私が焼いたパン以外のパンは全部このベークさんが焼いたものなのよ。」

「新米魔技師のカランプルです。 よろしくお願いします。」

僕はベークさんに挨拶した。

「このパン焼き窯を作った魔技師さんだね。 私たち夫婦はパン屋をしているベークと言うんだ。

 このパン焼き窯のことを話しに聞いて、ぜひ実物を見せてもらいたいと思って、こうしてやってきたんだ。

 作った本人である君から直接このパン焼き窯の新しい特徴を教えてくれないかな。」


僕は請われるままに、自分で作ったパン焼き窯の特徴を話した。

扉を使っていない時に開け放しておく必要のないこと。

魔石の交換がとても簡単に済むこと。

1つの魔石で使える時間が長いこと。

火力の調整ができること。

一応この四点を特徴として伝えると、ベークさんは一回試しに魔石の交換をダミーの魔石でいいからしてみてくれないかと言ってきた。

僕はこの前交換して、また魔力をもう込めておいた魔石を家から取ってきて、ベークさんの目の前で魔石を取り替え、パン焼き窯を使って見せた。

「驚いたよ。 本当にあっという間に魔石の交換ができるんだね。

 僕たちパン屋にしてみると、他の特徴ももちろん魅力的だけど、この魔石の交換があっという間にできるというのは、とってもありがたいんだ。

 何しろ魔石を交換している時はまったく商売ができないからね。

 その時間が少なければ少ないほどありがたいんだ。」


ベークさんはちょっと後ろに下がり奥さんと話をしたかと思うと、僕に向かって

「それでは私にもこのパン焼き窯を作って売ってくれないかな。

 もちろんその後の交換の魔石も君から買うことにする。」

「はい、このパン焼き窯はちょっと特殊なので、僕以外の人はまだこれの交換用魔石を作れないんです。

 このパン焼き窯を売ることにするには、それはちょっと問題ですし、すみません、ちょっとこちらも相談させていただいても良いですか。」

僕はベークさんに断ってから、おばさんに相談した。

「僕、売り物になると思っていなかったから、値段も何も考えてなかったんです。それに今、ベークさんに言った問題もありますし。

 僕、自分で作った物をもし売ることができる様になったら、全部おじさんの店を通して売ってもらおうと思っていたのですけど、物を先に渡して後からお金をもらう形ってできるのでしょうか。

 それができるなら、先にベークさんにパン焼き窯を渡して使ってもらって不具合がなかったらお金を受け取る形にしたいのです。

 それに価格もいくらに設定して良いのか、おじさんに相談したいですし。」

「普通はそういうことはしないけど、カランプルがその方が良ければ、それでいいんじゃない。

 ベークさんは信頼の置ける人だから、何も問題ないわ。」

「ありがとうございます。 それじゃあそういう方向で話を進めさせてもらいます。」


僕はちょっと閃いたこともあるので、慎重に話を進めた。

「ベークさん、すみません、お待たせしちゃって。

 あの、僕、まだ新米魔技師で、自分の作った物を買ってもらうのって初めてなんです。

 それに、僕が設計した新しい魔道具ということになるので、今のところ大丈夫ですが、どこかに欠陥がないとも限りません。

 それから、ここに置いてあるパン焼き窯は一般家庭用サイズですから、業務で使うには少し小さいと思います。

 ですから、業務用に設計したパン焼き窯をベークさんの店に作らせてください。

 それで代金の方も、材料費がいくらかかるかまだ分かりませんし、代金をもらったのに欠陥があったというのでは困りますから、使ってみてきちんと使えるとベークさんが納得された時に、払っていただくことでどうでしょうか。

 代金はおじさんに相談して、材料費などを考えて正当な金額を算定してもらおうと思っているのですが。」

「それじゃあ、私たちの方が随分と有利な契約だと思うのだが。」

「いえ、そんなことはありません。

 ベークさんには僕の作る魔道具のモニターになってもらうことにもなるのですから。

 プロのパン屋さんとしての意見を色々聞かしていただいたりもしなければならないと思いますから。」

「ベークさん、この子の好きな風にさせてあげてくださいな。

 悪い子ではないことは私が保証するし、きちんとした契約書も作って渡すようにするわ。」

「私はそれで全く異存がないし、心配などしていないのだが、私に有利過ぎる内容だから、ちょっとカランプル君の方が心配になってね。」

おばさんの口添えもあって、僕の提案した通りの契約をしてもらえることになった。


新しい窯の設置は早ければ早い方が良いとのことなので、明日の午後のパン屋にお客が少ない時間に、打ち合わせと契約書を取り交わすために伺うことになった。

それだけ決まると、ベークさん夫妻は大急ぎで自分の店に戻って行った。

僕は僕で大急ぎで友達を訪ねた。

学校時代の友達なのだが、実は卒業以来会っていない。

光属性の友達には家の光属性の魔道具で世話になるから会うことがある。

水属性の友達にも家の魔道具のために確実に会う。 こっちは死活問題だ。

それで火属性の僕も、友達にちょくちょく呼ばれる。

卒業したばかりの魔技師なんて、互いに利用し合うというか、助け合うことは当然なのだ。

誰もみんなそんなに稼げている訳がないのだから。

そんな中不運なのは、風属性と土属性の魔技師だ。

上位の魔法使いではどちらかというと華やかな位置にいることの多い属性なのだが、魔技師の世界ではあまり需要がない。

だから卒業したばかりの魔技師はその2属性の友を助けようとするのだが、本人からしてみればなかなか友人に連絡もしにくい訳だし、こちらとしても訪ねにくい。

そんな訳で久々の訪問となってしまったのだ。


僕はボロい集合住宅の一室に、ズケズケと入っていく。

「アーク、まさか住処変わってないよな。」

「ん、誰だ? なんだカンプか。 なんの用だ。」

「アークいたか。 それから俺はカランプルだ。」

「それを言うなら、俺もアウクスティーラだ。」

「そんな変な名前、覚えられない。」

「お前、喧嘩売りに来たのか。 それにお前の名前だって変だ。」

「そうだった、こんなことで言い争っている場合じゃなかった。

 お前、明日暇か? 暇だったら、仕事手伝って欲しいんだけど。」

「家から見放された土属性の魔技師なんて暇に決まっているだろ。

 俺に仕事の依頼とは珍しいな。」

「今回はぜひお前の力が必要なんだ手伝ってくれ。

 上手くいけばちゃんと報酬出るから。」

「上手くいけばか、当てにならないな。

 ま、でもどうせ暇だ。 付き合ってやるぜ。」


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