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砂漠の旅

それから一週間後に僕たちは初めて自分たちの領地になるところを視察に行った。

でも、勝手にただ行けば良いという話ではなく、行く前に先触れというか、連絡を入れておかねばならなかった。

さて、その連絡をどうしようかと思っていたら、王宮から領地の代官に対する指令に人が派遣されるとのことで、その派遣される人に連絡を頼めば良いことになった。 こういうところでちょっとした配慮をしてもらえるのは、僕たちがそういう仕事をしている下級貴族の人たちに人気があるということらしい。


それでも行き着くのに3日かかり、その1日目はともかく、2日目と3日目は確実に何もない砂漠の旅をする為には、色々と準備が大変だ。

リネも参加してくれたから水に困ることはないと思うけど、それでももしもの時のために水の魔道具と魔石は多めに用意した。 2日目と3日目の為の食料も用意しなければならないし、帰りの分を現地調達がきちんとできるかも分からないのでその分も用意する。 水が何とかなるとはいえ、味気ない保存食になってしまうのは避けられないのが辛いところだ。

天候的には大丈夫だと思うが、風が強いと弱まるまで立ち往生という危険もあるので、予備も欠かせない。

ふと僕は、もしかするとこの旅はダンジョン用の魔道具が役に立つかもしれないと思い。それらも用意した。

馬車を頼むのも、そこまで遠くまで行くことを引き受けてくれる人はなかなか居なくて、面倒なのでアークが馬車の御者を出来るというので、これからも何度も繰り返し常に使うことになるだろうから、馬車と馬を二頭買ってしまった。

僕は今回の旅で、アークに馬車の動かし方をしっかりと習うつもりだ。 リズもフランもリネも馬の世話は貴族の嗜みで出来るとのことだから、それも僕とエリスは教わるつもりだ。 別に貴族の嗜みはどうでもいいけど、新しい領地で暮らすには絶対必要なスキルの様だからだ。

家宰候補のダイドールさんはどうするのか尋ねたら、

「その辺は自分で用意しますので、お気になさらないでください。」

とのことだったので、自分たちのことが忙しかったので任せてしまった。


出発当日の朝、やって来たダイドールさんの馬車を見て、僕らは驚いてしまった。

僕らが6人用として用意した馬車よりも、もっと大きな馬車に荷物を満載して乗って来たのだった。

「いえ、私、もし家宰にしていただけなかったとしても、子爵様の領民には何とかして頂こうと思っていまして。 これは最低限の家財道具一式を積んできたのです。」

リズが聞いた。

「もしかして、ダイドール、あなた、もううちの実家を辞めてきちゃったの?」

「はい、辞めて、お嬢様、いえ、リズ様たちにお仕えしたいと申しましたら、最初はちょっと反対されたのですが、幸いにも快く送り出されました。」

うーん、何だか、家宰としてはともかく、家臣というのかどうかもわからないけど、雇わないといけない感じになってきちゃったな。 これだけ退路を絶って来られると、何だか流石に拒否できないよ。

「あと、それから一緒に来たのが、実は私の親戚でして、ターラント_ゲーレルといいます。 私は魔技師にさえなれないのではないかという僅かにしか魔力を持たない一応光の魔技師ですが、ターラントはもうあと少し魔力があれば冒険者になれたんじゃないかという土の魔技師です。」

「ターラントです。 よろしくお願いします。

 魔力だけは僕の方がダイドールより多いのですけど、他のことは何一つダイドールに勝てません。 こんな自分ですが、誠心誠意皆様にお仕えするつもりです。」

きちんと挨拶をされたら、僕らもきちんとしないといけない。

「まだ、本当にうちで働いてもらうかどうか決まっていないけど、とりあえずはよろしくね。

僕はカランプル、みんなからはカンプと呼ばれているから、それで構わない。 こっちが妻のエリス。 そしてリズのことは知っているのかな。 それからアーク。 僕らは一応爵位持ちということになっているけど、爵位を呼ばれたり、あまりへりくだった態度をされるのは好まない。 普通に名前を呼んでくれれば良いからね。

それからこっちはリネとフラン。 どちらも貴族の子女なんだけど、二人もここでは名前で呼んで良いことになっているから。

とにかく、気楽に仲良くやっていこう。」

「あの、皆さん上位貴族ですし、特に爵位をお持ちの方々は元からの4伯爵家の血筋の方々ですよね。 そんな方々を私などが普通に名前呼びだなんて宜しいのでしょうか。」

「うん、まあ確かにリズとアークはその伯爵家の人だけど、僕は先祖がそうだったというだけでつい最近まで単なる庶民だからね。 ちっとも偉くなんてないんだ。 僕がそんなだから、みんなそれに合わせてくれているのさ。 だから、全然構わないから、普通に名前呼びしてよ。 その方が肩が凝らなくていいから。」

「はい、承知しました。」

「うん、とにかく気楽にね。」


旅は1日目は町ではないが、点在する村を繋いでいく様な具合だったので、道もしっかりしていてどうということのない旅だった。

1日目の終わりとなる、僕の領地となる場所との境に近い村には、北の町で使っていたほどではないが、ある程度の大きさの宿屋があり、僕たちは二人づつに分かれて部屋を取った。 流石にリズとアークを同じ部屋にする訳にもいかないので、僕はアークと、エリスはリズとで同じ部屋に泊まった。


2日目になり、僕の領地となる場所に入った途端、旅は過酷なものになった。一面砂以外何もなく、たぶん土魔法で作ったのだろう道標が100m程ごとに立っているだけだ。 幸いにも風は穏やかなので、順調に進んで行く。 道標のお陰で道に迷うこともないのだが、単調な景色の中をただ進んで行くのは辛い作業だ。 準備をしていた時に、旅用品を売る店で素焼きの壺を無理矢理という感じで買わされたのだが、その意味が良くわかった。 リネに溢れないように壺の半分ほどまで水を入れておいてもらうと、少しすると壺の水は少し温度が下がり、そのことがすごくありがたいのだ。 馬にもこまめに水と塩を与える。 こんなところで馬に体調を崩されたらたまったものではない。

砂漠の旅でとても役に立ったのは、アークの作ったトイレの魔道具だ。 砂漠の旅で、汗をかくとはいえ、暑いからその分飲んでもいる。 意外に普段と同じように用を足したくなるのだ。 最初女性陣は、

「いかにも用を足してますって感じで、ちょっと恥ずかしいわ。」

と言っていたのだが、これが無ければどこにも隠れる所のない砂の平原でただ用を足すことになるのだ、すぐに慣れてしまった。

ダイドールとターラントにも貸してやって使わせたのだが、

「砂漠の旅で、トイレに困るなんてことは全く考えていませんでした。 それにしても便利な道具があるのですね。 全く知りませんでした。」

と感心していた。


夕方、まだ日があるうちに僕らは目的地までのちょうど中間点に着いた。 この道を利用する人は誰もがこの中間点で一晩過ごすらしく、道標も大きく立派な道標が立っているし、周りには今までに多くの人がここで過ごしたからであろう。 風除けのための壁だとか、小さな一人がやっと潜り込めるという感じのドームだとかが、色々作られている。 しかし、どれも本当に簡単な作りなので、すぐに壊れてしまいそうな物だ。

僕は、アークとターラントさんに提案する。

「二人とも今日は魔力を使っていないから、たくさん魔力があるよね。 提案なんだけど、ここに二人でちょっとした避難小屋みたいな物を建ててくれないかな。 どうせ帰りも僕らはここで一泊しなければならないということもあるのだけど、周りに散らばっているようなチャチな物ではなくて、しっかりした建物がここに立っていたら、この道を通る多くの人の助けになると思うんだ。 どうかな。」

アークとターラントさんも賛成してくれたのだが、ダンドールさんがとても熱心に大賛成してくれた。

「素晴らしいです。 まだ領地の視察に行こうとしている段階で、もう領民に対する善政を考えつくなんて本当に素晴らしいです。 建物の入り口には看板を掛けましょう。 『この場所を通る全ての旅人よ。 この建物を自由に使うことを許す。 ただし誰かが占有することなく、仲良く使うように。』と。 そしてその看板にはブレイズ家の家紋と、子爵のサインを入れるのです。」

アークがそれに賛成した。

「ああ、それは良い考えだな。」

「何も僕の家の家紋を入れたり、僕の名前を入れる必要はないだろう。」

「いや、それを書き入れておかないと、誰か変な奴が建物を占有しようとしたり、悪さをしてすぐに壊したりするぞ。 家紋と領主のサインが入っていれば、それをだいぶ防ぐことができる。 有効な手段だよ。」

「そんなものなのかな。」

「ああ、それにこの土地を誰が領有しているのか多くの人が目にすることになり、一石二鳥さ。」

建物を作り始めると、確かにターラントさんは優秀な土の魔技師というか魔力持ちだった。 カンプ魔道具店では、アークが一番魔力量の多い土の魔技師だったのだが、ターラントさんもアークに引けを取らない魔力量の持ち主だった。

ということは、アークはあとほんの少し魔力量が多ければ、魔技師ではなく冒険者になっていたということで、アークには悪いのかもしれないが、僕は「ああ良かった、アークが冒険者になってなくて」と思ってしまった。

アークとターラントさんのお陰で、かなり立派な建物ができたのだが、アークは満足してなくて、もう魔力が尽きたから今日はここまでだけど、帰りの時にもう少し直すと言っている。 それを聞いていたターラントさんが、

「帰りの時に直すのでしたら、この部分をこのように直されたら良いと思うのですが。」とアークと建物の構造の話を熱心に始めてしまった。


女性陣はアークに無理やり作らせたシャワールームで順番に次々とシャワーを浴びている。 アークは

「こんな所でシャワーを浴びる必要があるのかよ。」と反対したが、リズに

「女はいつでもどこでも毎日体を綺麗にする必要があるの。」と言われてしふしぶ作ったのだ。

女性陣のシャワーが終わり、エリスを中心として夕食の準備が始まった。

ここでも携帯用の調理器を出して使ったのだが、初めて見たダイドールさんとターラントさんは大興奮だった。

「うーん、これはカッコいい道具ですね。 私、あとでこれ一つ買います。」

「カンプさん、私にも売ってください。 ぜひこれは一つ欲しいです。」

「それにしても、私今回のことで、カンプ魔道具店が繁盛していることに本当に納得しました。 グロウヒル伯爵家の照明を作った時だけでも納得していたのですけど、こう次から次に便利な新しい魔道具を見せていただくと、より一層納得してしまいました。

 やはり何としても、子爵家の家臣にしてもらわなければ。」

「はい、私もダイドールと同じ気持ちです。 それにアーク様は私と同じ土俵で意見を戦わせてくれます。 こんなに気持ちよく自分の考えを話したのは初めてのことです。 もう私も皆さま以外の所で働くことなど考えられません。」

「ターラント、様ではなくて、さんで良いから。」

アークがターラントに注意しているけど、どうも直らないらしい。


二人の言葉を聞いて、リネとフランが小さな声で話していた。

「なんだかこの二人の言葉を聞いていると、私たちってあまり何も考えずにカンプ魔道具店で働かせてもらうことになったのだけど、それってすごくラッキーなことだったのかしら。」

「もしかするとそうなのかもしれない。 ターラントさんは『気持ちよく自分の考えを話したのは初めて』と言ってたけど、ウチの店では時々ラーラさんが場を仕切ったりもするじゃん。 誰でも自由に好きなこと言えるけど、それが出来ない方がやっぱり普通なのよね。 もしそうだとしたら、私たちはとてもラッキーだったんだよ、やっぱり。」


「とりあえず、カンプも食事の支度が出来上がるまでにシャワーを浴びてきて。 私は汗臭いカンプより、臭くないカンプの方が好きよ。」

「でも、もう暗くなって見えないよ。」

「あ、大丈夫。 ここは私がライトの魔法を使っているけど、シャワールームにはライトの魔道具が置いてあるから。」

「わかった。 それなら僕も浴びてくるよ。」

僕がそう言ってシャワールームに行こうとしたら、アークが言った。

「これだけシャワーを浴びる奴がいたら、その排水で木が育つんじゃないか。 木があればこの場所の快適度は断然上がるだろうなぁ。」

「うん、確かに。」

そう言って僕はシャワールームに行った。


夕食の後、僕らはみんな建物の中で、持ってきた寝袋に入って寝たのだが、みんなは一人用の寝袋に入っているが、僕とエリスは二人用の寝袋に一緒にくるまっている。

エリスはちょっと恥ずかしげでもあり、それでいてちょっと自慢げな複雑な感じで寝袋に潜り込んできたのだが、慣れない馬車の旅で疲れていたのだろう、僕の右腕を枕にしてもう完全に眠っている。

僕はちょっと眠れなくて、さっきアークが言っていた

「木があればこの場所の快適度は断然上がる」という言葉を考えていた。


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