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領地

それから数日して王宮から使いが来た。

僕の子爵への、そしてアークとリズの男爵への正式な叙爵が行われる日程が伝えられたのだ。

僕らはそれだけかと思っていたのだが、使いの人はそれだけでなく、僕には正式に領地が与えられること、そしてアークとリズは僕の寄子となることになったことが伝えられた。

ま、そんな貴族としての立場なんてのは僕には分からないし、僕には関係ないと思っていたのだが、アークとリズは喜んでいる。 何でも自分の家の伯爵家から離れることになるので、実家に振り回されずに済むということらしい。


問題はそのもらえるという領地だった。

僕には本当にびっくりするほどの広大な領地が与えられることになったらしい。

ただし、ほとんど不毛の砂漠地帯で何もない。

ま、基本的に僕たちの国は不毛の砂漠地帯の地形上少し風が穏やかな場所に、超強力な水の魔力を持った初代国王が建てた国なのだから、不毛の砂漠地帯というのは珍しくない。

だが貴族は領地をもらうと、その領地に住むか、代官を置かねばならないのだが、新たに領地をもらった貴族は、もらって5年はその領地に基本住んで、領地の経営に励まねばならない決まりとなっている。

という訳で、僕がもらった領地というのは、多くの貴族から、王都からの距離の遠さと、広くても逆に領地として経営が大変になるだけのことなので、敬遠されて誰も領主になり手がいないという土地なのだ。

それだけでなく、自然環境も水や緑が割と豊富な王都に比べ、断然過酷であることも敬遠される理由となっている。 とにかく昼間は暑くて、夜は寒くなる砂漠そのままの気候なのだ。


王宮からの使いの人は、そう言った解説を僕たちに丁寧にしてくれた。

どうやら僕たちは、シャイニング伯に今までの自分たちの常識から外れた勝ち方をした為、多くの貴族から危険視されて、王都から遠ざけられることになった様だ。

それにまあ、家名だけは有名な家名だけど、単なる庶民の僕に子爵が与えられたことは、元からの貴族にとっては面白くない出来事であったのだろう。

まあ、その気持ちがわからない訳でもない。

それとは逆に、庶民や、准男爵や騎士爵といった下級貴族には、僕たちはとても人気になった。

王宮からの使いの人が詳しく色々と領地に関してなどのことを教えてくれたのは、そのせいかもしれない。

そしてもう一つ、一ヶ月後の叙爵の式までに領地を視察してくることが課されていた。


使者の人が帰るとリズが言った。

「叙爵の式が一ヶ月後だとすると大忙しだわ。」

「そうだなすぐにでも行動を始めないと一ヶ月後には間に合わなくなる。」

アークもリズの言葉に同意して焦りの言葉を口にした。

「領地までは馬車で3日の距離ということだから、ただ往復するだけなら1週間もかからない、焦るほどのことではないだろ。」

僕がそう言うとアークが、

「カンプ、何を言っているんだ。

 ただ行けば良いということではないんだ。 視察してきたら、その領地のことに関して、どんな質問を受けても最低それなりに答えられる様に調べたりして置かなくっちゃならないんだ。

 もちろん今までの記録とかはあるだろうが、やはりそこに住む領民たちに話を聞いたりといったことは欠かせない。 まず第一に領民の代表くらいとの顔合わせは済ましておかねば駄目だろう。 

時間はいくらあっても足りない。」

「とにかく即座に大急ぎで視察の準備ね。 だけどまず一番最初に明日は王都に行って、また式典用の服を作らなくっちゃ。」

「えっ、リズ、また服を作らなくちゃならないの。」

「エリス、当たり前でしょ。

 叙爵の式典にはきちんとした貴族の正装をする必要があるのだもの。

 カンプもエリスもそんなモノ当然持ってないんだから作る必要があるのよ。

 私もアークも爵位を持った貴族の服は持っていないから、同じ様に作らなくてはならないのだけどね。」

「私は爵位を受ける訳じゃないから、それじゃあ関係ないわね。」

「エリス、そんな訳ないでしょ。

 カンプの正式な妻であるあなたは、もちろん叙爵式に出席する必要があるに決まっているじゃない。 カンプが叙爵されたらば、子爵夫人として陛下に共に頭を下げるに決まっているじゃない。」

「ええっ、私なんてただの庶民なのに、そんな場に出席して、陛下に直接頭を下げるなんてことをしなくちゃならないの?」

「エリス、言っておくけど、エリスはもう子爵夫人であって、俺やリズよりも高位の貴族なんだからな。 庶民じゃないからな。」



僕たちが、もうだんだん行きつけになってきた洋服屋に行くと、

「子爵様、男爵方、お越しいただけるだろうと、準備してお待ちしておりました。

 おっと、それより先にまず第一に決闘での勝利のお祝いを申し上げねばなりませんでした。 失礼しました。 本当にようございました。 子爵様の勝利は大きな騒ぎとなり、ご利用いただいている私どもも、そのおこぼれにあずかって、評判になっております。

 その上、皆様叙爵されるとのこと、きっとお召し物をご注文に来ていただけると思い、私どももすぐに用意をしてお待ちしていました。

 それではいつものように、男女に分かれて、それぞれお選びください。」

僕はいつものようにアークと2人で店主のアドバイスを聞きながら、服を選ぶことになった。 僕にはよくわからないのだが、僕の子爵の正装と、アークの男爵の正装にはいくらか違いがあるのだそうだ。 それから生地を選んだり、好みの色を選んだりする。 正装は形も色も決まっているのだが、差し色というか少し色がそれぞれの好みに合わせた使われる部分があるらしい。 よく分からない。


僕たちはそれでもそんなに時間がかからずに選び終えたのだが、女性陣は当然ながら時間が掛かっている。 その時に店主さんが言った。

「差し出がましいのですが、今回の叙爵の式典用以外の貴族の正装もこれからは必要だろうと思い、それぞれに数点ずつ作っておきました。

 こちらは当店よりの勝利のお祝いでございますから、お代は結構でございます。

 特に女性お二人には気に入っていただけるかが不安なのですが、お帰りの時にぜひお持ちになってください。」

「ありがとうございます。 僕たちは叙爵の式典で頭が一杯になりそこまで気が回っていませんでした。 とても助かります。」

とアークが店主さんに礼を言っているので、僕もそれに合わせて頭を下げた。

「とんでもありません。

 正直、私の店は今、貴方方がご利用されているということで、注目を浴びて、とても繁盛しております。 この様なささやかなお礼で良いのだろうかと考えているくらいです。」


帰りの馬車の中でリズが言った。

「ほんと忘れていたわ。

 店主さんが気をまわして作ってくれておいたから良かったけど、そうでなかったら視察に行った先で着る服がなくて恥ずかしい思いをするところだったわ。」

「そうなんだ。 僕も店主さんに用意しておいたと言われた瞬間に気がついて、ああ助かったと思ったよ。」

「そんなに服装が問題になるのか?」

僕が聞くとアークが答えてくれた。

「もちろんだよ。 領主が初めて領地を訪ねるのに正装しなかったら、訪ねられた方は馬鹿にされたと思うだろ。」

「言われてみれば、そんな気もしないではないかもしれない。」

「なんだか分かったような、分からないような返事ね。」

「そりゃ、僕自身が分かったような分からないような気分だから当然だよ、リズ。」

「それにしてもこんなに服をもらってしまって良いの。

 カンプとアークに2着づつ、私とリズなんて5着も貰ったのよ。」

「いいんじゃないか。 店主さんは、『この様なささやかなお礼で良いのだろうかと考えている』と言ってたから、問題ないんじゃないか。」

アークはそう言って気にしていないが、僕はエリスと同じで、ちょっと気になってしまう。 確かに僕たちが良い宣伝になったのだろうとは思うけどね。


僕たちはそれから視察に持って行く物を用意しなくてならなかったのだが、それよりも先に何人で視察に行くかを決めないといけなかった。

僕たち4人は僕は当然だが、エリスも行かねばいけないらしい。 そして、アークとリズも僕の寄子の貴族となった訳だから、当然領地に同じ様に住む必要があり、今回の視察も当然行くこと前提だ。

ま、ここまでは良いのだが、僕はリネにも同行を頼んだ。

水のない砂漠を3日間も行くのだ。 途中1日目はまだ他人の領地で村があって、そこに泊まれるらしいのだが、2日目は砂漠で泊まらねばならない。 水の確保が問題になりそうなのだ。 もちろん水の魔道具は持って行くのだが、もしもという時がある。 水の魔石を沢山買って持って行くより、水の魔導師が1人一緒に行く方が心強い。 それにリネが一緒なら、勝手が分かった帰りには、持って行った水の魔石を領地の人への土産にしてしまうこともできる。

そんな訳で、断られたらもっと多めに水の魔石を買おうと思ったのだが、リネに相談してみると、

「もちろん、一緒させてもらいます。 ちょっと気が早いかもしれないですけど、皆さんが領地に転居する時には、私ももちろん付いていきます。」

と即答してきた。 そしてそれに合わせて、フランも

「私とリネはいつでも二人一緒です。 当然私も今回の視察も、転居する時も付いていきます。」

と一緒に行く宣言をした。

するとラーラが困った顔をして、

「私も一緒に行きたいのですけど、流石にこれだけの日数を家族とは離れられないので、今回の視察は留守番をさせてください。」

と申し訳なさそうに言った。 それは当然のことなので、僕が

「ラーラ、それは当たり前だから、申し訳なさそうな顔をする必要はないよ。」

と言うと

「でも、カンプ魔道具店の正店員が私以外全員行くのですから、ちょっと引け目感じちゃうよ。

 だけど領地への転居の時には、私も家族と話し合って、きっと一緒に領地の方に行ける様にするわ。 きっと向こうにも私以外の家族の仕事もあると思うのよね。 カンプくん、悪いけど、そういう当てもないか考えながら視察してきてくれないかしら。」

「いや、そこまで考えなくてもいいよ。 こっちにも誰かいてくれても良いのだから。」

「それはやっぱり嫌なのよね。 私だけ一人こっちで仕事するなんて、ちょっと考えただけで嫌だわ。」


組合にも僕が領地をもらい、近日中に転居することになることを報告に行った。

「また、随分と遠いところに行かされることになりましたねぇ。」

職員さんに、そう言われてしまった。

「ま、考えられる事態ではあったがな。

 それでカランプル、お前の領地に新しい組合の支部を作るぞ。 今回の視察の時は新しい支部を作る土地も見繕っておいてくれ。」

「えっ、わざわざ組合の支部を作ってくれるのですか。」

「お前らカンプ魔道具店は、ここで売られる魔石のほとんどを買っているんだ。 そんな大口取引の相手の近くに組合がなかったら、双方にとって不便でしょうがないじゃないか。

 それから安心しろ、新しい支部の組合長はこいつだ。」

組合長は職員さんの肩を叩いた。

「ということになりましたから、カランプル君、これからもよろしくお願いしますね。」

職員さんは、そう僕に挨拶してくれた。

「とんでもないです。 こちらこそこれからもよろしくお願いします。」

「今回の視察には一緒に行けませんが、カランプル君たちが正式に領地に向かう時には、組合建設や、宿舎建設のための職人も連れて、一緒に私も行きますからね。 今、その準備をしている所です。 ちょっと気が早いですけど、向かう日取りが決まったら、教えてくださいね。」


もう一人、意外な所から同行者が現れた。

「カランプル_ブレイズ子爵様ご夫妻、エリズベート_グロウヒル女男爵様、アウクスティーラ_ハイランド男爵様、お久しぶりでございます。」

僕は顔を見た覚えはあるのだが、誰だかわからなかったのだが、リズが気がついた。

「あら、あなた確かうちの実家から最初副使として二度目は正使として使いに来てくれた人だわね。」

「はい、お嬢様じゃなかった、エリズベート女男爵様。」

「めんどくさいから、リズで良いわよ。 それで今日は何の用事で来たの?

 一人で来ているから、私の実家の伯爵家からの使いという訳では今回はないと思うのだけど。」

「はい、それではリズ様と呼ばせていただきます。

 今日はお願いに参りました。 私、ダイドール_ゲーレルをも子爵様の寄子にしていただき、ぜひ家宰として雇っていただけないでしょうか。」

えっ、どういうこと、と僕は思ったのだが、アークは

「ああ、そういうことか。 確かに家宰は必要だな。」と言った。

僕はよくわからないので、目顔でアークに説明を求めた。

「領主となると、領地の民の税を徴収したりする義務も負うんだ。 だからそういうことをきちんと出来る家臣というか、家宰がどうしても必要となる訳さ。

 僕らのところには、帳簿管理がきちんと出来るのはエリスしかいないだろ。 まさか子爵夫人のエリスが税の徴収に表立って回る訳にもいかない。 だからそういう人材が必要だろうと、自分を売りつけに来たんだよ。」

なるほど、そういう事なのか、と僕は納得した。

「あなた、うちの実家でもそのうちそれなりの地位につけるんじゃない。 何も新興の格落ちの子爵家にわざわざ仕官に来る必要ないんじゃない。」

「いえ、そんなことはありません。

 確かに伯爵家にいてもそれなりの地位にはなれると自分でも自負していますが、こちらに来れば、税の徴収だけでなく、様々なことが私に任せていただけるのではないかと踏んでいるのです。 私は名家で地位を得るよりも、自分の能力を存分に振るえるかもしれない可能性に賭けたいのです。」

「カンプ、エリス、どうする?

 確かにこの人の言うように、そういう人材は私も必要だとは思うのだけど。」

「私も、もうこれ以上の事務仕事は無理だから、そういうことのできる人は必要だわ。」

エリスもそんなことを言った。 僕は決心した。

「えーと、それじゃあとりあえず視察に付いてきて来れますか。 僕たちはあなたのことを良く知りません。 リズの家に照明器具を設置した時に、あなたは有能な人だという認識を持ちましたが、人柄が全く分からないではすぐにあなたの求めに応じる訳にはいきません。 この視察のうちに、あなたの能力と人柄を見せてください。」

「ありがとうございます、子爵様。」

「あ、僕のこともカンプで。 つい最近まで単なる庶民でしたから、子爵などと呼ばれるのは好きではないのですよ。」

「はい、了解しました。 それではカンプ様、エリス様と呼ばせていただきます。

 それともう一つお願いしてもよろしいでしょうか。」

「何でしょうか。」

「私の友人に、アウクスティーラ様と同じ土属性の魔技師がいるのですが、この男も同道させていただけるとありがたいのですが。」

「えーと、何故その方を同道したいのですか。」

「はい、もし私が今回の視察の結果、願いを聞き届けていただけることになりましたら、私と友とはこちらに戻らずに、領地の方で仕事を始めて、皆様が正式に領地にお越しになる時には、出来る限り快適な環境でお迎えできるように手配したいと思います。

 その為には、まず自分たちが住むところを作ることから始めなければならないかな、と考えました。 それには土魔法を使える者が一緒ですと、都合が良いと。」

色々用意周到にすでに考えて来たのだと僕は驚いた。

「わかりました。 とりあえず視察にお二人とも同道してください。」

僕がそう言うと、アークが言った。

「あ、俺のこともアークで。」


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