爵位
決闘場は何が起こったのか分からないという感じで、静まりかえっていた。
貴族局の職員らしい立会人も考えていなかった事態らしくて、ボケっとしている。
「すみません。 シャイニング伯は降参ということなのですが、これで僕はもう帰っても良いのでしょうか。」
立会人はハッと自分のしなければならないことを思い出したようだ。
「この決闘の勝者はカランプル_ブレイズ。」
立会人がそう宣言すると、決闘場は歓声に包まれた。
歓声の中、僕のところには控え室にいたエリス、リズ、アークが駆け寄ってきた。
シャイニング伯のところにも人がやって来て、シャイニング伯を助け起こしていた。
「ははは、俺は勝利を疑っていなかったが、正直、シャイニング伯の『雷光』の魔法を見た時には冷や汗が流れたよ。」
「ああ、俺も冷や汗だったよ。 レベル2の魔石が2個ほぼ一杯になっちゃったよ。 最初のデモンストレーションがなかったら、完全に3個目の魔石にも魔力が入るところだった。」
「えっ、それじゃあ、シャイニング伯は本当はレベル3じゃなくて、レベル4だったのかよ。」
「ああ、そうみたいだな。 さすが名ばかり貴族から伯爵になるだけあるな。 俺も背中は冷や汗ダラダラだよ。」
「ああ、ちょっと想定外だな。」
エリスは一番最初に僕に抱きついたが、その後はリズと抱き合って二人して泣いていたので、僕とアークは二人でそんなことを話していた。
大きな歓声はまだ続いていたが、国王陛下の脇に控えていた人が大声を出した。
「会場の者、静まれ!!」
その声に陛下の席の近くから静かになり、3度目の声で決闘場全体が静かになった。
会場が静かになったところで、国王陛下が声を出した。
「カランプル_ブレイズよ。 あっぱれな闘いであった。
正直、そなたがどの様にしてシャイニング伯に勝利したのか、余には良くわからなかったが、魔技師として何らかの魔道具を作ってきたのであろう。
勝利はそなたのものである。」
「シャイニング伯よ。 己の力に驕ったな。
そなたは敗北することなど夢にも考えていなかったのであろう。 まあ、それはそなたに限らず、この決闘場に来ている者のほとんどがそうであったろう。 正直、余もそなたが敗北を喫するとは考えていなかった。
しかし、そなたが望んで行った決闘である。 その敗北はきちんと受け止めよ。 王都光魔導師組合はカンプ魔道具店のモノとなった。」
「いえ、陛下。 それはあまりのことでございます。」
「シャイニング伯、何を言うか。
決闘の前にきちんと交わした条件ではないか、貴族であればその結果を受け止めるのは当然のことであろう。 これ以上貴族らしからぬ振る舞いは許さぬぞ。」
貴族席は静まりかえり、顔を青くする者がいたが、一般席はざわめきが起こった。
先ほど、大声を出した、陛下の脇の人が、それを受けてまたわざとらしい咳払いをした。
また静かになった。
その時、陛下のもとに近づく人がいて、何かを陛下に囁いた。
「シャイニング伯、そなた、このカランプル_ブレイズだけでなく、いや、カンプ魔道具店にだけでなく、他の魔道具店にも同じ様な契約を迫り、無理矢理契約をさせた様だな。
今、司法局からその事実の調べが終わり、そなたの手足となった者の自供が得られ罪が確定したとの報告が入った。
シャイニング伯、そなたの爵位、および家名は没収する。 今から後は司法局にて、厳しい取り調べがあると覚悟せよ。 連れて行け。」
いつの間にか僕たちの後ろに来ていた屈強な男たちが、シャイニング伯に首枷を嵌めて連行していった。
さすがにこれには僕たちも驚いて、呆気にとられていた。
貴族席から一人悲鳴をあげた者がいたが、会場はそれ以外には静まり返っている。
「さて、カランプル_ブレイズよ。
そなたは魔力量が多い方が絶対に強いという常識を今回覆してみせた。 その功績は真に大きい。
また、先ほど司法局からの伝言で、今回のシャイニング伯の不法な契約の件に関して、司法局に自分のところだけではないかも知れないと、徹底した調査を促したのもそなただと報告を受けた。 この不正を正した功績も大きい。
そなたの家名であるブレイズは元からの4伯爵家の家名、そなたはその裔である。 よって今回の功績を鑑み、伯爵までには出来ないが、子爵に叙することにする。」
会場がどよめいた。
陛下はまだ言葉を続けた。
「加えて、カランプル_ブレイズと共にカンプ魔道具店を作り共に育んできて、きっと今回の決闘のための魔道具も一緒に作ったであろうアウクスティーラ_ハイランド、そしてエリズベート_グロウヒル、そなたら二人は男爵に叙す。 以上だ。」
それだけ告げると陛下は決闘場を去って行った。
陛下の姿が決闘場から見えなくなった途端、決闘場は大歓声に包まれた。
貴族席の貴族は速やかに退場して行ったが、一般席からは歓声とそこいらじゅうから「ブレイズ子爵」という声がかかり、僕たちはなかなか退場するきっかけが掴めなかった。
僕たちは自分たちの東の町に戻る前に、僕たちの正当性を自らの身を顧みずに主張してくれた法官さんに礼を言いに行った。
「ありがとうございました。
どうやら陛下も今回の決闘についてよくお知りのようでしたが、それはきっと法官さんが僕たちの正当性を主張してくれたからだと思います。
僕はこの前、法官さんが僕たちの正当性をきちんと主張すると言ってくれた時には、それがどれほど勇気が必要で、法官さんの立場を難しくするのか、ちゃんと理解していませんでした。 今、それを理解していますので、どれほど感謝してもし切れない思いです。」
僕たちは4人で深々と頭を下げた。
「子爵、それに奥方、そして男爵方。 そんな風に頭を下げないでください。 私の様な本当に単なる端くれ貴族の官吏に、きちんとした爵位の方々が頭を下げられたのでは、私としてはどうして良いかわかりません。 それに私としては単に自分の矜持で行ったことで、子爵に感謝していただくようなことではありません。」
「いえ、とんでもないです。 こっちの2人は元々貴族ですが、僕は庶民ですから、そんな風に言われると困惑するばかりです。
えーと、それはともかく、シャイニング伯が急に罪に問われることになったのには驚きました。」
「はい、あれなのですが、言われて調べてみると、シャイニング伯はやはり真っ黒だったんです。 ただ全て状況証拠というか、シャイニング伯の権力を怖れて、誰もまともに証言をする者がなかったのです。
そこであの使いの者を取り調べていたのですが、のらりくらりと言葉を重ねるのみで埒が開かなかったのですが、シャイニング伯があなたに負けたと知った瞬間に、自ら白状し始めました。 実は陛下にシャイニング伯の罪の伝言を送った時は、これは秘密ですがまだ自白が始まったばかりで、まともな自白は取れていなかったのです。 でもまだ決闘場にいる時に捕縛できれば、とても効果的だと考えて、緊急に陛下に伝言を送ると共に捕縛に向かわせたのです。
今回のシャイニング伯の捕縛は、子爵の決闘での勝利がなければ、たぶん無理だったでしょう。」
「そうなんですか、僕の勝利が少しでも社会正義のためになったのなら、とても嬉しいです。」
「いえ、今回のことはとても大きいと思いますよ。
貴族が魔力の大きさで脅迫まがいにゴリ押しをするというのは、今までよくあった事ですから、それが今回の子爵の勝利で、とてもやり難くなりましたから。」
どうやら僕の決闘での勝利は、自分たちでは全く考えていなかったのだが、いろんなところに大きな波紋を投げかけたようだ。
帰りの馬車の中で、僕は一つ疑問を口にした。
「ところでシャイニング伯が決闘場から連れ出される時、首に枷を嵌められていたけど、なんであんなことをしたの?
単純に捕縛して行くというか、連行して行けば良いだけだと思ったのだけど。 なんだか大勢が見守る中で、首に枷を嵌められるなんて、敵なんだけど、ちょっと可哀相に思っちゃったよ。」
その言葉にアークが解説してくれた。
「あの首枷は、今まででほとんど唯一の実用化されている土の魔道具なんだ。
考えてみろよ。 シャイニング伯に魔力が戻って、あの雷光を使われたら、誰もシャイニング伯を止められないよ。 僕たちの他は、この吸収の魔道具は持っていないのだから、王族でもなければ魔力量の問題でシャイニング伯を止めるのは無理だ。
そういう風にシャイニング伯に限らず、魔力の強い者を拘束しておくことはかなり難しいのだけど、あの首枷を嵌めておけばそれができるのさ。
あの首枷は魔力を検知すると首に針が突き出る仕組みになっている。 だから、魔法を使って逃げようとすると、最悪死んでしまうのさ。 そうやって魔力が強い者を簡単に拘束できるように考えられた物なんだ。」
「なんだか残酷な道具ね。」
エリスがアークの説明に感想を述べた。
「確かに私も残酷な道具だと思うけど、そのくらいのことをしないと魔力の強い者を拘束することは出来ないのよ。 仕方ないわ。」
リズがエリスにそう言って、現実的に仕方のないことなのだと説明した。
僕は家に戻って次の日、いつもよりちょっと早く組合にエリスと一緒に行った。
僕たちが組合に行くと、組合長と職員さんが揃ってわざわざ出迎えてくれた。
「おいカランプル、今日はやけに早いじゃないか。」
「うっ、うほん、組合長、カランプル君はもう単なる家名持ちではなく、まだ叙爵の式の前ですが、もうれっきとした子爵なのですよ。 子爵に対して、その物言いはダメでしょう。」
「うわっ、やめてください、そういうの。 僕たちそんな風に言われたら、どんな顔をしていいか、本当に困ります。 今までと同じにしてください。 呼び名も今まで通り、カランプルとエリスでお願いします。 子爵とか、子爵夫人とか言われるのは本当に困ります。」
僕も困ったが、エリスなんて顔を真っ赤にして俯いている。
「そうですか、それが希望でしたら、今まで通りに呼ばせていただきますね。
でもこれだけは言わせてください。 カランプルくん、エリスさん、今回の勝利、そして子爵への叙爵、本当におめでとうございます。 それから、アークくんとリズさんにも組合員一同、本当に喜んでいたと伝えて下さいね。」
「ああ、俺も言いたいぜ。 2人共おめでとさん、本当に良かったな。」
組合にいた他の職員さんもみんな拍手して祝ってくれた。
「ありがとうございます。 もちろんアークとリズにも伝えます。」
僕とエリスは深々とみんなに頭を下げた。
そして僕たちはいつものとおり、組合長の部屋に入った。 今日はエリスも一緒に組合長の部屋に入る。
「それで今日はこんなに早く何の用だ。 色々と忙しいんじゃないか?」
「はい、まだ具体的な話の使者は、さすがに昨日の今日で来てはいないので、今のところは一段落なんです。
それで一番最初に、組合長にお礼を言いに来ました。」
「何だそれは。 そんな風に言われると照れくさいな。」
「いえ、とんでもないです。 組合長のおかげで、今回の決闘も勝利することが出来ました。 本当にありがとうございました。」
僕とエリスは深々と頭を下げた。
「何だ、子爵夫妻に頭を下げられるなんて、どうしていいかわからないな。」
「だから、その子爵っていうのやめて下さい。」
組合長に職員さん、そして僕たちも笑ってしまった。
「実のところ、決闘は本当に冷や汗の勝利だったんです。
組合長に言われて、レベル2の魔石を3個にしてなかったら、シャイニング伯が最初に魔法の無駄撃ちをしなかったら、本当に危ういところでした。 シャイニング伯は4回あの雷光という魔法を使ったのですが、2個の魔石が魔力がほぼ満タンになっていました。
ですから、シャイニング伯はレベル4に近いレベル3ということですが、本当はレベル4の魔力の持ち主でした。 もし、組合長の助言が無くて、魔力を貯める魔石を2個で吸収の魔道具を作っていたら、僕は決闘に負けるだけでなく、大怪我をするところでした。」
「でも、結局はレベル2の魔石2個で用が済んだんだろ。 3個目は関係ないじゃないか。」
「いえ、そんなことはありません。
シャイニング伯が無駄撃ちをしない可能性もありましたし。 たとえ無駄撃ちをしてくれて今回と同じになったとしても。 僕は今回まだもう1個分の余裕があったから、背中に冷や汗が流れつつも、何とか平静を保てましたが、その余裕がなかったらパニックになってどうなっていたかわかりません。 ですから、本当に組合長のおかげです。」
「ま、俺のアドバイスが役に立ったなら、良かったよ、本当に。」
「でも組合長は何故強硬に3個にしろと僕に言ったのですか。」
「いやな、怪しいと思ったというか、可能性はあると思ったんだよ。
レベル4と認定してしまうと、王族と婚姻させたりということになるんだが、王家の方でそれを望まない相手だったり、適当な相手がいなかったりする場合があるだろ。 そうするとレベル4でもレベル3認定しかされないという噂は前からあったんだ。
あの伯爵は評判が悪かったからな。 だから、もしかするとと俺は思ったんだよ。
この人によってはレベル4でもレベル3にしか認定されないという話は、まあ公然の秘密なのだが、今回お前はシャイニング伯のことで確証を得てしまった訳だ。 これは秘密にしておけよ。」
「なるほど、そういうことがあるのですか。 僕はそんな話は全く知りませんでした。
もちろん秘密にします。」
「ああ、これは上位貴族と、俺のような組合の上の者しかあまり知らないかもしれないからな。 あ、でもそれじゃあ、公然の秘密とは言わないか。」
組合長は「ガハハ」と豪快に笑った。
「いやあ、でもまあ、俺も見に行ってたんだが、正直あの伯爵の雷光という魔法を見た時には、全身から冷や汗が流れたぜ。」
そこからは雑談になった。
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