組合長の忠告と呼び出し
なんだか会話ばかりの一話です。
最近の僕はもしかすると4人の中では一番暇かもしれない。 光の魔道具はそこそこ売れているからリズは結構忙しいし、気がつけば魔道具を北や南の店に卸しに行くのはアークの役目になっていて、それにまだトイレの魔道具はそんなに数は多くないがコンスタントに売れている。 魔力を貯める魔石の量産はリネとフランで間に合っている。 ふと気がつけば僕が一番することがない。
こういう暇な時間こそ僕が求めていたもので、さあ魔道具の開発をするぞと思うのだが、今現在何のアイデアもなくて、それもままならない。 部屋で頭を捻っても急に何かアイデアがでる訳もなく、仕方なく僕は相変わらずいつも忙しいエリスのお供として組合に来ている。
「何だ、カランプル、今日は何の用だ。」
「別に今日は用は何もありません。」
「それじゃあ何で俺の部屋に来ているんだ。」
「いえ、何だか暇だったんで、エリスのお供で組合にやって来て、エリスの用事が終わるまで待っていようと思ったのですけど、受付の人に自動的にここに案内されて連れ込まれたというか。」
「ああ、わかった、わかった。
ま、お前なんぞにロビーでずっと座っていられたら、たまったもんじゃないからな。
受付の気持ちもわかってやれ。」
「そんな、何だか僕がすごく迷惑な人みたいじゃないですか。」
「そりゃ、受付からしたら迷惑だろう。
VIPがロビーに座っていたら、誰もが気にするぞ。」
「VIPって誰のことですか。 僕はそんなモノになった覚えはありません。」
「カランプル、お前、いい加減現状をちゃんと認識しろよ。
お前は、この組合一番の取引相手であるカンプ魔道具店の店主だ。 それだけでも組合の職員から見たらVIPだろうが。 それに何人も貴族の店員を使っている家名持ちの準貴族だ。 どう見てもVIPじゃねえか。
周りからはそんな風に見られているということを、もう少しちゃんと自覚しなくちゃいけねぇな、カランプル_ブレイズさんよ。」
「組合長、家名まで言わないでください。 恥ずかしいし、何だかすごく馬鹿にされている気分になります。」
「馬鹿になんざしちゃいねぇさ。 カンプ魔道具店は、それだけ大きな店になったということと、家名を名乗ることを国王様に許されたということはそれだけ大きいことで、それを自覚しなくちゃいけないってことさ。」
「それでも組合長に怒られることは変わらない。」
「何か言ったか。」
「いえ、何も言ってません。」
「そう言えば組合長、僕は今まで縁がなかったから知らなかったのですが、王都の貴族のやっている光の魔道具の店って、何だかとても店の名前とは思えない名前だったんですね。」
「ん、王都光魔導師組合か。 誰もその名前じゃ呼ばないがな。」
「そう、それです。 先日、そこの使いだというものが僕のところに来て、自分たちの傘下に入るのが当然のことだと言って、有無を言わさず契約書に署名しろと居丈高に言ってきたんですよ。 ちょっと、何なんだこれ、とびっくりしました。」
「まさか契約書に署名したんじゃないだろうな。」
「しませんよ、そんなもの。
態度も酷くて、あれでよく使者が務まるものだと思いました。
ただ光魔導師組合と名乗っているから、何かそんな組合があるのかと思って、リズを呼んだんですね。 それで、組合は名乗っているけど、単なる貴族がやっている店の名前だと知りました。」
「おう、一瞬契約に署名したんじゃないかとビックリしたぜ。」
「いえ、その時はその契約書を読みもしなかったのですけど、後でその契約書を読んでみたら、またびっくりしました。 なんとその契約書の契約だと、利益の9割はその王都光魔導師組合のものとするとなっているのですから、もうなんて言って良いのか、笑い話ですね。」
「お前、笑っちゃいられないだろ。 そりゃ貴族をかさにきた、脅しと詐欺の手口だろう。」
「ま、それはともかくとして、リズが出てきて、その使いをやり込めてしまったのですけど、その使いもリズが貴族で、僕も家名持ちだと知ったら、言葉使いが急に変わって、それでも署名しろとゴネたのですけど、その言い草が可笑しくて、光の魔石の回路を使っていればそれは全て自分たちの権利だなんて言って、それで魔力が少なくなると色が変わる回路の話が出たら、リズが激怒しちゃって、後でそれを宥めるのが大変でした。」
「まあ、リズが怒るのも無理ないわな。 ぽっと出のシャイニングの使いなんぞに、色が変わるライトのことを自分たちの回路だ呼ばわりされちゃあな。」
「色が変わるレベル2の魔石を使った光の魔道具の回路って、リズの先祖の考えたものだったんですね。 今回のことで初めて知りました。 道理でリズがその回路に最初から詳しい訳でした。」
「ま、自分とは違う属性の回路を誰が考えたかなんて、普通は知らないわな。 リズが怒ったのはそれだけじゃなくて、シャイニングの店はその回路を利用して商売をしてる訳だからな。
貴族の館の光の魔道具は、元々はリズの伯爵家で、価格なんざ決めずに貴族同士の馴れ合いで作っていたのさ、それを下級貴族のシャイニングが商売として独立させた訳さ。 伯爵に頭を下げるよりは、価格がはっきりしているシャイニングの店に頼む方が良いって考える貴族がたくさん居た訳だな。
そこにもっと頼みやすく、価格も手頃なお前の店の商品が出てきたから、シャイニングの奴も焦ってちょっかいを出してきたのさ。」
「でも僕たちは、リズとアークの実家以外は貴族の館で光の魔道具を作っていませんよ。」
「そりゃ、大掛かりな道具はそうだろうが、お前らの光の魔道具は普通に百貨店でも売っているだろ。 それを誰が買っているかなんて、いちいち把握はしてないだろ。 貴族も自分で百貨店に買いに来る奴は、余程の物好きかなんかだろうが、誰か使用人でも使って買っている貴族はかなりの数だと思うぞ。」
そうか、リズが主になって作っている光の魔道具が売れ行きが落ちずにずっと売れているのはそういった理由もあったのか。
「カランプル、さっき俺が下級貴族のシャイニングと言ったのに気づいたか。」
「あ、そう言えば、シャイニングという人は確かリズやアークの家と同じ、伯爵だと言っていたような気がするのですが。」
「そう、今はシャイニングは伯爵になっている。
それはまあ、店が大きくなって財力が上がったからでもあるのだが、それ以上に今のシャイニングの当主の魔力レベルが4に近い3だったことが大きい。
レベル4の魔力を持つとなれば王家クラスだからな。 史上今のところレベル5と言われているのはこの国を作った初代の国王様だけだからな。
つまりレベル4に近い魔力を持つ今の当主を単なる准男爵にはしておけなかったのさ。
シャイニングは元々は子爵の家だったらしいが、3代連続で魔力を持つ者が生まれなくて、お情けで准男爵だったのだが、もう貴族から落ちるギリギリで現れたのが今の当主という訳さ。 で、たまたま魔力が強く、まあ商才があったんで、伯爵までになったという訳さ。 一方で黒い噂も絶えないがな。」
「なるほど、リズからすればだから余計に腹が立った訳ですね。
でもまあ、魔力に関しては相手が上だから、文句も言いづらいというところですか。」
「まあそんなところだな。 リズやアークの実家のような最初からの4伯爵家といった名門の家から見たら、シャイニング家というのは、本当に急に成り上がってきた家なのに、同じ伯爵で、その上大きな顔をされたら、面白くないのは当然だな。
それだから、リズとアークの家とシャイニング家は仲が悪いはずだぞ。 お前のところがシャイニングに目を付けられたのも、それもあるかもしれないぞ。」
「いえ、それはないんじゃないかな。
その使いの者の僕の店に貴族の子弟が居るということを全く想定していなかったみたいですから。」
「それはまた随分と間抜けな話だな。 リズもアークも王様から家名を名乗ることを直々に許されたりしたから、かなり有名なはずなんだがな、カンプ魔道具店と共に。
でもまあ、今回のことでシャイニングもはっきりとリズとアークのことも知ることになっただろうよ。 余計にこれからちょっかいを出してくるかもしれないな。」
「えー、やめてくださいよ。 あんな横柄な態度の奴の相手はもうこりごりです。」
「ところでカランプル、お前、魔力のレベルってわかっているか?」
「僕たち魔技師がレベル1、冒険者はレベル2、それより上がレベル3で貴族クラス。
レベル4が王族クラスって感じですか。」
「まあ、その認識で間違ってはいないが、レベル1のお前は魔力を貯める魔石に魔力を目一杯貯めるのにどれだけかかる?」
「えーと、僕の場合、あまり気にしていなかったのですけど、二日分の魔力は使い切らないですね。 魔技師は二日で1個のペースで魔石を作れるという風な感じに学校では習った気がするのですが、そこまでは掛からないみたいです。」
「お前の場合はそんなもんか、だがな、魔技師の中には2日分では少しだけ足りないとか、一日分に少し足せば作れるという者もいる。 幅があるんだ。
レベル2の魔力を持つというのは、レベル1の魔力を持つ者二人分の魔力を持つ者ということなのだが、実際はレベル3のレベル2の魔力を持つ者二人分の魔力を持つに届かない者はみんなレベル2となる訳だ。
つまり魔技師の数で例えるならばレベル2は最低が魔技師二人分の魔力で、最高は魔技師4人分の魔力にわずかに欠けるというまでの幅がある訳だ。
レベル3だともっと幅が広くて、最低は魔技師4人分の魔力だが、最高だと魔技師8人分に近い魔力を持つ訳だ。
ちなみに魔物もこれと同じなんだが、どういう訳かわからないが、魔物はほとんどが半分くらいの魔力しか持っていねぇ。 でも魔石に魔力を込めると倍の魔力が必要になる。」
「えっ、そうなんですか。 火鼠でも魔技師と同じくらいの魔力を持つ奴がいるのですか。」
「ああ、極たまにだがいるぞ。 半分の奴ばかりを相手にしていて、そういうものだと思い込んでいて、魔力が足らなくて魔物にやられてしまうというのが、魔物にやられてしまう奴のほとんどさ。」
「そうなんですか。 僕も危うかったなぁ。」
「お前は、あの吸収の魔道具を使うんだから関係ないだろ。」
「いえ、あれを作る前は、いつもギリギリだけど火鼠は2匹狩ることができるんだと思っていましたから。 今から考えると、かなり危ないことをしていたんだなぁ。」
「お前、そんなことしてたのか。」
「貧乏でしたから、そうやって自分で魔石を獲らないと、魔道具を作るためのミスリルが買えなかったんです。 あの頃はまだ、今僕の店で売っている線はなかったから、魔道具作るにはミスリルがたくさん必要で金銭的に大変だったんです。」
「今なら、ミスリル買うのでも困らない金があるから大丈夫だろうけどな。 上手くいかねぇな。」
「今だって、そんなにミスリル買ってたら、大変ですよ。
新しく店員ちゃんと雇ったから、その給料を考えて、僕たちは前より給料減らしましたし。」
「減らしたって、前よりずっと儲かっているだろ。」
「そうなんですか。 僕らは新人の給料を基本に、みんなの給料を決めたのですけど、僕とリズとアークは、その基準が分からないからエリスに一任しようとしたのですけど、エリスもそれでは困ると言い出して、結局ラーラの言うとおりの割合でもらうことになったのですけど。」
「なんと言うか、エリスが苦労しているのが分かるぞ。 エリスは今までは魔石を買う負債に悩んでいたんだが、今は店に金が貯まって困っているんじゃないか。」
「そうなんですか。」
「それでカランプル。 お前ら俺が前に言った、自衛のための吸収の魔道具はいつでもちゃんと持ち歩いているのだろうな。」
「最近、口うるさく言われなくなったから、大丈夫なのかなと思っていたのですけど、今でもちゃんとみんな持つようにしてますよ。
前に家から出ることもできないみたいに、組合長から散々脅されましたからね。 持つことが癖になってます。」
「カランプル、一応、それをもう少しパワーアップしておけ。
レベル2の魔石2つ、いや、安全のために3つ、魔力を貯め込める形に改造しとけ。 お前ら4人で全部で12個だな。 そのくらいの魔石を買う金はあるだろ。」
「えっ、レベル2の魔石12個なんて、とんでもない金額になっちゃうのでは。」
「ああ、お前に金の話をしてもダメか。」
そう言うと組合長は立ち上がってドアを開けて、大声を出した。
「エリス、話がある。 ちょっと俺の部屋に来い。」
それからすぐに王都の司法局というところから、僕宛に呼び出し状が届いた。




