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新たな日常と風の魔道具作り

僕の魔道具店も魔石の回路に組み込むキーを知る者が一気に3人増えて、以前よりはかなり楽に仕事が回る様になった。 やはり魔力を貯める魔石を作れる者が増えたのは大きい。

新人の魔技師は風の魔技師がフラン(フランソワーズ)、水の魔技師がリネ(リオネット)という名前だ。 リネは自分では「リネットとお呼びください」と言っていて、友人であるフランはリネットと呼ぶのだが、僕らはだんだんとリネと呼ぶようになってしまった。

2人はとりあえず、魔力を貯める魔石を作ることだけを仕事にして専念している。 今のところ2人に出来ることはそれしかない、というかリネに関してはそれ以外はさせる訳にはいかない。

ラーラは今まで通り基本はパイロットランプ用の光の魔石作りだが、その数に余裕がある時には、リズを手伝って、ランプ用の特にダンジョン用の魔道具のための光の魔石作りにも手を出している。 そして時々は魔力を貯める魔石も作ってくれる。

今まで僕とアークはとにかく魔力を貯める魔石作りに毎日追われていたのだが、 それを専門に行ってくれる人が入ったので、時間に余裕を持てるようになった。


さて、問題になったのが、給料をどうするかだ。

今までは4人のことだったので、上がった利益の個人給料にする分を、僕が2、そしてアークとリズとエリスのそれぞれが1の割合で、割ってそれぞれの取り分としていた。 ただし、今まではラーラの給料や、他の地の魔技師の給料、線作りを担当してくれている人などの給料などは出来高制になっていて、その給料は個人給料分から出していて、それを引いた金額を僕たちは自分たちの取り分としていた。 なぜなら、組合に払う魔石購入分の負債が大きくて、店としての利益になる分までも全てをその返済に充てていたからだ。

さて、今回を契機として、魔石の回路に組み込むキーを教えた3人は完全な正社員扱いをすることにした。 そこでどういった割合で、それぞれの給料とするかを考えねばならなくなった。 それを考えている時に、一つおじさんから注意された。

「正社員になったばかりの新人が、あまり多くの給料になってしまうような割合はダメだよ。 まずはしっかり働いて普通の魔技師が手に入れられる給料から始めるように設定しなさい。」

うん、そうだよね。 それが当然の配慮だ。

ということで、新人の給料を基本に考えて、ラーラはその倍で良いかな、今までも出来る時だけという約束だったのに、結局ほぼ完全に毎日のように働いてもらったのだから、その貢献を考えると新人の倍では少ないかと考えたのだが、ラーラ本人からそれでは「もらい過ぎ」と断られた。 ほぼ毎日のように働いているとはいえ、倍ももらうと家族間のバランスを壊してしまい、余計に働きにくくなるとのことだった。 そんなものなのか、僕には良く分からないが、ラーラの意思を尊重して、ラーラの給料は新人の1.5倍とした。 つまり新人が2でラーラは3という割合だ。

その話のついでという感じで、僕が

「それじゃあ僕たちは、新人の倍で4のそれぞれに4の割合でいいか。」

と軽く言ったら、リズに

「だから、最初の時も言ったけど、それじゃあ貢献の度合いから言って、おかしいわよ。

ま、私もアークも前よりは貢献したと思うから、ラーラに倣って、カンプは私たちの1.5倍の6の割合でいいんじゃない。」と言われた。

リズがそう言った時点で、自分の給料の話が終わって、この場から出て行こうかとしていたラーラが、その話を聞いていて反対した。

「それ根本的におかしいから。 なんでリズ、アーク、エリスの給料が新人の2倍で私とあまり変わらないところから話が始まっているのよ。 3人とも、どう考えたって、私の倍以上取らなければおかしいわ。 せめて割合を7にしなさいよ。 そのくらいが最低限よ。」

なんだかラーラの言葉の勢いに呑まれて、その意見に従うことになった。

「でもそれじゃあ僕の割合はどうなるの?」

「きりの良いところで、10でいいんじゃないか。」

アークがそう言った。 しかし、そんなに個人分の利益があるのかなと僕は心配した。 だってこの議論の最初に新人の給料を普通の魔技師と同じに設定しているのだから。

「エリス、今の割合だけど、個人に回す分の利益が足りるのかな?」

「ちょっと待って、今計算している。 えーと、全員分の割合の数を合わせると38だから2で割って普通の魔技師の19人分か、足りるかなというより、個人の利益分が余るわ。」

「えっ、そうなの。」

「今までは他の人の給料も個人の利益分の中から出していたけど、流石にもうどんどん負債は償却されて、もう負債にはなってないわ。

 最初の頃は魔力を貯める魔石の利益を全部組合のものにしていて、それから話し合い通りの1/3を私たち2/3を組合になり、今はもう最初の取り決めの1/3だけ組合という形に戻っているわ。 魔石を買うお金ももう店の利益分の1/3の中から出せているし、魔道具や線を売って出ている利益だけでも他の人の給料は払えているし。 今の調子だと、お店のお金が増えるばかりだわ。」

「あら、そうなの。 まあ、また何があるか分からないから、お店の自由になるお金が増えることは良いことよね。」

「それに、俺たちの金が増えても使い道ないしな。 考えてみたら、俺、普通の魔技師の3倍以上もの給料もらっても仕方ないから、やっぱりもう少し給料少なくていいよ。

 エリス、俺、今までの給料でも通帳の金額増えているよね。」

「アーク、何を言っているの。 今度の給料はそれでも今まで得ていた給料より少し低めになっているわ。 今回の給料は魔技師の一人当たりの月に得られる金額を基準で考えているからよ。 今まではもっと単純に得られた利益の半分を割合で割っただけだったから、もっと多かったのよ。 だからお店のお金が増えるばかり、と言ったの。

 アークとリズはやっぱり通帳を自分で管理して、見てみる必要があるんじゃない。」

リズがちょっと焦って言った。

「わたしは今の生活で十分満足しているから、通帳はエリスの管理に任せるわ。

 えーと、わたしの今の生活、得ている給料で十分賄えているよね。 賄えていればそれでいいわ。」

「リズ、賄えているかって、リズは今の生活では普通の魔技師の給料の分も使ってないわよ。 だから本当は通帳を見なさいと言っているのよ。 数字が大きくなるばかりになっているわよ。」

「それじゃあ、私もアークと同じで給料はもっと少なくていいわ。」

「そんなこと言ったら、僕はもっと全然少しでいいよ。 だって僕は多いだけじゃなくて、僕らは2人とも給料が入ってくるんだから。 普通の魔技師は1人で一家の生活支えているんだから。」

「だからどうして話がそういう方向になっちゃうのかしら。 貢献度で3人は私の倍以上じゃないとおかしいって言ったわよね。 カンプはその3人の倍だったのを1.5倍に下げたのよね。 これ以上下げるなんてもっての他だわ。 これからだっていくらかづつは新しく人は入ってくるかもしれないでしょ。 その時にあなたたちがあまりに低い給料では、示しがつかないし、その時に割合を考えるのに困るわ。 だからさっきので決定よ。」

あれ、いつの間にか、給料の金額はラーラが決めることになったようだ。 ま、僕やアーク、そしてリズはこういう話には疎いから、誰かが決めてくれればそれで構わない。


魔力を貯める魔石の補充は、僕たちの計算だと一月に120個補充すれば予備も含めて足りる筈だった。 だいたい魔力を貯める魔石は12-13回魔力を貯めると壊れてしまうみたいなので、今まで僕たちの作った魔道具の数の概算で1割の数が、一月に壊れることになる。 僕たちの今までに作った魔道具の数はなんだかんだと数えてみたら、もう1000を超える所まで来ていた。 その1割だから、100を少し越える数で良いと思うのだが、実際はそれ以外にも魔石を壊す事例は、魔石はそんなに丈夫な石ではないのであり、数がいくらか増えるのだ。 ま、多くはダンジョンに持ち込んで、ぶつけたり落としたりで割ってしまうことがあるからだ。 ケースを売り出す前はとても多かった。


そんな訳で、僕たちは一月に作る魔力を貯める魔石の数を150から200に決めた。 120より多い分は新たに作った魔道具用だ。 魔力を貯める魔石は1人で1日に10個くらい作れるのだが、新人さんにそこまで求めるのは大変だろうと考えて、1日に8個作ってもらうことにした。 これだと一ヶ月に20日作業してもらうとして、2人では360個もできてしまう。 明らかに過剰生産なので、魔力を貯める魔石は自分の属性の魔道具を作ることは許されていないリネに主にになってもらった。 リネが1人で作るだけでも160個になるのでだいたい足りてしまうのだが、時々多く必要な時にはフランをはじめ誰かが手伝う形とした。


今現在の僕たちの店の商品は光の魔道具が一番の売れ筋である。 少し前は僕の作る火の魔道具が圧倒的にたくさん売れていたのだが、僕が主に作る火の魔道具である調理器やパン焼き窯は、北と東と南の町にはほぼ行き渡り、ばたりと売れ行きが落ちてしまったのだ。

そして僕たちの作った火の魔道具を使っていると、今までより魔石の交換のペースが遅くなり、使っている人のお金が少し今までよりも月当たりが少なくなり、その余剰分を貯めて光の魔道具を買うという流れになったようだ。 そんな訳で光の魔道具が売れているのだ。


おじさんの百貨店も活況を呈している。 今まではあっちに行ってはこれを買い、こっちに行ってはまた違うものを買いという感じで買い物をしなければならなかったのだが。 一箇所に集まっているお陰で、買い物が楽になったと評判なのだ。 そして百貨店に出店してくれた商人は、元の自分の店は閉めてしまい、百貨店の方に集中する人が増えてしまった。

おばさんがはじめた、僕の調理器を上手く使っての料理教室も百貨店の二階で盛況だ。 買い物が一箇所で済むことになって主婦の自由になる時間が増えたのと、下の百貨店で材料を買えば、ごく安い料金で、火力調整をしながらする料理を教わることができるのだ。 でもだんだんとそれを口実にした、おしゃべりクラブの様相を呈しているけれど。



まあ、こんな感じに日常は前よりは少しだけのんびりしたペースになってきている。 とは言ってもリズは照明の魔道具作りに追われているし、エリスも毎日組合に通うことになっている。 そしてアークは自分の土属性を生かしたトイレの魔道具を作ってもいるけど、北の町への冒険者用の魔道具を運んだりを担当してくれてたりする。

そんな中、何となく少し暇なのが、僕と新人の風の魔技師のフランな訳で、何をしているかというと、2人で新しい風の魔道具の開発をしている。 何を考えているかというと、風の魔石を利用した、ものを運ぶための台だ。 板を風の力で浮かして、その上に物を載せて運べば楽に運べるのではないかと考えたのだ。 これは百貨店で売り物を搬入するのが大変なので、それがどうにか楽にならないかと考えたのだ。


まず僕が魔道具の形などの設計をして、それをフランと検討し、フランは風の魔石の回路を考えて、使用する風の魔石を作る。 僕はその間に、外側のスイッチと道具の形を決めて、アークがいる時にはアークに、いない時には別の土の魔技師に頼んで、軽くなるように金属で作ってもらう。 そしてそれにフランが作った魔石と魔力を貯めた魔石をセットして実験してみるのだ。

最初に試しとして作った小さな円盤は、思っていた通りの性能だった。 ほんの少し机の上から浮き上がって、ほんのちょっとの力で滑る様に動いていった。 これなら簡単に思っていた性能の魔道具ができるのではないかと思ったのだが、すぐにうまくいかないことが分かった。

平らな机の上ならば、綺麗に滑っていくだが、ほんの少しでも凹凸があると途端に当たり前なのだが動かなくなってしまうのだ。 まずは少しの凹凸は関係ない程度にもっと浮かせれば良いのではないかと、魔石から噴出する空気の量を増やしてもらったのだが、そうすると全く円盤が安定しない。 それで要するに噴出する空気が円盤と床の部分から逃げる量を減らして溜める様にすれば良いと気が付いて、円盤の下を囲う様に厚めの布を取り付けた。さっきよりは大分安定して、浮上させて移動することができる様になった。 いくらかの凹凸も浮き上がっている隙間が大きくなったのと、布が隙間を塞ぐお陰で突破できる。


これで荷物運び用の魔道具ができるかと喜んだのだが、甘くなかった。 実用性を考えて四角い板状にしたら、均一に空気の圧力がかからないのか、板が傾いてしまってうまく浮いてくれない。 それなら四角い板の下に丸い円盤を何箇所か取り付けて試作してみたが、確かに浮いて使えないことはない。

だけど常にかなりの勢いで魔石から空気を噴出させている訳で、空気の漏れる音がかなりうるさい。 もっとダメなことには、魔力の消費量が多くて、たったこれだけのことに使うのでは魔力を貯めた魔石の値段からしてバカバカしくて使えない。

僕とフランと、アークも巻き込んで、かなり色々と試してみたりしたのだが、結局僕たちは風の魔石を使って物を運ぶ魔道具の開発は諦めた。 フランは上手くいかなくて落ち込んでいるが、それは仕方ない。 風の魔技師が魔技師としては職業にならず、すぐに他の道を選ぶのが納得する話になってしまった。

なかなか上手くいかない。 何でも上手くいくなんてことはないのは当たり前だけど、少し自分たちの仕事が上手くいっていて、増長していたみたいだ。


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