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国王陛下にお会いする

当日僕たちは陛下がお越しになるよりも、当然ながらかなり早い時間から、リズの実家に待機していた。

当日までに、一応リズとアークから色々なマナーを教えてもらってはいたのだが、自分たちはただ脇に侍っていれば良いだけだとも思っていた。

なんでもリズの家とアークの家と、どちらを先に訪れるかで、水面下でかなり議論されたようだ。 リズの家とアークの家とがどちらも「ぜひ我が家に先にお越しを」と譲らずに、結局くじ引きでリズの家が先となったらしい。 何をやっているのか。


僕たちはリズの家の正面玄関前に、国王陛下をお待ちして、もちろん正装してずらりと並んでいる。 その一番の端に、僕たちも並んでいる訳だ。

僕はそれでもこんな近くで国王陛下を見ることなんて、庶民の僕やエリスはないから、この観覧特別席の代金だと思えば、服の代金なんかもまあしょうがないかな、なんて呑気に考えていた。

時間となり、予定通りに国王陛下の豪華な馬車が門から入ってきて、玄関の正面に止まる。

御者席にもう一人乗っていたのは侍従なのだろうか、さっと飛び降りると、馬車の扉のすぐ脇に控えた。

馬車の前後を2騎づつの護衛が付いていたのだが、その後ろにも馬車が続いていると思ったら、すぐ後ろの馬車からは護衛兵と思しき人が飛び出してきて、国王陛下の馬車の扉近くに並んだ。

僕は国王陛下が馬車から降りる所には、絨毯でも敷かれるのかと思っていたのだが、そんなこともなく、すぐに侍従らしき人が馬車の扉を開けた。

中からすぐに一目で国王だとわかる豪華なマントを羽織った中年の人物が、あまり威厳を感じさせない軽やかさで、さっさと降りて歩き出し、正面に控えていたリズの両親の方に向かった。

「ああ、伯爵。 今日は世話になる。」

「はい、陛下。 わがグロウヒル家においで頂き光栄の極みでございます。

 まずは飲み物などを用意しましたので、お口を潤しください。」

「うん、配慮はありがたく思うが、今はそれはいらない。

 それよりも、この場に伯爵自慢の照明を作った者たちも来ていることであろう。

 まずはその者たちを紹介してほしい。」

なんだか僕たちが想像していた展開と異なってきた。 僕たちはリズの家の家宰の視線と小さな動きに促されて、国王陛下とリズの両親がいる近くに歩み寄った。

「陛下、こちら控えるのが我が娘と・・・」

「おお、そなたはエリズベートであったな。 そちらはハイランド家のアウクスティーラであったな。」

「はい、陛下、娘のエリズベートです。 またこうして陛下の間近に侍ることがあるとは思ってもいませんでした。」

リズは陛下の視線に促されて

「それであとこちら控えています2名は、カンプ魔道具店店主のカランプルとその妻のエリスです。」

僕とエリスは、リズとアークに教えられていた通りの膝を折ってのお辞儀をする。

「おお、そなたが数々の新しい魔道具を売り出したカンプ魔道具店の店主か。

 ああ、煩わしい儀礼はいらぬぞ。

 そなたたちは知らないかもしれないが、国王家は魔術師でもあり、魔技師でもあるのじゃ。 余はお前たちと国王としてではなく、魔技師同士として話をしたいと思う。 ゆえにそのつもりで気楽に話してほしい。」

同じ魔技師として気楽に話せと言われても、相手は国王陛下だよ、できる事ではない。

「貴族でもないただの庶民である私には、なかなか難しいお仰せですが、なるべくそのように努めます。」

僕はそう応えた。

「おお、その言葉で思い出した。

 そなたたちの店の紋章を見たのじゃが、あの紋章にはどのような意味があるのじゃ。」

「はい、あの紋章は、私たちそれぞれの家紋の一部を組み合わせたものです。」

アークが陛下の言葉に答えた。

「やはりそうであったか。 余でもハイランド家とグロウヒル家の家紋は知っていたからの、組み合わさった三つの文様の内、その二つがそれぞれの家紋の一部だとは気が付いた。

 しかしだとするともう一つは店主の家紋ということになるのだと思うのだが、先ほど店主は自分のことを庶民と言っていたが、なぜ庶民が家紋を持っていたのだ。」

「はい、私自身もよく分からないのですが、どういう訳か我が家には家紋が伝わっていたので、庶民である私は使うこともない物ですが、やくに立つことがあるのだと思って、店の紋章に組み込みました。」

「店主、カランプルといったか、その紋章全体を紙に書いて見せてみよ。」

僕はお付きの者が差し出してきた紙に、同様に差し出させた筆記具で我が家に伝わってきた家紋を書いて、陛下にお見せした。

「うーん、余はこの家紋を知らん。

 紋章官はいるか?」

国王陛下に付き従ってきた多くのお供の中から、一人の者が急いで近づいてきた。

「そなた、この紋を知っているか?」

紋章官はチラッと僕の書いた紋を見ると、すぐに答えた。

「はい、存じております。 そちらの紋は今は絶えてなくなってしまいましたが、ブレイズ伯爵家の紋です。」

「おお、そうであったか。 余も、ブレイズ伯爵家という名前は知っているぞ。

 そうか、店主はブレイズ伯爵家の末か。」

「魔力が少なくて魔技師となった者は、貴族の身分から離れることが多いので、家名を名乗ることはほとんどありません。 それ故に、家名が忘れられて、家紋だけが伝わっていたのでしょう。」

「なるほどの。

 それでは新しい照明を見てからと思っていたのだが、先にこの者たちに褒賞を取らせることにする。

 カランプルよ、そなたは今後ブレイズの家名を名乗るが良い。 エリズベートにアウクスティーラよ、そなたらも魔技師であっても、それぞれの家名を名乗って良いぞ。

 そもそもにおいて、魔技師でもある余は、魔技師になった者を貴族の籍から追い出すような慣習は改めねばならないと思っているのだ。」

僕は自分の家名がこんなことで明らかになるとは思ってもいなかったし、その家名を自分がこれから名乗ることになるなんて全く想像していなかったので、とても驚いた。

「はい、自分にその様な家名があるとも知らなかったので、驚きましたが、ありがたく承ります。」

リズ、アークはとても嬉しそうだ。

「大変嬉しい褒賞でございます。 ありがとうございます。」

「これで私も憚かることなく家名を名乗れます。 ありがとうございます。」

二人にとっては魔技師となり、貴族社会からははみ出てしまい、堂々と家名を名乗れなかった事は、地味だけど、結構辛い事だった様だ。 国王陛下直々の言葉で家名を元の通りに自由に名乗れることになった訳だから、喜ぶ気持ちも、まあ少しは分かるかな。


リズの実家の照明は、百貨店の照明に近いシンプルな物だ。

照明の魔石は全て天井に据え付けられていて、これが照明器具ですと存在を誇示する様な物は何もない。

リズは国王陛下一行を薄暗い部屋の中に入ってもらってから、照明を点けた。

一瞬でかなり広い室内全体が明るくなり、国王陛下一行から驚きの声が上がった。

「この部屋に入ってきた時、どこにも照明器具が見当たらないと思ったが、部屋の天井のそこ彼処から光が降り注ぐとは思わなかったぞ。

 なるほど、確かにこれは新しい照明じゃ。」

国王陛下はそう言うと、入り口近くのスイッチの側にいた僕たちの方に向かって歩いて来た。

「そして一度に全体の照明の魔石が光を放ったが、その操作は全てここで行なっていたということだな。」

「はい、陛下。 一応この部屋の照明はこの様に一部を点けたり消したりということもできる設計にしていますが、それも全てここにあるスイッチでコントロールすることができます。」

リズが説明すると国王陛下もスイッチを触ってみて、一部や全体を点けたり消したりをしてみた。

「なるほどのう。 魔石を光を発する魔石と、魔力を貯めている魔石に分けたことによって、それぞれの魔石にスイッチを付ける必要がなくなったのじゃな。」

「はい、それもありますが、スイッチや魔石を結ぶ魔道具用の線が、安価で切れにくく、魔力の通りが良い物を発明できたことにもよります。」

「単純にミスリルの線で結んだだけという訳ではないのか。」

「王宮でしたら、財力的にもそれでもできない事はないかと思いますが、それ以外ではそれでは高価になり過ぎて作る事は出来ません。 それにミスリルだけの線ですと、破断しやすいので、なかなか線を長く張り巡らすという事は難しいのです。」

「なるほど、そこもこの様な照明がカンプ魔道具店でしか出来ない理由の一つなのじゃな。」

「いえ、その線自体は、東の町の百貨店に行けば誰でも買える状況になっていますので、それは大丈夫だと思うのですけど。 それよりも、やはり光の魔石を私たちの様に使用目的を分けていない使い方ですと、交換が大変になることが大きいのではないかと。

 例えばここの天井に付けた魔石は、ほぼ交換の必要はありませんので、作ってしまえばどうやって交換すれば良いかを考える必要はありません。」

「ん、その秘密である、魔力を貯めた魔石を見せてみろ。」

「はい、こちらに交換する必要がある、魔力を貯めた魔石は全て集められています。

 そして、それらの上にあるのが、お知らせライトで、ここでは16個の魔力を貯めた魔石を使っていますが、4つに1つの割合でお知らせライトが付いています。」

リズはスイッチの下に付いているボックスを開けて、そう言って国王陛下に説明した。

良いのかな、国王陛下も屈みこんで、そのボックス内を観察したりしている。

「そのボックスの蓋に所々穴が開いているのは、蓋を閉めておいてもお知らせライトが見える様にか。」

「はい、その通りです。

 お知らせライトが点灯したら、その点灯した部分の魔力を貯めた魔石を新しい物と交換すれば良いという方式になっています。 新しい魔石は組合で売っていますし、誰でも交換出来ることになっています。」


次にアークの家に行ったのだが、僕たちは国王陛下の車列の一番後ろに付いて一緒に移動することになった。

アークの家に着くと、アークの両親と国王陛下が先ほどのリズの家で行なったのと全く同じ様なやり取りをした。 ただ一つ違っていたのは、アークの家では両親だけでなく年老いた先代の伯爵、つまりアークのお祖父さんも国王陛下を出迎えに出ていて、国王陛下もそちらには気を使って少し昔語りなどをしたりしていた。

でもすぐに僕たちは呼ばれた。


今度はアークが説明に立つ

「グロウヒル家で、カンプ魔道具店が作る新しい照明具の説明は一通り終えていますので、ここでは普通にただお見せします。」

また薄暗い部屋に入ると、ハイランド家の通された部屋は、グロウヒル家の部屋とは違い、普通に壁に取り付けられた照明の魔道具と、天井から吊るされた照明の魔道具がある。 

「それでは今点灯します。」

一斉に照明の魔道具が光を放った。

その日二度目なので、今度は国王陛下一行も驚きの声を上げなかった。

「今、操作したスイッチで全ての照明を操作出来るのは、グロウヒル家の照明と同様なのじゃな。」

「はい、全く同じです。」

「では何故、この様に一見ごく普通の照明に見える様にしたのじゃ。 余計に面倒ではなかったか。」

「はい、その通りなので、最初はここもグロウヒル家の様な照明を作ろうと考えたのですが、その、祖父がその様な新しい形の物はゴメンだと強硬にゴネまして、形は今までとほとんど変わらない形に変えました。

 ただ、それぞれの光の魔石は基本交換の必要はありませんから、例えば天井から吊るされている器具は普通だと交換と点灯のために器具を上下させるための面倒なカラクリがあるのですが、そういった物はありません。 同様に壁の器具にもスイッチは付いていません。」

「なるほどな、確かに、ま、見た目の形が同じだけでも、なんとなく落ち着く気がしないでもない。 ご老人の気持ちに沿うことも必要であろう。

 だが、作る方としては、これはどうなのだ。 たぶんなのだが、線をそれぞれの器具の棒の中を通しているのであろう。 手間ではないのか。」

「はい、やはりかなり手間にはなりますが、私以外にもカンプ魔道具店には土属性の魔技師がおりますので、分担して一つづつ作って設置しました。」

「なるほどのう、それでは道具の形などもかなり自由に作れるということか。」

「はい、魔石の交換やスイッチをつける位置などを考慮しなくて良いので、形の自由度はかなり上がると思います。」

国王陛下はちょっと何か考えているみたいだ。

「ところで、他の貴族の館には、この照明は作らないのか。 これを見て欲しがる者もいるだろう。」

僕が答えた。

「はい、確かにご注文をしてこられる貴族の方もいらっしゃいますが、全て断っております。

 私たちの店は庶民と冒険者に向けての魔道具を作っている店で、こことグロウヒル家の照明具はあくまで、店の創建者一人の家だから特別に作った物です。

 その辺りはきっちり分けていないといけないと考えています。」


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