土属性の魔技師の補充と
「それで組合長、職員さんも聞いてください。
ちょっと困ったことがあって、相談に乗っていただきたいんです。」
組合長も職員さんも、また何か面倒なことがあるのかと、ちょっと身構えた感じで、話を聞いてくれた。
「実は、その新しい魔道具を作るのに人手が足りないんです。
具体的に言えば、どの魔道具も携帯性を考えて軽く作る必要から、本体を金属で作っているのですが、その金属に魔石や回路を組み込むんで、土属性の魔技師に頼みたいんです。
今までは普通の調理器でしたから、それは火属性の魔道具店に下請けしてもらったんですけど、今回は土属性ですから、土属性専門の魔道具店なんてないので、とても困っているんです。
去年、最初の頃、魔石へ魔力を込めてもらうのに土属性の魔技師を探したことがあるのですけど、全く見つからなくって、結局リズの伝手で女性魔技師に頼んだりしたんですけど、どうしたら土属性の魔技師って見つかるんですか。
組合なら、土属性の魔技師さん見つけられると思って、教えてもらえたらと。」
「はっ、なんだそんなことか。 困ったことというから、どんな無理難題が出てくるのかと身構えちまったじゃねぇか。」
組合長さんが肩の力が抜けたという感じでそう言った。
「カランプル君、去年と今年では全く状況が違うのですよ。
去年までは、ま、言ってはなんですが土属性の魔技師は、魔技師として食べていくのは至難の業で、アーク君くらいしか例外はなくて、みんな他の職についていました。
でも君たちの魔石のお陰で、属性に関係なく魔力を込めることでお金を得ることができるようになりましたから、今年は土属性も、風属性も学校を卒業した魔技師はみんなこの町に残っていますよ。
だから、すぐに土属性の魔技師は見つかるはずですよ。」
僕とアークは、ああ、そうなんだ、そんな風に変わったんだ、僕たちが最初に目指していた目標の1つはちゃんと達成されつつあるんだと、嬉しかった。
そして、それならすぐに手伝ってくれる土属性の魔技師は見つかるだろうと安堵した。
ところがいざ土属性の魔技師を見つけたら、見つからなかった。
いや、確かに土属性の魔技師はたくさん居た。
でも、手伝ってくれないかという話をすると、みんなに断られてしまったのだ。
「毎日、カランプルさんの家に行って、魔道具を作らなければならないんですよね。
作れる数が足りないから雇われるということは、毎日毎日一生懸命に魔道具を作り続けなければならないっていうことですよね。
僕たち、今は魔石に魔力を込める仕事しているだけで、普通に食べていけてるんです。だからわざわざ大変な仕事をしなくてもいいかなって思うんです。
もちろん、きちんと働けば今よりお金が得られるのは理解しましたけど、僕は今現在みたいに、普通に食べていければ十分なんです。」
うん、怠惰な魔技師らしい、とても真っ当な意見だと僕も思うよ。
僕だって誘われた側だったら、こう言って断ったかもな、と思ってしまうから、それ以上誘うこともできない。
またしても、僕とアークは頭を抱えた。
結局、またしてもリズが「仕方ないわね。」と言って、女性魔技師を集めてくれた。
女性魔技師さんの場合、魔力を込める魔石が組合で直接扱うことになって、残念に思っていたらしい。
僕の家に来て魔力を込めていた頃は、それが理由で家から出て、ここでおしゃべりしたりお茶を飲んだりの時間があって、とても良かったと。
そんな訳で、また女性魔技師さんが僕の家には毎日集まるようになった。
僕の家の一階は女性に占拠されている。
僕とアークは元々の僕の部屋という工作部屋で小さくなって毎日を過ごしている。
ただでさえ、エリスとリズには敵わないのに、もっと女性の数が多くなったら、とても太刀打ちできない。
ダンジョンの魔道具は、北の町で作る側から売れていった。
もちろん一番売れるのはライトの魔道具で、二番目は高価だけどトイレの魔道具、それらよりずっと少なく調理器という順番だ。
ダンジョンの魔道具は売れて使う人が増えていくと、すぐに問題があることがわかった。
魔道具を壊してしまう冒険者が続出したのだ。
魔道具なんて、今までは基本家の中に据え付けて置くものだから、落としたり打つけたりなんてことは考慮していない。
そこが問題だった。
冒険者はダンジョンの暗闇の中で、歩いたり走ったり戦ったりする訳で、落としたり打つけたりは当たり前のことだったのだ。
そこまでは考えていなかった。
僕たちは、さすがに魔石を割ってしまった物は、魔石の分のお金は払ってもらったが、それ以外の補修は、欠陥があったということで、ちょっとした手数料だけで請け負った。
ここで悩んだのはミスリルと銅で作った線だ。
この線が切れてしまうという故障も目立ったのだが、試してみるとお金はかかるのに線を太くしてもあまり意味がなかった。
そこでとても細い線を作り、それを束ねて、周りを布で巻いた線を作った。
一本一本の線をとても細くしたので曲がり易くなり少しのことでは折れなくなったが、それだけでは今度は切れやすいので、何本かを束ねて使うことにしたのだ。
それに伴い、線をつなぐソケットも新しいものを考案した。
細い線を作るのはかなり大変な作業ではあるのだが、単純でもあるので、これに関しては作るための魔道具をアークが開発し、アークの登録魔道具第2号となったのだが、大変な作業であることからか、この魔道具は1日で魔石1個の魔力を使い切るというものだった。
それでも人がいちいち作るよりは大分楽で効率は上がった。
問題は細い線を束ねて、布で巻くことだった。
これは魔法ではどうすることもできず、手作業となり、今度は純粋に手作業をする女性を雇わねばならなくなり、スペース的にどうにもならなくなってきた。
「リズ君、どうやら我々の夢を叶える時が来た様だね。」
「はい、おじ様、今がその時だと私も思います。」
「あなた、いよいよですね。」
「ああ、いよいよだよ、お前。」
アークは何の話か分かっている様だが、僕には分からない。
エリスにも目で尋ねてみたが、エリスも全く見当がついていない様だ。
「明日からカンプ魔道具店は臨時休業よ。」
「ワシの店も、必要最低限のところを除いて、休業じゃ。」
「アーク、良いわね。 予定通り、頑張るのよ。
女性の魔技師も明日からは、朝からずっと魔力が尽きるまでは時間に関係なく、仕事してくれる約束になっているから。」
「分かっている。 まずは基礎からだな。」
「お前も分かっているな。
お前が指揮して、今、店にある商品と倉庫にある商品はすぐに運び出せる様にしておけ。」
「それから、入ってくれる商店さんにも、ちゃんと声をかけておきますよ。」
次の日から、近くの空き地でアークと女性魔技師による、建物作りが始まった。
この地方の建物は、基本土魔道士が作る土壁というか、もう少し硬く作るので岩壁製だ。
雨の極端に少ないこの地方では、木はとても貴重なのと、土属性の魔技師は今まではこういった土木とか建築とかの時にしか役に立たなかったので、建物は土属性の魔技師が作るのが普通なのだ。
ただ、そこには問題もある。
土というか岩で造られた建物だから、重さがあり、まず基礎部分をきちんとしなければならない。
そしてその重さのせいで、少し大きい建物に普通は2階建てという建物はないのだ。
2階を作ると、2階の重さに耐えるために1階の壁を厚くしたり、窓を小さくしなければならなくなる。
普通は採光を第一に考えるから、2階を作ることによって、1階の窓が小さくなったり壁が厚くなるのは、デメリットが多いばっかりなのだ。
だから小さな個人住宅では重さもそんなに問題にならないし、採光もあまり問題にならないので二階建ても多いが、大きな建物では採光に問題がない建物以外には二階建ての建物はないのだ。
まずは基礎をしっかり作り、排水設備というか下水をしっかりと公共の下水管につなぐ。
水もだが、この地方では人の排泄物もとても貴重な資源なので、ここはしっかりしないと怒られてしまう。
そして数日のアークと女性魔技師たちの努力の末、大きな2階建ての建物が空き地には出来上がった。
僕は2階部分はともかくとして、1階は中は薄暗くて、だだっ広いこんな建物をどうするのだろうかと思ったのだけど、リズもおじさんもとても上機嫌だった。
「ふっふっふっ、ここからが夢の本番よ。
さあ、手伝って頂戴、カンプ、頼んでおいた吸収の魔石も、こっちに頂戴。
みんな私の言う通りに、設置するのよ。」
リズの変なテンションに引っ張られる様に、アークをはじめとした土魔道士は、天井に光の魔石をセットして、そこから線を1箇所にまとめて設置していく。
結局1階には全部で30個もの光の魔石と6個の吸収の魔石をセットし、それらの魔石から伸びる線は裏口近くに集められ、そこに20個の魔力を貯めた魔石が納められ、スイッチがつけられている。
同様に2階も作られたいったが、2階は大きな部屋が1つに小さな部屋が4つに分けられていて、真ん中に廊下がある構造になっていて、それぞれにスイッチがつけられた。
2階には28個の光の魔石と、吸収の魔石は大きな部屋だけ2個、魔力の魔石が14個使われた。
スイッチを入れた時、僕は感動した。
大きな部屋が、光の魔石の明かりによって全体が明るいのだ。
「やったあ。 どう、これが理想の照明よ。」
リズはドヤ顔で、僕らにそう言った。 うん、確かにドヤ顔して良いと思う素晴らしさだ。
「よし、ここからは私の番だな。
うちの商品は私が指揮して、運び込もう。
お前は他の商店主さんに、出来上がったことを連絡してきてくれ。」
すごい勢いで、おじさんの店の商品が運び込まれ、ディスプレーされていったが、広いこの一階の空間は1/3も埋まらなかった。 どうするのかと思っていたら、すぐに他の色々な商店が、それぞれの様々な商品を運び込んで来て、凄まじい騒ぎとなった。
中にはベークさんたちもいる。
「私たちも、もう一軒の店と共同で、ここでパンを売らせてもらうことにしたんですよ。
お世話になっていますからね、是非とも一枚噛ませていただきたいってことですよ。」
喧騒が一段落した時、おじさんは他の店主さんたちを前にして言った。
「ここに東町百貨店の開店を宣言します。
明日からは朝からお客さんに入ってもらいましょう。
みなさん一緒に儲かる様に頑張りましょう。」
一斉に歓声が上がった。
次の日から、おじさんの作った百貨店は大盛況だった。
ちょっと一段落して、自分の店を再開してから、僕は根本的なことをリズとアークに尋ねた。
「それであの建物の2階はどうするの、何に使うの?」
「ああ、百貨店が凄い騒ぎになっちゃったから、忘れていた訳じゃないけど後回しになっちゃったな。
2階の一番大きな部屋は、俺たちの工房だ。 もうここで魔道具を作るのは人数的にも無理があるだろ。」
「小さい部屋の1つは、子供部屋よ。
働きに来てくれる女性魔技師の子供を、その部屋に集める様にすれば、女性魔技師はもっと働きやすくなるというか、家を出やすくなるでしょ。
安定的に労働力を得るための部屋ね。」
なるほど、確かに子供の世話があるからと、少しの時間しかここでは働けない女性魔技師もたくさんいる。
「きちんとした作業場があれば、あの細い線を束ねた線ももっと効率よくできるし、その仕事がしっかりと確立したら、エリスが言う様にカンプ魔道具店では魔技師以外も雇えるという訳さ。 俺は良いことだと思うぜ。」
うん、僕が知らない間に色々なことが進んでいくなぁ。
途中から話を聞いていたおばさんが言った。
「一部屋は私が使うのよ。 料理教室をするから、カンプ調理器とパン焼き窯を設置してね。」




