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アラトさんの呟きが、他の冒険者たちの注意も集め、ライトの魔道具は予想していたけど、調理器も、トイレの魔道具もかなり沢山の予約が入った。
特にトイレの魔道具は、かなり高価になってしまうと念押ししたのだが、今回集まっていた女性冒険者のほとんどが予約していった。
これには僕たちは驚いた。 女性たちがダンジョンの中でどれ程トイレに困っていたのだろうかと、僕たちは改めて思った。
アークは自分の作った魔道具が、そんな風に受け入れられ、求められたことに喜びを通り越して、どうしようとオロオロしている。
ライトとトイレと比べると、調理器はほんの少しの予約しか入らなかった。 ま、そうだよね。 言われてみれば、ダンジョンの中でまともな調理なんてそんなにする訳が無い。
「参ったな。 まさかこんなにみんな予約するとは思わなかったぜ。
口に出して呟いてしまったのが、失敗だったかな。
ま、三つとも全部揃えるにはかなりの予算が必要だから、まずはライトを使ってせっせと魔石狩りをして、資金を貯めないとな。
深く潜ってみるのはそれからだ。」
アラトさんがブツブツと独り言を言っていると、アラトさんの仲間らしい冒険者が
「何をブツブツ言っているんだ、それよりも早くまずはライトをもらってこい。
ライトはお前が注文したのだから、お前に先に売って貰えるのだろ。
あのライト一つでも俺たちは随分と有利になるぞ。
他の者が持つ前に少し稼がせてもらおうぜ。
幾らで売られるのか分からないが、金は持ってきたんだろうな。 もし足りなかったら、俺が持っている金も使っていいぞ。」
アラトさんは仲間の言葉に、もっともだと思ったらしく、僕のところに来て、ライトを今売ってもらえるのかどうかを尋ねてきた。
「はい、これはもちろんアラトさんの注文で作った物ですから、アラトさんが試してみて問題がないなら、すぐにお渡しします。
値段は・・・。」
僕たちは事前にライトだけは、おじさんに相談して値段を決めてきていた。
ダンジョンに持って入るライトなんて、今までにない商品で競合する魔道具屋がある訳ではないので、自由に値段が付けられる。
僕は基本食べていければ、それで良い、あとは好きな魔道具作りが出来ればというスタンスだから、利益優先で考えようとは思わない。
アークとリズは元貴族だからか、その辺は良い意味では鷹揚、悪く言えば無頓着で人任せなので、僕らに一任だ。
エリスによると、今現在でも店として、自分たちに入る収入としては、十分利益が確保出来ているとのことなので、なるべく安く売ることにした。
「おじさん、このライトはダンジョンに入る冒険者の安全を増す道具だと思うんで、なるべく多くの冒険者に持ってもらいたいと思うんです。 そのために、なるべく安く売り出したいんです。 それに数が出れば、それだけ魔力を貯めた魔石の方で利益が出ますから。」
おじさんも今回は競合する相手に配慮する必要もないので、すぐに僕の言葉を受け入れてくれた。
魔石の金額、使用した線の代金、本体の金属、それらを作るのに使った魔力、それらの必要経費に、おじさんの店の取り分を加えただけの金額を僕たちはライトの値段とした。
「それだけで良いのか、安すぎないか?」
アラトさんは値段を聞いて、逆に心配してくれた。
「このライトは冒険者の皆さんの安全に貢献する商品だと僕たちは思っています。
ですから、なるべく多くの冒険者の皆さんに買ってもらって、使ってもらいたいと思うのです。
それですから、僕たちとしてもギリギリのところまで、値段を下げています。」
「そうだよな、この値段じゃ、お前らに儲けが出る訳ねぇ。
良いのかそれで。」
「ある意味、僕たち魔技師と冒険者は持ちつ持たれつの関係ですからね。
僕らも魔石を、必要に迫られて狩に行くこともあるのですけど、冒険者ほどは取れませんし、魔石がないと仕事ができません。
冒険者も魔技師がどんどん魔石を使わないと、魔石が売れないですから困りますよね。
ですから、冒険者の安全は僕らにとっても関心事なんです。
それに僕らの店は、とんでもない量の魔石を使っていますから、他のお店よりそれが切実なんです。
ま、実は組合に対する魔石購入の負債が、僕たちの店は凄いんですけど。」
「最後の一言はともかく、そういうことなら、俺たちもこのライトの販売に出来る限りの協力をするぜ。
今日ここに来ていない冒険者にも、このライトの宣伝をしてやろう。
ま、ここに居る人数分だけでも、結構な数だ。 どんどん作って持ってきてくれ。
ライトだけじゃなく、他の物も俺たちは買うぜ。
そうしてどんどん魔石を買ってくれ、それこそ持ちつ持たれつだ。
なあ、みんな。」
アラトさんの言葉に集まった冒険者たちは、みんな答えてくれて、僕たちを声援してくれた。
「あの、ところで、そのトイレの魔道具の方は幾らなんですか。 今、私が持っているお金で足りるなら、買って帰りたいのですけど。」
最初に試してみてくれた女性冒険者が、そう言ってきた。
「すみません、トイレの魔道具はライトの方とは違って、注文されていた訳でもないですし、本当に試しに作ってみたというだけだったので、まだ値段を幾らにするかを考えてなかったんです。
作るのに必要な原価も、まだ正確には把握できていないので、今ここで値をつけることも出来ないんです。 来週までには値段を決めておきますので、すみませんが来週にしてください。
トイレの魔道具も、これは僕たちは予想していなかったのですが、僕たちが考える以上に必要がある物なのだと思いました。 ですからこれもライトと同じ様に考えて、ただでさえ高価になっちゃいますから、それでもなるべく安くしますから、待っていてください。」
女性は納得してくれた様だ。
「来週、必ず買いに来ます。」
「それじゃあ、調理器の値段はどうなんだ。」
「いえ、調理器はそもそも売れないだろうと思っていて、本当のことを言うとギミックを見せたかっただけなんです。」
「いや、俺は買おうと思っているぞ。 それじゃあ、調理器も値段を期待しているぞ。」
「ええっ、調理器もですか。」
冒険者たちが、どっと笑った。
当日のうちに自分たちの町に帰った僕たちは翌日揃って組合に出かけた。
「それじゃあ、私はこっちでいつも通りに仕事するから。」
慣れた感じでエリスは組合の奥の別室に入っていった。
組合には、もう僕たち専任の会計さんがいて、その人と毎回魔力を貯める魔石の数の動向やら、それに伴う負債の状況やら、金銭的な諸々を話し合っているのだ。
最近組合に行く度にエリスの機嫌が良いのは、きっと負債の返済がやっと魔石の調達量を上回ってきて、負債が順調に減り出したかららしい。
僕たちは僕たちで、担当さんに連れられて、毎回のことになってしまったのだが、組合長の部屋へと入っていく。
「おっ、なんだ今日は全員揃ってやって来るとは、何かあったのか?」
僕はどうもこの組合長の部屋に入ると、何か怒られるイメージがあって、ちょっとビクビクしているのだが、今日は怒られることはないだろうと思って、堂々と答える。
「今日はまた新しい魔道具の登録に来ました。」
組合長と担当さんの顔が曇った。
「カランプル君、また何か問題がある魔道具作ったの?」
担当さんが心配そうに訊ねてきた。
「いえ、今回は今までの様な問題になる様な物はないと思います。
とりあえず、登録用の設計図や仕様書を持ってきたので見てください。」
「それで、3人とも来たのは何故なんだ。」
組合長がまだ疑っている様な調子で言った。
「それは今回は、登録しようとしている新しい魔道具が3つあって、それぞれの魔道具の主になる魔石の適性が、それぞれ別々なんです。
それだからそれぞれの魔道具ごとに、主開発者が違うんです。」
「なるほどな、そういうことか。
しかし、お前とリズは、火と光の属性だから分かるが、アークもということは、土属性の魔石が主となる魔道具もあるのか。
そりゃ珍しいな。」
「そうですね、私も土属性の魔道具なんて記憶にないですね。」
組合長の言葉に興味を引かれたのか、担当さんもそんなことを言った。
アークはなんていうか、ちょっとくすぐったそうな顔をしていた。
「ま、とにかく見せてみろ。」
僕たちがそれぞれの設計図や仕様書を見せると、組合長と担当さんは熱心にそれらを見ていた。
しばらくすると、担当さんが
「ダンジョンに入る冒険者用の魔道具なんて、よく思いつきましたね。
これは確かに誰も手を着けていない分野ですね。」
「僕らが思いついた訳ではなくて、北の町の冒険者さんから注文が入ったんです。
ま、入った注文はライトの魔道具だけだったんですけど、それを考えて作っていたら、ちょっと面白かったんで、調子に乗って他のも作ったんです。」
「どこをどう面白がったら、3つも新しい魔道具を考えつく話になるんだ。」
「いえ、まあ最初は注文されたライトの魔道具なんですけど、これを作る時に、携帯用だからって小型化するのに少し拘ったんです。
それで、ライトの魔道具を持ってダンジョン入ったら、今までより長くダンジョンに居ることになるから、腹が減るよね、っていう理屈をつけて、調理器の小型化を考えたんです。
それがなかなか面白くて、僕とアークで工夫しました。」
「その成果がこのギミックか。 これはちょっとかっこいいな。」
「そうですね、なんというか男心を誘いますね。」
組合長さんも担当さんも、僕たちの気持ちがわかってもらえた様だ。
「ま、そのギミックは男には大ウケなんですけど、女性は全く興味を示さないんですけど。
それはともかくとして、なんとなく食べたり飲んだりしたらトイレに行きたくなるね、という話になって、そうしたら女性はダンジョンでトイレにとても困っている、そのせいで男性より、奥に入れないという話題になったり。 ダンジョンの中が不潔だという話になったりしたんです。
それでまあ、トイレの魔道具というのを考えたんですけど、今まで土属性の魔道具なんて見たことないので、アークが張り切って作ったんですけど、必要な機能を考えていたら、これだけ大げさな物になってしまったという訳です。」
「成る程な、ま、なんとなく話は分かった。」
「ま、今回は問題がありそうな魔道具ではないので、良かったですね。
問題のない魔道具って、カランプル君が前に売れないだろうけど、とりあえず登録だけはしておくと持って来た物以来じゃないですか。」
「今度の魔道具も、リズが主に作ったという、注文を受けてのランプの魔道具は確かに冒険者は欲しがりそうだが、後の2つは売れそうにないな。
そもそもダンジョンの中で料理なんてしないだろ。
4つも魔石を使った高価な魔道具なんて買う奴いないだろ。」
流石に組合長だ、僕たちが後から気がついた問題点にすぐに気がついた。
僕とアークはニヤッと笑い、それを見ていたリズはやれやれという顔をした。
「ところがですね、組合長。
リズの作ったランプの魔道具はもちろんすごい注文が入ったのですけど、アークのトイレの魔道具もたくさん注文が入ったんですよ。
女性冒険者は北の町でそれを見せたら、ほぼ全員が注文してくれました。 男の冒険者も注文してくれてます。
そして、それに合わせてというか、僕が主に作った調理器もそれなりに注文が入りました。」
30話目になりました。 これからもよろしくお願いします。
同様にラミアの方は200話になりました。(番外を含めると202話ですが)
R18に引っかからない人は、そちらも読んでいただけると嬉しいです。
ただしR18要素はほとんどありませんが。
「気がついたらラミアに」
https://novel18.syosetu.com/n9426fb/




