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試してみてもらったら

僕たちはいつもの様に、4人で北の町に行った。

いつもの荷物に加えて、今回は試作品を三つも持って来ている。

とは言っても、元々携帯用に考えた魔道具だから、荷物の量が多くなったというほどのことでもない。


僕たちが北の町のおじさんの支店に行くと、もうアラトさんが来ていただけでなく、なぜか結構な数のお客さんがいた。

「やっと来ましたね。」

支店長さんがそう言って出迎えてくれたのだけど、いつもより早いくらいの時間に着いたのだが、「やっと」と言うのは、そんなに早くからアラトさんが待っていたという事なのか。

僕はすぐにアラトさんを見つけ、挨拶に行った。

「アラトさん、お待たせしちゃった様ですみません。 試作品が出来上がったので、こちらに来て見ていただけませんか。」

「すまないが、ここで見させていただいても良いだろうか。

 実は俺が新しいタイプのライトの魔道具を、ダンジョン用に作ってくれと頼んだ話を、つい冒険者仲間に話してしまったら、あっという間に話が広がってしまい、ここにこうして押しかけているんだ。」

「えっ、この人たち、みんな試作品を見るために待っていてくださったのですか?」

「まあ、そういうことかな。 すまない、大騒ぎにしてしまって。」

「いえ、とんでもないです。 えーと・・・。」

「私としても構いませんよ。 店の宣伝にもなっていることですから。」

支店長さんが僕のためらいを見て、そう言ってくれて、気分が楽になった。


「はい、それじゃあ、とりあえずアラトさんの注文されたライトの魔道具です。」

僕が目配せをするとリズが試作品を持ってきて、機能を解説した。

アラトさんは説明を聞くとライトを点灯させてみて言った。

「つまり魔力量が半分になると、言い換えれば使える時間が残り半分になると、こっちのお知らせランプが点いて教えてくれるという訳だな。

 そして、他にこの魔力を貯めた魔石を持って行けば、それを交換することでまた使えるということか。

 うん、注文通りで、俺が考えていた通りの道具になっている。

 これは冒険者にとってはすごく便利な道具だ。 俺は買うぞ。」

集まっていた他の冒険者にも、新しいライトの魔道具はとても好評で、ぜひ売り出して欲しいと言われた。

「あ、でも、見てわかる通り、魔石を3個も使っていますし、軽量化するために薄い金属で本体を作ったりもしていますので、金額的には普通の物よりずっと高くなってしまうんです。」

「ああ、それは分かっている。 見ただけでもそれくらいは分かるさ。

 でも、買ってしまえばあとは魔力を貯める魔石を買うだけだろ。 それも普通のやつより一つあたりの使用時間は伸びると聞いた。 という事は使っているうちに元は取れるということさ。

 それに冒険者にとって一番重要な安全が、これを使えば絶対に増す。 少しくらいの値段には変えられないのさ。」

アラトさんがそういうと、他の冒険者からも

「そういうことだ。 俺たちも買うから、どんどん作ってきてくれ。」

と声が掛かった。

良かった、また一つカンプ魔道具店の売る魔道具が出来たみたいだ。

「それでは来週から本格的に、このダンジョン用のライトの魔道具を売り出すことにしますので、皆さんよろしくお願いします。」

僕は少し大きな声を出して、そう宣言した。


ちょっと僕は気分を良くして、アラトさんに言った

「注文はされなかったのですが、他にもダンジョン用の魔道具を試作してみました。 見てみてくれませんか。」

僕の言葉を聞いて、店から立ち去ろうとしていたお客さんが、また僕とアラトさんの周りに集まってきた。

僕は今度はアークに調理器を持ってきてもらった。

「これはダンジョン内で使うことを考えた調理器です。

 ちょっと見ていてくださいね。」

僕はアークと2人で頭を絞った調理器のギミックを動かして見せた。

「おおっ。」 男の冒険者から歓声が上がった。

アラトさんも、目を輝かしている。

「なんだそれは、かっこいいな、もう一度見せてくれ。」

僕は一度調理器のギミックを携帯時の状態に戻し、もう一度使用時の形に動かすところを見せた。

「うーん、いいなあ、それ。 とにかく、その考えられた動きがかっこいいぞ。

 そのギミックによって、使用時の安定と携帯時の小型化を図った訳だな。

 よく考えているなあ。」

なんだか僕の言いたいことを、見ていた1人の冒険者に全て言われてしまった。

「うん、とってもカッコよくて、欲しいと思うのだけど、でも俺たちダンジョンの中では、せいぜい買っていったパンを齧るくらいで、ダンジョンの中で調理なんてしないんだよなぁ。 そんなに長くダンジョンの中に潜っている訳でもないしな。」

ああ、やっぱりダンジョン内で調理はしないんだな、ちょっと予想していたけど、はっきりと売れないと分かって、覚悟していたのだけど、僕はちょっとがっかりした。

集まっていた人は、また帰ろうとし始めていた。

「ちょっと待ってください。 ついでですから、もう一つ見て行きませんか。

 もう一つはちょっとここではお見せできないので、すみませんが店の隣の空き地に集まっていただけますか。」


僕たちはみんな、隣の空き地に移動した。

戸外なので、僕はさっきよりも大きな声で、次の試作品の説明を始めた。

「ダンジョンで一番とは言いませんけど、とても困ることにトイレの問題があると聞きました。

 そこでカンプ魔道具店ではダンジョンで使うトイレの魔道具を試作してみました。」

僕はアークの力作である魔道具をみんなに見せた。

「これはそういうものですから、人前で試すことはできません。1人の人が使ってみることしかできないので、機能を口で説明します。

まず最初のボタンを押すと、小さなライトが点きます。 これはダンジョンの中は暗闇なので、この魔道具を使う適当な場所を見つけるためと、使用時の便利さと安全確保のためです。

次に2番目のボタンを押すと地面に穴をあけ、そこに便座が作られ、それと共に周りを壁が覆います。 その状態で用を足します。

そして3番目のボタンを押すと便座の中が地面の穴も含めて、焼却処理されます。 これはダンジョンの衛生を考えたことであると共に、大の場合、また使用した紙を処理する問題を解決するためです。

そして4番目のボタンを押すと、壁や便座がなくなり、穴も埋め戻されて元の状態に戻ります。

そして最後の5番目のボタンで、ライトも消えます。

これがこの魔道具の機能です。」

多くの冒険者が、この魔道具に興味を持ったみたいだ。

「誰かこの魔道具の実際の動きを見てみてくれませんか。

 ここで本当に用を足す必要はないので、誰か気軽に試してみてください。

 出来れば女性にこそ試してみていただきたいのですけど。」

1人の女性冒険者が、ちょっと恥ずかしげにおずおずと手を挙げた。

「えーとあの、私が試させていただいてよろしいですか。」

「はい、ありがとうございます。 ぜひよろしくお願いします。」

僕は魔道具を渡し、もう一度使い方を軽くその女性に説明し、少しその女性から距離をとって言った。

「それでは、試用をよろしくお願いします。」

女性はまず1番目のボタンを押すと

「あ、明かりが点いた。」と確認するように言った。

そして2番目のボタンを押したと思ったら、その女性の周りに壁が立ち上がり、その女性を完全に周りから隠してしまった。

冒険者たちからは「おおっ。」という声が上がったが、それ以上何が起こるわけでもないので、ただ待っていた。 すると少しして、立ち上がった壁が無くなり、元に戻った。

「これ、凄いです。 壁が立ち上がって天井も塞がったので、私びっくりして大声をあげてしまって、ちょっと恥ずかしいのですけど、その後、持っていた紙を穴に落として3番目のボタンを押したのですけど、そこでまた完全に焼却処理されたのにびっくりして大声をあげてしまいました。

4番目のボタンを押して、元に戻って安心もしました。 あ、5番目のボタン押します。」

それを聞いていた他の女性冒険者が、その試した女性に聞いた。

「あなた、中で大声を出したの? 私たちにはそんなの聞こえなかったのだけど。」

「え、聞こえなかったですか? 私、自分では結構大きな声が出ちゃったと思ったのですけど、そうでもなかったのかしら。」

「すいません、私も試させてもらっても良いかしら。」

「はい、構いませんよ。 試してみてください。」

僕がそう答えると、質問した女性は魔道具を受け取り、近くにいた自分の仲間らしい女性に声をかけた。

「私、中で大声出してみるから、聞いていて。」

その女性は最初の人が試した場所の方まで行くと、道具を作動させた。

今度は二度目なので、みている冒険者からどよめきは起こらなかった。

そしてどうということもなく、また壁が消えていった。

「どうだった、私の声聞こえた?」

仲間らしい女性が言った。

「全く何も聞こえなかったわよ。」

またどよめきが起こった。

「凄いわ、これ。」

その女性は魔道具を僕に返しながら言った。

「私、これ買うわ。」

すると最初の女性も言った。

「あ、もちろん、私も買います。」

僕はちょっと焦って言った。

「えーと、解説にまだ続きがあるんで、それを聞いてからもう一度考えて、お買い上げになるかどうか考えてください。

 この商品は大きな欠点もあるんです。」

「え、私は何も欠点を感じなかったわ。」

2番目の女性がそう言った。

「いえ、大きな問題点があるんです。

 まず第一に価格です。 使ってみてお分りでしょうが、この道具には、光・土・火そして魔力を貯めた魔石と、4つもの魔石を使っていますし、ボタンというかスイッチも5つも付いていて、魔石外の回路の量も多いです。 だからどうしても価格が高くなってしまいます。

 そしてもっと問題なのは、1回の使用にこれだけ多くのこと、特に壁を作ったりするので魔力の使用量が多くて、魔力を貯めた魔石1個で5回か6回しか使用できません。

 おっと説明を忘れていました。 安全設計になっていて魔力量が足りない時には最初の明かりの時点で点灯しない設計になっています。

 そんな訳で、最初に買うにも、使い続けるにも、かなり高額になってしまうのではないかと思うのです。」

集まっていた冒険者は、ちょっと沈黙した。

「あの、それでも私は買います。」

最初に試した女性がそう言った。

「私にはこれは必要な装備です。 こういうモノが欲しかったんです。」

「私も買うわ。 高価になってしまう理由にも納得できるし、一回に使用される魔力量が多いことも、これだけのことを見せられたら納得だわ。

 それに高価になると言っても、この店の商品が良心的なのはみんな知っているわ。

 まず第一に買うと言っているのに、『欠点の説明するから待ってくれ』と言う時点で、とても良心的だと誰でも分かるわ。」

「まったくその通りだ。」と言う声がかかり、集まった冒険者から、笑い声が起こった。

一番近くで見ていたアラトさんが、ふと呟いた。

「待てよ。 もし、これを持って、さっきのライトと調理器も持ってダンジョンに入ったら、日帰りじゃなくて、ダンジョンの中で何日か過ごせないか。

 そうしたら、今よりもっと深く潜れるんじゃないか。

 魔力を貯めた魔石はどれも同じだから、多く持っていけば、使い回しもできるよなぁ。」


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