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冒険者の依頼

僕たちは週に一回づつ一日かけて、北の町と南の町に魔道具を卸しに行く。

魔道具を卸すだけなら、誰かに頼んでも良い訳だが、僕たちは自分たちで持って行く。

と言っても、北の町には僕が本当に自分で作った調理器を持って行くのだけど、南の町と自分の町の分は、魔石を他の魔技師さんに託すことになっている。 今の所、リズは全て自分で作っているのだけど、今後もしかしてリズの照明具の数が増えていくと、軋轢を生まないためにも、同じ様になるかもしれないと僕は思っている。

ま、みんなで行かなくても本当は誰か一人が行けば済むのだけど、僕たちの場合は組合長に危険があると脅されたり、金銭的なことや、書類関係のことがエリスしか分からないため、エリスは行かねばならないのだが、エリス一人ではやはり行かせられないから、僕も必ず付いて行くことになる。 するとリズがアークと二人だけ残って仕事しているのは嫌だと言い、結局、みんなで行くことになっている。

週に二日馬車に揺られて隣町に行くのは、どうしても家に閉じこもりっきりで仕事するのが癖になってしまった僕たちには、ちょうど良い気晴らしだからというのもある。


僕たちが毎回揃って来ることが慣例となると、北の町のおじさんの支店も、南の町の取次を頼んだ店も、僕たちが来ることを見越して仕事のスケジュールを入れてくれるようにもなってしまった。

自分たちの町で、プロ用の調理器にも手を出したことがすぐに両方の隣町にも知れたからだ。

実は料理屋や、宿屋といったプロ用の器具を使っている店は、僕たちの町よりも、北の町と南の町の方がずっと多い。

北の町は大きなダンジョンがあるので、冒険者の数が多いし、南の町は港町なので、港で働いたり船で来た人に対するそういった店が多いからだ。

という訳で、毎回僕とアークはそれぞれの町でそういった依頼をこなしてもいる。

両方の町で、「まだまだ依頼の予約は入っていて、毎回のスケジュールは詰まっていますよ。」と言われるのは、店としては良いことなのかも知れないけど、もっとゆっくりしたい気もする。


リズは最近は作って来た照明具を店に卸すと、エリスの仕事が終わるのを待って、二人で町に出かけてしまう。

以前は、依頼された道具作りにも一緒に立ち会ってくれたのだが、お知らせライトを全面的にラーラに任せることにしてからは、

「使うのはお知らせライトだから、私の出番はないわ。」

と言って、エリスと町中の食べ物屋や小間物屋などを回ったりすることを優先するようになってしまった。

リズとエリスの二人で出歩くのは、もう大丈夫ということになってはいるのだけど不安だから、結局毎回御者をしてくれているおじさんの店の人が一緒してくれている。

ちなみに御者さんは、北の町に支店を出した時に、頻繁にやり取りする必要が出て来るだろうからと、おじさんに新たに雇われた人だ。

僕らと動いていない時は、あたり前だが北の町の支店と往復しているのだが、どちらかと言うと、僕らのためというか元々はエリスの、それに加えてリズの安全のためにおじさんが護衛を兼ねて雇ったのだと思う。


そんな日常が軌道に乗り出していたある時、北の町の支店長さんに話を切り出された。

「カランプル君、今日はちょっと人に会ってもらっても良いですか。

 冒険者をしているアラトさんという人が、カランプル君たちにお願いがあるので話がしたいそうなのです。

 私は魔道具のことは分からないので、判断できないのですけど、もしかするとまた良い仕事になるかも知れませんよ。」

支店長さんの僕への呼びかけ方は、頼んだから昔通りになり、僕としてはその方が気楽だし、支店長さんも呼びやすそうだ。

「仕事はまだ十分足りているというか、まだプロ用の予約が残っていると思うのですけど。」

「それでも常に新しい仕事を探しておくのは必要なことですよ。」

「はい、それは分かっています。」

僕はやっぱり忙しいことを喜べるタイプじゃない。 本質的に怠惰な魔技師なんだから。


「俺は冒険者をしているアラトという者だ。

 今日は頼みがあって、わざわざ時間を設定してもらった。

 まずは受けてもらった礼を言う。」

「カンプ魔道具店の店長のカランプルです。

 礼だなんてとんでもないです。 それでどの様なご用件でしょうか?」

「冒険者も魔技師も魔法学校出であることは同じだが、互いのことはあまり知らない。

 お前は冒険者のことを知っているか?」

「いえ、一般的なこと以外は知りません。」

「お前は、モンスターを狩ったことはあるか?」

「はい、火鼠は以前はよく狩っていました。」

「魔技師でそれは珍しいな。 冒険者でも火鼠だけを専門に狩っている者もかなりいるくらいだからな。」

「はい、そんな話を組合長から聞いたことがあります。 あ、ここの組合長ではなく、僕の町、東の町の組合長からですが。」

「それ以外のモノは狩ったことはないな。」

「はい、僕の魔力量で安全に狩れるモンスターは火鼠くらいですから、それも一日に1匹か2匹ですから、それ以外のモノは無理です。」

「ま、そうだよな。 そうでなかったら、魔技師はしてないよな。」

「はい、そういうことです。」

「火鼠はその辺というか、ダンジョンの外にいるが、それ以外のモンスターはダンジョンの中にいることは知っているな。」

「はい、それは学校で習いました。

 基本モンスターは魔力の濃度が高いところに生息していて、普通の大気中には魔力が拡散してしまうので、モンスターは生活しにくい。

 地中は魔力が拡散しないので、ダンジョンは地下にあり、深く潜るほど強力なモンスターが存在する。」

「とまあ、教わる通りだ。

 それで俺たち冒険者は金になる強力なモンスターを求めてダンジョンに行く訳だが、大きな問題があることが分かるよな。」

「えーと、良く分からないのですが。

 冒険者のみなさんは、僕たち魔技師より魔力量が多いですし、僕ら魔技師は習わない攻撃魔法なども習っていて、それでモンスターを狩るのですよね。」

「ま、それはその通りなのだが、それ以前にダンジョンの中を歩かねばならないだろ。

 ダンジョンは地下だから、ダンジョンの中は基本暗闇なんだ。」

「あ、言われてみれば、当たり前だけどそうなりますね。」

「そこで俺たちはパーティーを組んで、その中に必ず光の属性の者を入れるのだが、そいつが常に魔力を使って明かりを作っていたのでは、すぐに魔力が尽きてしまう。

 だから冒険者は必ずライトの魔道具を持ってダンジョンに入るという訳さ。

 そこまでは理解できるよな。」

「はい、理解できました。」

「で、だ。 冒険者用のライトを作ってくれ。」

「はい?

 今、ライトの魔道具を持ってダンジョンに入ると言いましたよね。 つまり冒険者用のライトの魔道具はもうあるということですよね、当然ながら。

 それをわざわざ作ってくれと依頼される意図が分からないのですが。」

「今あるライトはな、いつ魔力が切れるか分からないんだ。

 分からないから最低二つは持ち歩かねばならないのだが、まずそれが邪魔だ。

 それにダンジョンの中は時間が良く分からないから、どこまで進んでも帰り道の分が大丈夫なのかの判断がしにくいんだ。

 ライトの魔力が尽きてしまうと、悲惨なことになる。

 暗闇の中、ほんの少し光の魔術師の光で地図を見て、あとは手探りで戻ることになる。その時に光の魔術師の魔力が尽きないか、本当に気が気じゃないんだ。

 尽きたら、魔力が回復するまで、その場で待機しなければならない。

 ま、冒険者が命を落とすのは、ほぼそんな状況だろうな。」

なるほど、冒険者は魔技師と違って儲かるけど、そういう過酷さはもちろんあるんだよなぁと僕は改めて思った。

うん、魔技師の方が良いや。

「で、まあ、ここで売っている魔道具は、魔力が尽きる前に知らせるライトが付いているだろ、それに自分で魔力を込めた魔石を交換することもできる。

 それなら、もしかして魔力が半分になった時に知らせてくれるライトもできるんじゃないかと思ったのさ。

 それに予備のライトを持たなくても、予備の魔石を持てば良いのなら、邪魔な物が減って助かるしな。」

「えーと、ちょっと待ってください。」

僕はリズを呼んで、ちょっと相談してみた。

「お知らせライトだけど、魔力が半分になったら教えるという風にも作れる?」

「それは可能だけど、どういう話?」

僕はリズに今までの話をかいつまんで説明した。 リズが乗り気になった。

「次に来る時までに試作品を作ってみるわ。」

僕は冒険者のアラトさんにそう告げた。

「次回までに試作品を作ってきます。

 でも、今までアラトさんが冒険者用のライトを買っていた魔技師さんには、どうしましょうか。

 その人の仕事を取るようなことになるのは嫌ですから。」

「ああ、それは大丈夫だ。

 お前さんたちに相談してみろと話を持ちかけたのは、その魔技師の方だからな。

 全然構わないそうだ。」

「はい、それなら安心しました。」


この仕事の話を聞いた組合長は、この組合長は僕たちの町の組合長だけど、とにかく組合長は喜んだ。

「ちょうどお前たちの作る調理器が大体行き渡ったところで、魔石の需要が減る時期に新しい売り物が出来て良かったな。

 何しろ、お前らの魔力を貯める魔石が普及すると、俺たち組合も儲かりはするんだが、普通だと使う魔石は1/10で済んじまう。

 今まではそれを作るのと予備の魔石作りでそれ以上使っていたから、冒険者も儲かっていたが、それがこれからは減っていくところだった時に、本当に良かった。」

「それって組合長、これからも僕たちに魔石を借金して買えってことですか?」

「ま、そう言うと身もふたもないが、ま、そういうことだ。

 でも、今までは魔力を貯める魔石の儲けの全額が組合に入れていたが、そろそろその負債の払いが終わるから、お前のところのエリスと話し合いだと言ってたぞ。」

「そうなんですか。 そういうの、エリスに完全にお任せだから、僕はよく分からないんです。

 でもまあ、意外に早く負債の返済に目処がついたんだなぁ。 エリスがすごく気にしていたから、それが終わるのは嬉しいです。」

「これで逆転が始まれば、お前たちも金持ちだな。」

「そうなんですか。 今の所、忙しいだけで、そんな実感全くないですけど。」

「ま、正当な働きに対する報酬だ。 楽しみにしとけ。」


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