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狩に出る

「カンプ、お昼ご飯できたよ。」

「うん、分かった。 今そっちにご馳走になりに行くよ。」

エリスは呼びに来るといったが、自分の家の僕の家の方へと続く扉を開けて大声で怒鳴っただけだ。

僕は魔力を込めてある魔石を一つ持って、隣のエリスの家に入っていった。


「カランプル、早く座って、もう料理を出すわ。」

「はい、おばさん、ありがとうございます。」

「なんでお母さんには、お礼言うのよ。」

「料理してもらったんだから当然だろ。」

「それなら私にも言ってよ。 私も一緒に料理したんだから。」

「わかったわかった。 エリスもありがとう。」

「何だかおざなり。」

「ほら、エリスももういいから、座りなさい。」

「カランプル、もう泣くのは終わったかい。」

「はい、おじさん。 やっと涙は止まりました。」

「お前が、お母さんやお爺さんの時と違って、今回は大泣きをした理由はエリスに聞いたから、ここで繰り返して言う必要はないが、一つ言っておくよ。

 お婆さんは、お母さんとお爺さんと同じ様に、満足して幸せの中で亡くなったのだ。

 それは亡くなったお婆さんの顔を見れば、お前にだって良く分かっただろ。

 だから、お前は前の2人の時の様に、泣かずに笑っている方がきっとお婆さんも喜んでくれる。 分かったね。」

「はい、おじさん。」

僕はおじさんの言葉に、また泣きそうになったが、それではいけないと思い、我慢した。


食事が終わると思い出した様におじさんは言った。

「ところで魔石は持ってきてくれたかな。」

「はい、でも、まだ無くなってないと思うのですけど。」

「ああ、ここのではないんだよ。 確かにここのももうすぐ無くなるけど、今は店のお試し用の調理台の方だ。」

「はい、分かりました。 取り替えておきます。」

「ああ頼む。 ほら、これは先払いだ。」

おじさんは魔石の料金を払ってくれた。

「おじさん、僕、こんなにいらないよ。」

「何、魔石の正規の料金だろ。」

「そうだけど、僕は食事も一緒させてもらっているのに。 それに魔石だって買ったものじゃないから、そんなに貰えないよ。」

「何を言っている。 買ったものじゃないなら、余計にきちんとお金をもらわなくちゃダメだろ。

 良いから取っておきなさい。 それじゃあ頼んだよ。」

おじさんは仕事をしに、部屋を出て行った。


エリスの家は、家とは別の場所に店舗を持った、かなり大きい雑貨商をしている。

元々は家の一角が店舗になっていて店をしていたのだが、おじさんがかなりやり手の人で、別の場所に店舗を作り、この町でも有数の大きい店にまで発展させた。

だから、幼馴染の僕にはわからないけど、エリスは人によってはお金持ちのお嬢さんに見えるらしい。

そんなエリスと2人で店舗の方にやってきた。

雇っている店舗で働く人たちは僕らのことは見慣れているので、店の中で僕らが何かしていても何も気にしない。

僕は調理器に向かって行って、チャチャっと魔石を交換して、テストをしてみた。

大丈夫なのを確認すると、エリスが店員の1人に交換しといたからと、報告した。


「カンプ、これから何するの?」

「だから、カンプって言うな。

 もうすぐエリスの家の調理器の魔石も交換だから、ちょっと火鼠狩に行ってくるよ。」

「狩になんて行かないで、魔石なんて買えばいいじゃない。 何もわざわざ危ないことをすることはないわ。

 狩をする魔技師なんて、ほとんどいないって聞いたわよ。」

「まあそうなんだけど、魔石を買ってやってたら、ミスリル買えないんだよ。」

「魔道具作り、まだやるつもりなの?」

「当然だろ。 魔道具を作るから魔技師なんだ。」

「魔道具を作っている魔技師なんて、魔道具屋の大手のところにいるだけじゃん。

 世の中の魔技師がみんな魔道具を作ったら、この世は魔道具だらけになっちゃうよ。

 それ以前に、ミスリルが無くなっちゃいそう。」

「でも僕は魔道具が作れる魔技師でありたいんだ。」

「もう、頑固ね。 まあいいわ。

 ところで、さっきお父さんからもらったお金、半分ちょうだい。」

「なんでエリスに半分あげなくっちゃいけないんだよ。」

「何言ってるのよ。 あんたの家の食料庫何も入ってないじゃない。

 あんたが狩に行っている間に何か買っといてあげるって言ってるの。」

「あ、そうか。 じゃ、はい、これ。」

「全部なんていらないわよ。」

「余った分は後で返してくれればいいよ。 それじゃあ、よろしく。」

僕はエリスと別れた。


魔技師のもう一つの仕事が魔道具の作成なのだが、エリスの言う様に魔道具を作成する魔技師はほとんどいない。

何故なら世の中に魔道具の数は足りてしまっていて、壊れたりしなければ魔道具の需要がないのだ。

新しい用途の魔道具を作れば良いではないかと考えた者もいたのだが、魔道具を動かすための魔石の供給はモンスターからだから、数に限りがあり、そうすると今まである魔道具を使うことが優先されて、新しい用途の魔道具が食い込む隙間がないのだ。

よって魔道具を作る魔技師はほとんどいない。

だから、学校でも魔技師の技術として、魔道具の理論や作り方は教えるのだが、それを真剣に学ぶ者はまずいない。

だが僕は、その魔道具の理論や実際の作り方がとても面白く、授業だけでは飽き足りず、図書館の本も上から下まで読み尽くした。

そんな僕だから、魔道具を作ってみたくて仕方ないのだが、そこに大きな問題が存在する。

魔道具を作るにはその材料としてミスリルがいる。

例えば調理台の火を点けるスイッチだってミスリルが無ければ作れない。

魔石に念じ込む回路に外部から干渉できる物質はミスリルしかないのだ。

というより、ミスリルはその回路の外部に飛び出した一部になる感じだ。

そのミスリルが名前の通り、値段が高い。

売られている魔道具なんて、その値段のほとんどが使われているミスリルの値段なのだ。

まあ複雑な魔道具になると、それだけではないのだが、そうなると魔石も高位の物が必要になり、一般市民には関係のない物となってしまう。


普通の魔技師は魔技師冒険者組合、通称組合から魔石を買う。

魔技師冒険者組合は、魔法の素質がある者が学校を卒業する時に誰もが会員として登録する組合だ。

それは王侯貴族から魔技師まで変わらない。

そしてその組合員は、組合に魔石を売ることもできるし、組合から買うこともできる。

という訳で、組合の業務のほとんどは冒険者となった組合員から魔石を買い、魔技師となった組合員に売るという事になる。

魔法回路が組み込まれていない素の魔石はそれ以外の取引方法は禁止されているので、組合は大きな利益と権力を得ている。

ただ一つ抜け道として、自分で獲ったモンスターから得た魔石を使って、それに回路を組み込んで売っても、素の魔石の取引を行った訳ではないので引っかからないのだ。


一般的な魔技師は、組合で魔石を買い、その魔石に魔法回路を組み込んで、魔力を込めて、魔石を売る。

買った金額と売った金額の差額がその魔技師の利益となるのだが、どちらも相場が完全に決まってしまっているので、まあ分かりきった利益しか得る手段はない。

それでも現実的な話として、最下級の僕の様な魔技師でも定期的に魔石を買ってくれる客が8人いれば生活していける。

僕の場合、まだその人数がいないけど、エリスの雑貨屋で調理台が売れたりすれば、その客に定期的に買ってもらえる様になるだろうから、きっとそんなにしないでその人数を確保できる。

それなら魔技師の中で客の奪い合いが起こるかというと、そんなこともない。

僕の様な最低ランクの魔技師の魔力量では魔石に込められる魔力は月に15個が限度で、それ以上は無理だ。

それも目一杯頑張っての数字で、他のことには目を向けずという感じでそんなものだから、普通はそこまで頑張る魔技師はいない。

若い魔技師だと、8人から10人、妻子持ちの魔技師でも12・3人定期的な客を持っていれば多いくらいだ。

ま、それで生活できるし、魔力量という絶対的な壁が見えているから、それ以上何かを努力してということにもならない。

良いか悪いかわからないが、平和な均衡状態が社会に出来上がっているのだ。

そんな中で、魔道具が作りたいからと、魔石を買うお金を節約しようと、自分でモンスターを獲る最弱の魔技師なんて、確かに珍しいというか変なのかもしれない。


魔石を持つモンスターは、魔法の才能がある者にしか獲ることができない。

魔法を持たない者は魔法に抵抗することができないから、敵対すれば必ず負けてしまうのだ。

これはどうすることも出来ない、この世界の理だ。

魔法を持つ者の戦いも、持っている魔力量が全てだ。

相手が魔力を用いて攻撃してくれば、それと同等の魔力で打ち消す。

魔力を使い果たした方は動けなくなり、敗北が決まる。

だから魔力を持つ者は、自分より下の魔力のモンスターとしか戦えない。

また、集団戦となるととても厄介になってしまう。

集団の魔力の総量が、例えモンスターでもどれだけかを把握することは困難だからだ。

把握しそこなえば、大きな危険となってしまうからだ。


という訳で、火鼠2匹分の魔力しかない僕は、普通は1匹だけの火鼠を見つけて獲るのが精一杯な訳だ。

火鼠はそんなに攻撃的ではなく、自分が弱いこともわかっているので、向こうから襲いかかってくる様なことはない。

それでもやっぱりモンスターで、こちらからちょっかいを出せば襲ってくる。

1匹だけでいる火鼠に小石を投げて、注意を引きつけた。

小石で挑発するのは、こちらが魔力持ちだと火鼠に悟らせないためだ。

少し僕が逃げると火鼠は追ってきて、僕に魔力を放ってきた。

それに魔力で対抗していると、簡単に火鼠が倒れた。

僕はナイフで火鼠の魔石を取り出した。

たまにこういうラッキーな時がある。

この火鼠は火鼠同士で喧嘩でもしたのか、何かで魔力を使っていたのだ。

それだから少しの魔力の放出で、動けなくなってしまったのだ。

僕の魔力は火鼠2匹分が、1.6匹分くらいになっている。

これなら安心してもう1匹獲ることができる。


こうして僕は今日は運よく2個の魔石を手に入れて、家へ帰ることができた。


二話目、いかがでしたでしょうか。

この話は基本月曜と木曜の週二回で進めていきたいと思っています。

気長に読んでいただけると嬉しいです。


あと私はミッドナイトの方で

「気がついたらラミアに」( https://novel18.syosetu.com/n9426fb/) も掲載しています。

こちらは毎日更新していますので、R18に引っかからない人で興味を持っていただけましたら、

読んでいただけたら嬉しいです。


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