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北の町の魔技師の事情

「カランプル君は、魔技師とはどういう者だと思っていますか?」

北の組合長はどの様な意図があって、僕にそんなことを訊ねてきたのだろうか。 ちっとも見当がつかない。

「魔技師ですか。

 持っている魔力が少ない、魔力持ちとしてはその過半数以上を占める者たち。

 戦闘などには魔力の保有量が少なすぎるから向かなくて、もっぱら魔石に魔力を注入することに特化している。

 また、受ける教育のほとんどは魔法を扱うことではなく、魔石に魔力を込める方法や、魔石に回路を念じ込む方法、及びその回路について。

 それに加えて魔道具の作り方も教わるが、これを一生懸命に覚える人は稀。

 こんな感じでしょうか。」

「はい、その通りですね。

 問題は最後の魔道具の作り方も教わるが、覚える人は稀、というところなのです。」

「そこの何が問題なのですか。

 そんなのどこの魔技師もほとんどみな一緒だと思いますが。

 僕は元々、趣味に近い形で魔道具作りをしていて、たまたま魔道具屋をしていますが、単純に日々の糧を得るための仕事と考えるなら、魔道具が作れなくても困らないと思うのですが。」

「それが困ってしまうというところが、この町の問題点なのです。」

やっぱり僕は問題点が理解できない。

「だって今現在この町に暮らす人たちは、暮らすのに必要な魔道具は持っているはずで、そのそれぞれに担当する魔技師がいるはずです。

 新しい魔道具に買い換えるなどの時以外に、魔道具が作れなくて困ることはないでしょうし、その時のために僕らの様な魔道具屋という商売が成り立っていると思うのですが。」

「確かに普通はそうです。

 でもこの町ではそうも言ってられないのです。

 魔道具も使っていれば、スイッチが壊れたり、魔石とミスリルの回路の接続がうまくいかなくなったりしますよね。」

「はい、それは道具ですから、日々使っていれば、磨耗したりとかして、不都合は出てきますが、そんなのは些細なことで、魔技師なら誰でも修理する部分です。」

「普通はそうなんでしょうが、この町ではそうはいきません。

 この町の魔道具屋は昨日捕まった魔技師が経営する一店だけしかなかった、ということは確か説明しましたね。

 あの男はちょっとやり方が悪辣で、自分の所で売った魔道具の修理を他の者には許さなかったのです。

 この町の魔道具の全ての修理を自分の店で請け負っていました。」

「それはおかしくないですか。

 魔道具の修理なんて魔技師なら誰でもできますから、自分の店だけで独占するなんて、出来る訳がないと思うのですけど。」

「あの男はミスリルもこの町では独占的に販売していたのですよ。

 ま、誰も買う者はいませんでしたけど。

 誰かが修理するためには隣町まで行ってミスリルを買ってきて、そして修理をしなければなりません。

 そうすると、あの男の店で修理するよりも経費がかかり高額になってしまうのです。

 それに加えて、その様なことをしたことがあの男にバレると、もうあの男の店の物は一切売ってもらえなくなり、あらゆる圧力をかけ続けられます。

 魔技師だって、自分の魔力だけで使う魔道具全てを動かせる訳ではありません。

 いえ、もっと正確に言えば魔技師は自分の家にある魔道具さえ、自分の魔力で動かせるのは一種類だけで、他の魔道具は他の魔技師に頼まねばなりません。

 そこにあの男は圧力をかけてくるのですから、実質的には今までは魔技師だけでなく、この町に住む者は誰でも、あの男に目をつけられるとこの町では暮らしていけなかったのです。

 その上、その状況を良いことに、自分たちが儲かる様に、魔道具はとても壊れやすく作ってあるのです。」


僕はなんというかあまりに馬鹿馬鹿しくてため息が出た。

こんな馬鹿げたことをしていた男を今まで野放しにしていたことが信じられない。

「今、カランプル君は今まで組合は何をしていたのだ、と思ったでしょ。

 そう思って当然なのですが、私たちも何とかしようと色々考えていたのですよ。

 ところが今まで、表面上はギリギリ法律にも取り決めにも違反していなかったのですよ。

 それで私たちは手を出すことが出来ずにいた訳です。

 今回のカランプル君のパン焼き窯は新型で、その構造や回路が秘されていたので、やっとあの男もボロを出したのです。」


北の組合長は、大きな仕事を終えたかの様に、息を吐いたのだが、僕はまだ一向に今の事態が飲み込めていない。

話も何だかだんだん逸れて行ってしまっている様に思った。


「あの男が随分とズル賢いことをしていたのは分かりましたし、それでこの町の魔道具に問題があることも理解しました。

 それと今朝から僕のところに人がたくさん押し寄せて来ていることは何か繋がりがあるのですか。」

「カランプル君、察しが悪いですね。

 あの男が捕まったということは、あの男の経営する魔道具店は潰れます。

 そうすればこの町には魔道具店がなくなりますから、新たな魔道具店がこの町に進出してくるのは誰でも分かります。

 そこにあなたが今回の件で組合に協力したことが分かれば、新しい魔道具店は誰でもカランプル君の所だと見当がつきます。

 カランプル君がどんな魔道具を売り、自分の町でどんな風に魔技師と契約しているかは有名ですから、いち早く魔技師としてカランプル君と契約しようとするのは当然のことでしょう。」

「有名なんですか?」

「ええ、君たち自身は良く分かっていないかも知れませんが、カンプ魔道具店と、そこで作っている魔道具と、魔技師との契約は、魔技師の間では知らない者はいない程に有名になっていますよ。」

やっと食事を終えてお茶を飲んでいた、僕らの町の組合長が横から口を出した。

「なんだカランプル、お前は自分が有名になっていることも知らなかったのか。」

「そんなの知りません。

 僕は自分が楽を出来るように考えた魔道具を売って、協力してくれた友人と一緒にまあ普通の生活に困らないことを目指していただけですし。

 それがちょっと特殊な魔道具になってしまったから、組合に相談に行っただけで、気がついたら楽に暇になるはずが、とりあえず忙しくなっちゃって、その割に手元にお金はないですし、何だか訳がわからないまま、引きずり回されている気分です。」

組合長はちょっと困ったというかバツが悪そうな顔をして、

「そうだったな。 カランプル、お前には大それた望みとか野望とか、そういったモノはなかったんだったな。

 別に有名になろう、なんて気もなかったな。」

「そんなことはありません。

 僕も魔道具製作者として、歴史の1ページに名を残したい。 そういう大きな野望はあります。」

「お前、それはもう十分叶ったと俺は思うぞ。」

「えっ、そんな訳ないじゃないですか。

 こんな小手先の工夫くらいで、歴史に残る訳がないじゃないですか。

 カンプ魔道具店として、これからみんなで工夫を重ねて、もっと素晴らしい魔道具を開発したいというのが、僕の望みなんです。」

「お前、まだ違う魔道具を作るつもりなのか。」

「当然です。 まだカンプ魔道具店は始まったばかりです。

 これからもどんどん新しい魔道具を作り出すつもりです。

 現に今、リズが新しい魔道具の実験を重ねていますし。」

「おいおい、お手柔らかに頼むぜ。

 今でさえ、お前の所から持ち込まれた道具の回路なんかはいくつも秘匿技術になっているんだからな。」

「別に秘匿技術を作っているつもりはないのですけど。」

「それは当たり前だ!!」

うーん、何で組合長と話していると雷を落とされるのだろう。


「とにかく、そろそろ組合に向かいましょう。

 約束の時間までに組合に居ませんと、それは問題ですから。」

担当者さんがそう言って、僕たち全員を急がせた。

「カランプル君、エリスさん、今日のところはあなたたちに会いに来た魔技師に、会ってあげて、名前を控えておいてあげてくれれば、それだけで良いです。

後のことは私たちの方でゆっくりと説明することにしますから。」

北の組合長にそう言われただけで、僕たちは北の組合に大急ぎで向かうことになった。


忙しかった。

それから来る人、来る人に挨拶をして、「まだ確実に決まったことはないので」と断りを入れ、とりあえず名前を記録させてもらう。

それを延々と繰り返した。

沢山の人が集まっているので、昼食をとる暇もなかった。

その中に2人だけ、魔技師でない人がいた。

この町には2軒ではなく、3軒のパン屋さんがあった。 1軒は普通のパン屋さんだというが、もう1軒は冒険者専門のパン屋さんだという。

今回問題になったパン屋さんではない、残りのパン屋さんが2人連れだって、僕たちを訪ねて来てくれたのだ。

「私たちも一度に沢山のパンが焼けるというカンプ魔道具店のパン焼き窯に取り替えたい気持ちは前からあったのです。

 それをあの魔道具屋は、露骨に横槍を入れて来ていたのです。

 それなのに急に新しい窯を入れて良いので、その代わりに頼み事があると言って来たのです。

 私たちは3人ともなんか怪しいと思って、その言葉を断っていたのですが、今回問題の舞台になった彼がとうとう抗しきれずに、お願いした訳です。

 結果として、彼は気の毒な立場になりましたけど、私たちもカンプ魔道具店の新しい窯に替えるのに問題がなくなりました。

 それで、こうやってお願いに参りました。」

僕とエリスは、この件は普通の商談だったので、何だかとても癒される気分だった。

それでも他との兼ね合いもあり、即座に窯の設置日などを決めるという訳にはいかず、今後の方向が決まったら、優先して窯の設置をするということで納得してもらった。

僕はこの2人のパン屋さんの窯を設置したら、パン焼き窯だけで7台となり、それだけで一ヶ月に必要とする魔石が28個、それに加えてすでに抱えている調理器や照明器具に必要な魔石があるから、もうカンプ魔道具店としてというか、僕たちとしては必要な一ヶ月の収入は確保できたのだけどなあ、と思った。

あまり面倒なことはしたくない。


もう一泊、疲れて倒れ込むように宿に戻って、次の日、やっと家に戻ることが出来た。


「気がつけばラミアに」  https://novel18.syosetu.com/n9426fb/

こちらは第二章が終わり、今日から第三章に入ります。

R18に引っかからない人は、こちらもよろしくお願いします。

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