表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
165/167

これが決戦?

 叙爵式の時に勝手に退席していった貴族たち、いや、北の町に進軍して来ることが確定したつい最近、正式に貴族の位を剥奪されたから単に反乱者たちと呼ぶべきなのだろうが、とにかく僕らが敵対している者たちは、その送ってきた通知のとおりにその場に現れた。


 「何だか微妙な数だなぁ。

  進軍と呼ぶほどの人数ではないし、かといって単なる集団と呼ぶには雰囲気が物々し過ぎる」


 「いや、全体の数はともかく、魔法を使う貴族が30人近く揃って押し寄せてくれば、普通は立派に進軍だろう。

  昔は、魔法が使える者は一騎当千とまでは言わないが、魔法が使えない兵の100人分の働きをすると言ったらしいぞ。

  ま、俺たちの感覚では物語の世界の話だけどな」


 僕が彼らの姿を見た時の印象を語ると、アークがそんな風に答えてくれた。

 それにしても僕は本当にウィークが言ったそのままに、反旗を翻した貴族たちが行動してくれるとは思っていなかった。

 彼らの行動を、計画を立てたウィークは当然なのだろうが、アークも3伯爵も、そして陛下も全く疑っていなかった。

 絶対に、こう挑発すれば、こういう行動を取ると確信していたようだ。


 彼らが本当に予想される行動を取るかどうか疑っていたのは、どうやら僕だけのようだ。

 いや違う、エリスもちょっと不安に思っていたようだし、サラさんは

 「そんなにこっちに都合良く、動いてくれるのですか?」

と、口に出して疑問視していた。

 結局アークたちとは違い、基本は庶民の僕たちは、貴族の思考を理解していないというか、信じられないだけなのかもしれない。


 不安材料はいくらでもあったのだ。

 約束の時間を違えられたら、違う方向から攻められたら、最初から多くの人数を引き連れて攻めてきたら。

 そのどれにも僕らは対処できない。

 魔法が使えない人の攻撃でも多人数で、一斉に来られたら、こっちが魔法を使う間もなくやられてしまう可能性だって高い。

 僕がその立場なら、魔法を使わせないで勝つ方法を考える。


 そんな風に僕は1人かなり不安に思っていたのだけど、彼らはちゃんと予定通りの場所に、彼らの予告通りに現れて、僕は正直、かなり拍子抜けしてしまった。


 「まあでも予告通りに現れてくれて良かったな。

  僕は彼らが予告通りには現れないかと思っていたよ。

  彼らがこの戦いに勝つには、予告通りに現れる必要はないのだから、それとも何か罠があるのかな」


 「そんなことする訳ないだろ。

  もしそんなことしたら、たとえここで勝てたとしても、彼らの大義名分から外れてしまうじゃないか」


 「いや、そんな物は勝ってから、なんとでも言い訳できるんじゃないのかな。

  とにかくまずは勝つこと優先だろう」


 「いや、そんな風に考えるのはお前だけだろう。

  そもそも彼らは最終的に勝つ事は考えていないと思うぞ。

  我々ブレイズ家はともかく、あとの3伯爵家とまともに争えば太刀打ちできないって理解しているからな」


 「それなら初めから武力で敵対することなんて考えなければ良いのに」


 どうも、やはり僕には貴族の考え方は良く理解できないようだ。



 さて戦いが、どんな風に始まるのかな、なんて考えていたら、敵方から1人、前に進んで来て、大声で辺りに聞こえるように話しかけてきた。


 「ブレイズ家といえば、一時は名前を全く聞くことがないほど落ちぶれていたが、さすがに初めからの伯爵家の一つ、またその名を聞くようになって間もないのに、もうこれだけの家臣を擁するようになったとは、大したものだと称賛しよう」


 えーと、何だか僕がその言葉に応えるのを、みんな期待して待っているようだ。

 仕方がないから、何か応えないといけないようだ。

 まあ、誤解は解いておこう。


 「あ、それ、誤解です。

  ブレイズ家の家臣は13人、いえ、1人は家臣ではなく店員ですから、ここにいる家臣は12人だけです。

  後ろにある程度の人数で控えているのは、司法局の職員の方々です」


 「なんで司法局の職員が後ろに控えているのだ?」


 敵方代表のその問いは、きちんとある程度距離をとって僕らの後ろに控えていた司法局の人にも聞こえたようだ。

 その代表者がその問いに答えた。


 「はい、あなた方は陛下により正式に貴族位が剥奪されて、単なる反乱者と分類されました。

  それにより我々司法局の取り締まり対象になる訳です。

  でも、ご安心ください。 我々の今回の任務は、あなた方がブレイズ家との戦いに負けた後の身柄拘束であって、戦いそれ自体には私たちは関与しません。

  ただし、戦いはブレイズ家とそちら方の元貴族の方々に限定されたものだと認識していますので、他の方々がそこに加われば、それは厳しく取り締まらせていただきます。

  つまりこの場で私たちも、他の方がそこに加わることを出来る限り阻止させていただきますが、残念ながらそれは私たちの力では難しいことでしょう。

  ですので、きちんと記録をとっておいて、その罪を償わせる形になると思います。

  その場合、厳罰が処されることになるのは覚悟しておいてください。

  ちなみに先ほどブレイズ家の人数は伺いましたが、あなた方の人数も確認しておきたいのですが。

  事前に、28人という数字が上がっていましたが、実際のところはどうなのでしょうか?」


 「我らは30人だ。

  その事前の数字が何故28人なのかは理解している。

  その後そこから2人抜け、新たに陞爵した者4人が加わっている」


 「はて、陞爵したとはどのような。

  そのような話は陛下からも誰からも伺ってはおりませんが」


 「きちんと公爵を通して、上申してある。

  ただの手続き上の話である。

  今は陛下もその立場上、我らと意見を別としていることになっているが、我らの行動によってその正しさを知ってもらうことになれば、陛下も意見を変えることであろう。

  その時には、即座に正式な物となるはずの者たちだ。

  すでに心はその地位にあるし、我らはその地位にある者として扱っておる」


 敵方の代表は、自分の仲間の方を振り返って、その4人を司法局の職員に理解させた。


 「了解しました。

  それではその4人も加わった30人をあなた方の人数と認定し、他とは違い戦闘に加わること自体は罪には問わないことにします」


 司法局の代表との話は終わったようだ。


 「それで今気づいたが、先ほど1人は家臣ではなく、店員だと言わなかったか?

  そこには問題はないのか?」


 敵方の代表は、そんなことを気にした。


 「はい、私のことです。

  私はエリス雑貨店の現在は副店長を勤めていますサラと言います。

  公爵領の方々にも、普段より色々とお買い上げいただきありがとうございます。

  まだ現時点ではカンプ魔道具店方式の水の魔道具は公爵領へは持ち込めないことになっていますが、その制限ももうすぐ解除される見通しだと伺っています。

  これからも尚いっそうの御愛顧をお願いいたします。

  さて、私なのですが、エリス雑貨店の副店長という役柄から、ブレイズ伯家の貴族家の家臣とはなっていませんが、かなり初期からブレイズ家のスタッフのような地位にあります。

  今回ここに家臣として来ている者たちの中でも、どちらかと言えば古株にあたります。

  今回この場に加わるに当たり、貴族の位を持たないと問題になるかとカランプル様が考えられて、それを陛下に奏上していただき、私にも急遽貴族の位が与えられるということになりましたが、それは辞退しました。

  雑貨店の店長が伯爵夫人で、副店長まで貴族となっては、雑貨店の敷居が高く感じられてしまうのではないかと思うからです。

  それにブレイズ家では爵位は全く関係ありませんので、私自身には身に余るモノですから。

  ただ、それによりこの場に立てないのは困るので、陛下よりこの場では『爵位持ちと同等と見做す』という言葉をいただきましたので、私のことも他の家臣たちと同様に考えていただいて構いません」


 サラさんが自分のことが話題となったので、自ら説明し同等の扱いを求めた。


 「という訳ですので、単に私の家が貴族家として存在するだけではなくて、魔道具店と雑貨店も営んでいるという特殊事情ゆえのことですので、大目に見てください」


 敵方の代表は、サラさんの言葉をイライラするような顔をして聞いていた。

 きっと、サラさんに公爵領の人がエリス雑貨店からカンプ魔道具店の商品を買っていることを指摘されて、なお今後は制限がなくなるので益々の御愛顧をと言われて、自分たちの矛盾を突かれた気がしたのだろう。


 「とはいえ、それでもそちらは合わせて14人、こちらは30人。

  そちらの人数にこちらも合わせて人数を絞ろうか。

  それにそちらは多くの女性もいる。

  まあ、そなたの夫人は『最強の伯爵夫人』などと言われているようだし、『雷光使いの男爵夫人』もおられたな。

  だが確か子爵夫人は教育関係を管轄していて、武名は聞いていない。

  女性陣も数から外して、男性陣だけに人数を限って、雌雄を決するのでも構わないぞ。

  まあ大分人数が減って、雌雄を決すというには寂しいかもしれないが」


 挑発的な感じで敵方の代表がそんなことを言い出した。

 僕は、「それは良い、少人数のことで済むにこした事はない」と思ったのだけど、その挑発にリズが乗ってしまった。


 「その必要はないわ。

  あなた方全員でかかって来てくれて一向に構いません。

  そもそも、私がエリスやラーラと違って戦えないと思っていること自体が間違っているのよ。

  『雷光』を使えるのがラーラだけだと思ったら大間違いよ。

  見せてあげるから、よーく目を見開いて見ていなさい。

  雷光!!」


 リズは僕やアークが止める間も無く、杖を掲げると誰もいない場所に目掛けて『雷光』を放った。

 その閃光を見て、敵方の代表はちょっと思考が止まってしまったようだ。 呆けた顔をして固まっていたが、味方の声に我に返った。

 敵方はリズの放った『雷光』を見て、大騒ぎになっている。


 敵方の代表は、懸命に取り繕った威厳を見せて言った。


 「なるべく穏便にことを進めようと思っていたのだが、ブレイズ家の方ではそんなつもりは微塵もないようだ。

  それならば仕方ない、我らも全力で雌雄を決すのみ」


 それだけを落ち着き払った感じで言うと、敵方の代表は大急ぎという感じで自分たちの集団の方へと戻って行く。

 これはダメだ、始まってしまうと思って、僕も急いでみんなに声を掛ける。

 「全員、盾、用意!!」


 僕は自分も腰のベルトに装着してあった小型の盾を手に構える、そして僕たちはなるべく1箇所に小さくまとまった。

 僕らが1箇所にまとまるのを待ちきれない感じで、敵方は魔法を放ち始めた。


 とはいっても、その掛け声が聞こえるのみで、魔法は発動しない。

 でも、盾に取り付けてある魔力を貯める魔石には、どんどん魔力が貯まっているので、敵方がどんどん魔法を放っているのは確かだ。


 僕たちが1箇所にまとまったのには大きな訳がある。

 1人離れていて、その1人が集中して魔法を受けると、人数が多いので盾に取り付けてある魔力を貯める魔石に全て魔力が一杯になり、魔力を吸収できなくなってしまう可能性があるからだ。

 固まっていれば、そんなことになる可能性は大きく減るからね。


 僕は最大でも28人のつもりが30人だったことを、少し心配していた。

 でもまあ、大丈夫だろうとたかを括ってもいた。

 一人一人の魔力量を、僕はシャイニング伯を基準に考えて、それより少しだけ少ない程度と仮定して、貯める必要のある魔力の最大量を設定した。

 それだけの魔力量を持つ者は少ないと思うので、2人増えた程度では問題がないと考えたのだ。

 もし後から増えた4人が大きな魔力量を持っていたなら、もっと前から貴族として知られていたはずだからである。

 今までの貴族のというか、この国の価値観ならばそうなっていた筈だ。

 それなのに、ここに来て、急遽組み入れられたということは、そんなに大きな魔力を持ってはいなかった可能性が高いと思うのだ。


 「駄目だ!! やはりブレイズ伯たちには魔法による攻撃は効かない。

  それならば、本当の意味での肉弾戦だ!」


 敵方の代表が、後から陞爵すると言った4人がこっちに向かって走り出した。

 「おいおい、このために増やしたのかよ」と僕は思ったのだが、敵も何だか唖然としているので、そんなことでもないのかもしれない。

 「とにかく腰の剣を抜いて走って来る奴らをどうにかしなければ」と思った瞬間に、

 「雷光!」

と、誰かが叫び、その4人が一瞬で崩れ落ちた。


 誰が攻撃魔法を撃ったのかなと思ったら、サラさんだった。

 「すみません。

  何だか目が合っちゃいまして、そしたら完全に私に向かって走って来る感じがしてしまって、つい焦ってしまって、許可なく杖を使ってしまいました。

  あの、ところであの人たち大丈夫ですよね、まさか死んじゃってなんていませんよね」

 サラさんは、自分の攻撃の結果に狼狽えている。


 「大丈夫、威力は最初に確認した状態から動かしてないですよね。

  それなら、痺れて動けない程度のことですから。

  ま、もしかしたら気絶程度はしているかもしれないけど」

 ラーラがサラさんにそう言うと、サラさんは安心したように息を吐いた。


 「サラさんに先を越されてしまったわ。

  私も撃とうと杖を掲げようとしていたのに」

 イザベルがそう言うと、アーネが

 「カンプさん、私も敵に向けて撃っても良いですか?

  やっぱり撃ってみたいじゃないですか」

と、とても好戦的な許可を求めてきた。


 僕たちはもうその時点で、そんなことを話せるくらいに余裕があったのだ。

 敵方の魔法攻撃が一段落したのだが、その時点で魔力が貯まる魔石に貯まった魔力量は、総容量の半分を超えるか超えないかという量でしかなかったのだ。

 もう一度同じだけの攻撃をされても、僕らは耐えられるけど、そんなことが出来る訳はないからだ。


 敵方は皆、青い顔をして肩で息をしている。

 うん、デジャヴだな、前にシャイニング伯も同じような顔をしていた。

 シャイニング伯は自分が倒れ込むまで魔法を撃ち続けてきたが、彼らはそこまではしていない。 顔色を青くしただけで、立ってこちらを見ている。

 うん、これじゃあ終われないな。


 「それでは今のような攻撃をしてくる可能性もあるということも分かりましたので、こちらからもそれでは攻撃させてもらいます」

 一応降伏勧告のつもりで僕は彼らにそう声をかけた。



 その途端、さっきの代表が腰の剣を地面に投げ捨てて言った。

 「雷光は撃たないでくれ、降伏する!!」

 他の者も一斉に剣を地面に落とした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] なんというか……こう……魔法名を叫んで何も起きず、ただ肩で息をしてるって……第三者からみるとなんか……まぬけというか。発動する魔力を吸うせいですかねぇ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ