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王宮の出入りも面倒

 翌朝、僕たちはゆっくり休んで、少しだけ遅めの朝食をとり、さて今日はどうなるかなと居間で話していたら、ウィークが疲れた顔をして入ってきた。

 どうやら、やはり昨晩は徹夜だったようだ。


 「今日は午後早くから、王宮で話し合いが持たれます。

  ブレイズ家の面々は秘密通路から王宮内に入るように、ということです。

  すみませんが僕はこれから仮眠を取らせていただきます」


 ウィークはそれだけ言うと、自室の方へと下がってしまった。

 うん、とりあえずは出来るだけ休んでくれ。


 「今のウィークの言い方からすると、どうやら王宮に集められるのは俺たちだけじゃなさそうだな」


 アークがそう言うと、ダイドールがちょっと難しい顔をして応えた。

 「そうですね。

  対応を根本から練り直さねばならなくなり、きっと3伯爵家も加えての話し合いになるのではないですか」


 ターラントもそれに加わった。

 「だとすると、3伯爵とも激怒しているということですから、完全に反乱と看做して、力による制圧という形を取らざる得ないという結論になってしまうかもしれないですね。

  そうなると、残念ですが、双方にかなりの犠牲者が出てしまうでしょうねえ。

  魔法の撃ち合いということになってしまいますから。

  何十年ぶりかの人間同士の戦闘となってしまいますね。

  レベルを考えなくても貴族の数が圧倒的に違いますから、勝敗の行方は明らかですが」


 アークが苦い顔をして言った。

 「勝敗は、退席して会場から去っていった馬鹿どもでも解っているだろうさ。

  でも彼らは自分が夢みた、華々しい貴族としての最後を遂げられる訳さ。

  巻き込まれる方としてはたまったもんじゃないけどな」


 みんなもだろうけど、僕もそうなった場合の悲惨な光景を頭の中に思い描いてしまった。

 そんなのは物語の世界のことだと思っていたのに。

 さすがにちょっと、その光景が現実となることは、何とか避けたいと思う。


 どうにかすることが出来ないかと、みんな頭の中で考えているみたいだ。


 「昨晩のウイークさんの話では、結局進攻してくる貴族の数は30に満たないということでした。

  つまりその最大で30人を我々が抑え込んで仕舞えば良い訳で、ウィークさんはそれが簡単に出来ると考えていたところが問題だった訳です。

  我々で抑え込めないですかね、無理ですね、自分で言っていて何ですが」


 「向こうが30人なら、こっちも30人吸収の杖を持った者を用意すれば良いという事ですよね。

  不可能な数字ではないのではないですか」


 ダイドールとターラントが、そんなことを言い出した。


 その言葉に対してアークが冷たく聞こえる冷静な調子で言った。

 「無理だな。

  今ある吸収の杖は、全部でたったの15本。 15人が持つだけだ。

  それもやっと最近になって15人に増えたんだ。

  急に倍に増やすのは難しいし、それはするべきではないと俺は思う。

  カンプも俺と同じ考えだと思うが、違うか?」


 「うん、僕もアークと同じ考えだ。

  吸収の杖だけじゃなく、攻撃用の火の杖や雷光の杖は、持っている人数を増やすべきではないと思っている。

  ま、基本的に火の杖はともかく、吸収の杖や雷光の杖を作るにはレベル2の魔石が沢山必要になるから、おいそれとは簡単には作れない。

  ここにいるペーターさんとラーラが襲われた後で、持つ人数を増やそうとしたのだけど、それが最近までかかったのは、そのレベル2の魔石を手に入れるのに時間が掛かったことによるのさ。

  でも、それ以上増やさなかったのは、魔石が理由じゃない」


 僕がそこで言葉を切ると、ちょっとおずおずした感じでターラントが言った。

 「極秘技術であるこれらの杖を託しても良いと思う家臣の数が、そこまでの人数しかいないという事でしょうか」


 僕はちょっと表情を和らげて言った。

 「まあ基本的にはそうなんだけど、託しても良いと僕が思える家臣は、まだまだ他にもいることはいるよ。

  だけど、今持っている、持たせている家臣は、それだけではなくて、持っていないと危険があるのではないかと思う家臣だけなんだ。

  僕やアークはこの極秘になっている杖は、出来れば誰にも持たせたくないし、自分たちでも持っていたくないと考えている。

  何故なら、これらは今の社会秩序を根本から変えてしまう可能性が大きい技術で、それはまだ利益より害をより圧倒的に多く齎すと思うからだ。

  社会変革をもたらすのは、僕らは魔力を溜める魔石を作った時から、常に考えなければならない事だったのだけど、最初僕たちは簡単に考え過ぎていたのかもしれない。

  今になって考えると、もっと慎重に最初から考えて動くべきだったのかもしれないと思ってしまうこともあるんだ」


 「ま、俺たちもまだ若かったからな。

  今同じ状況だったら、今の商品を売り出そうと考えなかったかもしれないな。

  当時でも東の組合長とかにえらく心配されたけどな。

  さすがに俺たちも今では、エリスが気がついて使い始めた、魔力がないと思われていた者が魔石に魔力を込める道具を売り出してはいないからなあ。

  あの当時だったら、喜んで即座に売り出していただろうけどな、絶対に売れるって考えて」


 アークがそう言うと、その道具を今現在手に持って使っていたペーターさんに、ちょっと注目が集まってしまった。


 「そう、その道具は凄く有用で、ウチの家臣団の今まで魔力を持たないと言われていた人には、あっという間に行き渡ってしまったけど、それでもサラさんの様な一部例外はあるけど家臣団以外の者には渡していない。

  この道具は別にすぐにでも量産出来るから、売り出せば爆発的に売れると思うけど、これもまだ待機中というところさ。

  それも社会変革を起こすと考えるからだけど、これはもうちょっとして、タイミングを図って売り出して、社会変革を起こそうと思っている道具で、だからこそ家中では一般には秘密にすることにして使用している。

  先にテストしているようなものさ。

  だけど杖は違う。

  これは広げるつもりは全くないし、将来的には回収して破棄したいと思っている道具だ。

  だからこそ、より扱いを厳しく制限しなければいけないと考えているのさ」


 アークを除く、ダイドール、ターラント、ペーターさんは杖がもし広く使われる様になった時の社会がどうなるかを考えたようだ。

 良い変化もあるだろうと思うけど、悪い変化が大きいことも理解してもらえると思う。


 「でもまあ、今回の件をどうにかしなければいけないとは、やっぱり考えるよ、僕だって」

 僕が呟く様にそう言うと、全員が沈黙してしまった。




 僕たちは自分たちの王都の館から、ウィークに指定された通り、秘密の地下通路を通って王宮内に入ったのだが、他の人たちはそれぞれに、それぞれの紋章を掲げた立派な馬車で王宮の正門を通って堂々と王宮内にやって来た。

 それは敵と見做して良いであろう、退席して勝手に式典から退去していった貴族たちに、自分たちの存在を見せつけて、威嚇しているかのような行為だった。

 いや、威嚇そのものなのだろう。

 そのメンバーは、僕たちを除いた、式典後に夜、秘密裏に集まった全員だ。


 僕らの方が先に王宮内に入ったので、指定された部屋で待っていると、ブレディング伯を先頭にして、3伯爵たちが部屋に入って来た。


 「おう、王宮にやって来た時に、ブレイズ家の者が誰1人見当たらんと思ったら、ブレイズ家は全員先に来ておったのか。

  いや、全員ではないな、それぞれ奥方殿はどうしたのだ?」


 ブレディング伯の質問に僕は答えた。

 「はい、少し前に王宮に来まして、皆さんをお待ちしておりました。

  今回は、陛下より女性陣は呼ばれず、男性陣だけのお召しでした」


 「まあ、そうだろう。

  どうも話がきな臭い話になりそうだからな。

  話しているうちに言葉使いも荒くなることであろう。 そこで女性もいるからと気を使うよりは、初めから外しておいた方が良いという思し召しだろう」

 ハイランド伯がそう会話を引き取ってくれた。


 「陛下も事ここに至っては、仕方ないと決意されたということかな」


 グロウヒル伯が陛下のその配慮の意味を、何というか拡大解釈したのかな、と僕は思ったのだが、昨晩ウィークから話を聞いた僕たち以外の参加者は皆、グロウヒル伯の解釈を受け入れているようだ。


 そこから話題は現状の分析に移っていったのだが、僕だけでなくブレイズ家の者たちは、そこで交わされる会話に含まれる情報を聞くことに専念していた。

 しばらくすると、陛下がウィークと数名の側近を連れて部屋にやって来た。

 部屋の中は一旦静まった。


 「今日の会議の議題は言うまでもないだろう。

  皆の率直な意見を聞かせもらいたい」

 陛下は席に着くなり、集まった者に対してそう意見を求めた。


 先頭で口火を切ったのは、3伯爵ではなく、ブレディング伯の息子、つまりイザベルの兄だった。

 今回集まった中では、最も若いかも知れない。


 3伯爵は自分が最初に意見を述べると、それに異を唱えるのは同格の伯爵以外難しくなるので、陛下の前ではまずは自分の意見は控えて、場が活発になることを望んだようだ。

 その意を受けて、一番若いと思われるイザベルの兄が口火を切ったのかも知れない。

 自分に対してなら、誰も遠慮なくその意見に対して、口を挟むことが出来ると。


 しかし、もちろんその意見は、自分のと言うよりは、父親であるブレディング伯の言いたいことであるのは、誰しも、僕でさえ理解している。


 「今、問題になっている者どもは、もう反乱者と公式に発表して良い存在だと思います。

  まず第一に、式典から許可もなく勝手に退席・退場していったことは、この国の貴族として許されざる所業。

  その一点のみでも、彼らの貴族の位を剥奪しても良いのではないかと私は思います。

  それを今まで処断しなかったのは、公爵がこの事態をなんとか穏便に納めたいと、その努力を自ら買って出て、その結果を待っていただけのこと。

  今回、その公爵の努力が、その者ども自身から、公爵自身が『乱心としか思えない』と言うような無体な要求を、陛下に無礼にも突きつけてきたことによって、何の実も結んでいないことが明らかになった訳で、もう待つことなく、即座に処断するべきだと思います」


 まあ、当然の考え方だとは僕も思う。 うん、正論だな。

 一番若いと思われる者が意見したのだから、他の若手がそれに対して異論、反論をぶつけるかと思ったら、誰もがそう思っているらしくて、声が上がらない。


 もう仕方ないかという感じで、ウィークの父のハイランド子爵が意見を述べた。

 うん、一気に意見の重みが増してしまって、若手の者には口を出せない雰囲気になってしまうよ。


 「それは確かに正論であろう。

  だが、それをした時には、もう彼らの暴発を止める術は無くなるのではないか。

  彼らが暴発しても、我々にはそれを楽に押し潰す力はある。

  だから問題がないとも言えるが、それでは巻き込まれて多大な犠牲が出てしまうのも確かなことだろう。

  今のこの場は、もうすでに彼らの処遇などどうでも良いのだ。

  巻き込まれての犠牲をいかにしたら出さずに済むか、それを皆で知恵を出し合おうという場なのだ」


 3伯爵はみんな激怒して、即座に押し潰してしまえ、という剣幕だったということだったけど、ちょっと時間が経ったから頭が冷えたのか、ハイランド子爵は冷静な意見を述べた。

 もしかすると、息子であるウィークの意を受けて、つまり陛下の意を受けての言葉なのかも知れないな、と僕は思った。


 場はもう誰もが押し黙ってしまい、沈黙だけが支配している。

 もう本当に仕方ないという感じでブレディング伯が言葉を発した。


 「とはいえ、このまま捨て置くことも出来ないだろう。

  座したまま、相手が動くのを待っている訳にもいかないし、公爵を通して王宮に要求を伝えるのでは、公爵が躊躇って伝えない可能性があるとでも考えたのだろうか、奴らあの要求を大々的に公表までしおった。

  これで陛下から何のお咎めもなしでは、陛下の威光に傷がつく。

  昔風の言い方をするなら、鼎の軽重を問われることとなる」


 「確かに、ブレディング伯の言う通り。

  ここに至れば、彼の者たちをこのまま爵位持ちに留めることは出来ないと、私も考える。

  それは無駄な犠牲を作らないという事とは、また別の問題だ」


 グロウヒル伯がそう言うと、ハイランド伯も


 「私はとにかく関係のない犠牲を作らないことを最優先に考えたいが、確かにこの件に関しては2人の言うとおり、そのままにして置くことは国の今後にとっても過ちであろう。

  爵位の剥奪に賛成する」


 生真面目な穏健派と目されるハイランド伯までもが、退席貴族の貴族位剥奪を支持したので、この件は本決まりになったと考えて良いのだろう。

 穏健なハイランド伯とはいっても、国の舵取りを昔から考えることを託された家の当主である。

 曲げられない部分は、もう2人と同じように、犠牲が確実に大きいと予想しても、その判断を揺らすことはないのだろう。


 今、3伯爵は僕に対してそこまでの判断を求めてはいない。

 それは僕が3伯爵の次の世代であることと、家紋からブレイズ家の裔と判明し、陛下の思惑から最初は爵位が与えられただけで、王国の政治などという世界とは無縁の存在だったからだろう。

 しかし、僕が名乗っている家名は、3伯爵と同様に国の舵取りを考えることを初代国王から託された家名、またダンジョンの発見という予期せぬことでの陞爵で爵位も同じになってしまった。

 当然ながら、3伯爵は自分の家の次代と同様に僕にも、これからの国の舵取りを考えさせるつもりのようだ。

 だんだん、そういった雰囲気をひしひしと感じるようになってきている。


 「さて、あの者たちの爵位の剥奪は決定として、問題はいかにして、この事態に否応なく巻き込まれてしまう者の犠牲を減らすかという事だ。

  そこに関して、ブレイズ伯は何か意見がないのか。

  先ほどからブレイズ家の面々は、先にここに来ていたのに、聞き役ばかりにまわり、自分たちからは意見を口にしていないようだが」


 今回はリズが来ていないからか、グロウヒル伯が厳しいことを僕たちに言い出した。

 僕はちょっとなんて返答しようか、困ってしまった。


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