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ウィークの頼みと誤算

 「まあ馬鹿どもも、自分たちの中から旗頭を出したのでは、内部分裂してしまうと恐れた訳か。

  流石にいくらかの脳みそは残っていた訳だな。

  大した容量は無さそうだけど」


 うーん、何だかアークがイラついてて、相手がウィークだからもあるのだろうけど、言い方がとても辛辣になってきた。


 「それで何を言い出したんだ、その容量足らず達は。

  何か具体的なことを言い出して来たんだろ。

  そうでなきゃ、とりあえず放っておけということになって、お前がこんなに消耗しているはずはないからな」


 「あはは、アーク兄さん、お見通しですか。

  全くこうなんだから、本来僕じゃなくて、アーク兄さんが陛下の影の側近にやっぱりなるべきでしたよね、僕より優秀なんですから」


 「何言ってるんだ。

  お前の方が、魔力も学校の成績もずっと上だったじゃないか」


 「学校の成績は、アーク兄さんが魔力が少ないことを知ってから、全くやる気を見せずにまともに試験も受けなかったからでしょ。

  ちゃんとやっていたら、絶対に僕より上でしょ。

  だいたい魔力量だけで、アーク兄さんを家から出すなんて馬鹿なことをする様な家は、もう寿命なんですよ。

  お祖父様は、それを分かっていて、大反対したのに」


 「まあ、まだあの時は今とは違うからな。

  それも仕方なかったし、俺は今ではそれを良かったと思っているし」


 「僕はお陰で、見ての通り不幸ですよ」


 うーん、何だか僕の知らないハイランド家の過去の事情が透けて見えてきそうな会話だけど、確実に本筋からは離れていってしまっている。


 「なんとなく色々想像できてしまう話だけど、ウィーク、本筋に今は戻ってくれ」


 「おっと、すみません、カンプ様、皆さんも。 話を元に戻します。

  退席していった馬鹿どもなんですが、何を考えているのか、どうしようもない要求を陛下に突きつけてきました。

  北のダンジョンで獲れる魔石を全て寄越せと要求してきたのです」


 「全て寄越せって、確かそもそもその半分は東の公爵領に優先的に送ることになっているのだが、今現在はその半分の量さえ買うのに困窮していたのではありませんか?」

 ダイドールがそう疑問を呈した。


 「そうなんです。

  だから北の町で産出する魔石全てを買い取らせろ、という要求ではなくて、寄越せ、つまり只で渡せという要求なのです。

  そしてその要求が叶わない場合は、北の町のダンジョンを武力制圧するという脅し付きで」


 「はあ、やはり馬鹿ですな。

  たとえ制圧して自分たちでダンジョンを運営するとしても、金銭は同じように掛かるということが分かっていないのでしょうか。

  只で、組合も冒険者も動く訳がないでしょう。

  それとも全て自分でダンジョンに入って狩ってくるというのですか、自分たちにはノウハウも何もないでしょうに。

  それに、北の町からそんなことで冒険者と組合と、そしてウチの雑貨店と魔道具店を追い出したら、町には人が居なくなって、町自体が潰れてしまいますよ。

  生活するにも必要な物資が手に入らなくなって、北の町では生活が成り立たなくなるんじゃないですか」

 ターラントが心底飽きれたという調子で言った。


 「まあ、そのとおりですね。 全く現実的ではない要求です。

  今では冒険者も組合も、カンプ魔道具店とエリス雑貨店に逆らって、つまりこのブレイズ家に敵対する動きをするなんてあり得ませんから。

  その要求を伝えてきた書状に添えられた公爵の私信にも、『何を考えているのか、訳が分からない。 乱心としか思えない』とありましたしね。

  いやはや、公爵も大変です」


 何だか投げやりな態度でウィークは公爵に同情した。


 「で、これ、どういう風に解釈して、どう対処しようという話になっているの、王都では?」

 僕もちょっとうんざりした気分で、ウィークに核心を尋ねた。


 「えーと、この要求なんですけど、結局は退席した馬鹿どもは、過去を賛美する自分たちの美学に酔っていて、美しく一か八かのドンぱちをしたい、ということなのだろうと解釈されています。

  全く良い迷惑なんですけど、僕もそれが本音なんだと思います。

  こんな要求通るわけがありませんから。

  そして、こっちの方がもっと問題なんですけど、3伯爵家の当主たちが揃って激怒しちゃいまして、要求通りに踏み潰してやると息巻いてます」


 うん、なるほど、ウィークが疲れ切っている理由は、それを宥めるのが大変なんだな。

 しっかり理解できた。 それは大変そうだ、僕は関わりたくない。


 「それで、これを放っておくと、本当に3伯爵家合同で、踏み潰しに行きそうで、そうするとそのとばっちりで、どれ程の人命の被害が出るかと。

  3人とも頭に血が昇っちゃていますので、闇雲に力押しで潰してしまいそうですから。

  そしてそれが出来るだけの財も勢力もありますからねぇ。

  いやもう、1家だけでも、出来ちゃいますね。 それが3家で張り合ってやろうとしているのですから、もう手が付けられない」


 その必要もないと思うのだが、ウィークは本当に両掌を上に向けて上げて、ひらひらとしてみせた。

 うん、ウィークも疲れているだけでなく、相当頭にきてるな、これは。

 ウィークは手を下ろすと、思いっきりふうっと息を吐いて、少し体内の圧力を逃すような動きをして言った。


 「僕としては、その馬鹿ども自体、30人はいないと思いますけど、そいつらは伯爵たちが言うように、ぺちゃんこに踏み潰してしまっても良いと思うのですが、あ、これ、陛下も同じに思っているんですけど、それに付き合わされる家臣や家来たちは、流石にその馬鹿たちと一緒に踏み潰しちゃうのは可哀想かなと思って、それでさて、どうしたら良いだろうかと苦慮した訳ですよ」


 あ、もう、これいいや。 これ以上は聞かなくていい。

 いや、これ以上聞くと、また面倒に巻き込まれる奴だ。


 ウィークが急に力の篭もった声で言った。

 「そこでです、カンプ様。

  すみませんがブレイズ伯爵家として、そいつらと戦ってくれませんか。

  ブレイズ家がやると言えば、3伯爵家も面白がって、それなら任せようか、ということになると思いますし、少し噂でも流して煽ってやれば、こっちの思惑通りに、馬鹿者当人たちでノコノコやって来そうですから。

  何しろ彼らにとっては、ブレイズ家の面々なんて、魔力も持たないのに貴族になった、単なるおべっか使いの、張子の虎の詐欺貴族家ということらしいですからね」


 「うん、ウィーク、その認識は間違っていないよ。

  ここは張子の虎の詐欺貴族家の出番じゃないな」


 「そうだな、カンプ、俺もそう思うよ。

  みんなもそう思うな」


 僕の言葉を即座にアークも応援してくれたのだが、


 「駄目です。 陛下の私的ではありますけど、たっての依頼ですから、拒否権はありません」


 ああ、やっぱりそういうことか、どうしようもないな、これは。

 ウィークに呼ばれた時から、こんなことじゃないかと思っていたよ。


 そんな風に思っていたのは僕だけじゃないようで、アークをはじめとする面々も、やっぱりかという様な、諦めた顔をした。


 「それで、具体的にはどんな風にしようと考えているの?」

 もう仕方ないから、早く話を進めてしまおうと、僕はウィークにこの先の計画を聞いた。

 ここまで話が決まっているなら、これから後どうするかも決まっているに違いないのだから。


 「まずは陛下の懐刀が、陛下に

  『私たちが問題を処理して来ましょうか、たかだか30人足らずです』

  と進言した、という噂を流します」


 「おい、ウィーク、まさかその懐刀というのは俺たち2人のことじゃないだろうな」


 「もちろんカンプ様とアーク兄さんのことに決まっているじゃないですか。

  陛下の懐刀と言ったら、それは誰が聞いたって『陛下の鋭利な懐刀』カランプル_ブレイズ伯爵とアウクスティーラ_グロウランド子爵のコンビだと思いますよ。

  貴族の中だけじゃなくて、庶民の間でもとても有名ですからね。

  なかなか役に立ちますよね、こういう異名は。

  アーク兄さんは、そう言われるのをまだ諦めていなかったのですか」


 アークの念押しに、ウィークが今までの調子と打って変わった、とても楽しげな調子でそう言ったものだから、ダイドールとターラント、それにペーターさんまで吹き出している。

 メイドさんまで、クスクス笑いをしていて、それで気が付いたのだけど、良いのかこんな国家の一大事みたいな話をしている場に、メイドさんもいて。

 ま、今更隠す必要もないようなことなのかな。


 「ああ、まったく、北の代官のクラン子爵はなんてことをしてくれたんだ」

 アークのぼやきに、また笑い声が上がった。

 その笑いに加われないのは、ぼやいた本人を除けば僕だけだ。

 もうその「陛下の鋭利な懐刀」っていうので、何度僕もぼやいたりしたことか。


 僕も渋い顔をしているのを見て、アークはちょっと咳払いをすると話を戻した。

 「さて、冗談はともかくとして、そのすぐ後に、

  『その30人は陛下の懐刀を恐れて、自分の家臣や家来などを引き連れて、数の力で対抗して押し寄せようと計画しているらしい』

と噂を流します。

  これで、彼らは大挙して北の町に進攻して来るということは無くなるでしょう。

  それをしたら、彼らは陛下の懐刀の2人を恐れたと、公式に認める様なことになりますから、彼らの矜持がそれを許さないでしょう」


 ウィークがちょっと悪い顔をして、そう言ったのだが、そう都合良く本当に行くだろうか。

 僕はそういう貴族たちの感情の機微は良く分からないので、ダイドールに話を振った。


 「ダイドール、本当にウィークの言う通りになると思うか?」


 「はい、カンプ様、私もウィークさんの計略の通りになると思います。

  彼らにとっては、カンプ様もアーク様も本来なら貴族にもなれない、劣った存在という認識を崩す訳にはいかないのですから」


 でも、僕はこの計画にはどこかに穴がある気がするんだよなぁ。


 「そうは言っても、結局、彼らは北の町に進攻して来ることになりますね」

 ターラントがそうアークに聞いた。

 「その北の町のクラン子爵は困るのではありませんか」


 「ええ、ですから、馬鹿どもが、本当に進攻するということになったその時には、正式にブレイズ伯家で、その進攻に対処すると表明するのです。

  そして彼らを一網打尽に捉えてしまえば、それでこの面倒はやっと終わりです」


 ええと、ちょっと待って、なんでそこが一言で終わりなのかな?


 「ウィーク、ウチで対処して、それで一網打尽て、簡単に言うけど、そこには何かそう出来る特別な作戦か何かあるの?」


 ウィークは、えっ、という顔をして言った。

 「いえ、カンプ様、出来ますよね?」


 「なんでそんなに簡単に出来ると思っているの?

  そんなこと僕には出来ないよ」


 「いえ、だって、前にペーターさんとラーラさんが襲われた時に、お二人は簡単に賊を撃退していたじゃないですか?」


 「それはあの時は、ラーラの雷光で、賊が驚いて逃げてしまったからね。

  それでもあの時は、僕らはかなり焦っていたのは知っているだろ。

  当のペーターさんだって、かなり冷や汗をかいたんじゃないかな」


 ペーターさんが僕に名前を出されたので、答えた。

 「そうですね、人数がいましたから、かなり焦りましたね。

  それにあの時はフランクを庇わないといけませんでしたから」


 「いや、ラーラさんなんて余裕の表情だったじゃないですか」

 とウィークはちょっと盲点で考えてもみなかったという感じでペーターさんに言った。


 「ラーラは、いざとなったら雷光の出力を上げて、目の前の敵を先に本当に叩きのめせば良いや、と思った様ですが、私はそこまで楽観はしてなくて。

  正直人数が正確には分かっていませんでしたし、吸収の杖の容量が足りるかどうかと背中に冷や汗をかいていました」


 「そういうことだよ、ウィーク。

  さすがに貴族の中にシャイニング伯の魔力量を超える人はまずいないと思うから、僕たちは杖を持っていれば、一対一の戦いなら、誰が誰と戦っても負けないと思う。

  でも、それはあくまで一対一の戦いならという前提付きだよ。

  多人数となると、さすがにそうはいかなくなっちゃう。

  僕たちがあの時焦ったのは、ペーターさんが指摘していた通り、吸収の杖によって吸収できる魔力の量を、多人数ならば超えてしまう可能性が、あの時にもあったからさ。

  まあ、それもあって、あの後、ウィークにも持たせたように、杖を持つ人数は増やしたけど、それでも滅多やたらに吸収の杖や、攻撃用の杖を持たせる人数を増やす気はないよ。

  それこそこの国に、混乱を引き起こしてしまうからね」


 「ま、ウィーク、そういうことだ。

  吸収の杖や、攻撃用の杖は、組合にはその回路とかは提出してあるけど、それらは全部極秘扱いで、外部には一切合切非公開で、公開する予定はない。

  いや違うか、ごく簡単な風の魔道具は、ダンジョン探索の冒険者のいざという時のためとして売っているから、完全に全てが非公開になっている訳でもないか。

  でも僕たちが使っている攻撃用の杖は完全極秘扱いは本当だ。

  つまり、ここでは簡単に話しているが、これらの技術に関しては、魔力を溜める魔石の技術以上に極秘扱いになっているんだ。

  だから今現在杖を持っているのは、ブレイズ家の主要な信頼のおける極一部の家臣しかいないし、その数を簡単に増やすつもりも全くない」

 アークも僕の言うことを後押ししてくれた。


 「えーと、つまり、ブレイズ家では、退席していった馬鹿ども全員を相手にするのは無理ということですか?」


 「うん、そうなるな。

  そもそもそんなに沢山相手に出来るほど、沢山の杖を作ってないよ。

  戦うことを想定して作ったのではなくて、あくまで護身のために作った物だからね」


 うん、ウィークは魔技師ではないし、杖を渡しはしたけど、魔道具について詳しい訳ではないから、その辺の認識が甘かったのだろう。

 ウィークは大前提が崩れたという感じで、頭を抱えた。


 「すみません。

  これから王宮に行って、陛下とも話してきます」


 あ、これはウィークは今日も徹夜かな。


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