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宿に着いて

トラブルが僕の予想もしていなかった形で解決してしまい、僕たちは職員さんが用意しておいてくれた宿に向かった。

時間もまだそんなに遅くなっていなかったので、この時間なら馬車を頼めば自分たちの町に帰れると思い、僕とエリスは帰ろうかと組合長さんに話してみたのだが

「何を言っている。 忙しくなるのはまだこれからだ。

 いいから、用意された宿に泊まれ。」

とあっさり却下されてしまった。

僕たちは用意されていた部屋に、それまで北の町の組合で預かってもらっていた手荷物を置くと、すぐに一階の食堂に向かった。

なぜか宿には北の町の組合長と先ほどの担当者も同行していて、食堂で一緒に食事をとるのだという。

組合長2人と職員さん2人と一緒に食事なんて、あまり気は進まない。


「ま、話は後だ。 とりあえずは乾杯して、食事をしよう。」

組合長の言葉で乾杯し、食事が始まった。

学校を卒業しているから、僕も酒で乾杯しても良かったのだが、この後エリスと同じ部屋で寝なければいけないので、アルコールはやめておいて、僕とエリスはジュースでの乾杯だ。

「なんだ、カランプル、飲まなのか?」

「エリスと同室ですからね。 やっぱり酔ったらマズイでしょ。」

「何言ってる。 別に酔って何かあっても構わないんだろ。」

「組合長、もう酔っているんですか。 エリスが困っているから、そういうこと言うのはやめてください。」

「おや、私はお若いけどご夫婦なのかと思っていましたが、違ったのですか?

 それなら、こちらでもう一部屋お取りしましょうか。」

北の組合長が話を聞いていて、好意で口を挟んできた。

「いえ、彼女の父親にも同じ部屋にしてやってくれ、と頼まれているんですよ。

 2人は幼馴染の婚約者同士なんですよ。 まだ今のところは。」

「そうなんですか。 親御さんに信頼されているのですね。」

「はい、生まれた時から家が隣同士の付き合いなので。

 それに実はエリスの心配だけじゃなくて、僕の心配もされていて、エリスと一緒の部屋なら組合長に無理やり飲まされたりもしないだろう、と。」

「なるほど、そういう深謀があったのですね。 実に素晴らしい慧眼と策ですね。」

「おい、お前、俺に喧嘩売っているのか。」

組合長が職員さんをジロリと睨んだので、みんな大笑いになった。


「それにしても今回はご協力ありがとうございました。 これでやっと長年困っていた悪性のデキモノを切除することができました。」

北の担当者さんが、ちょっと居住まいを正すようにしてから、僕たちに向かって言った。

「ああ、ああいう輩はこっちが目をつけていることも分かっていて、それでいてなかなか尻尾を掴ませないからなぁ。

 北の組合でも随分困っていたようだな。 わざわざ奴にだけ秘密裏に組合の印を入れた魔石を渡していたなんて。」

「ええ、参っていましたよ。

 やることは悪どいのだけど、ギリギリ法や規則に引っかからないように動くし、そこに引っかかる時は自分では手を出さないで、他人にそう仕向けるずる賢さが凄かった。

 さすがに今回のパン焼き窯の秘密には気づかなかったみたいですがね。」

北の組合長が苦い顔から面白がる顔に変わりながら言う。

「あの場に組合関係者が4人も来たのに、ほんの一瞬だけで驚いた顔を隠し、ヌケヌケと窯の欠陥を説いた図太さは見上げたものでしたね。」

職員さんが褒めているのか驚いているのかわからない感じで言った。

「ええ、ですから、奴が崩れ落ちた時は、本当に気持ちが良かったです。」

担当者さんが満面の笑みで言った。

僕とエリスは4人の会話にどういう顔をしていいのか分からないでいた。


「さて、これからのことについて少し相談しなければなりません。

 この町では今回のことで、1つ大きな問題を抱えてしまいました。

 実はあいつはこの町で唯一の魔道具を作る魔技師だったのですよ。

 知っての通り魔技師でも魔道具を作る魔技師は数が少なく、その上この町はあいつが牛耳っていたので、あの魔技師の魔道具店しか魔道具を売る店がないのです。

 魔道具という物はそんなに沢山売れる物ではありませんが、売るところがなくては困る物ではあるのですよね。 それと修理も出てきます。

 そこでカランプル君、あなたの店の商品をこの町で売って欲しいのです。」

「あの、今、ウチの店で扱っている商品は、全部がパン焼き窯のような警告ランプ付きの魔石交換型なのですが。

 それと、ウチの商品は全部、ここにいるエリスの親の店で売ることになっているんです。」

「ええ、それは聞いています。

 言い忘れましたね。 この店の雑貨屋は魔道具店とともにあの男が経営していたのです。ですから雑貨屋も確実に潰れますから、エリスさんの父君の雑貨店が北の町に支店を出していただけると、私たちとしてはとても助かります。

 ま、品揃えなどは、この町特有の傾向などもありますから、最初は組合で相談にも乗りましょう。

 これなら問題はないと思うのですが。」

「あの、そんなに僕たちの方に都合が良い話で良いのでしょうか。」

北の町の組合長の話に、僕がちょっと驚いていると、組合長が間に入ってくれた。

「カランプル、これは北の組合にとっても悪い話ではないんだ。

 何しろお前の魔道具が売れると、魔石1つ当たりの組合の収入も増えるからな。

 これを機会に、北の組合もその恩恵を得たい、と言っている訳だ。」

「あ、なるほど、そういうことですか。」

「あらあら、そうあからさまに言ったら、身も蓋もないでしょう。

 でもカランプル君、そういう訳ですから、何も遠慮する必要はないのですよ。

 ぜひこの話を受けてください。」

「さすがに今ここで僕の一存だけでは答えられないので、持ち帰って相談してからお応えさせていただきます。

 おじさん、エリスの父の店の話でもあるので、相談しないと。」

僕はエリスをチラッと見て、そう言った。

「なるべく早めに良い返事を期待しています。」

北の組合長さんに、ちょっとプレッシャーをかけられてしまった。

組合長は笑っている。

「カランプル君、エリス君のお父さんには私の方からも話をしてあげるよ。

 ちゃんとした話をして裏がないことを、いや、ちゃんとした裏があることを私の方からも伝えてあげるよ。」

職員さんがそう言ってくれた。

「ありがとうございます。 よろしくお願いします。」

僕とエリスは軽く頭を下げた。


「あと、もう1つ問題があるんですよ。」

担当さんが声を掛けてきた。

僕はもう話しは終わりかと思って、エリスと一緒に席を立とうかと思っていたところだった。 食事はもう終わっているから、アルコールに付き合う気は無いから。

「今日捕まったあいつが今まで抱えていた客なんですけど、誰か別の者が担当することになりますが、一番権利があるのはあなたなんですが、どうしますか?」

「僕はここに住んでいる訳でも無いですし、今現在正直言って魔力的に余裕がないのですよ。 この町に住んでいる誰か適当な人に斡旋してあげてください。」

「それでよろしいのですか?」

「はい、僕には対処できませんから、よろしくお願いします。」

とりあえず一応これで話は全部終わったようだ。

「それでは僕たちは先に部屋で休ませてもらいます。」

「ま、仕方ないな。 ゆっくり休んでくれ。

 明日はきっと目の回る忙しさになるだろうから。」

もう明日は自分たちの町に戻るだけだろうに、組合長は何が忙しくなると言うのだろうか。 尋ねてみたく思ったが、もう酒を飲むことに集中しているようなので、そのまま僕たちは部屋へと立ち去った。


部屋はかなり豪華な2人部屋で、自分たちでは決して泊まらないだろう高額そうな部屋だった。

さっきはほとんどただ荷物を部屋に放り込んだだけで、まだ部屋の中を眺めてもいない。もう暗くなっているが、そこかしこにランプの魔道具があるので、暗くて困ることもない。それだけでもとても高級だ。

「エリス、こっちを見てみろよ。 この部屋、浴室まで付いているぞ。」

「ほんとだ。 それならお風呂入りましょう。」

「そうだな。 せっかくだから入ろうか。」

僕は普段は自分の魔力を使って風呂を沸かしている訳だが、ここにはちゃんと火の魔石をセットしてある、風呂を沸かすための魔道具が設置されていた。 僕はそれを作動させて風呂を沸かしているのだが、エリスも興味津々でそれを見ている。

「そういえば、風呂を魔道具で沸かすのなんて、なんだか随分昔のことすぎて、見るのすごく久しぶりだわ。 カンプが火の魔導師だって分かってからは、ずっとカンプがお風呂沸かしていたものね。」

「そりゃ、わざわざ道具使う必要ないし、最初の頃はそのくらいしか魔力の使い道がなかったから。」

「でも、なんだかカンプが魔道具を使ってお風呂を沸かしているのって、見てて変な気分。」

「風呂、良い温度になった。 エリス、先に入れよ。」

「えっ、一緒に入らないの?」

僕はちょっと悔しい気もしたのだが、エリスに白状した。

「なんか今更で変なんだけど、こんな知らないところでエリスと2人きりだと思うと、なんとなくちょっとドキドキしちゃうんだ。 だから、エリス1人で入ってくれ。」

「なんだ、カンプもか。 私もそう、別にカンプと2人でいたっていつもの事でどうという事じゃないはずなんだけど、私もドキドキしてる。

 だからやっぱり2人で一緒に入ろう。

 いつもと違う事したら、余計になんか意識しちゃうよ。」

それもそうだと思い、いつも通り2人で風呂に入った。

「あははは、やっぱり変に意識しちゃうと大きくなっちゃうんだね。」

僕がちょっと隠しているとエリスにそう言われてしまった。

「そういう事言うなよ。 なんか余計に変な気分になるだろ。」

「大丈夫、私もちょっと胸の先固くなってるし。」

「もうそういう話、おしまい。」

ちょっと微妙な雰囲気になったけど、その後は普通に眠りについた。


翌朝、僕とエリスは2人だけで食堂で朝食を食べていた。

きっと遅くまで飲んでいたであろう年長者たちは、まだ誰も食事に現れない。

朝だけは普段もエリスと2人で食事することが多いのだが、落ち着いて食べるのも久しぶりだし、他人の作った食事で朝食というのも滅多にないことなので、僕としてはゆっくり楽しんでいた。

もうそろそろ朝食を終わろうかという時、宿の人が僕らのところにやって来た。

「すみませんが、カランプル様でよろしいでしょうか。」

「はい、そうですが、何か?」

宿の人に何か言われる様なことをした覚えはないのだが、何となくつい身構えてしまう。

その気配を感じたのか、宿の人に言われてしまった。

「驚かせてしまってすみません。

 実はカランプルさんにお会いしたいという方々が、先ほどから大勢お待ちになっていらっしゃるのですが、いかが致しましょうか?

 それをお伺いに参ったのでございます。」

「僕に面会ですか。 誰かと、そんな約束をした覚えはないのですが。」

その時、ちょうど組合長が食堂に入って来た。 宿の人と話している僕を見て、組合長はすぐに事態を察したようだ。

「おお、随分と早くに押し掛けて来たな。

 カランプル、昨晩ちゃんと言っといただろ、今日は忙しくなるって。」

組合長は笑いながら僕たちにそう言った。

「とりあえず、ここに押し掛けられても宿の迷惑ですから、一時間後に組合で受け付けるということにしましょう。

 カランプル君、それで良いですね。」

続けてやって来た北の組合長にはそう言われてしまった。

なんだか分からないまま、事態は進展し、担当者さんが宿の前に集まっている人たちに、何故か手際良く既に準備していたらしい整理券を配って、一時間後から組合で受け付けると話して、解散させている。

「カランプル君もエリス君も、こちらでゆっくりお茶でも飲んでください。

 私たちは食事をしながらで悪いのですけど、今現在の状況とこれからのことを説明しますからね。」

職員さんが僕たちに助け舟を出してくれた。


ブックマーク登録者数が100人になりました。 ありがとうございます。

ゆっくりとしか進んでいきませんが、これからもよろしくお願いします。


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それからこっちは気をつけているつもりなのですが減りません。 誤字・脱字の指摘もよろしくお願いします。

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