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人数、多くないか

「完全な白旗だったな」

 グロウヒル伯が、そう言って話を始めた。


 「まあ、我らの、いや、陛下の完全勝利ということか」

 ブレディング伯が、そう応じた。


 「どちらが勝ったということでもないだろう。

  公爵が我らと異なる立場に立っていたとはいえ、国を思ってのことであることに違いはあるまい」

 ハイランド伯が、何となく公爵に同情的な感じで言った。


 僕はやっぱり、その場を早々に離れるということが出来ずに、黙って3伯爵の話をすぐ横で聞いている。

 エリスは、と思うと、きっと夫たちの話が長くなると察したのだろう、グロウヒル伯夫人、つまりリズの母親が肌水の話をそれとなく始めて、夫人4人は揃って夫たちから離れている。

 うん、年期が違うからかも知れないけど、とても素早い危機回避だと僕は思ってしまった。


 まあ、誰が考えても、きっとこの3伯爵は、さっきの事態について議論するだろうな、と考えると思う。

 アークが逃げているのは、まあいつもの事なのだけど、いつもは叙爵式が終わるとすぐに近付いてきて、話に加わるウィークの父のハイランド子爵や、リズの兄、ブレディング伯の息子、つまりイザベルの兄なんかも、今回は近付いて来ない。

 きっと公爵の語ったことや、その後の展開が予想外だったので、3伯爵から話を振られたり、意見を求められた時に、的確な自分なりの意見がまだ出来そうにないので、近付くことを躊躇っているのだろう。


 「それにしても、やはりちょっと意外ではあったな、あの公爵がああも素直に自分の判断の過ちを認めるとは。

  それも自ら、何故判断を誤ったかの分析までして、それを公言するとは」


 「ああ、ブレディング伯、私もそれは思ったよ。

  プライドの高い公爵が、あそこまで自分から言うとは思わなかった」


 「いや、プライドが高いからこそだろう。

  他の者に指摘されるなら、自ら潔く語った方がまだしも、ということではないのか」


 「確かにそうかも知れないな」


 なんて言うか、3伯爵の話はここまでは穏やかな調子で進んでいて、僕も近くにいて静かに聞いていることに困難を感じなかった。

 だが、ここからはがらっと雰囲気が変わった。


 「さて、そこで今後の対処だが、どう考える?」

 変えたのもグロウヒル伯だ。


 「さあ、どうしたものかな。

  公爵の話を聞いていただけの時には、単純にこれで公爵領もブレイズ伯の影響下の開発に単純にシフトして行くかと思ったのだが、退出者が出たからな」


 難しい顔をして考え込みながらハイランド伯がそう応じると、ブレディング伯も

 「そう、あれは、いかんな。

  公爵も意表を突かれ、対応に苦慮どころか、オロオロしていたようだ」


 「公爵が狼狽えるのも仕方のないことだろう。

  まさか自分の配下が、あのようなことを仕出かすとは思わないだろう。

  流石に事前の根回しを怠ったことを責める訳にもいかないだろう」


 「「そうだな」」


 3伯爵が渋い顔をして考え込んでいる横で、僕は仕方なく佇んでいたのだが、そこにウィークがやって来た。

 3伯爵は自分たちの会話に集中していたので気づいていなかったようだが、僕はその会話の中に自分から入っていくような真似はしていなかったので、少し周りを見る余裕があり、ウィークがここに居る者だけでなく、他にも声を掛けながら近づいて来ているのに気がついていた。


 「ウィーク、何か用か?」

と、僕が切り出してやると、ウィークはちらっと感謝の眼差しを送ってきた。


 僕の言葉で気がついたハイランド伯が言った。

 「ああ、ウィークか。 お前がここに来たということは」


 「はい、陛下のお召しです。

  みなさん、このまますぐに帰ることはしないで、さりげなく王宮の方に来て欲しいということです」


 3伯爵たちは、「まあそうなるだろうな」という顔をした。


 「それでは、さりげなくするための、貴族の社交に我らも向かうとしようか。

  ここでこうやって我らが集まって話していては、誰も近づいて来ないからな」


 そう言って、ブレディング伯が伯爵席から離れて行くのを、僕も含めて見習って、フロアに降りて行く。

 もちろんそれぞれにすぐに取り囲まれることとなる。

 エリスだけでなく、他の伯爵夫人もそれを見ると、すぐに自分たちの話を切り上げて、それぞれの夫の元に近づいた。

 下の者を交えての社交となると、近くにいないのは不味いということなのだろう。 僕は良く分からないけどさ。


 フロアでは、もういつもの事という感じに思えてきたのだが、僕の家臣たちが取り囲まれていた。

 特に多いのがペーターさんの周りだ。

 ペーターさんの周りには人が集まり、質問されたり相談されたりとペーターさんは忙しい。

 ダイドールとターラントも囲まれているのだが、アークたちも囲まれている。

 いや、正確にはどちらかというと、リズが囲まれている。

 ちょっと何でか分からない。


 僕もまあ取り囲まれるのだけど、僕のところも僕よりもエリス目当ての取り囲みの方が多い。

 物の流通関係に問題を抱える所は多いから、少しでもエリスと繋がりが欲しいのだろう。


 ラーラは女性の騎士爵の人たちに囲まれてしまっている。

 そこはちょっと雰囲気が異様で近づけない。

 どうも「雷光使いの男爵夫人」として有名になり、元庶民の気安さから、女性の下位貴族に大人気らしい。

 強い女性貴族としてはエリスが「最強の伯爵夫人」と有名になっているらしいのだが、エリスにはもう一つ「王国の流通を一手に握る女商人」という異名もあるらしい。 まあそれは事実だな、と僕も思うけど。

 しかしまあそっちの異名も有名なので、単なる下位の女性の爵位持ちではエリスは単純には近付き難いらしいのだ。


 僕はまあ、南の町を支配する侯爵に挨拶に行ったりとか、東の町、北の町の代官をしている子爵に挨拶を受けたりとか、一応伯爵家の当主としての役割を果たす。


 だけどまあ、どちらかというと僕はそもそも社交とかは苦手だからというのもあるけど、この場では暇な方だ。

 それはアークも同じことで、割と暇そうなのだけど、もう1人イザベルも暇そうだ。

 今回は親友のアーネ、カレンは来てないし、妊娠中でフランとリネも来てないので、ブレディング家の関わりの方に行くのも嫌らしく、手持ち無沙汰のようで、僕に近づいてきた。


 ちょうど良いので、僕は疑問に思ったことを聞いてみた。

 「イザベル、知っていたら教えてくれ。

  ラーラが人気があって囲まれているのは理解できるのだけど、リズはなんであんなに大勢に囲まれているんだ」


 「カンプさん、おっと、ここではその呼び方は問題ですね、伯爵、分からないのですか?

  あのグロウランド子爵夫人を囲んでいる人たちって、みんな学校関連の人たちですよ」


 「何故、学校関連の人たちがリズを囲んでいるんだ?」


 「だって、ブレイズ家にある学校の関係者って、ほとんどが子爵夫人の教え子でしょ。

  それだから、子どもたちをアトラクションや湖に連れて来た時に、必ず挨拶をして行くじゃないですか。

  それを多くの人に見られていますから、他領の学校の人も、同様に挨拶して行くようになっちゃっているんですよ。

  それで、学校関連の人たちは子爵夫人のところに集まってきて、色々相談やら、お願いやらをしているんじゃないですか」


 えっ、ああ、そうなの、という感じだ。

 どうやらフランとリネが今動けないから、余計にリズに集中しているらしい。

 よく分からないけど、首を突っ込まないようにしようと思う。



 王宮には、3伯爵だけでなく、かなりの人数が集められていた。

 しかし、その中でも僕の家臣たちの人数が異様に多かった。


 僕は用意された部屋に入る前に、コソッとウィークに聞いたつもりだったのだけど、他にも聞き耳を立てていたものがいたようだった。

 というか、文句を言いたい連中ばかりだったんじゃないか。


 「ウィークさん、なんで私なんかが呼ばれているのですか?」

 

 僕がウィークに、

 「うちの連中多いのだけど、何か間違いじゃない?」

と、聞いたら、間髪を入れずにペーターさんがそう言った。


自分が陛下が秘密裏に主催する、国家の大事を協議するという場に呼ばれるということが、酷いプレッシャーになっているようだ。


 「カンプは伯爵だし、当主なんだから当然で、まあ、アークはブレイズ家のNo.2だから呼ばれるのは分かるわ。

  でも、私は別にいらないでしょ」

 リズもそんなことを言い出した。


 「リズは今ではこの国の教育界の重鎮じゃない。

  もしかしたらそれが関連しているんじゃないの。

  私は単にカンプの妻っていうだけの庶民よ。

  政治向きの話なんて分かるわけがないわ」


 「エリスはこの国の経済の最重要人物じゃない。

  最強の伯爵夫人というのは抜きにしても」


 「何よ、ラーラこそ、雷光使いの男爵夫人じゃない。

  そんな風に私のことを言えないと思うわ」


 何だか女性陣の言い争いが激しくて、ペーターさんの言葉が霞んでしまったし、アークはともかくダイドールとターラントも何か言いたそうだったのだが、勢いに押されてしまって、言い出せない。


 ウィークが困ったように言った。

 「そう言われても、人選をしたのは僕じゃなくて、陛下ですからね。

  それにまあ、僕が今回の会議のために人選したとしても、ブレイズ家の面々を外すことは考えられなかったでしょうけど。

  おっと、もう静かに。

  陛下も見えられたようです」


 女性陣3人は今更ながら、もう他の人もいる部屋に入っていたのに気がついたような顔をした。

 僕とアークもちょっと気まずい気がしたけど、ペーターさんは「申し訳ありません」目顔で謝ってきた。

 いや、ペーターさんのせいじゃないから。

 僕たちでは女性陣3人の話の渦に切り込むなんて不可能ですから。

 何だかグロウヒル伯まで、責任を感じるかのように気まずい顔をしている。 まあ、リズは娘なんだから、少しは責任を僕たち以外でも担ってもらおう。


 部屋に入ってきた陛下は開口1番に言った。

 「うん、いつもながらブレイズ家は賑やかだな」


 僕が謝ろうと思ったら、自分で失態の責任を取ろうと考えたのだろう、エリスが先に口を開いた。

 「陛下、醜態をお見せして、申し訳ありませんでした。

  女3人寄ると、と言いますか、ちょっと普段のやり取りに場所柄も弁えずに流れてしまいました」


 陛下は笑いながら、そのエリスの言葉に応えた。

 「ん、別に構わないぞ。

  他の者はともかく、私はそなたら3人に加えて、我が妃も含めての4人の凄まじいおしゃべりをカランプルたちと共に知っているからな。

  1人少ないだけ、かなりマシだしな」


 陛下のからかいの言葉に、リズがちゃんとそれに反応してますよ、という感じで、少しだけ怒りの調子を滲ませて言った。

 「それにしても陛下、夫たちだけでなく、何故私たちまで呼ばれたのでしょうか?」


 「そんなの自分たちで言っていたではないか。

  エリスは経済の中心人物だし、エリズベートは教育界の重鎮だ。

  ラーラが一声掛ければ、若手の下位の女性貴族はみんな動くらしいな。

  それぞれにみんな重要人物じゃないか。

  なあ、そうだろう、グロウヒル伯」


 「はい、陛下。

  我が娘がそれに値するかは別として、客観的に見れば、この3人は王妃様を除いて、我が国の女性としては5本指に入る重要人物だと思います」


 そこまで評価されてしまっているのか、と僕は驚いたのだけど、それは言われた本人たちもそうだったらしくて、ちょっと赤くなったかと思うと急に静かになってしまった。


 そこからは本格的な、会議となった。

 もちろんその日にあった公爵と退席して行った貴族に関してのことだ。


 「陛下の鋭利な懐刀としては、今回のことをどのように考えるかな?」


 ブレディング伯が僕とアークに向かって、とても楽しそうに聞いてきた。

 きっと、そんな二つ名が巷にあることを知った時から、ブレディング伯はいつか効果的に使おうと狙っていたんだと思う。

 その言葉に僕とアークはちょっと唖然としたのだが、苦々しい調子でアークが言った。


 「ブレディング伯爵、そんな言葉をどこで仕入れて来たんですか?」

 「いや、巷では知らない者は少ないと聞くぞ、陛下も知っておられましたな」

 「ああ、私の耳にも届いている。

  懐刀というのは、あまり公然と見せびらかす物ではないのだが、この2人は有名だから、私としてはちょっと違うのではないかと思うのだが」


 そう答えた陛下も聞いている者たちも、薄く笑っているどころじゃなくて、吹き出すのを堪えているじゃないか。

 耐えられなくなって僕は言った。


 「基本的なこととして、僕は公爵の要望には沿った対処をしなければならないと思っています。

  ただ、途中で退席して行った者たちがいますので」


 「まあそんなところであろうなぁ。

  問題はその退席して行った者たちだが」


 アークからは考えられないが、ハイランド伯爵はどちらかというと生真面目な人だ。

 ブレディング伯爵の僕らに対する冗談を完全に終わらせる為だろう、僕の言葉にすぐに乗ってきた。


 「あれはもう反逆者として処罰して良い状況なのではないでしょうか?」

 その気質をやはり受け継いでいるのだろう、アークの叔父でウィークの父のハイランド子爵が、そう言葉を続けた。


 「いや、ハイランド子爵、そう簡単に処罰する訳にもいかないだろう。

  公爵が責任を持って説得に当たるというのだから」

 グロウヒル伯爵が、そうハイランド伯爵の言葉に反論した。


 「しかしまあ、なんていうか、ここでは若造の僕が言うのも何ですが、ウチの爺さんだったら、今日の公爵を見たら、同情しそうでしたね」

 アークがのんびりした口調でそんなことを言ったけど、僕にはアークに真剣な意図があって発言したことが分かった。

 だって目が笑ってなくて、真剣だったからね。


 「確かに、ハイランドのじじいだと、そんなことを言いそうだな。

  公爵は、甥である私が言うのもなんなんだが、まさか自分の子飼いの者から離反者が出るとは思ってもいなかったのだろう。

  私も見たことがないほどに、まあ狼狽えていたからな」

 陛下が同情心を隠さずに口調に乗せて、そう言った。


 ああ、この為か。

 陛下は立場上最初に公爵に同情的なことを言い出しにくく感じていたのだな。

 それを察したアークが、御前様ならと前振りをして、陛下が楽に話せるようにしたのだと理解した。

 こういうところが、僕には出来ないアークの優れたところで、陛下の信頼も厚いのだろう。


 「ここでは年長者だが、公爵より歳下の私が言うのもと思いますが、私も公爵には同情心が芽生えてしまいました。

  公爵が自分の判断の間違いを、衆目の中で認めて、陛下の助力を願ったのは、自分の為というよりは、自派の者たちの為という意味合いが強かったのであろうに」


 さっきまで、僕とアークを揶揄っていたブレディング伯だが、今はとても真摯な声でそう言うと、グロウヒル伯とハイランド伯もその言葉に頷いていた。


 「とりあえず退席して行った者に対しては、公爵が自分で言ったことでもあるし、公爵の対応の結果を待つしかないだろう。

  それはそれとして、私としては公爵の頼みには応えたいと思う。

  これは東の砂漠の地の開発を継続するということでもあり、王国の利にもなることであるからな。

  ペーター_グロウケイン、まずは何が問題になっていると考える?」


 「はい、陛下が私を指名された理由だと思いますが、まずは植林した木に取り付けている水の魔道具の維持が問題になっているのだと思います。

  旧式の魔道具を使っているのでは、新式に比べると大きく費用がかかってしまいますから・・・」


 会議は細かい支援方法と、その実現に向けての話となっていった。


ここでの宣伝忘れてました。


「この世界には築城士という職業は無かった」

  https://ncode.syosetu.com/n0385gu/


今のところ、新作は木・土で更新しています。

時間がありましたら、新作の方も読んでみてください。

よろしくお願いします。

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