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新たな活況と深まる苦況

今回の話は地文ばかりというか、状況説明ばかりで面白くない話です。

読み飛ばしても、いえ、やっぱり読んでください。

 僕たちの家にやって来る家臣は、何もいつの間にか皆貴族になった古くからの家臣だけではない。

 もちろん今ではそれぞれに重要なことの責任者を任されている、古くからの家臣が仕事の為というよりは、最近はフランクを除けば、遊びに来ていることの方が多い。

 それはフランとリネもお腹が大きくなり、もうすぐ子どもが生まれるという時期になっているからかもしれない。


 そういえば最近フランクは、イザベルと学校が同期でその親友でもあるカレンと仲が良くて、近々結婚するつもりらしい。

 カレンは冒険者の町作りの時に、ターラントの下について、土の魔技師としてと言うより、ブレイズ家の家臣の土の魔技師としての修行をさせられていたようだが、フランクがブレイズ家全体の運営に関わるようになると、二人で組んで家臣領の開発に当たったりすることが多く、そこから仲が深まったらしい。

 フランクは元々はラーラとペーターさんの領地経営のために、家臣としてやって来た男だから、全体に関わるようになった今でも、ラーラとペーターさんの下という意識は持ち続けているようだ。

 ラーラとペーターさんも、そんなフランクのことは何かと気にかけているようなのだが、二人はそのフランクとカレンのことは喜んでいる。


 「いとこのフランがダイドールさんと結婚して、もうすぐ子ども生まれるのだもの、フランより年上のフランクもそろそろ結婚しないとね。

  その相手がカレンだというなら、なんの問題もないわ」

と、ラーラは言うのだが、何だか家臣同士の結婚ばかりのような気がして、僕は一言ちょっとぼやいてしまった。


 「フランクとカレンとが結婚するというのは、良い知らせだと思うけど、何だか家臣同士ばっかりだな。

  どこか違う組み合わせというのも、あると良いと思うんだけどな」


 「いや、それって、無理でしょ。

  最近やっと少しは仕事が楽になったけど、つい最近まで私たちだけでなく他の家臣や店の方の店員だって、とても忙しかったわ。

  休みの日があったって、もう疲れて寝てたりして、どこか他の人と知り合う機会なんてなかったと思うよ。

  そうなると、近場で相手を見つけるのは当然のことよ。

  もっと(尤)も、イザベルはこの結婚に反対という訳ではないけど、ちょっと不機嫌よ。

  同期の親友の一人を、自分の家の元家臣に盗られたような気分になっているのね」


 ラーラがそう言うと、子どもを抱いてかまっていたペーターさんが笑っているから、きっとイザベルの反応はかなり顕著で、まあ微笑ましいものなのだろう。


 話が逸れたが、この家に来る家臣は、そういった古参の家臣というか、貴族になっている家臣ばかりではない。

 というか、最近僕たちが少しは前よりも仕事に追われることがなくなったのは、女性陣が子どもを産んで、もう物理的というか絶対的に前のように仕事に関わるのが無理になったのと、僕らも当然そこに関わらざる得ないから前のようにはいかないことがある。

 それでも、こうして少し余裕を持っていられるのは、ここにきて大量に家臣や店員を雇えているからだ。

 そう、もう毎年魔法学校と高等学校の卒業の時期になると、村出身の卒業生が戻って来るので、その戻ってきた卒業生を雇うことが出来たからだ。

 彼らは皆、今のところリズ、フラン、リネが学校で教えた元生徒たちだから、家臣や店員になった今でも、割と気楽にこの家を訪ねて来るのだ。


 「今のところはまだ私たちが教えた村の子どもたちだけだけど、もう少しすると増えた領地に作った学校の卒業生たちも、魔法学校や高等学校を終えて戻って来るわ。

  そうすれば、もっと人材には困らなくなるんじゃないかしら」


 リズがそう言うと、エリスが

 「村の子たちは、私でもみんな顔を知っているような子たちだけど、中にはすごく大人びてびっくりするような子もいたりするけど、増えた領地の子たちは分からないから、これまでと同じという風にはいかないんじゃないかしら」


 「それはそうだけど、私のところもそうだけど、増えた領地の方にだって人材はもっと必要よ。

  これからは各領地の方でまずは雇うような形にして、その中で優秀な子をブレイズ家全体を見るポジションにしていくようにすれば良いのよ。

  それこそその先鞭がフランクでしょ」


 うん、ラーラの言う通りだ。


 話が横道に逸れてばっかりだ。

 問題はその古参ではない、村出身の若い家臣の子たちだ。

 彼らは、もちろん魔術学校出身の子たちもいるが、魔力がなくて普通の高等学校に進んだ者たちもいる。

 そういった子たちが家に仕事の報告やら何やらでやって来て、少しそれだけではなくリズやエリスと話したりして戻るのだが、どうしてもエリスやおじさんとおばさんが持っている魔道具に興味を持つのだ。


 家臣や店員になっている村出身の子たちだから、リズやエリスも普通に軽い気持ちで接していて、それがなんのための魔道具だかを教えてしまった。

 ちょっと漏らしてしまうと、あっという間に魔力を持たない家臣と店員たちから、その魔道具が欲しいという声が上がり出してしまった。

 僕たちは慌てて、厳重に情報管制を布いて、家臣や店員以外のところへの漏出は防いだのだけど、彼らの欲しいという声は大きくなるばかりで、収まらなかった。


 結局、その元々はエリスのために作った魔道具は、魔力を持たないブレイズ家家臣の証という風な取り扱いとなってしまった。

 僕は少し念頭から抜けていたのだけど、植樹隊の中心になっている古参の土の魔技師の旦那さんたちからも強く欲しいという声が出て、そちらにもその魔道具は渡されることとなった。


 このことによって、僕の領内では今までよりかなり大量の魔力を込めた魔石を使えることになり、あまりその急激に増えた分を不審がられないように、最も分かり難い使い道として、おじさんの目論見どおり植樹に使うこととなって、また僕の領内の林、いやもう森の面積が広がったのであった。

 

 僕の領地と言って良いのか分からないが、発見されたダンジョンはアラトさんによると、まだ成長を止めていなくて、日々広がりを見せているらしい。

 踏査が終わって、まあ安全に普通の冒険者が入ることが出来る区域も、もうほぼ北のダンジョンに匹敵する広さになったらしい。

 最も北のダンジョンも今は成長しているということだから、以前のと注意書きを添えなくてはいけないかもしれない。


 それからもう僕の伯爵領では、無理して領民をどこからか見つけて来るというような募集はしていないのだが、ぽつりぽつりとその数は増えているみたいだ。

 これだけ交易が盛んになると、その移動の主役となる馬とその世話のための牧草地や、餌の生産地が必要となり、それらの需要を当て込んだ入植者が増えたりとか、何かと商魂というかチャンスを見つけた人たちが集まり出してもいるのだ。

 もうその辺はダイドールとターラントに丸投げだけど。


 僕の伯爵領はそんな具合だけど、他の家臣領もそれぞれにもちろん発展してきているのだが、その発展は僕の大きく言ってのブレイズ家領だけに留まらず、王都周辺の諸領はみな、現在はどんどん発展している。

 一時は開発に携わる人員が確保できなくて発展が止まっていたのだが、ここに来て公爵領に流れた人たちが王都周辺に戻って来て、一気に人員確保が出来るようになったのが大きな要因だ。


 公爵領の開発に失敗して戻ってきた人たちは、最初はもう元の土地屋敷に戻ることは出来ないので、自分たちの行く末に不安を抱いていたのだが、戻って来ると引く手数多に喜んで迎え入れられて、ほっとしていた。

 それは戻ってきた人たちの身分に関わらずに、そんな感じだったのだが、庶民の移住者は王都に戻っても生活に困らない、いや逆に楽になるという話が伝わってしまうと、公爵領の開発を放棄して、王都周辺に戻る庶民が後を絶たなくなってしまった。

 そうなると、公爵領の方に移っていった貴族たちの領地開発は、ただでさえ苦しかったのに、人手まで足りなくなり、そこら中で頓挫する羽目になり、貴族の王都への位が下がることを覚悟しての帰還も増えることとなった。

 そして王都周辺の領地の貴族は、まずは開発民としての庶民たち、そして行政官としての貴族たちを受け入れることとなった。


 もっとも、庶民たちの方は、最初の驚きを過ぎると、あっという間に今の王都周辺の生活に慣れ、喜んで新しい地の領主たちに従って開発に励むようになったのだが、貴族たちの中には、なかなかそうはいかない者たちも多かった。

 そこは陛下が温情で、降格を1段階に留めたことが、悪い方向で効果を生んでしまったということもあるかもしれない。

 王都に戻ってきた貴族たちは比較的高位の貴族が多かったため、1段階の降格では王都周辺に新たに領地をもらって、今現在その開発に勤しんでいる貴族たちと同格である者が多数いたからであった。

 中には本来の決まりの2段階の降格を選んだ者も居て、その者の方が位のために所属する場を得られないことが少なく、戻ってからの新たな人生をスムーズに踏み出せた者が多かったのだ。


 戻って来たが、1段階の降格で助かったと思った気位の高い貴族の中には、まだその今の自分の爵位の体面、もう王都では全く評価されていない古い価値観であったのだが、それを保つことに四苦八苦し、逆に困窮を極めることになった者も少なくなかった。

 もちろん何もしていない貴族を養う金など、どこからも出るわけがなく、大きな問題となってしまった。

 王宮ではこのことを重くみて、救済策として、その困窮している家の当主を、行跡不行届きの責を取らせ、強制的に当主を解任し、新たな当主に1段階位を落として、その家を継がせることにした。

 まあこれは、陛下が下手な温情を見せた失策のせいという一面が濃いのではあるが、これによって、上級貴族の数が減り、また一気に当主である貴族の世代が若くなるという恩恵ももたらすことになった。


 当主が若い人に替わったことは、位が下がったことで、王都周辺の領主の下になりやすくなっただけでなく、速やかに戻って来た貴族の価値観が変わることを促した。

 そこに対応できない人は淘汰されるという一面もなかった訳ではないが、多くは代替わりしたおかげで家は存続し、新しい価値観の中での貴族に変わっていくこととなったのだ。


 王都周辺の現在の活況の裏には、こういった事情が横たわっている訳だが、もちろんその活況は、魔道具の需要を生む訳で、それは僕たちの両方の店に大きな潤いをもたらす結果になる。

 世の中は動き出すと、しばらくの間は止まらない。

 陛下のきっと目論見通りなのだろうが、王都周辺は以前には考えられない感じで発展を遂げ、経済規模が大きくなっていった。

 そしてもっとずっと大きなこととして、僕の領内だけでなく、王都周辺の開発が進み緑が多くなると、その気候までなんとなく変わってきたのである。

 流石に雨が目に見えて増えるというまでの変化ではないが、明らかに空気が湿り気を帯びる感じになって、乾き切った感じが薄まり呼吸が楽になった。

 そしてもっと大きなこととしては、僕の領地の多くと、王都周辺に関しては砂の移動がほとんどなくなって、水の魔道具を設置した場所だけでなく、その周辺にもいくらか、乾燥に強い砂漠の植物が、常に存在して雨季の一時期を除いては見せなかった緑色を常に見せるようになったのだ。

 そしてそれは徐々に広がりを見せている。


 こうした王国の陽の部分があれば、もちろん逆に陰の濃くなる部分も出てくる。

 言わずもがなの公爵領だ。


 公爵領へと移住して行った人々は、次々と王都周辺に戻り、ほんの一時は王都に対して公都と呼ぶ大きな町を作るという勢いだったが、今では人気の少ない寂れた土地になってしまった。

 流石にかつて、王家の代官だけが置かれていた時代ほどではないが、明らかに現在のブレイズ伯がこの地の開発をしていた時期よりも、今の公爵領は活気を失ってしまっていた。


 公爵はこの現状を見て、自らの考えを改める必要があるということを、かなり苦い気分と共に考えていた。

 その様に考えるようになったのは、公爵領となった東の砂漠の開発に、失敗して王都に帰還した者が続出したからだけではない。

 自分と顔馴染みだった多くの者たちは、王都に戻って次代にその席を譲らなければならなくなってしまった。

 それは開発を失敗したという大きな事柄があり、爵位の降格をもたらしたのだから仕方がないことだと理解もできる。

 それに価値観がもう違って来ている今の王都では、若手の者を除けば、王都周辺に残っていた貴族たちとのやり取りにも、要らぬ波風というよりは、その家にとって害になる軋轢を生むであろうと察することも出来る。

 

 そこまでは公爵も当然そうなるであろうと予想していた事柄なのだが、公爵自身が考えていなかった事態もあった。

 他の者から見れば、それは些細なことなのかもしれないが、公爵にとってはとても重大な事柄だったのだ。

 それは王都に帰還した公爵領の開発に当たっていた貴族たちが、あっという間に王都周辺の価値観、つまり今の陛下とブレイズ伯によってもたらされた価値観に染まり、今までの価値観をまるで着ている物を、古い物から新しい物に着替えるように、あっさりと変えて、今までの価値観に全く目を向けなくなったことだった。


 「つまり私が守ろうとした価値観は、少なくとももう若手からは見向きもされないような、時代遅れの価値観だったということか。

  私は王国のためには、伝統的な価値観を守る必要があると考えていたのだが、それは凝り固まった古臭い概念で、今の現実には全く即していなかったということなのか」


 自分は全て分かっていたつもりで、現在の道が王国にとって最善であると思っていたのだが、自分こそが現実の変化を大きく読み違えていたのだと認めるのは、とても苦い気分になるのは仕方ない。

 でもそれを理解して、認めないのは、自分の過ちを認めないということで、王家に生まれた者としてあり得ない姿だとも公爵は考えた。


 「私は王家に生まれた者だ。

  王家に生まれた者が、王国のために行動するのは当然のことで、今は自分の考え違いを認め、開発の手法を、開発に使う魔道具を、カンプ魔道具店方式の物に替えることが、王国の利益になる道だ」


 公爵は次の叙爵式の時に、それを表明する決断をした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最近よくみる「ざまぁ」じゃない所。
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