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最初のトラブル

魔技師という職業は、魔力の量が少なくて、その少ない魔力の量で出来る仕事量が決まっているから、割と暇な楽な仕事のはずだった。

それなのに、ここ数ヶ月ほとんど休みも取れないような感じで忙しく過ごしてしまった。

僕はこれはどこか間違っていると思って、少しゆっくりしようと考えた。

それに今のところ、エリスの付けている帳簿によると僕たちは、かなりしっかり働いているから当然のことなのだが、十分儲かっているらしいのだが、3人での狩では賄いきれない魔石を買ったり、ミスリルや銅など改造に必要なモノを買ったりで、手元に全くといって良いほど現金がない。

「ここでみんなで食事することになっていたから、困らなかったけど、1人で食事していたら絶対にやりくりに困ったわ。」

リズがほっとしたような、ちょっと恥ずかしがっているような顔でそういうと、アークは

「俺は体重が半分に減っていたと思うな。」

と冗談を言った。

「帳簿上はみんな今までよりずっと裕福になっているはずなのだけどなぁ。」

エリスがそう言うと、おじさんに

「運転資金が不足しているのに、仕事をたくさん受け過ぎたということだね。

 もう少し仕事を受けるときに、自分たちの身の丈を考えながら受けなさい。

 受けた仕事を資金繰りが上手く行かずに、出来ないということになったら、それは店の信用に関わってしまい今後に大きく悪い影響が出る。

 なんでも引き受けるのではなく、ときには今は無理だと断ったり、待ってもらうということも必要なことなのだよ。

 それに、最初に自分たちの都合で改造した時に只にしたからといって、その後に申し込まれた改造を材料代も賄いきれない金額で引き受けるのは、たとえ後からその分を回収できるとしても、やってはいけないことだ。

 これは、次からはサービス期間を終わりましたと言って、きちんと最低限の材料費以上の金額は貰いなさい。

 その金額で嫌だと言うなら、それはそのお客さんの選択であって仕方のないことだ。」と厳しい意見を言われてしまった。

おじさんの言葉は厳しいけど、僕たちの商売としての間違いを正してくれる。

僕は自分の見通しの甘さと、あまり考えずに気持ちだけで価格を決めてしまったことを反省した。


でもとりあえず、この町のパン屋さんに入っている他の魔技師さんの受け持っている火と光の魔道具の改造は終わったので、ちょっと一息つける感じにはなってきた。

リズは新しい魔道具ができるはずだと、何やら実験を始めている。

そんな時に組合から僕に対して呼び出しが来た。

僕は急いで組合へと向かった。

「カランプル君、来ましたね。

 組合長が部屋で待っていますよ。 すぐに中に入ってください。」

僕は担当の職員さんに連れられて、組合長の部屋へと行く。 職員さんは部屋の扉をノックして声をかけると、僕を中に通し、自分も中へ入った。

「おう、カランプル、来たな。

 さて、トラブル発生だ、お前らが最後に設置した北の町のパン焼き窯が、欠陥品だと訴えられたぞ。」

組合長は何故かとてもにこやかに僕にそう言った。

僕にはにこやかに反応しているような余裕はない。

「そんな、変です。

 他の4台からは、そんな話は出てきていませんし、その窯についても僕らのところにトラブルがあったなんて話は来てません。」

組合長は余計にニヤニヤとしている。

「組合長、そろそろかと思っていたら、やっぱり来ましたね。

 予想通りです。」

「ああ、良い機会だ。 あっちとも打ち合わせて徹底的にやるぞ。」

組合長と職員さんは何だか凄みのある笑顔で会話している。

「それでは私はこれから先に北の町に行って、向こうと打ち合わせを済まします。

 組合長とカランプル君は、明日来てください。」

「カランプル、そういう訳だ。

 明日、北の町に行くから、お前も一緒に来い。 馬車はこっちで用意するから大丈夫だ。

 ああ、お前だけじゃなく、雑貨商の娘も連れて来い。 きっと色々書類仕事が出来るだろうからな。

宿も用意してやるから、三日くらい北の町に居るつもりで着替えも用意してこいよ。」

僕はなんだか訳も分からないまま、明朝の集合時間と場所を聞かされただけで、組合を出てきた。


「あ、おかえり、組合なんだって。」

家にはリズしか居ないようだ。

「なんだか良く分からないのだけど、北の町に設置した窯にトラブルが出て、欠陥品と訴えられたらしい。」

「何、それ。 大変じゃない。」

リズが血相を変えた。

「僕もそう思ったんだけど、何だか様子がおかしいんだ。

 それで、明日、組合長が隣町に行くから、僕とエリスに一緒に来いと言う命令なんだ。

 何なんだろう。」

「そうね、カンプだけならまだ分かるけど、エリスも来いっていうのはどういう意味なのかしら。」

「で、エリスは?」

「今は家に戻っているわ。」

「じゃ、ちょっと行ってくる。」


それからエリスとおばさんに組合での話をして、エリスも明日から僕と一緒に三日ほど北の町に行くことになったことを了解してもらう。

「エリス、ちゃんとカランプルと一緒の部屋に泊まるのよ。 女の子の一人は危険なんだから。」

「おばさん、僕と同じ部屋は危険じゃないんですか。」

「お風呂に一緒に入っているのに、今更でしょ。

 二人一緒に居る方がエリスもカランプルもよっぽど安心だわ。

 エリスが同室で居ると分かっていれば、組合長もカランプルを夜に引っ張り回さないだろうし。」

なるほど、おばさんはエリスの心配だけでなく、僕の心配もしていたのか。

夕食の時におじさんにも話をする。

「ああ、その話は聞いている。

 職員さんが北の町に行く前に、店の方に寄って私に話していってくれたのだよ。

 エリス、安心しなさい。 北の町の宿ではカランプルと同じ部屋に泊まれるように手配を頼んでおいたから。」

おじさん、あなたもですか。

「ねえ、あなたたち、もう早く結婚しちゃったら。

 今だって、結婚しているのとそんなに変わらないじゃない。」

リズにそう言われてしまった。 まあ、そうなんだけど。


北の町に向かう馬車の中で、組合長が話してくれた。

「北の町の魔道具を一手に引き受けている魔道具屋があるのだが、どうもやり方がアコギでな、北の町の魔技師や住人から苦情が絶えないのだが、なかなか尻尾を掴ませ無かったんだ。

 ま、今回は良い機会だから、徹底的に奴の悪事を暴いてやろうという訳だ。

 そうすれば北の町も風通しが良くなるというもんだ。」

「えーと、僕たちはそれに利用されるという訳ですか。」

「ま、そういうことだが、お前らは結構組合に利益ももたらしてくれているからな。

 少しはこの機会に儲け口を紹介してやろうとも思っているから、期待していろ。」

組合長はまた悪い笑顔をしている。


北の町に着くと、まず北の町の組合に行き、北の町の組合長と今回の件の担当者と顔合わせをした。

もちろんその場には僕たちと昨日のうちに北の町に来ていた職員さんも一緒だ。

昼食を取りながら打ち合わせをして、昼過ぎに全員で窯を設置したパン屋さんに向かう。

パン屋さんには、何故か僕の知らない男が一人一緒に居た。

組合の人たちがみんなニヤリと密かに笑ったのに僕は気がついた。

パン屋さんが僕の顔を見ずに、北の町の組合長に話をする。

「急にこのパン焼き窯が使えなくなりまして、ちょうどこっちの小さいパン焼き窯のメンテナンスにこの魔技師さんが来ていたので見てもらうと、欠陥商品だと言われましたので報告を上げました。」

それだけ言うとパン屋さんは、もう自分の役目は終わったという感じで、後ろに下がった。

北の町の組合長は、その場にいた魔技師だという男に質問した。

「このパン焼き窯を欠陥品だと言ったそうだが、どういった根拠でそういう判断をしたんだ。 しっかりと説明してくれ。」

「そんなことは簡単なことです。

 このパン焼き窯は、魔力が無くなりかけると警告のランプが点き、それを教えることが売りです。

 今回ランプが点いていないのにも関わらず、火の魔石が発動せずパンを焼くことができないのですから、欠陥があることは明白です。

 このような欠陥品を売りつけることは魔技師としては大きな問題です。

 ですから、組合に訴えるように私はパン屋さんに進言しました。」

「よーく、分かった。

 お前が、パン屋に組合に訴えろと言ったのだな。

 魔技師としての倫理観に基づいて。」

「その通りです。」

「それではまず、パン焼き窯に何らかの問題がないかどうか確かめてみよう。

 お前はこのパン焼き窯を、何かいじったりしたか。」

「いえ、何もしていません。」

「そうか、それでは調べてみよう。」

北の町の担当者は僕にも声をかけて、パン焼き窯に何か手を加えられた跡がないかを探した。 幸いと言って良いのだろうか、パン焼き窯自体には手を加えられた形跡はなかった。

「どうだ、カランプル?」

組合長が聞いてきた。

「はい、どこにも異常はないと思います。」

組合長はニヤリと笑った。


「聞きましたか。 どこにも異常がないのに、パンが焼けないということは欠陥があるという証拠です。」

魔技師だという男が勝ち誇ったように言った。

「さて、本当に欠陥があるのかな。

 カランプル、持ってきた魔石に付け替えて試してみろ。」

組合長の言葉に、僕は窯に付いている魔石を外し、持ってきた魔石と交換し、パン焼き窯のスイッチを入れる。

パン焼き窯は何の問題もなく、作動した。

「おい、何の問題もなく、作動しているぞ。

 どこに欠陥があるんだ。 教えてくれ。」

男はちょっと焦った感じで答えた。

「魔石を取り替えたら作動したということは、交換した魔石に欠陥があったということではないでしょうか。

 つまり欠陥魔石をこちらのパン屋さんは売りつけられたのです。」

北の組合長が言った。

「ほう、つまりお前は欠陥は窯ではなく、魔石の方にあったと言うのだな。」

「はい、結果としてそう考えるべきだと。

 この窯の魔石は少し特殊だということで、印が付いていますよね。

 印を見れば、欠陥の責任は明らかです。」

北の組合長は魔石を取り上げて、それをしげしげと眺めた。

そして僕に言った。

「この印はカンプ魔道具店の印に間違いないな。」

僕も軽く眺めてから言った。

「はい、確かにウチの店の印です。」

「これで決定ですね。 欠陥魔石を売りつけたのはカンプ魔道具店です。」

男はこれでおしまいという感じで言った。


「いや、印がそうでもカンプ魔道具店の魔石じゃないかもしれないぜ。」

組合長はそう言うと、職員さんに魔道具を用意させた。

「この魔石はちょっと特別だからな。 俺の町の組合の印も特殊な方法で書き込んである。 偽物を流通されては困るからな。」

男の顔色が青くなった。

職員さんは魔石を魔道具にセットして、スイッチを入れた。

今までは見えなかった印が魔石に浮かび上がった。

「おや、この印は・・・。」

職員さんがそう言いかけると、北の町の担当者が

「これは、ウチの印じゃないですか。 何でウチの町の組合の印が浮かび上がるのですか。」

と大きな声で言った。

組合長が言葉を続けた。

「随分とおかしなことがあるな。

 カンプ魔道具店の魔石はウチの組合で完全に管理していて、全てにウチの組合の印が入っているはずなんだが。

 俺に内緒で、北の町でもカンプ魔道具店の魔石を管理していたのか。」

北の組合長がはっきり言った。

「そんな事実は全くありませんね。

 それにウチでは極一部の魔石にしか印を入れてませんからね。」

組合長が言った。

「つまり、この魔石はカンプ魔道具店のモノではなく、偽物ということだな。」

北の組合長が言った。

「そういうことになりますね。 カンプ魔道具店の印まで偽造しているから重罪ですね。」

「極一部にしか印を入れてないと言っていたが、その印を入れた魔石が誰の手に渡ったのかは分かっているのか?」

「それはもちろんですよ。 そのために印を入れていたのですから。」

青くなって震えていた男は崩れ落ちた。

担当者はその男に縄を打った。

職員さんがその男に言った。

「カンプ魔道具店の魔道具は、組合からの命令で、カンプ魔道具店の魔石でしか作動しないようになっているのですよ。

 作動しなかった時に諦めればよかったですね。 欲のかきすぎで、身を滅ぼしましたね。」


最初に話しただけで後ろに下がっていたパン屋さんも、男と共に連行されて行ったのだが、こちらは縄を打たれることもなく、どこか晴れ晴れとした様子で連れて行かれた。

連れて行かれる時に僕に向かって深々と頭を下げて行った。


「さて、これで今日のところはおしまいだ。

 ご苦労だったな。」

「あの、二人はどうなるのですか。」

「あの魔技師は重罪で、良いとこで犯罪奴隷落ちだな。 下手すりゃ死罪、まではないか。

 パン屋は、たぶん脅されたかなんかだろうから、洗いざらい吐けば厳重注意くらいで釈放されるだろう。」

「良かった。 パン屋さんは大丈夫ですね。

 なんか最初から嫌々言わされているみたいで、可哀想な感じだったから。」

エリスが口を開いた。

「ま、そんな感じが見え見えだったな。」

組合長が同意した。


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