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後始末は

 僕たち、つまりブレイズ家の中では、ラーラとペーターさんが襲われたことは、ラーラが自分で作った杖を使って、「スッキリしたわ」と感想を述べた時点で、何というか笑い話のような雰囲気で語られるようになってしまった。

 一報がもたらされた時には、大騒ぎだったし、酷く心配したのだが、すぐにそういった切迫した気分ではなくなってしまった。


 「でも今回は、ラーラが雷光を再現する杖なんてのを作っていたから良かったけど、そうでなかったらやはり問題だったんじゃないか。

  一対一の戦いなら、俺たちは常に身に付けている杖があれば、たぶん他の貴族などに負けることは無いだろう。

  でも、多人数を相手にして魔法を放たれたら、吸収の杖の魔石で吸収出来る魔力の量を超えてしまう可能性だってある。

  その場合、俺たちが攻撃の為に持っている火の杖は、遠距離での攻撃力は全く無いから、敵たちの魔法を受けてしまう可能性がある」

 緩んだ空気を引き締めるような感じでアークが言った。


 「うん、僕も一報が入った時に、頭にその可能性がよぎって、慌ててしまったんだ。

  ラーラの雷光の杖はちょっと大袈裟で大きな魔法過ぎる気がするけど、確かに距離があっても届く攻撃の魔法が使える杖も持っている必要があると、今回の件で思ったよ」


 僕が真剣な声でアークに答えると、ラーラがちょっとムッとした感じで言った。


 「あら、雷光なんて大袈裟な名前だけど、実はちっとも大袈裟な魔法じゃ無いわ」


 「えっ、そうなのラーラ。

  シャイニング伯の十八番の魔法として、有名だったけど、特別に複雑な魔法なのかと思っていたけど」

 リズが同じ光の魔術師として、ラーラの言葉がちょっと意外だという感じで訊ねた。


 「うん、私も難しい魔法なのかと、最初は考えていたのよ。

  カンプが戦った時に、ほんの数発でレベル2の魔石が2個も目一杯になっちゃったから、とても大量に魔力を食う魔法だということは最初から分かっていたわ。

  だから雷光を再現する杖を作る時に、雷光という魔法の効果を分けて考えてみたのよ。

  そうしてみたら、雷光という魔法の効果は、すごく単純だと思ったの。

  みんなもわかるでしょ、一瞬の強い光と、雷の名前通りの攻撃力よ」


 ラーラの説明をみんな真剣に聞いている。

 僕は火の魔技師だから直接には光の魔法は分からないが、言っている内容は解る。

 エリスも完全な門外漢なのだが、頷いている。

 リズはもちろんラーラと同じ光の魔導師だから、とても興味深そうだ。


 「それで、まずはあの一瞬の強い光を出すことを考えたの。

  それで、ああいう風に一瞬だけ強い光を出す魔道具という物がないかを調べてみたら、やっぱりあったわ。

  私は雷光をみるまで、ああいった一瞬強い光を出す魔法は知らなかったし、調べてみるまで、そういうことが出来る魔道具も知らなかった。

  で、調べた結果は、一瞬強い光を出す魔法はフラッシュという魔法で、その魔法と同じ効果を出す魔道具もずっと昔に作られていた。

  でも、私が全く知らなかったはずよ、その魔道具はレベル2の魔石を使わないと作れない魔道具だったの。

  レベル2の魔石を使う魔道具なんて、庶民だった私が知る訳は無いわ」


 「私だって、レベル2の魔石を使う魔道具なんて、王宮なんかで使われていた照明の魔道具以外知らないわよ」

 リズがラーラの説明にちょっと茶々を入れた。


 ラーラはそれを無視して、話を続けた。

 「まあ、レベル2の魔石を使って、魔道具を作るというのはやったことがあるから、レベル2の魔石を使っている理由は想像することが出来たわ。

  そう、書き込む回路が複雑で大きいから、レベル1の魔石では容量が足りなくなってしまうだけのこと。

  実際はやってみたら、レベル1の魔石でもギリギリ書き込める大きさなのだけど、当然だけど魔力を溜める部分もなくてはダメで、その余裕はレベル1の魔石では全く無いからレベル2の魔石でなくては駄目だったのね。

  それで、レベル1の魔石に書き込んで、魔力は別の魔石からにだけ書き換えて試してみたら、そのフラッシュというのは一回でレベル1の魔石に貯めた魔力をほぼ使い切ってしまう、とんでもなく効率の悪い魔法だったわ。

  それから攻撃力の方は、こっちはシャイニング伯がカンプに『死なない程度に威力を弱める』と余裕ぶって言っていたから、見当がついていたのだけど、光の魔導師というか、冒険者の間では一番有名なライトニングじゃないかと思ったのよ。

  それで、フラッシュとライトニングを同時に発する回路を考えて、ライトニングの威力を制御する回路も付け加えたら、それでもうレベル2の魔石の容量一杯になっちゃうような回路だったわ。

  そうして魔力を貯める魔石はレベル1ので試したら、ライトニングの威力を最低にしてやっと作動するのがやっと。

  でも、それが雷光と同じ現象を起こすことは確認できたわ」


 「やっぱり、酷く魔力を食う、効率の悪い魔法なんだな」と僕。

 「それでラーラはその杖を組合には登録したのか?」とアーク。


 「うん、本当に効率の悪い魔法だと思ったわ。

  組合への登録も、もちろんしたわよ」

 ラーラは僕とアークの言葉両方に、ちゃんと答えた。


 「一つ疑問なんだけど、いいかしら?

  雷光っていう魔法は、シャイニング伯が使ったんで私も知っていたけど、他にその魔法を使う人っていないの?

  シャイニング伯が使った時にも、見に来ていた人たちがとても驚いていたけど、そんなに珍しいのかしら?」

 エリスがそんな疑問を口にした。


 「雷光は、ほぼシャイニング伯のオリジナルみたいな魔法よ。

  ラーラの説明を聞いていても思ったけど、そんなに大きな回路になってしまう魔法なんて、なかなか使える人はいないだろうし、そんなに非効率な魔法を使いこなすだけの魔力を持つ人なんてなかなかいないわ。

  その意味では、やっぱりシャイニング伯は、持っている魔力量を考えても、特別に優秀な人だったのよ。

  貴族から落ちかけたギリギリの家から、伯爵になっただけのことは、やっぱりあったのね、人間としては本当に嫌な奴だったけど」

 リズがエリスの疑問に答えた。


 「ところで、やはり今回のようなことがあると、今までの二本の杖だけでなくて、ラーラの雷光の杖も、俺たちも持つ必要があるんじゃないか?」

 「確かにアーク兄さんの言う通りですね。

  ラーラさんとペーターさんが、今回敵を簡単に撃破したことで、なかなかブレイズ家の者を襲ってくる者はいないと思いますが、備えはあった方が良いですから。

  それから、僕は今まで杖を持つ必要を感じていなくて持ってなかったのですけど、僕の場合は攻撃用の杖は要らないですけど、吸収の杖はもらえませんか」

 ウィークがアークの言葉に続いて、用心を増やすことと、自分にも杖が欲しいと言った。


 「そうだな、ラーラ、僕たちの分も作ってくれるか?

  それにウィークにも吸収の杖を持っていてもらうことにしよう」


 僕の言葉にラーラは頷いたのだが、ペーターさんが提案を付け加えた。

 ペーターさんが植林以外のことで、話に自分から口を出すのは珍しい。


 「カンプ様、もう一つ考慮してもらいたいことがあります。

  今回、私とラーラは杖を所持していたので、実は襲われた時に相手が直接の暴力に訴えてくる感じではなかったので、余裕を持っていました。

  ですが逆に、フランクはとても危機感を持っていましたし、相手方とやりとりを私やラーラがしている時は、私たちはフランクを庇う必要がありました。

  それは何故かというと、フランクは杖を持っていないからです。

  もう少し杖を所持する家臣の範囲を広げる必要があるのではないでしょうか。

  フランクたちのような爵位をもらった家臣、それに西の町の代官代理の副官を務めている村出身の子たちなど、

  主要な家臣は持つようにした方が良いのではないでしょうか?」


 ペーターさんに言われて、僕はそんな差が家臣の中にあったことに初めて気がついた。

 ウィークはアークやリズと違って貴族でいられるだけの魔力があるから、杖の必要がなかったからなのだが、それ以外は、フランとリネまでしか杖を所持していない。

 つまり前の領地に居た時の初期から家臣だった者たちだけにしか杖を渡していなかったんだった。

 イザベルたちにも渡していない。

 僕は自分でも怠慢だった気がして渋い顔で言った。


 「ペーターさん、その通りですね。

  僕は全然そこまで気が回っていませんでした。

  この杖はかなり秘匿していますから、そんなに大々的に広めるつもりはありませんが、ペーターさんが言われた範囲の者たちには持ってもらう必要があると、僕も思います。

  それも早急に進めましょう」


 フランクがとても嬉しそうな顔をしたのは、単純に杖を持てることを喜んだのだろうか、それとも今回のことで怖い思いをしたからだろうか。

 うん、きっと両方だろう。




 今回の件は、僕たちから陛下には報告しなかったのだが、司法局から陛下に報告が入った。

 報告を聞いた陛下が激怒した。


 「朕の信頼するグロウケイン男爵夫妻を襲った者たちは、法の許す限り最も重い刑に処するように」


 実質的な被害は何もなかった僕たちは、その言葉が伝わってきた時に、ちょっと慌てた。

 そしてペーターさんが、

 「何の被害もこちらは受けませんでしたから、軽い罪で済ましていただくようにお願いいたします」

と、陛下に減刑を願うこととなってしまった。


 慌てたのは司法局の方もだった。

 最初、取り調べた司法局の職員は、ある程度古くからの家柄の貴族の、三男とか四男という者が、新興の貴族にちょっとした嫌がらせをした程度のことなのだろうと思っていた。

 調べていくと、もう少し深刻な事態であったことは、目撃者もたくさんいた為、すぐに知れた。



 爵位持ちの子供であっても、正式な貴族でない者が、爵位持ちに無礼を働くのは当然罪になるのだが、新興貴族がやっかみを受けるのはままあることなので、普通なら厳重な口頭注意程度でお茶を濁すことも多い。

 今回はそれでは納められない、少し問題を大きくしないで済む事柄ではないとは司法局でも思っていたが、それでも親である爵位持ちを呼び付けて、子供の行動の管理を徹底するように注意すれば良い程度のことだと思っていた。


 それが陛下の厳命で、簡単に済ますことは出来なくなり、徹底的に調べられることとなってしまった。

 それにより、この事件の全貌が完全に知れ、当初は威嚇のためにグロウケイン男爵夫人が魔法を一回放っただけの事件だと思われていたのだが、実際には襲った方が何故か不発だったが、何度も攻撃魔法を放っていることが判った。

 どういう方法を用いたか司法局には分からなかったが、グロウケイン男爵側では襲ってきた側が何度攻撃魔法を放ったかも把握していた。

 その情報から、襲って捕らえられた者に訊問をすると、観念した捕縛者は自分のしたことを素直に陳述した。


 陳述を素直にしたのは、グロウケイン男爵夫妻が陛下に刑の減刑を願ってくれていて、それが取り下げられれば、一番重い刑が課せられることになることが伝えられたのも、大きな効果があったと思われる。

 そしてその陳述から得られた、事件時の全貌は、重罪で、重い刑に処されても仕方のない内容だった。


 捕縛された者の主犯格は子爵家の三男、最初に攻撃魔法を放ったのが男爵家の四男、

他に知られないように隠れて魔法を放っていたのが2人いて、それらは男爵家の三男と准男爵家の三男だった。

 もう1人捕縛者がいたが、その者は無理やり今回の事件に付き合わされていた騎士爵家の次男だった。

 この騎士爵家の次男は、その場に居ただけで、事件への関与は認められなかったので、注意されるだけで解放されたのだが、この者の供述で、事件に至るまでの経過が全て判ることとなった。


 他人に対して攻撃魔法を放つこと自体が、そもそも罪に問われるのは当然のことだが、高位の者に攻撃を仕掛けるのは、貴族社会では絶対のタブーだ。

 決闘という闘いの手段はまだこの貴族社会では許されているのだが、それも下の者が上の者に仕掛けることは許されていない。

 ましてや、今回は不意に襲うという手段が取られている訳で、重罪も良いところといった感じだ。


 その全貌が判明して、一番慌てたのは親の爵位持ちたちだ。

 今回の件は子供のみの責ではなく、親である自分たちの管理責任を問われる可能性が大きかったからだ。

 親たちは罪を犯した子を即座に勘当し、彼らを貴族名簿から外すこととなった。


 彼らは結局、重犯罪者として、死罪もあり得たのだが、グロウケイン男爵夫妻の減軽願いを考慮されて、その犯した罪の責の大きさにより数年の奴隷落ちの刑となった。


 親たちは、それで胸を撫で下ろすという訳にはいかなかった。

 当然のことながら、親としての責任が問われる立場にあったからだ。

 貴族の当主は、自分の配下が起こしたことでも責任を問われることがある。

 ましてや今回は自分の息子たちである。

 きちんとその責を果たすかどうかが注目を集めることとなった。

 それがきちんと果たされないと、貴族としてあるまじき振る舞いをしたということになり、降格されても文句がいえないのだ。


 こんな場合の責任の取り方、それはもう当然のことだが、賠償というか、迷惑をかけたことに対する補償となる。

 その補償金も高額を払わねばならないだろう。

 自分たち以外の貴族の目が、自分たちの行いの粗を探して大きく開かれている。

 ここで下手を打てば、貴族として一番大事な面目が傷つく。

 かといって、親の貴族たちは王都で暮らしていた時のように、鷹揚に大きな金額を払うことはできないのだ。


 「全く何ということをしでかしてくれたんだ。

  三男などという者は、家の迷惑にならないように、王宮の警護の仕事に着くでもして、早く己の身の立て方を確立すれば良かったのだ。

  それを学校が終わってからもフラフラとしていて、その挙句にこんなことをしおって。

  今は領地の開発に金がかかるのだ。

  こんなことに金を出している時ではないのに、なんたることだ」


 自分の息子のしたことを嘆いても、誰も同情してくれない。

 公爵に相談しても、相談に乗ってくれるどころか、


 「この大事な時期に何てことをしでかしてくれたのだ。

  儂は一番上の責任者として、陛下に謝らねばならない羽目になり、領地に帰る予定も遅らせなければならないこととなった。

  これ以上儂に迷惑をかけないように心掛けてもらいたいものだ。

  恥ずかしい金額で方を付けようなんて考えるなよ。

  お前はこの王都に残った貴族たちからは今回のことで明確に敵と認識されただろう。

  そして金額を渋ってその者たちに侮られるようなら、我々の顔に泥を塗ったこととなり、我が方の者もそなたを無視するようになるであろう」


と、逆に悪い方向に念を押される始末だった。



 襲った側の4家から、グロウケイン男爵家に支払われた迷惑料は、かなりの金額となった。


 「これだけ儲かるんだったら、もう2・3 度襲われても、私は別に構わないんだけどなあ」


 いや、どう考えても「雷光使いの男爵夫人」を襲う勇気がある奴は、まずいないと僕は思う。

 ラーラは、自分についた新たな通り名を嫌っているが、エリスはとても喜んでいた。


 「これで私の最強説は完全に否定されたと思うわ」


 どうやらエリスは「村最強」と噂されていたのを、とても気にしていたようだ。


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