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新公爵領

 またしてのダンジョン発見の発表に会場のざわめきは、陛下の言葉が発せられている間は、流石に収まるのだが、その言葉が少し途切れると、またザワザワと小声でそこら中で始まってしまい、完全に収まることはない。

 陛下はそのざわめきを気にすることなく、そのまま言葉を続けた。


 「さて、ダンジョンが発見されると、また前回と同じ問題が突き付けられることとなる、そうダンジョンをどうするかだ。

  今回もまたしても同じ問題を抱えることとなった。

  ダンジョンは今まで通り、王家のモノとして良いのかという問題である。

  前回は、公爵が領地をブレイズ伯と交換するという解決策を提示し、その問題を回避することが出来た。

  今回はそのような起死回生の策は取ることが出来ない。

  何故なら、前回のように交換に値する領地など、この国にはもう存在しないからだ。

  強いてあげるならば、この王都との交換くらいしか考えられないのだが、それは現実的では無いだろう」


 「陛下、我が領地とならば釣り合わないでしょうか?」

 南の町を治める侯爵が、そう言ってオズオズと手を上げた。


 「確かに侯爵は朕が祖父の兄弟の孫だから、王族に連なる者であることは言を待たない。

  家格も侯爵で伯爵より上だから、その治める地との交換ならば、見合わなくは無いとも言えるかも知れない。

  しかし、侯爵家は南の町を治め、海を治める、我が国唯一の諸国に開かれた場所を治め、その外交を担う家。

  南の町から動かす訳にはいかない。

  それに侯爵家は、海を支配するが領地はあまり持っていない。

  ブレイズ伯爵家は言わば、砂漠の開発に特化した家。

  海を領地にされても、困るだけで何も出来ないであろう。

  よってその案は、当然のことだが、却下だ」


 「今朕は、新ダンジョン発見の功に報いるために、ブレイズ伯家の家臣を陞爵したと言い、また、陞爵した家臣自身もそれぞれに陞爵に値する働きをしていると言った。

  内々のことを言ってしまうと、今回陞爵したブレイズ家家臣は、新ダンジョンの発見がなくても、陞爵を考慮されていた者たちである。

  またブレイズ家家臣でも、グロウランド子爵夫妻が陞爵しては、寄親であるブレイズ家と同格になってしまうため、今回の陞爵から外れている。

  つまり今回の発見の功に報いての陞爵というのは、実際はブレイズ家にとっては家臣家に至るまで領地が増える訳でもなく、あくまで建前的なことだけであることを認めないわけにはいかない。

  今回のダンジョン発見について、王家はブレイズ家に大きな借りを作ったと言って良いであろう」


 王都周辺に居た貴族たちは、陛下の言葉を同意するかのように聞いていたが、公爵に従って王都から離れていた貴族たちは、ブレイズ家家臣たちが今回陞爵したこと以上に、それ以前から陞爵を考えられていたことに反発する様子を示した。


 「とは言っても、ダンジョンは王家に属すこととするという伝統を、今回は2度目だからという理由で破る訳にもいかない。

  そこで仕方なく、前回と同じ方策を取ることとした。

  しかし、今回は他に公爵がいる訳では無いし、他に王家に準じることになる者、つまり王家に近い縁者となると侯爵しかいないが、侯爵は先程の理由から動かせない。

  熟考した末、朕は公爵家を一つ新たに作ることとした。

  王太子が生まれなければ、この方法は取れなかったが、そこで先程の陞爵式で明らかにしたように、王女メリーベルを公爵とした」


 陛下は一呼吸おいて、周りの貴族たちを見回した。

 この話を聞いた貴族たちは、午前中にベルちゃんが公爵に叙されたことの意味を知り、納得したみたいだった。

 公爵派の貴族たちも、この件に関しては反発する気配は見えなかった。


 「これにより、今回の新たなダンジョンは新公爵であるメリーベル王女の領とすることとする」


 陛下のこの宣言に対して、貴族からは異論は出ず、公爵派の貴族は拍手した。

 ちょっとした騒めきが鎮まるのを待って、陛下が話を続けた。

 これからが話の本番だ。


 「メリーベルを公爵とし、ダンジョンをその領とすることに決めたとはいえ、実際にダンジョンを運営することはまた別問題である。

  メリーベルはまだ年若い学生の身である。

  それが自らダンジョンの運営にあたるというのは、はっきり言って現実的では無い。

  そこで、朕は、今回のダンジョン発見の功の褒美も兼ねて、新たな役職を作ることとした。

  ブレイズ伯爵を、メリーベルの後見人、またグロウランド子爵を後見人補佐に任命し、ダンジョンの運営の実務上の問題に関しては任せようと思う」


 この陛下の言葉を聞くと、会場は大きな騒ぎとなった。

 公爵派の年長の子爵がその喧騒を抑えるように発言を求め、許された。

 「陛下のお言葉ですが、ブレイズ伯たちが王女殿下を後見し、実務が任されるということは、実質的には新たなダンジョンはブレイズ伯家が得たことと一緒では無いでしょうか」


 陛下が答える。

 「ダンジョンで得られた魔石に関しては、王家にその売買利益にかかる税の全てが入ってくることになるので、ダンジョンをブレイズ伯が得たということにはならないだろう」


 「ダンジョンの利益は、魔石の取引だけでは無いでしょう」

 「他にも経済的な利益があることは、北の町を見れば明らかでしょう」

 公爵派の貴族たちは様々な声を上げて、僕とアークがベルちゃんの後見役となってダンジョン運営をするという案に反対し始めた。


 「私にも意見を言わせてもらいたい」

 公爵が騒いでいる自派の貴族たちを抑えるように、少し大きな声で発言した。


 僕もだが、近くにいる3伯爵はみな、公爵が何を言うのだろうと、少し振り返って公爵を見た。

 公爵は少し苦い顔をしている感じだが、それ以上に怒りの雰囲気を纏っていた。


 「私は陛下の提案を支持する。

  先ほどから聞いていると、陛下の提案を批判する方々は、ダンジョンが生み出す利益は魔石に限らないので、それを後見役となるブレイズ伯家が独占することになるのを問題にしているようだ。

  私も確かに、その問題が無いとは言わない。

  ただし、その様な批判をする方々はダンジョンの運営とはどういうことか分かっているのかと問い質したい。

  ダンジョンから利益を生むには、ダンジョンに冒険者を集め、ダンジョンの魔物を狩ってもらわねばならない。

  その冒険者の住居や、生活にかかる食糧や諸々の物資も最低限用意しなければならない。

  その辺のことを、批判する方々は考えているのだろうか。

  今回のダンジョンは西の山に近い、ブレイズ伯領の一番端の方にあると聞く。

  そのような場所に、冒険者が暮らしていける村を作り、必要とする物資を一体誰が集められると言うのか。

  批判している方々はそれが出来ると思っているのだろうか、現実問題として私でも出来ない。

  侯爵なら財政的には出来るかも知れないが、侯爵には村作りのノウハウは持たないし、それに必要とする家臣はいないことだろう。

  私と侯爵が出来ないことを出来る者がいるのだろうか。

  たとえもし居たとしても、少なくとも我が公爵領の周りの者たちには、そのダンジョンに冒険者の住居を作り運営する資金の余裕があるならば、今現在の自分の領地の開発にその資金を振り向けてもらいたいと思う。

  それにたとえ新たなダンジョンの運営を他の者が行うことになったとしても、その地の周りはブレイズ伯の領地が囲んでいるのだ、一体何が出来るのだ。

  食糧などの物資もブレイズ領から買わねばならないだろうし、ブレイズ伯家で運営する商会を通さねば調達さえ難しいであろう。

  ダンジョンから魔石の他に産出されるのは魔物の遺体だが、それらは遠くに運んだのでは輸送費ばかりがかかってしまう。

  結局、ダンジョンの生み出す利益は、場所の問題を考えると、ブレイズ伯家に魔石以外のことは落ちることになるし、ブレイズ家を通さねばダンジョンを運営すること自体が叶わぬのだ。

  それならば、ダンジョンの運営自身をブレイズ伯家に任せて、その責任を持たせる方が余程理に適っていよう。

  メリーベル王女が成長し、独り立ちしてやっていけるようになれば、また考え方もあるかも知れないが、今の時点では陛下の言うとおり、この案しか無いであろうと私も思う」



「まさかあの様なことを公爵が言うとは思わなかったな」


 午後の話し合いが終わった後、公爵と公爵派の貴族たちが会場を早々に去ったところで、ハイランド伯爵がそう口火を切った。

 午後の話し合いの時間、陛下と僕たちは大荒れの会議を予想していた。

 大荒れを予想してはいても、他の代案が誰かから出ることはないだろうと考えていたので、自分たちの案を呑みたくない勢力の言葉をとりあえず聞いて、それならばどうすれば良いと考えるのかと、つっぱねれば良いだけだと思っていた。

 出せるであろう代わりの案は全て検討し、反論は用意してあったのだ。

 その中で一番可能性がある優れた案は、侯爵が新たなダンジョンの運営にあたるということなのだが、それは一番最初に陛下自らが潰したのだ。

 それ以上の案が出ないであろうことが見越せたので、僕たちは余裕を持って出席していたのだが、話が紛糾して長い時間を要すであろうことは仕方がないと思っていた。

 それが公爵の言葉で、あっさりと話し合いは終わってしまった。

 公爵派の貴族たちは、誰も公爵の言葉に違う意見が出せなかったのだ。


 「今回の件では、公爵も代案を出すことが出来なかったから、それならば自分から認めて、己の存在感を見せたというところだろう」

 グロウヒル伯爵が、ハイランド伯爵の言葉に簡単に応じた。

 

 「いや、それだけではないだろう。

  公爵は我ら3家のことは完全に無視して、それを前提に話していたからな。

  侯爵家が無理だとしたら、次は我ら3家が無理なことを話題にすべきであろうと思うのに、一切触れなかった。

  侯爵家は村作りという開発は確かに実績がなく不得手であろうが、我ら3家はそんなことはないし、資金的にも侯爵家に近いものがあろう。

  それでも触れてこなかったのは、意図的なことであろう」

 ブレディング伯爵は少し穿った見方を示した。


 「まあ、そうだろうな。

  公爵は新たなダンジョンが我々に利を直接に齎らすことだけは絶対に避けたかっただろうからな」

 「まだブレイズ伯なら我慢が出来ると思ったのだろう」

 「最も直接に利を齎せたらいけないのが、ブレイズ伯家ではないのか」

 3伯爵はそう話しながら、僕の方を見て笑った。

 なんというか居心地が悪いが逃げ出すきっかけがない。


 いくらか会話に加わらなくてはならないと思って、僕は一つ思ったことを言った。

 「公爵は新たなダンジョンから産出される魔石については、全く触れてきませんでしたね、僕はそれが意外でした。

  今まで取れる魔石に関しては、産出量の半分を公爵の方で引き取ることにするほど、魔石の確保を強く望んだ公爵でしたから、確実に新たなダンジョンで得られる魔石についても何か言ってくると思っていたのですけど。

  ましてや今度のダンジョンはレベル2の魔石も産出するのですから、それはもう絶対だろうと思っていたのですが、不思議です」


 「いや、それは意外でも、不思議でもないな」

 あっさりとグロウヒル伯爵が言ったが、その理由が全く僕には解らず、理由を訊こうと口を開く前に、僕の雰囲気を読んでハイランド伯爵が教えてくれた。

 「今の公爵には、これ以上の魔石を買うだけの金銭的な余裕がないのだよ。

  公爵は自分の領地の開発資金が必要なだけでなく、公爵に同調して公爵領に行って開発に当たり、その開発に失敗して資金繰りに困っている者の援助までしている状況の様だ。

  とても今以上に魔石を買い付ける金銭的余裕はないのだろう」

 「金銭的に苦しくなっていることを公的に認めたくはないから、魔石に関しては触れることが出来なかったのだろうよ。

  公爵にしてみれば単純にプライドの問題だけでなく、自派の結束を弱めかねない事柄だからなぁ」

 ブレディング伯爵も解説してくれた。



 翌日は、王子様の誕生と王太子就任を、国として正式に祝う祝賀の会が開かれた。

 こちらは叙爵式とその後の話し合いとは違い、戸外で一般大衆も見守る中での式典となっていた。

 僕たちも式に集まった貴族として、その式に正装で参加しなければならなかったのだが、これはもう単純に参列しているだけのことなので、周りの目を気にして姿勢を正していなければならないけど、それ以外は気楽に参加すれば良いだけの行事だった。

 行事自体もその規模は大きいけれど、主役の王子殿下はまだ乳飲み子な訳で、一度会場の壇上に王妃様に抱かれて姿を表すことが精精である。

 開催されている時間は短いものであった。

 姿を現した王子殿下は、姿を見せたことによってあがった歓声に驚いて泣き出すハプニングがあったが、特別なことはそれくらいのものだった。



 「私たちは子供を連れて来なかったから、先に戻らせてもらうわ。

  フランクも一緒に戻ると言うから、3人ね」

 「フランク、何も一緒に戻らなくても構わないよ。

  最近はフランやイザベルと一緒に戻るのでも良いのだから」

 「いえ、ペーター様、それでは誰が馬車の御者をするのですか?」

 「そもそも私は一番最初は馬車の御者をすることがブレイズ家の中での仕事だったんだ。

  もちろん自分で御者をするよ」

 「それだから私も一緒に戻ると言うのです。

  ペーター様もラーラ様も今では男爵という上位貴族なのです、それも多くの人に名の知られた。

  その男爵様本人が馬車の御者なんてあり得ません」

 「いや、だから、馬車も男爵の家紋を付けないで、服装も普通の平民の服装にしなければ構わないだろ。

  それからフランク、私のことを様付けで呼ぶのはやめてくれ」

 「いえ、ダメです。


  今は王都内は貴族がみんな集まっていますから、そんなことをしたのがバレたら物笑いの種です。

  それに、ペーター様は自分が思っておられる以上に、多くの人の顔を知られています、御者をしていたらバレますよ。

  男爵の家紋を付けなくても、馬車は貴族用ですから、男爵の家紋を付けてなくて、乗っていない偽装をしても、気付かれます」


 ラーラがしょうがないという感じで言った。

 「という訳だから、私たち3人は先に戻るわ。

  フランクは自分が御者をしないと、他の者だと旦那が結局御者をしちゃうのを抑えられないと思っているみたい。

  ま、仕方ないわね」


 僕たちみんなに言えるのだけど、王都では面倒だけど、自分で御者をしないで、他の者に任すことになる。

 以前はせいぜいダイドールかターラントに任せれば良いのだから、大して問題にはならなかったのだが、最近はダイドールとターラントも、そしてペーターさんも御者を誰かに任せなければならない立場になってしまったので、なかなか面倒なのだ。

 普段なら、僕たちは平民の服に着替えて、馬車も貴族用ではなく一般的な庶民の馬車を使って自分たちだけで移動したりするのだが、今回は王都に貴族のほとんどが集まるということだったので、そんな訳にはいかなかったのだ。


 ペーターさんは誰かに御者をしてもらって、馬車の中に引っ込んで移動するというのは好きではないらしくて、渋々とフランクに従って馬車に乗り込んで行った。


 「ペーターさん、ラーラ、僕たちも遅くとも2・3日中には王都を出るよ」

 「カンプたちは子供を連れて来ているし、おじさん・おばさんも来ているのだから急がなくてもいいんじゃない」

 「私はもう戻らないと、きっとサラさんが忙しくて大変だわ」

 「私も学校を再開しないと」

 「サラさんは大丈夫だと思うし、フランとリネもダイドールさんとターラントさんは明日にも戻るつもりの様だから、学校も大丈夫じゃない。

  エリスもリズもゆっくりしてて大丈夫よ」

 「ラーラ、あなた1人で先に王都から逃げようと思っていない?」


 リズにラーラは睨まれたが、笑いながら手を振って、ラーラたち3人は王都の館を出て行った。

 朝早くに出て行って、急げばその日のうちに着く距離なのだが、貴族の馬車が大急ぎで走るというのも問題なので、ラーラたちは今日は西のデパートで一泊だ。

 西のデパートにはそのいう時のためだけではなく、誰でも泊まれる宿も併設されている。


 僕たちが3人を送り出してから、しばらくして寛いでいると、館の外が急に騒がしくなり、何事かと思っていると、すごい勢いで急を告げる使者が僕らの居間に通された。

 「大変です。

  西の町の手前で、グロウケイン男爵の馬車が何者かに襲われました」


 ウィークが館の警備の者に顔を向けると、即座に1人がその場を去ったと思ったら、すぐに外で騎馬が何騎か走り去っていく音が聞こえた。


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