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王子誕生

 新たに見つかったダンジョンにレベル2のモンスターの発生が確認され、結局のところ僕たちは、かなりの数の冒険者に来てもらわなければならないことが確定した訳だ。

 その数がせめて50人程度までなら、ベイクさんの開いている宿屋を拡充して対応も出来たのではないかと甘いことを考えたが、最低でも100人規模となると、現状の村の規模ではどうにもならない。


 僕たちはこの村を作り始めた時、少し多めに考えて、500人規模の村を考えていた。

 移住前の村の規模が300人に欠ける規模だったので、500人規模でも多すぎるかと思ったくらいだ。

 僕たちは、植樹して木を増やして、村の環境を変えていく事は、おじさんを筆頭にして熱心だけど、村人というか領民を増やして、村を大きくして行こうなんて考えは持っていなかった。

 僕たちはカンプ魔道具店とエリス雑貨店という商売をして、そこから利益が上がれば木を植えて、あとは子育てをしながら、新しい魔道具をのんびりと考えられれれば、それで十分だと思っていたからだ。

 もう何も自分から忙しくはしたくない。

 いや、最初から怠惰な魔技師の生活を目指していたのだ。


 実際は、多くのところから研修生が来たり、アークをはじめとした僕の家臣という事になっている者たちが、みんなそれぞれに領地をもらうという考えていなかった事態になり、それらの領地もダイドールを中心にして一括に管理する事になって、村にはそれらの行政を行うための人などが増えたりして、いつの間にか、村は500人規模目一杯まですでに発展してしまっていた。

 つまり、今の村には新たに100人の冒険者を受け入れる余裕はないのだ。


 そのため、ターラントを中心にして、新たに見つかったダンジョンの近くに、冒険者たちを主な住人とする新たな村を建設する事にした。

 何種類かの小規模な住宅を、僕たちの方で用意して、その住宅を冒険者にきちんと家賃を取って貸し出す事にするのだ。

 また、そこには魔石買取のための組合の出張所と、魔石と共に産出するモンスターの死骸の買取施設も作る。

 残念ながら、その二つの物から上がる利益は税金を含めて全て王宮の物となってしまうのだが、それはダンジョンは王宮の財産となる決まりだから仕方ない。


 「少なくとも、冒険者だけでなく、食料品店、飲み食いできる食堂や飲み屋のような店、それからダンジョンに入るのに持っていくパン屋なんてのは必要になるよな。

  ここからそんなに離れている訳じゃないから、雑貨その他の必要品はここまで買いに来て貰えば済むよね」

 「カンプ様、それよりも先に何を置いてもしなければならないことがあります。

  まずはとにかく、何よりも先に、そのダンジョンの穴の周りを、ある程度の高さと強度がある壁で囲わなければなりません。

  土の魔技師を明日にでも総動員して、すぐに取り掛かります」


 そうだった、レベル2のモンスターが出るダンジョンは、モンスターがその場から移動しないように、厳しく管理しなければならないのだった。


 僕は東の町に暮らしていたから、ダンジョンというと東のダンジョンを思い浮かべてしまう。

 東のダンジョンは小さなダンジョンで、レベル1の火ねずみしか出ないから、その管理は緩やかである。

 東のダンジョンでは火ねずみがダンジョンの外にも出ていて、僕のような冒険者じゃない魔技師なんかが狩ったりするのが黙認されている。

 それは火ねずみがダンジョンからあまり離れた場所には行かないので、ダンジョンの中に入って狩る実力がなかったり、経験の浅い者の良いトレーニングになるからだ。


 しかしレベル2の雷ウサギとなると話は別だ。

 火ねずみとは比べ物にならない魔力を持つ雷ウサギは、とてもではないが危険過ぎて、魔技師や経験の浅い駆け出しの冒険者が手を出して良いモンスターではないのだ。

 そういう理由で、北のダンジョンはその出入り口周りはしっかりと囲われていて、出入りも厳しく管理されている。


 魔技師でしかない僕らには、そういった訳で北のダンジョンは直接には全く関係のない場所だったので、残念ながら僕もアークも北のダンジョンは見に行ったこともない。

 そんな訳で、ダンジョンの出入り口を囲わなければならず、その出入りの管理も必要だなんてことは、全く頭の中になかった。

 ターラントは良く知っていたなぁ。


 「カランプル君、ダンジョンの出入りの管理は組合の方でするからね。

  ダンジョンが王宮の物でも、出入りの管理は組合が任されているんだ。

  北の町のダンジョンも、出入りの管理は組合なんだよ」

 「そうなんですか、よろしくお願いします。

  出入りの管理をするとなったら、人がいるなぁ、その人をどうしようかと今ちょっと考えてしまいましたよ」

 「うん、組合で人を出すから大丈夫」


 組合長さんは「300人規模の新しい村になるかも」と言っていたが、確かに色々と考えていくと、その規模は確実なのかなと思い始めた。

 北の町はダンジョンを中心にして2000人規模の町なのだけど、まさかそこまで発展することはないだろう。

 でも少し今後大きくなる余地を考えた村作りをターラントにしてもらおうと思った。


 しかしまずは陛下への報告が第一だ。

 「ダイドール、お前がいつも忙しいのは重々承知しているのだけど、すまないけど陛下にこのことを報告して来てくれ。

  僕たちはまださすがに動くに動けない」

 「はい、私が行かなければならないなと思っていました。

  明日にでも王都に向かう事にします」


 おじさんとペーターさんが、新しく作る村の植樹をどこから始めるかをターラントと相談していたり、アラトさんが組合長さんと冒険者を呼ぶ話をしていたりすると、アークが言った。

 「カンプ、一度俺たちも新しいダンジョンに入ってみないか。

  実際に見てみないと、イメージがやっぱり掴めないよ。

  あれはレベル3までは確実に大丈夫だから、俺たちも入っても大丈夫だろ」

 「アーク、お前、入ってみたいだけだろ。

  ま、僕も前の村で見つかったダンジョンに入ったのが唯一だから、興味がない訳じゃないけど」


 僕らの会話が耳に入ったらしいアラトさんが割り込んできた。

 「なんだ、あの時しかダンジョンに入った事ないのか?」

 「正確には、アラトさんに頼む前にも一回ごく簡単に中に入ったのですけど、その時はまだあそこのダンジョンも出来始めで、ずっと小さかったんですよ。

  ですから、まともに入ったのは、あのエリスとリズが弾けちゃった時が最後です。

  あのダンジョン以外は、僕たちはレベル1の魔技師ですからね。

  まさかダンジョンの中に入る訳にはいかなくて、東のダンジョンも入った事ないですし、ましてや北のダンジョンなんて僕は入り口を見たこともないんですよ」

 「そうか、お前たちの杖は秘密扱いだったっけな。

  それなら、俺が新たな冒険者を連れてくる前に一回入ってみるか?

  確かに、実際に見てみないとイメージは掴めないだろ。

  お前らが一緒だと、逆に安全だからな、俺が今現在分かっている範囲を案内するよ」


 僕たち2人は、エリスとリズに悪いなと思いつつも、アラトさんの案内で新たなダンジョンに入ってみた。

 僕たちも雷ウサギを見ることが出来た。



 王都へ行ったダイドールはなかなか村に戻って来なかった。

 やはり王都で大騒ぎになって、前の時の僕らのように、なかなか帰してもらえないのかと心配していたのだが、理由は大きく違ったようだ。


 「カンプ様、アーク様、大変です!」

 ダイドールは王都から戻って来ると、旅の間の服も着替えないどころか、馬車を直接僕らの私邸の方に乗り付けて、駆け込んで来た。

 その勢いと、声の大きさで、昼過ぎのミルクを飲み終わって、眠りにつこうかとしていた赤ん坊が、びっくりして泣き出してしまった。

 

 エリスとリズが怒るかと思ったのだが、何事かと異変を感じたらしいリズが言った。

 「ダイドール、落ち着いて。

  私とエリスはちょっとこの子たちを寝かしつけて来るから。

  ラーラ、ダイドールにお茶を淹れてあげて」


 エリスとリズと、それにおばさんが赤ん坊や子供を連れて、僕たちの共同の居間から別室へと移動した。


 「それではエリス様とリズ様が戻る前に、私は御前様を迎えに行って来ます。

  御前様にも聞いていただいた方が良い話だと思いますので」

 ダイドールがそう言うと、昼食と昼休みを終えて仕事に戻ろうとしていたところにダイドールが駆け込んで来たので、タイミングを逃してまだ居間に残っていた、おじさんが言った。

 「それは私がしよう。

  ダイドールは王都から戻って来たばかりなのだから、ちょっと一服していなさい」


 おじさんが動こうとするダイドールを押し留めて出て行くと、ラーラがもうお茶を用意してダイドールに勧めていた。

 「ダイドール、みんなが戻って集まるまで、とりあえず休んでくれ。

  話はそれからの方が良いだろう。

  ターラントとペーターさんは、新たに作っている冒険者の村の方なのだが、2人も呼んできた方が良いのか?」


 「2人は、後から伝えても問題ないでしょう。

  ターラントには私から、ペーターさんにはラーラさんから伝えれば大丈夫です」

 「なんだ、俺が馬を走らせないといけないかと思ったのだけど、空振りか」

 アークがダイドールの言葉にそんな冗談を言った。



 エリスとリズが赤ん坊と子供をおばさんに任せて居間に戻り、おじさんも御前様を連れて戻って来た。

 御前様と一緒にアンダンさんの奥さんがついて来ていた。

 アンダンさんの奥さんは、僕たちにちょっと会釈して挨拶すると、おばさんと子供たちがいる別室の方に向かった。

 どうやら何か重要な話がなされそうだと聞いて、それにエリスとリズ、そしてラーラも加わるだろうから、子守の手が足りなくなるだろうと手伝いに来てくれたようだ。


 集まったところで、僕は話の口火を切る。

 ダイドールがこれだけ人を集めて話をするということは、ダンジョンでレベル2のモンスターが発見されたことは、物凄く問題になったのかもしれない。

 僕は嫌な予感をとても感じていたのだけど、それは僕だけではないのだろう、みんな真剣な面持ちだ。


 「それでダイドール、陛下への報告が何か大問題になったということなのだろうか?」

 ダイドールが答える前にアークも口を挟んだ。

 「仕事をたくさん抱え込んでいて、1日でも早く村に戻りたいはずのお前が、なかなか戻って来ないから、俺たちは王宮で何があったのだろうか、余程大事になっているんじゃないかと、実は心配していたんだ」


 「はい、今、王宮は陛下が御即位された時以来の大きな騒ぎになっています」


 僕たちは、そこまでのことなのかと愕然としたのだが、そこでちょっと間をとったダイドールが、してやったりというような顔をして言った。

 「王宮は今、上を下をの大騒ぎになっています、王子様御誕生で」


 僕たちは自分たちの子供が生まれた喜びと忙しさで、ちょっと失念していたのだが、そうだった、王妃様もエリスとリズのすぐ後に、随分と久しぶりに妊娠して、陛下と共に驚くやら大喜びしていたのだった。


 「でも、まだ王妃様は出産するには早いのでは」

 エリスが少し考える顔をして言った。


 「はい、ちょっと早産だったようで、その騒ぎで私がダンジョンのことを陛下に報告することが出来ず、王都の滞在が伸びてしまいました。

  王子様は生まれてすぐだけは、少し元気がなく心配されたようですが、ほんの2-3日で、普通より小さくはあるのですが、問題なく元気になられたということです。

  王子様がとりあえず安心できる状況になったことで、私が陛下にダンジョンの件をお伝えする時間が、やっと出来たという次第です」


 「それはめでたい!!

  これはすぐにでも陛下の下に向かい、お祝いを述べねばならないぞ。

  アーク、カンプ殿も解っているであろうな」

 御前様が興奮した口調で、そう言った。


 「爺さん、落ち着け。

  それでダイドール、王子様の御誕生は、もう公にされたのか?

  それからダンジョンの件はどうなった?」

 アークが冷静な口調でそう言った。

 先走って動くのは問題になりそうなことは、最近は貴族社会のことが少し分かってきた僕にも想像することが出来た。

 それに僕たちにとって一番重要なダンジョンについてのことは、何もまだダイドールは話していない。


 「王子様の誕生はまだ公にはなっていません。

  ウィークさんによると、王妃様の出産は予定日がまだ少し先だったので、ごく一部にしか知られていないとのことです。

  それを利用して、王子様御誕生を公にする時には、それと一緒に正式に皇太子として指名する事にするみたいです」


 その意味の大きさは僕にも理解することが出来た。

 この国では王が男性でなければならない決まりはないけど、建国以来王には男性がなっていた。

 そのため王女様、つまりベルちゃんは、公爵たちからの政治的な圧力もあり、正式に皇太子として指名されてはいなかった。

 陛下に男児の子供が出来て、その王子を皇太子にするのは、公爵たちからも文句の付けようがなく、これにより公爵やその息子たちなどが王位を継ぐという確率が大きく下がったことになる。

 それは公爵の政治的影響力を大きく割くことになる。


 「それでダンジョンのことなのですが、陛下も大いに驚かれていましたが、とりあえずダンジョンのことは、お生まれになった王子様のことが終わってからのことで、『それまではブレイズ伯爵家に任せるから、あまりことを大きくしないでくれ』とのことでした」


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