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税制改革?

 急にパタッと水の魔道具の売れ行きが落ちた。

 カンプ魔道具店では、陛下の斡旋で来てもらった王都の水の魔技師まで使って、フル回転で懸命に水の魔道具の増産をしていた。

 叙爵式でペーターさんの解説があった後は、本当にそこら中から植林用の水の魔道具の注文が西のデパートに入って来て、それに引きづられるように自動給水器も常に品薄だったのだ。


 とにかくもう何か考える暇もなく、水の魔道具をカンプ魔道具店としては作っていたのだが、それに付随する形で、苗木の増産も大忙しで進められいた。

 それから、こっちは全く予想していなかったのだが、デパートではまた調理器やパン焼き窯といった火の魔道具も売れ出した。

 もうそれらはほぼ普及し切ってしまい、魔力を貯める魔石を補充する以外はそんなに売れないと思っていたのは、大きな間違いだったようだ。

 カンプ魔道具店方式の火の魔道具は、王都と王都を囲む4つの町と、当然ながら僕の領地では完全に普及していたのだが、それらから少し離れた土地では、まだ全然普及していなかったのだ。

 水の魔道具でカンプ魔道具店方式の魔道具の有利さに気付いた人たちは、その水の魔道具や開発によって少しだけ以前より浮いたお金を、自動給水器などに使うだけでなく、火の魔道具にも使うようになったのだろう。

 最近、何だか火の魔技師としての本来の仕事がほとんどなかった僕としては、地味だけどちょっと嬉しい。


 「ということは、光の魔道具もこれからまた売れるわよね」

 町で僕の調理器やパン窯が売れた後、次に光の魔道具が売れたのを覚えていたリズも、そう言ってちょっと喜んでいる。

 

 そう僕たちの本業は魔技師なんだ。

 と、僕は思っているのだけど、きっと周りから見たら”領主をしてる貴族”という認識が一番なんだろうなぁ。



 おっと話が逸れてしまった。

 とにかく、急に水の魔道具の売れ行きが落ちてしまったのだ。


 デパートで売ることを優先して、領内での植林用の魔道具の使用を無くすためと、苗木の生産に人手を取られていた、おじさんとペーターさんは、この状況を利用して予め今回は計画していた、建材用の木の植林に着手した。


 建材用の木は、おじさんが実験で発見したのだが、小さな苗木の時は他の木の蔭となる場所でしか上手く育たない。

 しかし、ある程度成長すると、その制約がなくなり、今現在林になるように植えている木を超えて、高樹となるのだ。

 領地替え前の林は最初それが知られていなかったので、建材用の木を植えることが最初は計画されてなかったので、建材用の木を植えるまでいかなかった。

 今度は最初からそれも計画にあったのだが、やっと建材用の苗木を植えられるだけ、他の植林した木が大きく育ったのだ。


 「カランプル、やっと私の夢の一つが叶ったよ」

 

 建材用の木の植林をした最初の日の晩、僕たちは家でささやかな祝いの席を設けた。

 おじさんは当然すごく喜んでいたが、僕たちもなんだかとても感慨深い感じがした。


 「じい、泣いてるの?」

 「本当だ。 じい泣いてる。

  どっか痛い?」


 子供たちが、ほろっと涙をこぼしたおじさんを見て、そう心配した。


 「うん、大丈夫だよ、どこも痛くない。

  じいは嬉しくて、あまりにニコニコしてたら、涙が出ちゃったんだ。

  お前たちだって、くすぐられて笑い過ぎると涙が出ちゃうだろ。 それとおんなじだ」

 

 子供たちは、おじさんに寄って行って顔を見ていたのだが、そう言われるとニカっと笑って、自分たちの遊びに戻って行った。


 なんだかここも賑やかになって来ている。

 僕とエリスの子供と、アークとリズの子供、それにペーターさんとラーラの子供も2人いる。

 エリスと、リズはまたお腹が大きいから、もうすぐまた増える。

 ラーラは今回は今のところまだお腹は大きくなっていない。


 おじさんとおばさんは、子供たちからは「じい」「ばあ」と呼ばれている。

 僕たちが忙しいので、子供たちはおじさんとおばさんの方に、より懐いている感じだ。

 それから御前様は子供たちから「大じい」と呼ばれている。


 前と変わらず御前様の家は、幼い子供とその母親の溜まり場になっている。

 村人たちの多産傾向はまだ続いているので、こちらも常に盛況だ。

 僕らの子供が呼ぶからだろう、御前様は集まった幼い子供たちからは、同じように「大じい」と呼ばれて喜んでいる。



 僕らはこんな感じで、水の魔道具の売れ行きが急に落ちても、やっと一息ついたという感じで、あまり気にしていなかった。

 ところが王宮から呼び出しが来た。

 呼び出されたのは、僕と、今回はどういう訳かダイドールだった。

 それから組合長にも呼び出が来たみたいで、それなら一緒にと、僕たちは3人で王宮に向かうことになった。


 王都の館に一泊して、その翌日に王宮に向かった。

 今回は公式な呼び出しだったので、服装もしっかりと整えて、王宮の公式の場に向かう。

 最近は叙爵式以外は、陛下たちが僕たちの館に来るだけでなく、秘密の地下道を通って、僕たちも私的な方に来るようにと呼ばれてしまうので、公的な方はなんとなく緊張してしまう。


 王宮の指定された部屋に入ると、組合長だけでなく、東の組合長も部屋の中に居た。


 「おう、カランプル、久しぶりだな」


 「あれっ、東の組合長も呼ばれたのですか。 ご無沙汰してます」


 「なんだか、こうして3人で顔を合わせるのも久しぶりで懐かしいな。

  ところで後ろにいるのは誰だ?

  前に顔を見たことがある気もするのだが」


 後ろに控えていたダイドールが挨拶した。

 「はじめまして、ではありませんが、ブレイズ家の家宰をしていますダイドール_ゲーレルです」


 「おう、よろしくな」


 ここで組合長が東の組合長を窘めた。

 「もう、あなたという人はいつまで経っても、仕方ありませんね。

  カランプル君だけならともかく、その口調を少しはどうにかしたらどうですか。

  カランプル君だって、今はもう立派な伯爵ですし、家宰のダイドールさんも領地持ちの准男爵ですよ」


 「いえ、組合長、お気になさらず。

  ブレイズ家では身分は関係ありませんから」

 ダイドールがそう応えた。


 「確かに、ブレイズ家の領地では、身分で口調を変えたりは必要ないことになっていますが、ここは王宮であって、ブレイズ家の領内でもプライベートの場でもないですからね。

  少しは組合の品位のためにも弁えてもらいたいのですよ」


 「大丈夫だ。

  俺だって陛下たちの前では、こんな口調ではしゃべらない」


 僕はなんとなく嬉しくなってしまった。

 ブレイズ家の領内では身分で口調を変えたりする必要はないことになっているし、村人たちも僕らに対して気軽に接してくれる。

 しかし、村人たちも僕らに対しては様付けで呼んでくるし、どうしても僕らに対して上の立場の人という雰囲気がある。

 東の組合長や組合長は、僕らが学校を出たばかりの単なる庶民だった時からの付き合いだから、そういった感じではない。

 特に東の組合長は、いつも怒られていた時の感じそのままなので、なんだかとても居心地が良いのだ。

 そんな感じでリラックスしていると、文官が僕たちを迎えに来て、陛下が待っているという部屋に移動した。


 「早速だが、今日は話したり決めたりしなければならないことが多い、まずは席についてくれ」


 部屋に入り、僕たちが陛下に対して軽い挨拶をすると、陛下はすぐにこう仰って、僕たちは陛下と共に一つの丸いテーブルに向かって据えられた椅子に座ることになった。


 「皆も知っている通り、最近の王都周辺は素晴らしい勢いで再開発事業が進んでいる。

  それはお前たちも実感しているのではないか?」


 陛下の言葉とともに視線で発言を促された組合の2人は、先輩である東の組合長が答えた。

 「はい、陛下。

  大量に作られている水の魔道具に関わる西の組合は当然ですが、私の東を含めどこの組合も王都周辺は交換の魔石の消費が最近多くなって盛況となっています。

  公爵領の組合も魔石取引量のおかげで潤っているようです。

  一番変化がないのは、再開発との関係が一番少ない南でしょうか」


 「公爵領に関してはこの場には関係ないから、それは放っておこう。

  それぞれの組合がそれぞれの場所で好景気なのは、王宮でも把握している。

  そうだな、財務官」


 「はい、陛下。

  西の組合の取引のほとんどはブレイズ伯爵領ですからちょっと別ですが、他の組合はそれぞれの町ですので、税はそのまま王宮に入って来ますので、その増加によっても明らかに好景気であると判断できます。

  また、西の組合は半分ですが、こちらも当然ながらとても多くの税を納めています」


 陛下は財務官の言葉に頷くと、話をこちらに向けてきた。


 「ところでブレイズ伯、最近の魔道具の売れ行きはどうなっている?」


 陛下から事前の打ち合わせもなく、昨晩ウィークからも今回の呼び出し理由が分からなかったので、僕は何を聞かれるのだろうと思っていたのだが、難しい話ではなかった。


 「はい、最近やっと水の魔道具の売れ行きが一段落した感じになって来まして、その代わりという訳ではありませんが、もう一通り普及してしまったかなと思っていた調理器といった火の魔道具がまた売れ始めました。

  今までの経験則から、これからは次に光の魔道具がまた売れるかな、なんて予想しています」


 陛下はちょっと苦笑いしながら言われた。

 「今のカランプルの言葉は、完全に魔道具店店主のものだな。

  王国貴族の伯爵の言葉とは思えんな。

  まあ良い、聞きたいことには答えている。

  カランプルは今、水の魔道具の売れ行きが一段落したと言ったが、その理由はわかるか?」


 僕は陛下が何を言わせたいのか理解した。

 「王都周辺の領主たち、特に新たに領主となった貴族たちの、再開発にかける資金が枯渇して来たのですね。

  自分のことでないと、なかなか気が回らないのですね。

  陛下に言われて、自分も以前に資金が枯渇して、開発を進められない時があったのを思い出しました」


 「そう、再開発はまだまだ中途と言うより始まったばかりだ。

  だが、今現在は止まった状態になってしまった。

  その理由が領主の資金不足だ」


 陛下は「資金不足」という言葉を印象付けるように一旦言葉を区切って、一拍置いてから話を続けた。


 「それぞれの領地の生産性自体は、再開発によって上がっていることは確実だ。

  それによって民の暮らしも少し向上して来ているのは、火の魔道具や光の魔道具が売れ出したことからも推察できるだろうし、上がってくる税からも分かる。

  ただ、再開発によって増えた分で、今進めようとしている開発の資金を得るのには時間がかかる。

  それに、今までと違って、それぞれの領主たちは大きな財源を失ってもいる」


 僕はピンとはこなかったのだが、東の組合長がすごく嫌な顔をして、それを見て僕らと一番の馴染みの西の組合長も気がついたみたいだ。

 西の組合長が口に出した。

 「交換の魔石の販売による、税収ですね」


 「そういうことだ。

  今までの魔道具では、それぞれの場所で魔技師が魔石を交換して売っていたから、それぞれの土地の領主に10分の2税の半分が入っていた。

  ところが、今は交換の魔石の売買は組合が独占している訳だから、そのほとんどは組合がある場所に限られてしまう。

  王宮はどこで取引がなされようと税の半分が入ってくるので同じことなのだが、それぞれの領主にとっては、とても大きな問題なのだ」


 僕にも問題のありかが理解出来た。

 そう、昔、僕もわざわざ取り引きを遅らせて、自分の領地での取り引きにしたこともある。

 10分の2税の半分が入るか入らないかは大きな問題だ。


 「この問題を避けるためには、それぞれの場所で使う交換の魔石の売買を、それぞれの場所で行えば良いということになるが。

  率直に尋ねるのだが、組合ではそれぞれの地で交換の魔石を売買するということが出来るだろうか?」


 「それはつまり、それぞれの領地に組合で支所を開設できるかどうか、という質問になってしまうと思うのですが、組合にそこまでの力というは人手はありません。

  出来ません、不可能ですとしか言えません」


 東の組合長が、即座に答えたのだが、陛下はなおも言葉を重ねた。

 「組合は今とても利益が上がっているだろう。 それでも無理なのか。

  それに問題は多くの領地でその土地に税金が落ちないことには留まらない。

  魔技師たちは、今ではその多くが魔石に魔力を込めることで生計を立てている。

  それ故にその仕事をするにあたっての利便から組合のある土地に集まって来てしまう傾向があるのは、組合でも把握しているだろう」


 困った顔をして、今度は西の組合長が答えた。

 「はい、私がいるのはブレイズ伯爵領ですから、あまり問題にはなっていませんが、他の組合では、最初は魔技師が近くに集まっていることを喜ぶ傾向がありましたが、すぐにやはり問題となりました。

  ただ、そちらは組合の職員が巡回することで、ある程度は緩和出来始めているのではと思うのですが」


 「確かにその話も聞いてはいるが、流れは止まってはいないのも知っておろう。

  それから、それぞれの地で、魔力を持つ者の掘り起こしが行われているが、新たに見つかった者は、逆にその土地を離れられないから、他の者より不利になりやすい。

  現状まだ上手く活用出来ていないようだ。

  そしてそれ以上に問題なのが、今現在は魔石の交換時には、新たな魔石を組合のある場所まで行かないと手に入らないということだ。

  これでは組合のある場所から遠い領地の者は、酷く不利になってしまう。

  この件は、組合では検討されているか?」


 両組合長とも、陛下の言葉に沈黙してしまった。


 「国としても、このことはとても重視している。

  過激な意見としては、もう魔力を貯める魔石の管理は、組合とは別にしてしまえという意見も出ている。

  朕としては、そこまで過激な機構改革をする必要はないと思っているが、どうにもならない時は考慮せざる得ない」


 なんだか話がとても重くなり、2人の組合長は青くなっている。


 「そこでだ、朕は一つの案を提案する。

  組合は、組合のない領地に対しては、魔石を領主を通してやり取りするということにしたい。

  まあ、それぞれの領主家に卸売するような形を考えてみてもらえれば良い。

  支所を作ることは難しいのだから、領主家を支所の代わりを担ってもらうことにする訳だ。

  ただ、やはり領主家にも利益がなければならないだろう。

  今現在交換の魔石の利益はどうなっている」


 陛下は僕に向かって、その言葉を言ったようだ。

 「はい、利益の2/3が僕たちカンプ魔道具店に、そして、1/3が組合に入る取り決めになっています」

 組合長2人も肯いた。


 「カランプル、そこで相談なのだが、その利益はやはり2/3ないと問題が起こるのか?」


 「さあ、どうなんでしょうか。

  僕としては以前資金不足で魔石が買えなくて苦労した時があるのですが、その時は僕たちの利益を1/3にすることを条件に、組合に借金をして魔石を融通してもらいました。

  そんな風にならなければ良いのですが」

 僕がそう答えると、東の組合長が陛下に向かって言った。

 「陛下、失礼ですが、そんなことをこのカランプルに尋ねたって、まともな答えは返って来ません。

  そういった金銭的なことには、こいつは疎くて、全てエリスに任せっきりなのですから」


 陛下はこの日初めて笑顔を見せて言った。

 「朕もそんなことであろうとは思っていた。

  それで家宰のダイドールも呼びつけたのだ」


 陛下のその言葉にダイドールが答えた。

 「私はブレイズ家の家宰であって、魔道具店の財務を直接に見る立場にはないのですが、実際のことを言うと、ブレイズ家の財政と、魔道具店、雑貨店の財務はもうかなり渾然としてしまっているのが実情です。

  それは魔道具店と雑貨店の利益が大きくなって、組合の帳簿にそれが溜まるだけになりかけたからです。

  エリス様は、お金は死蔵しても仕方ない、回さなければ全体が豊かにはならないと仰って、どの様に上手く使うか考えるように私に指示なされました。

  そこで、開発資金に回してもらうことにしたのですが、人の数の問題で、もう耕作地を増やすことは出来ませんし、今は植林に資金を注ぎ込んでいます。

  それにしても限りがありますし、資金的にはブレイズ家としては今現在は困っていないと言って良いのではないかと思います」


 西の組合長も口を挟んだ。

 「カランプル君の懸念したことですが、今はもう魔石を買うのに困るということはないと思います」


 「それでは、こういうことにしたいのだが、無理があったら言ってくれ。

  交換の魔石の利益を10とすると現状はその内の2が税、約5がカンプ魔道具店、約3が組合に入っている。

  その内、税はそれぞれの地で取引を行うとしたら、1は王宮に入るのだが、それも各地の領主家に入れるものとする。

  組合は3ではなく、2にして1は領主家に入れる。

  そしてカンプ魔道具店は一番厳しいのだが、各地に投資していると考えてもらって、2だけで3は領主家としてもらう。

  つまり、10の内の6を領主家で取り、残りの4を魔道具店と組合で分けるという形だ。

  ただし、これによって得られた収入は使途は領地開発に限定することとして、この措置は人の数の問題で耕作地の開発が止まるまでとする。

  それ以降は、王宮に1、魔道具店は3、組合は2のままとする。

  魔道具店は、実質的にはこの措置によって水の魔道具が売れるし、そうすれば魔石の取引量も増えるので、長期的視野に立てばそんなに損にはならないと思う。

  組合は実質的には1の手数料を払うだけで、多くの支部を持つことになるのだから、こちらは現実的には十分に有利な条件だろう」


 この改革案は速やかに実行に移された。


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