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2年目の順調 その2

 新しく作ったアトラクションは、王女様の宣伝だろうか、すぐに王女様の友人の貴族の家族が3組ほど見学に来て、感動して帰って行った。


 前の村で初めてアトラクションを作った時には、そこからは多くの貴族が次々と訪れるようになって、驚いたというより、まだ貴族という気持ちの薄かった僕たちは、狼狽えたりしたものだった。

 ところが、今回はそういった事態にはならなくて拍子抜けした。


 一番分かりやすい例が、元からの伯爵家だ。

 前の時には、先を争って見に来たのだが、今回はすぐにはやって来なかった。


 「うーん、王女様があれだけ感動されたのだから、また噂になって、貴族が次から次へと来るのかと思っていたのだけどな。

  貴族が来てくれると、それでお金を落として行ってくれるから、今の資金繰りが助かると思ったのだけど」


 「カンプ、今は資金繰りはたぶん困ってないんじゃないかと思うわ」


 「えっ、エリス、そうなの。

  これだけ領地の開発をしているから、それも伯爵領だけじゃなくて、それぞれの家臣の領地の開発もやっているんだよ。

  僕には資金がどれほど掛かっているのか、想像も出来ないのだけど」


 「実はもう、私もどうなっているのか把握できてないの。

  組合との取引は、魔石の取扱量が多くなり過ぎてしまって、ここと東の町にウチ専属の会計さんがいて、そちらが纏めて書類を持って来てくれるのだけど、もうお任せしてるという感じ。

  北の組合からも専属の会計を付けると言って来たから、今後は3つの組合それぞれから書類が来ることになるわ。

  それで、それぞれのところからの上がりで、今は大量に水の魔道具用の魔石を組合から買っている。

  もう量が多すぎて訳が分からないのだけど、組合の会計さんが資金不足を言って来ないから、たぶん魔石を買うことができないようなことにはなっていないと思う」


 「魔石を買う方はそれじゃあ良いとして、家臣たちの分も含めた伯爵家としての開発資金はどうなっているの?」


 「そっちはダイドールが担当してくれているのだけど、報告によると、魔石の売買の税が大きいことと、水の魔道具のほとんどを西のデパートで売っているので、その税収が増えていることなどで、結構賄えているらしい。

  ほら、東のデパートで売ったのでは、税収にはならないけど、西のデパートは西の町にあるのではなく、西の町に隣接する伯爵領内にあるから、税収が入ってくるのよ」


 「ああそうか、全く考えていなかったけど、西のデパートにはそういう利点があったのか」


 「まあ、それで西のデパートの売り上げもすごいことになっているけど、東の方も含めて、そっちはサラさんと両方の店長さんに任せているから」


 「あ、そう言えば、家臣と店員たちなどの給料とかはどうなっているのかな、今気がついたけど、ずっと前に元の領地に移った時くらいに話題にして以来、全く頭から抜けていたけど」


 「えーとそれは、カンプに相談しても意味がないって、基本的にはラーラが決めて、ダイドールとターラントが相談してそれをいくらか修正して、それぞれにきちんと払っているみたい」


 「ま、ちゃんと払えていて、みんなから文句が出てなければ、それで良いや。

  でもラーラってそんなこともしていたんだな。

  何となく、ダイドールがラーラを自分より席次が上ですから、という理由が初めてわかったような気がするぞ、なあ、アーク」


 「おう、まあそうだな」


 こんな話を始めた時、アークとリズも最初から側にいたのだが、口を噤んで、2人とも全く僕とエリスとの会話に入ってこようとしなかった。

 まあ、この2人に関して言えば、僕よりも金銭感覚が怪しいのだから当然かもしれない。


 「でもなんていうか、エリスも良く分かってないのね」

 リズがエリスを自分と同じではないか、という感じで揶揄いの調子で言った。


 エリスが一緒にしないで、と怒るかなと思ったのだが、本当に分からなくなっているようで、弁階調で言った。

 「本当に動く金額が多いし、動きが激しいしで、追いきれないのよ。

  数字だけが動いているのだけど、それもどんどん変わるから。

  私だけじゃなくて、ダイドールも全体は把握し切れていないんじゃないかしら」


 僕はそれで良いのかなと思ったのだが、何か言うと藪蛇になりそうだったので、話題を転じた。


 「話が違う方向に行ってしまったけど、元に戻して、今回のアトラクションには何で人があまり来ないんだろう?」


 「それだけど、前の時に先を争って来た貴族って、やはり最初のうちは見栄張り貴族が多かったんだと思うんだ。

  そういう奴らって、ほとんどが公爵領に移ったんじゃないか。

  そしてそうでなくて、王都周辺に残った貴族たちの方は今はそれぞれの領地をどうするかで忙しいんじゃないか。

  俺やリズの実家はそんな感じだぜ。

  寄子貴族も領地をもらったりしているからな。

  俺たち自身も同じ状況だろ」


 「とりあえず以前と同じ形の、ウチの水の魔道具が行き渡れば、一回落ち着くんじゃないかしら、そうすれば来るんじゃないかと思うわ」


 アークとリズがそんな風に分析した。


 「まあそんなところなのか、貴族がそんな感じじゃあ、庶民はもっと大忙しだろうから、遊びに来ている余裕はないのか。 仕方ないか。

  でも、なんて言うか、多くの人が先を争って見に来ることを想像してたから、ちょっと拍子抜けして、ガッカリだよ」


 僕はそんな風に思っていたのだけど、ちょっと面白いところから、アトラクションを見に来る団体があった。

 リズのところに相談があったのだが、それが僕に回って来た。


 「カンプ様、村の学校の生徒は、陛下たちと共に一番最初にアトラクションを見せてもらったと聞きました。

  その話を聞いて、今、私たちの学校に来ている子供たちにも、アトラクションを見せてあげたいと思ったのです。

  ダメでしょうか?」


 町の高等学校を卒業して、新領地に作った学校の先生になった、元村の子供からの頼みだ。

 僕はアトラクションで村にお金を落としてもらう、つまり金儲けを考えていたのだけど、それとは正反対に、これだと完全にこちらには利益がないというか、まさかお金取れないし、離れた場所から来るから、食事の用意をしたり、遠いところは宿泊も考えねばならなくて、大きく持ち出しだった。

 でも、この伯爵領の学校の生徒だけというのは確かに不公平で、各学校の生徒にも見せてやるべきだと考えて、家臣領の全ての学校の生徒も、アトラクションを見せることになった。


 来た子供たちの食事の準備やら何やらで、おばさんとエリスをはじめ、他の村人にも手伝ってもらうことになって迷惑もかけたけど、やって来た子供たちが凄く喜んでくれたので、僕たちは何というかとても満足した。


 「それにしても、各学校とも結構人数がいるんだな。

  こんなに学校に通う子供がいるとは知らなかったよ」

 僕がそんな風に言うと、リズがふと大問題に気がついた。


 「カンプ、これからも魔力持ちの子や、成績が優秀な子は東の町の魔法学校や高等学校に進学させるつもりよね」


 「それはもちろんだよ。

  自分のところの優秀な人材を、活用しないなんて、ありえないだろ」


 「私もそう思うわ。

  けど、生徒の数はこれからはここの村だけでも増えるわ」


 「うん、前は経済的に苦しかったから、少なかったけど、今はこの村の人は前よりずっと豊かになったからと、子供を多く持とうとしているからね」


 「そうよね。 私たちももう、もう1人を考えても良い時期になって来たわ」


 「エリス、それはまだ早いんじゃないか、まだ小さいよ。

  もう少し十分に構ってあげてからの方が良いんじゃないか。

  ほら、僕たちは出かけたりすることも多いし、普段もあまり構えない時が多いから」


 「それだからこそ、早く兄弟が生まれれば良いんじゃないかしら。

  私もカンプも一人っ子で、兄弟がいなかったから」


 「えーと、その話は別の時にして、今は私が重要な話をしているのだから」

 脇道に逸れた話を、リズが元に戻した。


 「学校の生徒の数は、各家臣領にも学校があるから、今までよりずっと数が増えているのよ。

  それに加えて、これからはこの村だけでなく、きっと家臣領でもここと同じように子供を増やそうとする動きが出ると思うわ。

  そうすると、より一層学校に通ってくる生徒が増える。

  そうなれば当然、東の上の学校に行く子供も増えると思わない。

  するとその子たちにかかる費用も大きくなるけど、それはともかくとして。

  今は、元のおじさんたちの家と、カンプの家を改造して寄宿舎にして通わせているけど、それだけではとても収容し切れなくなるんじゃないかしら」


 僕たちは、アトラクションを見せてあげるという行為のお陰で、この後起こる問題に一つ気付いて、結局、東の町の僕の家とおじさんの家の敷地に、学校に通う子供用の宿舎を建てることになった。


 少し前までは、自分が生まれた時から暮らした家という感傷があって、内部を少し改造したりはしたが、以前のままにしておいた部屋なんかもあって、その家をなくしてしまうことはできなかったのだが、最近は何だろう、今自分たちが暮らしているこの場所こそが自分の居場所のような気がして、そういう感傷が薄くなっていて、躊躇いなく生徒用の宿舎に建て替える決断ができた。


 おじさんとおばさんはそうもいかないかと思ったのだが、2人は凄くあっさりとしてて、

 「自分たちでは、全く使わなくなってしまっているからね。

  子供たちのための宿舎に建て替えるのなら大賛成だ」

と、おじさんに簡単に言われてしまった。


 そうこうしているうちに、僕のところには以前僕たちのところに領地開発の研修に来ていた、様々なところの家臣から、お願いの手紙が届いた。

 まだ何かあるのかと、ちょっと身構えて手紙を読んだのだが、何のことはなかった。

 自分たちの領地に作った学校でも、子供たちにアトラクションを見せたいと思うので、対処していただけないだろうかという、お願いだった。


 僕たちは領地開発の研修に来た、多くの家の家臣たちに、実地の研修をこちらが得られる大きな利もあったので、隠すことなく丁寧に教えた。

 そうして研修が終わった後は、それぞれの領地に彼らは戻っていったのだが、僕たちはそれでお終いというか、次々と研修生が来たので、送り出した元研修生に関しては何も注意していなかったのだが、研修が終わって送り出された研修生の方では、それで終わりという訳ではなかったようだ。

 僕たちは領地開発の農地開発と木を植えることを中心に、ほとんどそこのみを教えて研修させたのだが、彼らの僕の領地に対しての興味はそこで終わることはなく、もっと色々と見ていて、戻った時に真似をして、それ以降も僕らの領地の動きを常に注視していたようだ。


 その戻って真似をしたことの大きな一つが、学校を作って領民の子供の教育をすることだった。

 どうも彼らが学校を作って、庶民の教育をすると計画した時、その上司である貴族たちは良い顔をしなかったらしい。

 そんなことに使う資金があれば、その分を農地の開発に使った方が良いと考えたのだ。

 それでなかなか学校の設立は進まなかったのだが、ここに来て、僕の領地、特に家臣の領地の代官補佐に当たる人物が、東の町の学校を卒業した者であること、家臣の領地の学校の教師になった者も同様であることが知れて、学校を設立するということが、人材の発掘というか、自分の領内で人材を作ることの重要性に目が行くこととなった。

 今は僕の領地だけでなく、どこでも開発のための人材が色々と不足しているのである。

 その不足している人材を、自分の領地内から得ることができるかも知れない利点に、それぞれの領主が気がついたのだ。

 

 という訳で、ここに来て、多くの領地で、庶民を対象にした学校の設立がなされた。

 そして、どこから知ったのだか、情報の出処は分からないけど、僕の領地の学校の生徒が、みんなアトラクションを見るという行事を行ったと知ると、自分の所の学校でも同様に行いたいと言って来た訳だ。


 「でもなあ、アトラクションを見せたのって、ただ単に最初ここの村の子供たちに、単純にアトラクションが出来たから、試しに見せたっていうだけだぞ。

  その後で、みんなの領地の学校の先生になったのが、元村の子たちだからだと思うけど、自分たちのところの生徒にも見せないのは不公平と言い出して、それで見せただけだぞ。

  何も教育のため、なんて真剣に考えての行いじゃないしな」


 「カンプは何を考えているの、来て見たいというなら、見せてあげれば良いじゃない。

  今、アトラクションを見に来る人が混雑している訳じゃないんだから。

  というより、前の時みたいに人来てないから、バークさんが暇そうよ」

 リズがあっさりそう言った。


 「でもだよ。 子供に見せるのだから、アトラクションは只にしてあげても良いと思うのだけど、ここに来るには、僕らの誰のところよりも遠いから大変になるし、きっと最低一泊はしていかなければならなくなるだろう。

  宿泊費や食事代、移動を含めて考えれば、結構大変な費用もかかると思うから、ちょっと大きな行事になると思うんだ」


 「なるほど、そういう問題があったのね。

  それでカンプは私たちがほとんど何も考えないでしたことに、彼らがお金と労力を使って行うほどのことではないのでは、と思って悩んでいる訳ね。

  でもそれは私たちが考えることではないわ。

  彼らが、やりたい、必要だと思うから行うんであって、それを考えるのは彼らよ」


 「ああ、そうか。 僕が考えることではないってことか」


 「ま、そういうこと」


 「あの、カンプさん、リズさん、私もいいですか」


 「うん、なあに、フラン?」


 「新しい学校の教師になった子に私は、

  『フラン先生、アトラクションを見に来るっていうの凄く良いですから、来年も、というか毎年恒例の行事にしないですか。

   新しく学校にきた子供たちをまとめたりするのに、とても役に立ちますから。

   リズ先生や、カンプ様にそれとなく何かの機会に頼んでおいてください』

  って言われていたんです。

  ですから、きっと、他の地の学校でも行う価値があると思うのです」


 「へー、そうなの、フランはそんなこと頼まれていたの」

 リズもちょっと驚いたようだが、僕も驚いた。

 アトラクションを見せたことが、新しい学校の運営に役だったなんて思っていなかった。


 「それじゃあ、これからももっとどんどん記念樹の森は広がっていくねぇ」

 少し離れたところで何か書類を見ていたおじさんが、急にそんなことを言った。

 どうやら、僕たちの話を少し聞いていたようだ。


 「はい、おじさん、記念樹の森が広がっていくって、どういうことですか?

  それ以前に、記念樹の森って何ですか?」


 「それは私とペーター君で計画した森の名前だよ。

  この村に来た人に、この村に来た記念に1本木を植えてもらって、それで森を作っていこうという計画さ。

  ほら、一番最初の1本目は陛下に植えてもらっただろ」


 「ああ、あれって、そんな遠大な計画の第一歩だったんですか」


 「あの後、王女様のお友達や、それぞれの地から来た子供たちも、学校ごとに植えていったよ。

  まだこの地を訪れる人が少ないから、植えられた木の本数も少ないけど、ゆくゆくは大きな森になると良いねぇ」


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