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2年目の順調 その1

 新領地の開発は2年目になり、初年のバタバタとした気配は消えて、物事がだいぶ順調に進むようになった。


 新しく、東の町の学校を卒業した村出身の子供が戻ってきて、もちろん全員ブレイズ家として雇い入れる。

 人材不足だけは一朝一夕に解決できる問題ではない訳で、村出身の人材を流出なんて断固させられない。

 もちろん子供たちだって、それぞれの家庭に事情もあるだろうし、強制出来ることではないのだが、全員が喜んで応じてくれた。


 「私たちに雇われてくれというのは強制じゃないぞ。

  それぞれに事情があったり、何か別にやりたいことが出来たなら、それを優先してくれて構わないからな」


 僕は卒業してきた子供たちに、そう声を掛けた。

 僕が僕たちに雇われないかと言うと、何だか領主が領民に対して強制しているような気が自分ではしてしまって、とても嫌なのだ。

 だが人材確保は第一の課題だから、僕自らが声をかけることにしたのだ。


 子供たちが答えてくれた。

 「カンプ様、僕は魔法学校を卒業しましたけど、魔技師としてカンプ魔道具店以上の職場なんて聞いたことがありません。

  入れていただけるなんて、嬉しくてしょうがありません」


 「僕は高等学校の方ですけど、町の学校に行って、初めてカンプ様たちのしていることが凄いことだったんだって、解りました。

  僕は町に出るまで、偉い人っていうのはカンプ様たちしか知らなかったから、町に出て色々な地位の高い人を見て、カンプ様たちが普通なのではなくて、逆にカンプ様たちがとっても珍しいんだということを知りました。

  僕は町の学校で、ちゃんと学んだつもりですけど、僕が町に行かせてもらって一番良かったと思ったのは、僕たちはとても恵まれていたんだということが分かったことです。」


 「それに私たち自身も思っていたことなんですけど、うちの親たちは、『カンプ様や、リズ先生の下で働かせて貰えるのならば、一番安心だ』って。」


 良かった、僕の言葉で仕方なしにという訳でもなさそうだ。

 「うん、ありがとう。 それなら良かった。

  でも何か困ったことがあったら、何でも上の人に相談するんだぞ。

  もし相談しにくいことだったら、話やすい人誰でも良い。

  リズでも、フランやリネでも、もちろん私やエリス、アークでも良い。

  それぞれの場所でみんな、忙しく働くことになると思う。

  頑張ってくれ」


 去年よりも今年の方が学校を卒業してきた者の数が多かったので、ちょっと嬉しい。

 昨年ターラントの下に付けた子が、もうだいぶ1人で色々出来るようになったように、少しすれば大きな戦力になってくれるだろう。


 学校の卒業生が入ってきたのを契機として、少し担当を変えた。


 一番大きな配置換えは、イザベルだ。

 イザベルはラーラの領地の開発の責任者となっていたのだが、やらせてみたら、そういった内政を回していく才能が元からあったらしくて、素晴らしい手腕でラーラの領地の開発を進めていった。

 これはもちろん、正式な代官となったフランの従兄弟のフランクの手腕によることももちろん大きいのだろう。


 イザベルは、ラーラのところではなく、中心であるこの村に拠点を戻してもらって、ダイドール、ターラントと共に、僕と家臣たちの領地全ての経営というか、運営をしてもらうことにした。

 フランクの下には去年のターラントのところのように、卒業生を送り込み、代官として一本立ちするように教えさせることにして、近い将来的にはフランクにも全体を見てもらうことを考えている。

 フランクの手腕も明らかにラーラの領地の代官だけにしておくには、もったいないからだ。


 ターラントは西の町の代官と、アークの子爵領の代官を掛け持ちしていたのだが、いくらなんでもそれは無理があったので、アークの子爵領の代官は去年見習いをしていた子に交代することとなった。

 流石に1年見習いをしただけで、代官として一人前に務まるまでは期待できないので、まだ代官はターラントにしておいて、なるべく実質的なところは去年の見習いに任せるという形にしようと考えた。

 そこで正式に副代官という名称にして箔をつけて、実質は任せてしまうこととなった。

 副代官では無理な部分はターラントが、そして自分の領地経営をさぼっているアークが去年よりは頻繁に自分の領地を訪れて、助けることになった。


 それから西の町について、こちらは正式な陛下より指名された代官はアークなのだが、アークは西の町については全く関わろうとしないで、丸投げでターラントに任せているので、誰もがターラントが西の町の代官だと思っているくらいだ。

 西の町の代官の仕事は、もう出来上がっている西の町のインフラの保守をしたり、様々な利害関係の調整をしたりという普通の行政という感じで、本当はそういうことの調整に長けた、王都にいる貴族の行政官などが着けば良いと思うのだが、つまりターラントの本領が発揮される仕事ではないと思うのだが、他に人材がいなくて、ターラントに任せるしかない状況になっている。

 その為、ターラントは西の町にいることが一番多くて、村には全体の話し合いの時に戻ってくるだけくらいになっている。


 ターラントだけでなく、ダイドールもなのだが、せっかく自分の領地をもらったのに、自分の領地の開発は自分では忙し過ぎて、ほとんどノータッチになってしまっている。

 まあそれはウィークの領地に関しても言えることだから、しょうがないのかもしれない。

 それもあって、ダイドールたちは、家臣の領地は全て実質的にはブレイズ伯爵領として運営するという方針での開発を選んだのかもしれない。

 でもターラントは前から開発を主に担ってきて、大きな実績をあげてきた。

 自分でもその方面が好きらしいので、本当は自分の領地の開発は自らの手で行いたいんじゃないかと思うのだが、なんとも仕方ない状況だ。



 領地の開発と共に、家臣領も含めた僕の伯爵領で重要視しているのが、教育だ。

 以前に村に学校がなくて、子供たちが学校に通っていないだけでなく、村人が魔力があるかどうかの判定さえしていなかったことに驚いたことがある。

 僕たちはそれを、砂漠の僻地にある村という特殊環境にあるからだと思っていた。

 僕とエリスが生まれ育ったのは東の町だし、アーク、リズは王都出身で、家臣やカンプ魔道具店、エリス雑貨店の店員になっている人も、ほとんどがそのどちらかの出身だったから、自分たちの置かれていた状況が普通なのだと思っていた。


 ところが、家臣たちが新しい領地をもらい、そこに様々な場所から新たな領民を迎え入れることになって、そうなってから調べてみると、王都や町では僕たちのように学校に通ったり、魔力があるかどうかの検査を受けているのが普通だったのだが、それ以外の場所では元の村の人たちと同じ様に、学校が無かったり、魔力の検査を受けたことがない人がたくさんいたのだ。

 どうやら元の村の状況は、僻地の特殊な環境ではなく、王都や町以外に暮らしている人々の間ではまだまだ普通のことだった様だ。


 そこで僕たちの領地では、家臣の領地にも必ず学校を作り、領民に魔力があるかどうかの検査をすることとした。

 子供たちに教育をすることは、将来的に人材不足を補う為には重要なことだし、領民の中に魔力を持つ者を1人でも多く見つけられれば、魔石に魔力を込める人材の確保になるし、領民の収入の増加に繋がる。


 各領地の学校の立ち上げと、領民が魔力を持つかの判定はリズとフランが担当した。

 学校を立ち上げて、そこの教師には高等学校を卒業した者を派遣した。

 学校を卒業したばかりで、子供たちを教えるのはちょっと心配だったのだけど、どうにも人材がいない。

 でも実際に学校が開校されて、授業が始まってみると、教師になった卒業生は、みんな割とすぐにその仕事に馴染んで、きちんと学校でその場に合わせた授業を行なって、どんどんその地の住民の信頼を得ていった。


 「なんか始めるまでは不安だったのですけど、自分たちがリズ先生たちに教わった時と、同じ状況ですから、学校に来る子供たちや、その親御さんの気持ちも分かるし、リズ先生たちにしてもらったことと同じことを、今度は私たちがすれば良いのだと思いました。

  それで私たちがしてもらったことと同じことを、私たちもしたら、学校に来る子供たちにも、その親御さんにも信頼してもらえました」


 そうか、教師になった卒業生たちは、ちょうど元の村での学校の立ち上げ時に、生徒として立ち会った子たちなので、その自分たちの経験がちょうど役に立っているらしい。


 それから、魔力を持っていた領民に魔石に魔力を込める技術を教えるのは、前の時と同様に火の魔技師さんたちに頼んで、出張してもらった。

 快く引き受けてもらえて、助かった。


 そして僕たちの本業、いや、今ではもう何を本業と言って良いのか分からなくなっているのだが、カンプ魔道具店とエリス雑貨店のことである。


 水の魔道具作りは、順調に軌道に乗っている。

 陛下が派遣してくれた水の魔技師たちは、まだ最も基本的な今までと同じ水の魔道具をカンプ魔道具店方式にした魔道具を作ってもらっているのだが、まだまだ需要に追いついていない。

 王都周辺の人々にとってはそれでも新しい水の魔道具の普及は、以前の村の時に火の魔道具を普及させる時と同じ様に、魔石一個の値段で交換出来ることにしてある。

 そして交換した水の魔道具は今までと同じ様に使っても、より長く一つの魔石で使用できることが分かると、今までの水の魔道具との交換希望が、その水の魔道具を置いている、東と西の百貨店、そして北の支店に殺到した。

 流石に一度にはその数を捌ききれないので、予約制にして、予約上位の方から交換時期が来た時に交換していくことになったが、この一年を掛けてもまだ捌き切れないだろうと思う量の予約が入っている。

 そんな訳で派遣された魔技師たちは、せっせと最も基本的な魔道具を作っている。


 陛下はそんなに時間が掛かるなら、「もっと多く水の魔技師を派遣する」と言ってきたが、それは断った。

 水の魔技師を派遣してもらって、カンプ魔道具店方式の水の魔道具を作ることが出来ても、その中核となる魔力を貯める魔石を作る技術は教えられない。

 魔力を貯める魔石を作る技術は、カンプ魔道具店の門外不出の技術で、これは秘匿技術であって、派遣された水の魔技師に教えることは出来ないのだ。

 それは魔力を貯める魔石を開発した時からの、組合との堅い約束でもあるし、その事は陛下も理解している。

 組合としても、そこで統制が取れないと組合の基盤自体が揺るぐので、絶対に引けない部分でもあって、僕らの利益優先という訳ではない。

 魔力を貯める水の魔石は、元からの家臣たちとカンプ魔道具店に加入した卒業生たちが総がかりで作っているが、需要に追いついていない。


 そのしわ寄せをもろに食っているのがラーラで、水の魔道具のお知らせライト用の光の魔道具を1人で一手に引き受けることになってしまっている。

 林や街路樹の植林のための水の魔道具には、そこまでの必要はないから、お知らせライトが付かないが、他の水の魔道具にはお知らせライトが付くから、大忙しなのである。

 流石にラーラ1人では対応できないので、入ったばかりの卒業生の1人が光の魔技師だったので、ラーラの下に付けている。

 ラーラは自分の領地の仕事だけでも、まだ慣れないから書類に判を押すだけのことも、その書類を読んで意味するところをきちんと理解するのに時間がかかり大変な様だ。

 まあ、ブレイズ伯爵家の魔力持ちの家臣たちは、全員他の仕事をしながら、魔石に回路を書き込むことは、出来る様に仕込まれているのであって、ラーラも一番初期からのメンバーだから、当然それは出来るから、実際的な問題はないのだが。

 それでも毎日、出来上がった魔石を取りに来られるのは嫌らしい。

 ちなみに以前はラーラが1日に作れるお知らせライト用の魔石は12個で、リズが作れる数と同じだったのだが、魔力量が幾らか増えたのか、それともその回路を書き込むことに習熟して魔力の使い方に無駄が無くなったのか、最近では15個作れる様になった。

 入ったばかりの卒業生は、まだ7個しか出来ないし、並行して何かをすることはまだ出来ない。


 リズの作る光の魔道具もダンジョン用の需要が衰えない。

 カンプ魔道具店方式の火の魔道具が普及して、魔石が少し余りだした頃、その余った分を水の魔道具にして、耕作地が少し広がった。

 それに合わすように、北のダンジョンも東のダンジョンも少しだけ大きくなったという報告が上がったのだが、その時にはダンジョン用の光の魔道具の売り上げが増えた。

 昨年から今年にかけて、王都周辺の人口が公爵領に流れて、少し放棄される耕作地が出たのだが、そうしたらダンジョンがそれ以上大きくなることはなくなり、ダンジョン用の光の魔道具の需要も減ってしまった。

 やはり、ダンジョンの新しい場所に向かうと、予期せぬことも慣れている場所よりも起こりやすく、それによって光の魔道具を壊したりもしやすいのだろう。

 それに新しく少しでも広がったと聞けば、ダンジョンにより入っていく人数も増えるからだろう。


 最近になって、新たに領地を分け与えた効果が出たのか、カンプ魔道具店方式の水の魔道具が少し出回ってきたからか、放棄されていた耕作地が復旧してきただけでなく、少しだけ耕作地が広がりだした。

 するとやはりダンジョンが活気を少し取り戻し出した。

 もしかすると、耕作地の広がりとダンジョンの活気は連動するのかもしれない。

 そんな訳で最近はまたダンジョン用の光の魔道具の売れ行きが活発化しているのだ。

 リズはそれにかかり切りだ。


 そしてアークだが、トイレの魔道具が売れている。

 皮肉なことだが公爵領に新たに移った貴族が増えて、トイレの魔道具の需要が一気に増えた。

 公爵領では、カンプ魔道具店方式の魔道具は使用しないことが原則として決まっていて、公都の組合では魔力を貯める魔石は取り扱っていない。

 それでも特に東の百貨店と組合では、トイレの魔道具と普通の魔力を貯める魔石の需要が一気に増えた。

 まあ、何となく、理由が分からないでもない。


 で、気がつけば、店主の僕が一番暇なような気がするが、そんな事はなくて、みんなが出来ないので、普通の交換用の魔石をせっせと作っている。

 僕もラーラと同じように、作れる数が10個から12個に増えた。


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