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西のデパート見学

 陛下と僕たちのの話が済んだかどうか、ちょっとだけ気にする間があってから、王妃様が声を掛けてきた。


 「やっと話が終わったかしら?

  思っていたよりも随分と長く話していたから、ちょっと待ちくたびれちゃったわ」


 王妃様はそう口を尖らして、不平を言う。

 

 「ああ、すまない。

  カランプルとアウクスティーラと、色々と話し合うことがあったのだ」

 「それはもちろんこちらにも聞こえていましたから、私も自分のおしゃべりの間に耳に幾らかは入ってきたから、分かりますけど」


 うーん、王妃様はちょっとご機嫌斜めの様だ。


 「私も待ちくたびれました」


 王女様が王妃様よりも口をもっと尖らせて、陛下に不平を言った。


 「わかったわかった。

  でも、必要な話だったんだ。 なあ、カランプル」


 僕に振られても言葉に困るのだけど。


 「はい、すみません、話が長くなってしまって。

  でも陛下はともかく、僕たちにとっては重要な話だったんです」


 王妃様は陛下を、僕に話を振るのはずるいとちょっと睨んだけど、陛下に不平を言うのを止めてくれたみたいだ。

 陛下が上手くいったという顔をしているけど、後で大丈夫かな。

 エリスの場合こんな時、後での方が怖いのだけど。


 でも、こうやって僕たちの王都の館でだったり、王宮のプライベートの場で見せてくれる陛下と王妃様の姿はとても仲が良いように見える。

 それなのに何故、子供が王女様だけなのだろうか。

 公爵が大きな影響力を持っているのは、そこにも原因があって、アークやリズの実家などでは王子の誕生を望んでいるのだが、次の子供が出来ないのだ。

 王女様が僕らの館に来たがるのは、僕たちの赤ん坊に会いにきているということもあるのだから、早く次の子供を作ればと思うのだが。


 「少し遅くなりましたけど、大急ぎで出かけましょう。

  ウィーク、馬車の用意をお願い」


 今までは部屋の中にはいたが、隅の方で目立たないようにしていたウィークが、ちょっと驚いた声の調子で王妃様に答えた。

 「王妃様、今からどこかにお出かけになるのですか?」


 王妃様ではなく、王女様が答えた。

 「西の町の先の、元公爵邸のデパートにこれから行くの」


 今度は明らかに困った顔でウィークは、王女様に向かって言った。

 「もう、この時間からでは急いでも、そこには残念ですが行くことは叶いません」


 王女様はそのウィークの言葉に、怒っているのかがっかりしているのか分からなない調子で言った。

 「えーっ、まだ十分行けると思ったのに」


 「確かに行くことはできますが、今日問題にならない時間までに王宮に戻るには、向こうに着いたかと思ったら、すぐに戻ってこなくてはなりません。

  それでは行った意味がないでしょう」


 陛下が口を出した。

 「西のデパートは、その一部が宿泊施設にもなっていると聞いているぞ。

  まあ、元が公爵邸なのだから、十分その余裕はあっただろう。

  私たちも、そこに一泊して、明日戻れば良いではないか」


 「陛下、それは王宮の者たちに知らせてある予定なのですか?

  少なくとも私はそのような予定は何も聞いていないのですが」


 ウィークは普段は全く見せることはないが、陛下たちのお忍びの影の護衛たちを秘密に総括する立場にある。 そのウィークが全く予定を知らないのだから、完全に陛下たちのその場の気まぐれの言葉なのだろう。

 陛下もこの件に関しては旗色が悪いと思ったのだろう、言い訳を口にした。


 「王女だけでなく、私も西のデパートに行くのを楽しみにしていたからな。

  ちょっと希望を言ってみただけだ。

  さて、話が少し伸びてしまって、困ったことになったな。

  確か、明日は特別な予定が入ってなかったな。

  仕方がない、予定を変更して、明日にしよう。

  その替わり、明日は朝からにして、十分な時間を向こうで過ごせるようにしよう。

  これなら今日行くよりも良いだろう。

  ウィーク、そういうことで頼むぞ」


 王女様も仕方なく、渋々という感じで陛下のその言葉に従った。



 翌日は朝から陛下たち3人と元公爵邸の西のデパートに行く。

 僕たちはその後王都には戻らない予定だから、子供も連れて行く訳で、おじさんとおばさんが今回は一緒だから何とかなるが、そうでなければ本当に困ったところだ。

 それでも今回は、デパート自体の案内は、店長とサラさんに主に任すことにした。


 一つには、店長とサラさんに地位の高い人と接することに慣れてもらう為だけど、もっと大きい理由は、本当に西のデパートのことに関しては僕たちは他が忙しくて、2人に任せっぱなしになっていて、詳しい説明が出来ないからだ。


 僕たちは2手に分かれて、デパートを見て回った。

 と言っても、そんなに歩き回った訳ではない。

 僕とアークは陛下に付いてデパートの中を見ることにしたのだが、陛下は魔道具売り場から全く移動しなかったからだ。

 僕たちにしてみれば珍しくも何ともないのだが、木の水やりの魔道具や、畑や牧場のための散水の魔道具、そして草刈りの魔道具などは陛下にとっては珍しいらしく、水系の魔道具は見本として置いてあるだけで今現在は販売してなかったりもしたので、興味津々でそれらをいじくり回していて、他は目に入らなかったからだ。


 王妃様と王女様の方はエリスとリズが一緒したのだが、こちらはこちらでデパートに出店している服屋さんで、ずっと色々な服を脱いだり着たりして試していたようだ。

 2人にしてみれば、王族として着るドレスの類はたくさんあるけど、普通の下級貴族や庶民の服まで、あの服屋で手掛けているとは思わなかったらしい。


 午前中はそんなこんなで過ごして、昼食はデパート内の食べ物屋で取ることにした。

 庶民と一緒の場所で食事をすることなんて普段全くあり得ない王女様は、何だかそれにとても興奮して、食べ物の味も分からないような感じだった。


 でも、ちゃっかりと食事が終わると、王妃様に

 「お母様、この後はケーキを食べに行きますよね。

  ここにもケーキのお店はありますよね」

 「そうね。 今は食べられないけど後でね。

  エリス、ここにもあのケーキ屋さんはあるわよね」

 「ケーキ屋ではなくて、本来はパン屋なんですけど、ベークさん本人ではありませんが、御弟子さんがやっていて、同じ物を出してくれるお店はありますよ」

 「味も本店に遜色ないと思います。

  ただ、今はルルドの実のケーキだけは、まだ今はありませんけど」

 エリスだけでなく、サラさんもエリスの言葉に付け加えた。



 午後はデパートに付随する水場で、見学も兼ねて寛ぐことにした。

 昼食を取る前は3人とも移動の後に休みもせずに商品を見ていたから、午後の時間はゆっくりと過ごしてもらおうと思ったのだ。


 木陰に設置してあるテーブルと椅子で僕たちは、水場で遊ぶ人たちを眺めることにした。


 「カランプル、ここは確か色々な水辺の草花が植えられていた池だったと思うが」

 「はい、その通りです。

  公爵も池の中や周りに植えた草花は、手に入れるのがなかなか大変だったらしくて、この辺りでは珍しいこともあり、全て新たな領地の方に持っていかれたのです。

  それでまあ、池というか大きな水溜りという感じの場所が残っていました」


 アークが僕に続く

 「最初は、それでは維持するのに水の魔石を使うのは勿体無いと思って無くしてしまおうかと考えたのですけど、王都には陛下の王宮の庭に池があり、水が湛えられいる場所というのを見ることがありますが、庶民は海以外の水が湛えられている場所を見ることがないからと思い直し、池として残そうと最初考えたんです。

  そうして、いざ残してみたら、デパートに来た子供たちが、その池に入って遊び出したんです。

  ちょっとそれは想定していなかったので、最初はそれで池で汚れた子供たちに困ったりしたんで、じゃあもうそれなら、水に入って遊べることを主目的にしようと、池を改造して、深さも変えて、底や周りも固めたり綺麗な砂にして、今のような姿になったんです」


 「そうしたら、何故かデパートよりこの水場で遊ぶことを目的とした人も多く訪れるようになりました」

 店長さんも言葉を添えた。



 「でもただそれだけでは、水の魔石や施設の維持管理の費用が全く出ないのではないか。

  この水場はブレイズ伯爵家の庶民へのサービスなのか」



 「いえ、僕たちにはまだ開発に必要なお金がたくさん必要で、そんな余裕はありません。

  それにここは一応エリス雑貨店の運営する西のデパートの施設で、直接ブレイズ家のモノという訳ではないですから」



 「あら、エリス雑貨店もカンプ魔道具店もブレイズ家のモノではないの」

 王妃様にそう突っ込まれてしまった。


 「確かにそれはそうなんですけど、エリス雑貨店は私たちが親から引き継いだモノですし、カンプ魔道具店も私たちが貴族になる前に始めたことなので、伯爵家というか領主としての仕事とは別に考えています。

  ですからそれらはどれも経理はそれぞれ独立していて、別々になっているんです。

  それで、この水場については西のデパートの管轄ですから」


 エリスの説明に続いてサラさんが説明した。


 「そこで最初はこの水場を周りと区切って、入場料を徴収しようかとも考えたのですけど、それも壁を作ったりの工事も必要になりますし、このデパートは元が公爵様の館ですから、水場も建物と一体化して作られているので、区切るというのもあまり現実的ではありません。

  どうしようかと頭を店長さんと絞った末に、水場の周りで飲み物や軽い食べ物などのサービスを提供して、そこで利益を得ようと考えました。

  そして今の形に落ち着きました。

  幸い必要経費は賄えています」

 店長さんもサラさんの言葉にうなづいていた。


 「なるほどな、今もらっているこの飲み物などの利益で賄っている訳か」

 陛下がとても感心したという感じの声を、サラさんと店長さんにかけた。

 2人はお忍びだけど、直接陛下に声を掛けてもらって、何だか急にとても緊張している。


 「私も水に入ってもいい?」

 王女様が王妃様にそう聞いた。


 王妃様は不意を突かれた感じで、ちょっと考えてから答えた。

 「そうね、確かにみんな楽しそうね。

  だけど私たちは水に入れるような格好を今日はしていないわ。

  だから今日は残念だけど、見てるだけにしましょう」


 「ねぇ、エリス、リズ、デパートにはもちろん水に入るための服も売ってるよね」


 完全に意表を突かれてリズがしどろもどろに答えた。

 「はい、確かに売ってはいるでしょうし、着替えるための場所もあることはありますが」


 「ほら、お母様、何の問題もないわ」


 「流石に今日はそのつもりはなかった。

  今日は時間ももうそんなにないからな、まだケーキを食べなければならないのだろう。

  それは次の機会にとっておきなさい」


 陛下が王女様を止めて、その話は終わったのだが、ケーキを食べた後も王女様のちょっと尖った口元は治らなかった。


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