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呼び出されたアーク

 元公爵邸の問題が一応の決着を見せて、なんだかんだありつつも何とか回るようになったと思ったら、それを待っていたかのように王宮からの使者が来た。

 少しは予想していなかった訳ではないが、陛下からの呼び出しだ。

 きっと領地を交換した僕たちが少し落ち着くの待っていて、この時期の呼び出しなのだろう。


 「そろそろ王妃様に渡してある肌水も切れる頃だから、百貨店で肌水をまた売り始めたと聞いて、持って来いという催促かしら」

 半ば冗談でエリスがそういうと、

 「それならカンプとエリス、2人だけで良いじゃないか。

  何で俺たちまで王都に呼び出されなければいけないんだよ。 2人が行けば十分じゃないか」


 今回の呼び出しは僕たちだけでなく、アークたちも来るようにというモノだった。

 肌水の販売再開の初回だから、僕らは行くことになるなと覚悟してはいたのだけど、アークは王都に行く順番はまだ先だとのんびりしていたのだ。


 「前みたいに何日もかかる訳じゃない。 王都に行くのに1日、向こうで用事を済ますのに1日、戻ってくるのに1日。 最低なら3日間じゃないか。

  僕とエリスだけに押し付けずに付き合えよ。

  そもそも王都はお前たちに取っては元々の地元じゃないか」

 「いや、俺の地元はもうここだ」

 芝居かかった感じでアークがそう言うので、僕たちは吹き出してしまった。


 「冗談はともかく、何で私たちも呼び出されたのかしら?

  陛下だって、西の百貨店が動き出したとはいえ、私たちがまだまだこの新しい村を作るのに忙しいことは解っているでしょうに」

 リズが真面目に疑問を表した。

 「うーん、僕にもわからないなぁ。

  とりあえず一度は陛下にすぐに会うことになるだろうとは思っていたけど、僕たち4人揃ってとは考えていなかったからなぁ、僕も」


 今回の王都へは、おじさんとおばさんも行くことになった。 僕たち4人ともが王都に行くことになると子供を連れて行かない訳にはいかず、そうすると何かの時に備えて、子供の面倒を見てもらう必要があるからだ。

 おばさんが村を離れると、前は御前様の食事の問題があったのだが、今はアンダンさんの奥さんもいるから、その問題は解消されている。

 それに食堂はおばさんがいない間は、ラーラが中心になって開いてくれるという。


 僕たちは直接王都へは行かず、初日は西の百貨店泊まりにして、その次の日の半日をその視察に充ててから王都へと向かった。

 夜にこの時とばかりに、ターラントとサラさん、そして新たに西の百貨店の店長になった元東の店長がやって来て、現状報告と問題点と今後の予定などの話し合いをすることになった。

 当然それは予定していたのだけど、3人の熱意が凄かった。


 ターラントに一緒について来た学校を出たばかりの土の魔技師に、リズが声を掛けていた。

 「どう? ターラントの下で仕事をしてみて、困っていることとかない?」

 「はい、リズ先生、大丈夫です。

  まだまだ仕事らしい仕事は何も出来ていないと思うのですけど、ターラントさんもサラさんも、そして店長さんも僕には優しくしてくれます。

  早くちゃんと一人前として仕事を任されて、役に立つと言われるようになりたいと思います」

 「そう、良かったわ、頑張ってね。

  あなたたちが村出身の初めてのブレイズ家の家臣なんだから、後輩たちのためにも実績を積み上げるようにしてね」

 「こら、リズ、変なプレッシャーをかけるなよ。

  今は言われたことをしていれば良いのだから、気楽に仕事をしてくれ。

  ターラント、サラさん、そして店長さんも、ゆっくり長い目で面倒を見てやってくれ」

 「「「はい」」」

 僕はリズを注意し、新人に軽くアドバイスし、指導する3人に頼んだ。



 「ウィーク、何で俺たちまで王都に呼ばれたんだよ?」

 アークは王都の館に着くと、開口一番にそう訊ねた。

 「アーク兄さん、僕もその理由は聞いていない。

  でも明日の午前中にアーク兄さんたちは公式に王宮に呼ばれることになっているよ」

 「えっ、カンプたちじゃなくて、俺たちの方なのか」

 「ああ、理由を知らされていないけど、そういうことになっている」


 あれっ、どうやら今回はアークたちの方が主役で、僕たちの方が付け足しだったみたいだ。

 僕とエリスは何だか急に気楽な気持ちになったのだが、逆にリズは少し緊張した顔をした。



 「グロウランド子爵、西の町の代官を命じる。

  また、西の町に隣接する前代官のアクエス子爵の領地を、新代官のグロウランド子爵に移管する。

  アクエス子爵の領地に関しては、広大な公爵領の一部を割譲すると、公爵の申し出があったので、安心して別途そちらで詳細を聞くように」


 今回王宮にアークたちが呼ばれたのは、この人事を公に伝えるためらしい。

 アークたちが子爵となった時点で、どこかに領地が得られることは決まっていた訳だが、公爵と僕が領地を取り替えるという大事があったので、アークたちの得られる領地がどこになるか決まるのが遅れていたのだ。

 ちなみにアークたちは僕のように、新たな領地に5年住む必要はない。 僕と共に領地経営をしていたのが有効となり、領地経営をしたことのない新米貴族とはみなされないからだ。


 「西の町に隣接した場所というのは良いんだよ。 西の町に隣接しているということは、カンプたちの伯爵領とも隣接していることになるから、伯爵領と子爵領を合わせた形で領地の発展を考えれば良いのだから、都合が良いくらいのものさ。

  でも、何で俺が西の町の代官職をしなくちゃならないんだよ。

  西の町は、元は公爵の息の掛かった歓楽街だったから、有力なそういった店は公爵領に引っ越したみたいだし、すぐ隣に俺たちが元公爵邸を百貨店にしたから、人がそっちに引っ張られたこともあって、今では寂れているぞ。

  何で俺がそんなところの代官しなくちゃならないんだよ。 子爵といっても俺はカンプたちブレイズ家の寄子の貴族だぞ。 寄子の貴族が西の町の代官て、おかしくないか」


 王宮から戻って来たアークが盛大に愚痴っていると、もういつもの事で慣れてしまっているのだが、前触れなく奥の扉が開いて、陛下、王妃様、王女様と3人揃って部屋に入って来た。

 陛下、王妃様、王女様は着替えていて、どちらかというと庶民よりの服装をしていたので、王宮から戻っての内容の報告と愚痴ることに専念していて着替えていないアークとリズの方が、何だか上位の貴族のような見た目になってしまっている。


 「聞こえたぞ、アウクスティーラ。 なんだブレイズ家の寄子の貴族であることを問題に思うなら、すぐにでも完全に独立した貴族にしてやるぞ。

  子爵となれば、それでも全く問題ないからな」

 陛下はちょっと揶揄う口調でアークに部屋に入ってくるなり言った。


 「陛下、私はそんなことを言っているのではないのです。

  西の町は陛下の直轄地、陛下に近しい貴族の誰かが代官になるべきではないかと思うのです」

 「そうじゃな、それだからこそ近しいアウクスティーラに頼むことにしたのだが」


 アークが言葉に詰まった。

 陛下はちょっとアークを揶揄い過ぎたかなという感じで言葉を続けた。

 「何、前任のアクエス子爵も今度は公爵領の一部を領地とするので判るように、実質的には公爵の寄子だったのだ。

  グロウランド家がブレイズ家の寄子であっても、前から比べればずっと私は問題を感じないよ」


 「とりあえずアークとリズは服を着替えてきたら。

  陛下たちも庶民に近い格好をしているのに、あなたたち2人が王宮に行く時の正装の格好のままなのは何だか変だわ」

 エリスがそう言って、2人は自分たちの部屋に着替えに行った。


 2人が着替えで席を外している間の話の主役は王妃様とエリスだった。


 「はい、まだ前に採った実を保管していますから、しばらくは肌水を供給できると思います。

  でも、さすがに今年はルルドの実の収穫はほとんど見込めません。 来年になれば、ルルドの木の成長は速いですから、ある程度の収穫は見込めると思うのですけど」

 「公爵領となった、元の村から買い取れるのではない?」

 「いえ、王妃様。 前の村のルルドの木は、こちらに移る時に切り倒してしまっているのです。

  それにルルドの木はその栽培方法がちょっと独特で、その方法は私たちの村の門外不出の技術となっているので、私たちの村以外では、まともに育たないのです。

  うーん、どうしても一年半くらいは肌水の供給量が減ってしまいますね」

 「それでは私も節約して使わねばならないわね。

  王宮に特別に優遇して回してもらうこともできないのでしょ?」

 「本当に量に余裕がないのです。

  なくなる時には、貴族用も庶民用も一緒に無くなってしまいますから、どうにもなりません。

  でも、昨年が大豊作で、出来る限り貯蔵してありますから、完全に無くなることはないと思うので、貴族も庶民も、みなさんにちょっとの間だけ節約してもらうようにお願いするつもりです」

 「エリスはお願いするのね、命じるのではなく」

 「もちろんです。 私は単なる商人として肌水を売っているのですから」


 アークたちが着替えから戻ると、さっきまでの話に戻ってしまった。

 「陛下、僕たちは今まで西の町をどうしようかなんてことは、全く頭になかったのですよ。

  急に何の前触れもなく、西の町の代官をやれと言われても、何か出来るとは思えないのですが」

 「それはこれから徐々に考えてもらうんで構わない。

  私も、代官を命じてすぐに何らかの成果を上げろとは言わないよ。

  でも、西の町がこれ以上寂れてしまうのは放置できないから、それならば近くと一緒に開発を考えてもらう方が有利だろうと思うのは、とても自然な流れだと思うんだが」

 「つまり、やはり西の町も僕らに開発をさせようという腹づもりじゃないですか」


 アークはもう公式に決まってしまったことではあるけど、自身の西の町の代官就任の不意打ちにはかなり不満があるようだった。

 「確かに、事前に打診したら断られると思って、不意打ちであったことは謝るが、これほど不満を捲し立てられるとは思わなかったぞ。

  ウィーク、お前の従兄弟はなかなかの頑固者だな。 やはり祖父の血を引いているのかな」

 「陛下、それは私の口からは何とも言えませんが、確かにアーク兄さんが祖父に似て、誰に対しても率直に自分の言葉を述べるのは確かだと思います。

  ですから逆に言葉の通りですから、他の者どもと違って、わがブレイズ家の事はその言葉をそのままに受け取っていただいて、信頼していただいて良いのだとも思っていただけるかと」


 うーん、ウィークの言葉はアークを、そしてアークだけでなく僕たちも含めて、微妙な言い回しだけど褒めているのかな。 何だか陛下に対して、ブレイズ家は信用が置けるから、頼るようにと薦めているみたいだ。


 「今日ここに来たのは、王妃が肌水の補充をしたり、王女が赤ん坊と遊びたがったからだけではない」

 陛下はアークとの会話がひと段落つくと、僕たち全員に向けて、注意を引くためにか、そんなことを言った。 そして

 「公爵と、そのシンパたちは、やっと王都から離れ、新たな公爵領へと旅立って行った。 しばらくの間はあの地の開発にかかり切りになり、こちらにちょっかいを出す暇もなく、大人しくなっているだろう。

  そして、その開発の為にだろうが、魔石を大量に仕入れている。 組合はさぞかし儲かっているだろう。

  だがその為に、魔石が不足気味になっていることも事実だ。 今まだ魔石の不足が問題にならないのは、お前たちの新方式の魔道具のおかげで、組合が大量の魔石の在庫を抱えていたからでしかない。

  そこで、今後の魔石の不足するであろうことも見越して、公爵一派の反対派もいなくなったことだし、今までブレイズ家の領地だけに限定していた、新方式の水の魔道具の使用を、これからは国として認めることとする」


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