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久々の王都

100話目です。

 陛下がこの村に新たなダンジョンが発生したことを布告してすぐに、僕とアークはウィークから、2人揃って王都に来て欲しいという連絡を受けた。


 「こうやってすぐに呼びつけられたりすると、ダンジョンが発生したことって、今更だけどとても大きな出来事なんだな」

 アークが呑気に、というよりは、もう仕方ないという感じで言った。

 「モンスターが初めて見つかった時には、これでこの村でも魔石が採れるから、もっと発展させられるぞ、ラッキーって思ったんだけどな。

  こんなに面倒なことになるのなら、ダンジョンなんていらないんだけど」

 僕は王都から一番離れた、貴族だとかなんだとか、そういう面倒から一番遠そうな村が領地となって、陛下にはすまなそうな顔をされたけど、喜んでいたんだけどな。 村の、いやもう少し大きく領地の開発も思ったより順調に進み出して、この地にやっとなんとなく馴染んで、子供も生まれて、落ち着こうとしていた時なのに。


 僕のこんな気持ちはアークも同様だと思う。

 今回、僕とアークが2人して王都に行くのでダイドールとターラントの2人は村に置いてきたので、僕たち2人だけの馬車の旅だ。 気楽な2人旅で、なんとなく学生時代のような気分に戻ったのだけど、2人して口から出るのはため息と愚痴ばかりだった。


 「何はともあれ、王都では色々と揉めているんだろうなぁ」

 「あまりとばっちりが来ないと良いと思うのだけど」

 「「無理だろうなぁ、はぁ〜っ!」」



 王都に着くと、ウィークが待ち構えていた。

 「2人ともお待ちしていました。

  まずは王都で、どんな話が進んでいるかを説明します」

 僕たちは、旅の疲れを癒す間もなく、王宮での話し合い、つまり僕たちの村に発生したダンジョンに関しての政治的な駆け引きについて説明された。

 とは言っても、僕にとってはそれぞれの貴族の思惑だとか、そのパワーバランスだとか、陛下と公爵の政治的な対立だとか、全く雲の上の話の様で、自分になんの関わりがあるのかという感じだ。

 アークの方は流石に元々からして有力貴族の家の生まれだからか、ウィークの説明を聴くごとに顔を険しくしていた。


 夜になると、お忍びで陛下もやって来て、僕らに現状の説明をした。

 「ま、今現在は宮廷は真っ二つに分かれて争っていることになるな。

  相手はもちろん公爵だが、その公爵に中堅貴族が集まっているという感じだな。

  それに対するのは、もちろん私なのだが、私は表立ってはその争いの上に立っている形になっているので、表面上は元からの4伯爵家だな。

  風のブレディング家がどちらにつくかと思っていたのだが、即座にこちらについたのは、嬉しい誤算だったな。 態度をそんなに早く鮮明にするとは思っていなかった。

  公爵はちょっとムッとしてたな」

 陛下は、その時の公爵の顔を思い出したのか、ちょっと笑顔を見せた。


 アークが今の陛下の言葉にちょっと疑問を持ったみたいだ。

 「陛下、今、元からの4伯爵家と言われましたが、3家はわかりますが、もう1家はどの家を指していらっしゃるのでしょうか?

  元からとつくからには古い家柄だと思いますが、そう言われる伯爵家がもう一つあったかな、と疑問に思いまして」

 「なんだ、ウィーク、まだ話してなかったのか。

  アーク、疑問に思うことはないぞ。 次の叙爵式では、ブレイズ家は伯爵に陞爵することが決まっている。 新たなダンジョン発見の褒美だな。

  これでブレイズ家は元通りに伯爵家となり、元からの4伯爵家が久々に揃う訳だ。」


 「それに今回の政治的対立の、こちら側の盟主はブレイズ家ということになっています。 ブレイズ家をハイランド家とグロウヒル家が強力にバックアップしていて、それにブレディング家も加わり、下級貴族や新興貴族もこちらについている、という状況です」

 陛下の「伯爵に陞爵」という言葉に驚いていたら、ウィークからもっと驚くことを言われてしまった。


 「なるほど、なんとなく対立の構図が理解できたよ」

 アークはそんなことを言うが、僕には何が何だか分からない。 僕の顔を見て、僕が理解していないのを悟って、アークが説明してくれた。

 「ほら、俺たちの商品は、東の町は当然だけど、北にも南にも卸しているだろ。 今ではこの王都でも売っている。 でも西の町には卸していないだろ。

  つまりはそういうことなんだ。 西の町、そこを支配しているのは公爵で、公爵に与する一派は俺たちのことを、元から面白く思ってはいないのさ。 守旧派とでも言えば良いのか、俺たちが作る新しいタイプの魔道具なんてのは、彼らにとっては邪魔でしかないって訳さ」

 ウィークも付け加えた。

 「公爵をはじめ、中堅貴族も配下に魔技師なんかも多く抱えていますからね。 火の魔道具はすでにカンプ魔道具店に席巻され、光の魔道具もシャイニングが転けて同様になっています。 

  それに加えて、今までにはなかった土の魔道具や、風の魔道具までカンプ魔道具店では開発し、冒険者たちにまで絶大な支持を受けています。

  そしてそれだけでなく、エリス雑貨店という大流通組織もその配下に持っている。

  権力が欲しい者たちにしたら、さぞかし大きな脅威に映っていたと思いますよ」

 「それで最も辺境に追いやったと思ったら、新型の水の魔道具を導入して、瞬く間に領地を大開発して、そして今度は新たなダンジョンの発見か。

  確かに敵から見たら、本当に悪夢のような敵だな、ブレイズ家は」

 陛下までそんなことを言う。


————————————————————————————————

 

 僕は王宮の権力争いなんて全く興味がないし、本音を言えば貴族社会になんて関わりたくないのに、何でこんなことに巻き込まれているのだろう。

 というか、僕はひょんな事で貴族になる前は普通に庶民として暮らしていたのだけど、その暮らしの中で貴族と繋がる事なんて、全く知らないし、知ろうともしないで生きていた。 でもこうして、自分が貴族になって社会を見てみると、貴族たちが表には出ていないけど、色々なところで、自分たちの権益を守ろうとしながら、関わっていることが分かった。

 それはそうだろうと思う。 この国は砂漠に作られた国で、水の魔石によって国土が維持されていると言って良い。 その水の魔石を作っているのは、陛下を頂点とした水属性の魔力を持つ者で、その者たちはほぼ確実に王家へ、貴族へと繋がる。 他の属性も同様で、それぞれに貴族へと繋がっていく訳で、魔力と魔石がこの国を支えているのだから、表で裏で、貴族が権力を持つのは当然かもしれない。


 火の属性のみは、その頂点たるブレイズ伯爵家が絶えてしまって、火属性の権力構造が混沌としていたみたいだ。 そして光属性も、新興のシャイニングがその権力構造を崩そうとしていた。 

 ウィークの口ぶりでは、どうやら公爵はシャイニング伯を配下として光属性の権力を手に入れ、火属性もその権力を自分の配下に纏めようとしていたらしい。


 土属性と風属性は、今まではその属性の特徴から、魔技師レベルでは役に立つことがほとんど無かったのだが、冒険者以上の魔力の持ち主は逆に優遇されている。 武力として直接に役に立つ属性だからだ。 ここは貴族の社会では大きな勢力となっている。

 ただし、魔技師レベルでは訳に立たなかったため、どちらかというと庶民よりの魔技師という存在を貴族からは完全に切り捨てていたため、貴族意識、選民意識が強い。

 それによって面白いことに、貴族出身の魔技師レベルの者はその多くが、自分の属性とは違う他家の貴族の家臣となっている。 リズの家に仕えていたターラントがそのパターンだ。 ただ例外もあって、元からの伯爵家のアークのハイランド家や、風のブレディング家などは魔技師レベルも蔑まないで、そのまま家に仕えさせている。 


 そんな中で、カンプ魔道具店が出来て、瞬く間に火属性の魔道具を席巻し、ブレイズ家を復活させ、実質的には火属性をまとめてしまった。

 光属性もシャイニングを失脚させたことにより、光属性の権力構造は元のグロウヒル家に戻ったというか、これも実質的にはリズを頂点とするカンプ魔道具店が握ることになった。

 それ以上に問題なのは、魔力を溜める魔石によって、土属性と風属性の魔技師も、魔技師という仕事で十分に生計が立つようになり、社会的地位を得ることになったことだ。 これにより、公爵側の立場に立つ者は、カンプ魔道具店が、いやブレイズ家が全ての土属性と風属性の魔技師もその影響下に組み入れたと考えた。 その上、冒険者までにその独特な魔道具で懐柔していると。


————————————————————————————————


  アークとウィークの説明を色々と聞いたのだが、結局僕が思ったのは、「何それ、そんな面倒くさいこと知らないよ」という思いだった。


 「僕はただ、自分の作った魔道具を売っただけだし、降りかかった火の粉を払っただけだし、領地をもらったから、そこの領民が少しでも良い暮らしが出来るようにと考えただけで、他は何もないのですけど。

  その僕が、公爵様に対抗していることになるのですか」

 僕の問いに陛下が答えてくれた。

 「まあ、この問題は本当は私と公爵の対立なのだが、公爵から見れば、一番標的にしやすく、目立つところではあるからなぁ。

  それに、公爵からしてみれば、自分が色々と裏で画策していたことを、簡単にいくつも潰されたのだから、内心ではとても腹立たしいのだろう」


 「そんなの僕は知りませんよ」と思わず口から出そうになったけど、なんとかそれは押さえて、僕は渋面を作るだけで耐えた。

 その顔が面白かったのか、陛下がちょっと笑った。


 「カランプル、魔力がこの国の権力の元になるということと、それによって貴族の支配が成り立っているのは理解しているだろうが、もう一つ権力の元になっているモノがあることは理解しているな」

 「はい、もちろんです。 魔石です」

 「そうだ、それが解っていれば、新たなダンジョンの発見の意味の大きさも解るだろう」

 僕の顔はますます渋くなっていった。 横を見れば、アークも同じだ。


 ちょっと黙ってしまった陛下に替わり、ウィークがとても言い出しにくそうな困った顔をして、僕たちに話を切り出した。

 「その新しく発見したダンジョンなのですが、公爵より、『王家の管轄に置かねばならない』という意見が出ているのです。

  ご存知の通り、東のダンジョンも北のダンジョンも王家のモノ、つまり王家の直轄地となっています。

  それだけでなく、南の港湾も直轄地です。

  つまり、国として重要な地は直轄地とされている訳です。

  ですので、この公爵の意見を覆す術はないのです」


 アークがショックを受けて茫然とした顔をした。 僕はまだ事態の重要性が掴めていない。

 「つまり、あの村は王家の直轄地となることになり、俺たちは出ていかねばならないということか」

 アークの呟きで、僕にも事態の深刻さが理解できた。


 沈黙の中、陛下が言った。

 「本当にすまない。

  お前たちが、ブレイズ家があの地にどれほど力を尽くし、領民たちに慕われているかは、この前視察に行った時にも、深く理解した。

  私としては、ダンジョンの管轄をブレイズ家に委託するという形にしたかったのだが、今回は公爵の理の方が勝り、如何ともし難い。

  必ずや、今までの領地に対する貢献、ダンジョン発見の功績に見合うような代替え地、代価を用意すると約束する。

  まだ表立ってはいないが、そのつもりで準備を進めてくれ」


 なるほど、こんな話をする為に僕とアークは呼ばれたのか。

 確かに僕たち2人が緊急に揃って呼ばれるはずだと納得した。

 村に帰るのに、とても気持ちが重くなった。


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[気になる点] 王様の権力があるのかないのかわからなさすぎる 貴族はポンポン増やせるのに組織は統制できないわ貴族の統制もできないわでどうなってるんですかね
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