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登録と組合との話

「おや、カランプル君、ちょっと久しぶりだね。

 今日は随分と早い時間にやってきたね。

 やっと初めての魔道具が売れたのかい。」

「はい、やっと、と言っても自分としては思っていたより早かったのですが、きちんと売る事が出来ました。」

「それじゃあ君も正式な魔道具製作者の魔技師になった訳だね。

 今日はその新しい魔道具の登録だね。

 パン焼き窯だったね。」

僕は組合の職員さんに、パン焼き釜を売るという話をした覚えはなかったので、ちょっとびっくりした。

「あれっ、僕、パン焼き窯だと話しましたっけ。」

「いや、町で話題になっているからね。 それで知ったんだよ。」

「そんな噂が耳に入っているなんて、ちょっと恥ずかしいなぁ。」

「ま、とにかく登録をしよう。 話もあるんだったね。」


僕はパン焼き窯の全体の設計図、そして魔石の回路図、魔石同士を繋ぐミスリルの回路図などを次々と登録してもらった。

「確かにこれは画期的だね。

 基本は前に登録した家庭用のパン焼き窯だけど、業務用に大型化したら、こうなってしまった訳か。

 ところでここに光属性の魔石が使われているのだけど、カランプル君は火属性だよね。」

「はい、この窯を作るのには、土属性持ちの友人と光属性持ちの友人に手伝ってもらっています。」

「ああ、それで了解だ。

 それではその二人の名前も登録者として列記しておこうね。

 もちろん君が主となり、友達二人は協力者としての登録になる。」

「そういう登録もあるのでしたら、ぜひお願いします。

 二人の協力がなければ、完成しなかった魔道具ですから。」

「そうか、その二人にも登録者名に名前が載ったことを教えておいてあげると良い。

 ま、喜ぶかどうかはわからないけど。」

職員さんはからかう様に僕に言った。


登録は比較的簡単に終わり、これでこの形のパン焼き窯は、他の誰も僕に無断では作れなくなった訳だ。

さて、ここからが問題だと、僕は自分に気合を入れた。

「この魔道具を作ってみて、大きな問題点があることに気がつきました。」

相談があると言ったら通された小部屋で、僕はそう切り出した。

「え、何か欠陥があるのかい、だとしたら登録自体駄目だろう。

 登録した魔道具に欠陥がある事が分かると、後で大変なことになるよ。」

「いえ、魔道具としては欠陥はありません。

 少なくとも今のところ何の問題も出ていません。」

「それじゃあ、何が問題だったのかな?」

僕は小声で、その問いに答えた。

「この窯に使う魔石なのですが、壊れないので、再利用が出来てしまうんです。」

職員さんの目が大きく見開いた。

「魔力を供給する魔石と、魔法を発生させる魔石とに分けるアイデアは、とても素晴らしいと思ったのだけど、そんなことになるの。

 ちょっと待っていて、これは僕に判断できる問題ではないから、組合長を呼んでくるから。」

うーん、やはり大事になってしまった。


「つまり、お前が作ったこの新しい窯だと、魔力が切れる前に警告が出るし、切れるまで使っても魔石は駄目にならず、再利用が可能という訳だな。」

いかにも冒険者上がりですという感じの、ゴツイ体をした組合長さんは、ギロリと僕をみて言った。

「はい、そういうことになります。」

「と、なると、魔技師は新しい魔石を必要としなくなり、魔石を買わなくなる。

 魔石の買取と販売の差額の利益で成り立っている組合は、魔石が売れなくなれば成り立たなくなるし、売れないなら買わないから、冒険者も成り立たなくなるな。

 この技術はパン焼き窯以外にも応用できるのだろ。

 とすると、大きな社会変革になって、世界がどうなるかわからないな。

 大変革だ。」

そこまで大きなことになるのか、と僕は青くなった。

「とまあ、脅すのはここまでにして。

 実は魔石の再利用はかなり昔からされているんだ。

 お前も話に聞いたのだろうが、王宮で使われている光の魔道具なんかは魔力が切れる前に色が変わって分かる様になっている。

 それらは再利用がすでにされているんだ。

 それでもそれが問題にならないのは、元々レベル2以上の魔石を使わなければならないから数がなく、高価なものとなるので王宮と一部の貴族の館でもないと使われないからだ。

 問題になる様な数が今まではなかったんだ。

 それにお前はまだ分かっていないだろうが、何度も魔石を再利用していると、やはり最後は壊れるのさ。

 王宮の光の魔道具はそれの補充だけでも手一杯だから何も問題にならなかった。

 だが、お前はレベル1の魔石でそれをやっちまった。

 流石にそれは問題になる。」

組合長は凄い渋面を作った。

「だけど、こいつは何一つ法律や規則に抵触していないし、罪を犯している訳でもない。

 単純に使いやすい魔道具を作ろうとして、作っちまったに過ぎない。

 俺たち組合としては文句の付けようもない。

 そういうことだよなぁ。」

「はい、カランプル君自身にも、した事についても何一つ問題はありません。」

「うーん、困ったな。

 組合としてはどうしようもないぞ。」

僕は一つ提案をした。

「あの、魔石に魔力を補充するごとに、組合に組合が魔技師に魔石を売った時の利益+α程度を支払うということではどうでしょうか。

 それなら組合の利益は守られると思うので。」

「ま、それなら組合は回るな。

 +αというのはどうしてなんだ?」

「魔石を買わないで済んでしまいますから、魔石を今までの価格で売るとしたら、利益幅が大きくなると思うのです。

 それは僕としては嬉しいのですけど、少しは組合にも還元しないと、とちょっと思ったんです。」

「なるほど、この魔道具で組合にも利益を供与するという訳か。

 なぜ、売値は変えないんだ。

 安く売れるはずだし、そうすればどんどん客は増えるだろ。」

「僕にそんなに魔力がある訳ないじゃないですか。

 それに、他の魔技師の生活を脅かす様なことはしたくありません。」

「そうだったな、レベル1の魔技師がそんなにお客を増やせる訳がないか。

 それで+αはどの位だ。

 利益幅のでかくなった分の半分もくれるのか。」

「それは欲張り過ぎだと思います。 1/3でどうでしょうか。

 僕は土や風の属性の魔技師をどうにかしたいんです。

 幸い、僕の作った魔道具に魔力を供給するなら属性は関係ないですから、何か出来ると思うのです。

 その資金に使いたいんです。」

「なるほどな、自分が良い目をみたいという訳ではないんだな。」

「もちろん自分も良い目をみたいです。

 でも僕は祖母も死んで天涯孤独なんですけど、今でも十分恵まれていて、これから家庭を持って、のんびりやっていければ十分なんです。

 手伝ってくれた友達とかも、そうなって欲しいと思うだけなんです。」

「高望みはしないという訳か。」

「高望みと言われても、よく分からないです。

 僕は普通に暮らせて、魔道具を考えていられれば今はそれだけで幸せですから。」

「分かった、分かった。

 それじゃあ、お前の提案に沿った形で問題にケリをつけよう。

 まず第一に、お前の登録した魔石の回路は極秘技術として、決まりの許す限り公にはしない。

 それでお前は店を構えろ。

 この回路技術を使って良いのは、お前の店だけとする。

 そして、その回路を組み込んだ魔石には表にお前の店の印と作った魔石の通し番号を入れ、裏に特殊な方法でしか見えない組合の紋を入れる。

 組合の紋を入れる特殊機材は、この後すぐにお前に一つ渡す。

 これで、紛い物を完全に無くす。

 そして店として魔石の管理と、魔石交換の利益の管理を徹底しろ。

 これでどうだ。 こっちも大幅譲歩だぞ、文句はないな。」

はい、と言うしかないよね、この迫力で言われたら。


この話をエリス、アーク、リズに話したら、3人ともノリノリだった。

「良いんじゃない。 私たちで店を持つなんて素敵だわ。」

リズが前のめりに言って、エリスと喜んでいる。

エリスは

「私が店の会計とか、色々な管理とか書類とかは引き受けるわ。

 それは私の本領だから。」

ともうやる気十分だ。

「土属性の俺も混ざって良いのか。」

アークはちょっと申し訳なさそうに言う。

「いや、お前がいないとパン焼き窯作れないじゃん。」

女性二人も当然参加でしょ、という顔をしてアークを見た。

「そうか、ありがとう。

 俺、本当のこと言うと、土属性のレベル1なんてどうしようもないと人生諦めていたけど、なんか、本当に希望が見えた気がするよ。」

アークは泣き出した。 リズがもらい泣きしている。

「貴族から追い出されて、私もどうしようかと不安だったから、アークの気持ちはよく分かる。

 アーク、一緒に頑張ろう。」

「ああ、リズ、そうだよな。」

僕とエリスは、流石にその気持ちは分からないんだよね。

今までも今も、何だかんだあるけど、幸せだから。

「で、店の名前は『カンプ魔道具店』でいいわよね。」

エリスがそう言うと、

「それは当然ね。 カンプが作ったんだから。」

とリズが言い、アークも頷く。

「え、僕の名前でいいのか。

 もし名前を使うならカンプじゃなくてカランプルだよ。」

「めんどくさいからカンプでいい。」

「俺もカランプルなんて変な名前より、カンプの方がシンプルでいい。」

「私も呼びにくいからカンプの方がいいわ。」

「お前ら、ちゃんとした名前で呼んでやるぞ。

 アウクスティーラとエリズベート。」

「へぇ、アークって、そんな変な名前だったの。」

「エリス、変な名前とか言わないでくれ。」

「あら、アーク、あなたカンプにそう言っていたわよ。」

「それは済まなかったね、エリズベート。」

「名前弄りは今後禁止にしましょう。」

リズが最初に折れた。

でも、店の名前は『カンプ魔道具店』になった。


やっと第10話になりました。

話はやっと前ぶりが終わり、これから少し動き出すかな、という感じです。

「怠惰な」ですから、これからもポツポツとゆっくり進んでいきます。

気長に暇な時に読んでいただけると嬉しいです。


誤字・脱字の報告、よろしくお願いします。

感想・評価などいただけるととても嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] それと消費税みたいなシステムにするとこういう世界では誰がいつ魔石を補充したかなんて把握できないだろうし簡単に脱税できちゃうからね。
[気になる点] そんな消費税みたいなシステムにしたら組合がただの利権組織みたいになっちゃうし、登録料ってことで1年ごとに組合員が登録料を払うような収益化システムにすればいいのに。その登録料で魔技師の特…
[良い点] カンプ…….(´・ω・`)どんまい [一言] からんぷる!あう……あうあう!!えりざべーと!!(違う
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