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1人になって

父親は幼い頃に事故で亡くなり、母親も僕が思春期に入るか入らないかで病気で亡くなった。

父親のことは幼すぎて記憶がないから分からないが、そんなだから母親は不幸だったかというと、全然そんなことはなく、平民である自分が平民の夫との間に魔法の素質を持つ子供、つまり僕、カランプルを産むことができたということだけで、母自身の感覚的幸福度はmaxで、相当な早死にと世間的には言われる若くての死を病気のために宣告されても、何て幸福な人生だったの、と満足して死んでいった。

あれだけ満足そうな顔で死なれたら、悲しくなんて思えない。 あの年齢の時でも僕は死んだ母親に、「よかったね、次の人生も幸せにね。」と言って、死出の旅に送り出したくらいだ。


それで僕が両親とも10代に入ってすぐに無くしたから生活に困ったかというと、それも全くそんなことはなく、母親の生きていた時と同じ様に、母親の父母つまりジジババと一緒に暮らしていたから、何の不自由もなく、いや逆にかなり甘えさせてもらって暮らしていた。

学校も、魔法の才能があるということで、何か考えるまでもなく、それなりのというか、魔法のことを教えてくれる普通の平民からは高嶺の花も良いところの学校に通っていた。

学校に通っているうちに、矍鑠としていて、孫である僕の目から見ても、あとどれくらい生きるのだろうかこの爺さんは、という感じだった祖父が朝起きてこないと思ったら、ベッドで冷たくなっていてびっくりするなんてことがあった。

母が祖父祖母がかなり歳を食ってからの遅い子供だったから、それでも本当に大往生という奴で、急で何の予兆もなかったことを除けば、驚くことも悲しむこともなかった。


しかし、その学校では、入学した途端に劣等生のスタンプをデカデカと貼られてしまった。

魔法の才能は確かに僕にはあるのだが、どうにもこうにも保有する魔力量が少なく、ほとんど魔法で何かできるというレベルではなかったのだ。

僕が持っている魔力量は、最弱モンスターである火鼠2匹分でしかなかった。

とはいっても別に悲観することではなく、学校に入学してきたほとんどの者がそのレベルなのである。

魔法の素質を持つのが全人口の20%で、その半分以上の12%が僕と同じレベル1と言われる魔力量しか持たない。

それ以上のレベル2の魔力量を持つ人がそのあとの5%を占めていて、残り3%がレベル3、レベル4の魔力量を持つのだが、ここまでいくとほとんどが貴族や王族である。

魔力量は遺伝的要素が強いみたいで、そのレベルの魔力量を持つ者はほとんどそういった家系からしか出てこない。 時々イレギュラーに多い魔力を持つ人が平民から出たりもするのだが、そういった人は貴族に取り込まれていく。

反対に貴族の血筋でも魔力量が極端に少ないレベル1もかなりの確率で出るのだが、そういった人は貴族からはドロップアウトしてしまう。

この世界は魔力量によっての完全な弱肉強食の世界なのだ。

ちなみにモンスターも同様でレベル1からレベル5まで居る。 いや正確にはドラゴンというレベル6がいるらしいが、まあ人間とは普通関わりがない。


最上位の3%が貴族や王族だとしたら、次の5%が何かというと、多くは冒険者と呼ばれるモンスターを狩る職業で、その一部が騎士などの王族・貴族に仕える人となる。

そして僕を含む残りの12%が何になるかというと、その職業は魔技師である。

だからレベル1の生徒が学校で教わるほとんどのことは魔技師の技術で、それ以外のことは簡単な概念しか教えられない。 逆にレベル2から上の人には魔技師の技術は教えられず実戦的な魔法の技術が教えられる訳だ。



そんな学校生活が可もなく不可もなく終わり、魔技師として独り立ちして社会出るお祝いを、婆ちゃんがわざわざしてくれた。

「これであたしも肩の荷がおりたっていうもんだ。

 学校を出るまで面倒を見てやったのだから、あの子も爺さんも、『ご苦労様』と言ってくれるだろうよ。」

「そうだな、俺にはもう肉親は婆ちゃんしかいないからな。

 これからは少しは婆ちゃん孝行しなくちゃな。」

「何言ってんだい、この子は。

 あんたが生まれてきてくれただけで、あの子も爺さんもあたしも幸せいっぱいだよ。

 別に何かしてくれる必要はないさね、もう十分幸せをもらったよ。」

「えー、俺なんて魔法の素質があるなんて言ったって、最低ランクだよ。」

「それだってあたしらから見れば素晴らしい力さ。

 人のためになる様に使っておくれ。」


こう言って上機嫌で寝た婆ちゃんは、次の日起きてはこなかった。

爺さんと同じ様に、ベッドの中で冷たくなっていた。

この時は流石に、いくらその死に顔が嬉しそうに微笑んでいても、僕は大泣きした。

僕は葬儀が終わり、人がいなくなっても、まだ泣いていた。

泣き疲れて、自分でも知らずに寝てしまうなんて、初めて経験した。


翌朝、目が覚めると隣の幼馴染のエリスが台所で朝食を作っていた。

別にエリスが家にいることに驚きはない。 我が家の鍵を、僕は婆ちゃんが僕がいない時に何かあったら困ると思って、隣のエリスの家に預けていたからだ。

ま、エリスなら鍵がなくても、勝手知ったるこの家のことだから、どこかしらからか入って来れるだろう。 逆に僕だってエリスの家なら鍵がなくても入れるし、入っていても誰も驚かない。

「やっと起きた。

 家から母さんに言われた通り食材を持ってきて正解だったよ。 何もないじゃない、どうする気だったのよ。」

僕は何か言う前にエリスの作った食事を食べ始めた。

「そこまで全く気が回ってなかったんだよ。

 婆ちゃんをベッドで見つけてから後、何か食べたかさえ覚えていない。

 でも一つ発見したことがある。 いくら泣いていても腹は減る。」

「馬鹿、何言ってんのよ。

 でも、カンプ、あんたがあんなに泣くとは思わなかったわ。」

「おい、いつも言うけど人の名前を変に略すなよ。 僕の名前はカランプルだ。

 それに泣くのは普通だろ。」

「だってあんた、おばさんの時も、お爺さんの時も泣かなかったじゃない。」

「そりゃ2人ともあれだけ満足そうな顔をして死んでいたんだから、泣くのもなんだか変じゃないか。」

「それを言うなら、お婆さんだってとっても幸せそうに微笑んで死んでいたじゃない。」

「でも、前の晩に僕の卒業と社会に出るのを祝ってくれたばかりだったんだ。

 僕は婆ちゃん孝行してやるからなって言ったばっかりだったんだ。」

僕はまた涙が出てきた。

エリスは失敗したという顔をして急いで言った。

「ああ、ごめんごめん、悪かったわよ、謝るからまた泣きださないで。」

「泣こうと思っている訳じゃないけど、涙が出てきちゃうんだからしょうがないだろ。」

「もう、いつから泣き虫になったのよ。 あんたの泣いているところなんて今まで見たことなかったのに。」

「そんなことないだろ。 生まれた時から知っているんだから。」

「何言ってるのよ。 私の方が後に生まれたのだから、あんたが私のことを生まれた時から知っているのよ。 逆じゃないわ。」

「ほとんど変わらないじゃないか。」

「変わるわよ。 女は幾らかでも若く見られたいものなの。」

くだらないいつもの言い争いなのだが、気分が紛れて涙が止まった。


「お父さんが、調理台の魔石を取り替えてくれって。」

「まだ早いんじゃないか、もうちょっと持つと思ったけど。」

「お婆さんの葬儀とかでウチの調理場使ったからじゃないかな。」

僕はそんなことを言われても分かっている。 おじさんが泣いて落ち込んでいる僕を思って、そう言ってくれたことを。

「魔石の予備はまだあるから、後で行くよ。」

「それじゃあ、お昼ご飯になったら、呼びに来てあげるから用意しといて。」

「分かった。」


魔技師のほとんどが、この家庭用の魔石を売ることで生計を立てている。

魔石はモンスターから取れるのだが、それだけでは使えない。

モンスターから取った魔石はそのままでは、ちょっと透明がかったただの石でしかない。

その魔石に、魔技師はそれぞれの適性の魔法の回路を書き込むというか、念じ込むのだ。

その後、その魔石に魔力を注ぎ込み使える魔石にする。

それを魔道具にセットして、初めて使える魔道具になる。


僕の場合は火の適性がある魔技師だから、魔石には火を発する魔法回路を念じ込むのだが、話はそう単純ではなくて、魔石に外部から魔力を受け入れる回路、魔力を溜め込む回路、その魔力を火として放出する回路、魔道具のスイッチに反応する回路、何かトラブルが会った時に安全な方向に働くようにする安全回路なんてのを念じ込むのだ。

その回路をどう設計して上手く念じ込むかが魔技師の腕の見せ所なのだが、実際は例えば調理器具の魔道具の基本設計は決まっていて、それに合わせた回路を念じ込まなければならないので、ほとんど決められた回路がある。

まあ、そういったことを学校で勉強してきた訳でもあるのだが。


その魔石なのだが、一度魔道具に嵌め込めばいつまでも使えるという訳ではなくて、現実的には使い捨てだ。

道具として魔力を放出しきってしまうと、その魔石は使えなくなってしまう。

そこで魔石を交換することになるのだが、その交換する魔石を売ることが魔技師の主な収入源となる。

僕もそんな普通の魔技師に、まあなったのだ。


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