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クロノ・レボルト〜2度目の革命〜  作者: 田坂屋台
交流会編
19/26

覚醒

『スーパーフラッシュ!』


 マーレイがマイク越しに魔法を唱える。マーレイから発せられた光はガラス越しに乱反射して会場全体を包み込む。


「なっ……!」


 マーレイの光はシャービスの目をも奪い、シャービスは手を止め、目を覆い隠す。

 しかし、魔法陣もマーレイに反撃する。


「させないよ」


 ギリスはマーレイを庇うように前に出て、攻撃を受ける。


「ギリス!」


「大丈夫大丈夫。この服は特注品でね、ちょっとやそっとのことじゃあ倒れないよ」


 光が発し終えると、マーレイはその場で倒れ込んでしまう。ギリスもやはりダメージがあるのか膝をつく。


「ははっ、それ以上ルナを好きにはさせない。何故ならこの僕がいるのだから」


 シャービスは視界を取り戻すと、実況室の方を見る。


「やってくれましたね……!」


 シャービスを魔法陣を発動させようと指を鳴らそうとする。――しかし、指がかじかんで上手く動かせない。


「――なんだ、この寒さは」


 その寒さは観客席の生徒たちにも感じられており、身を寄せ合っている。


「……!」


 シャービスは何か視線を感じ、咄嗟に大きく後ろに下がる。

 シャービスは前を見る。冷気の中、薄っすらと見える人影はラグレッドとルナを担ぎ、壁端に持っていく。


「――やはり二人は重いな」


 ルナはその声に反応して、一生懸命その人影を見上げる。自分をゆっくりと下ろす暖かな腕、見られていると気づいたその人は優しく微笑みかける。


「ハン……ス……」


 ルナは安心して眠りにつく。


「なんだ……この男は」


 シャービスを見る男の冷ややかな目、しかしその男には怒りの感情どころか、何の感情もない。言うならば氷そのもの。シャービスにはそう感じられた。


「まさか、こんなタイミングで元に戻るとは……もう少し安全な方法が良かったかな」


 あの折れた杖はもう居ない。代わりにアルレシアが着ていたような、黒い制服。鮮やかな青緑色の髪に、透き通った碧い瞳。


「誰だ、貴様は」


「ハンス――ハンス・クロイス」


 ハンスは手袋をはめて言う。


「なるほど、あの方が仰った例の裏切り者……!」


「ほう、そこまで分かっているのか。それでどうするつもりだ?」


 シャービスはルナの方へ指を指して言う。


「そいつらを渡せ。ノー、だとは言わせん。こちらには人質がいる事を忘れては居ないだろう?」


 ハンスはぐるりと周りを見渡す。観客席には何が起こっているのか分からず立ち往生している生徒、恐怖で怯えている生徒など様々。


「さあ、どうするつもりだ」


 ハンスは一息つく。そしてただ一言。


「停止せよ」


 シャービスは指を鳴らす。しかし、周りの変化は一切なく、生徒たちも無事であった。


「馬鹿な……!何をした貴様!」


「魔法陣を停止しただけだ。まあ、閉じ込める用途としては生きているけどな」


 ハンスはゆっくりとシャービスに近寄る。


「さて、これで大丈夫だろう」


 ハンスは腰につけた剣を抜く。


「……! あれは!」


 クルシュが身を乗り出してハンスの剣を凝視する。

 その剣には刃がなく、とても切る為に作られたものではない。


「クルシュさん、あれ何ですか?」


「昔、絵本で読んだことがある。最初の剣とも言われ、切る為ではなく滅する為に作られた剣――七星剣。本当にあったんだ!」


 クルシュは目を輝かせて言う。


「マーレイが時間を稼いでくれなかったら危なかった。後で礼を言わないとな」


「何勝った気でいるんだ?」


 シャービスは鋭く剣を振る。しかし、これをハンスは簡単に受け流し、一歩前に下がる。


「貴様を倒せばまた魔法陣は動きだす。何、貴様を始末しろとも言われいるから、計画に支障はない」


 シャービスは剣を構え、ハンスに向かって突進する。ハンスは正面から受け止めるが、右脇の傷が痛み、膝をつく。


「……ッチ!」


「どうやら支障があるのは貴様のほうだなぁ!」


 シャービスは休み無く剣を振り続ける。しかし、


「甘い!」


 ハンスは攻撃のタイミングを読み、反撃の一撃をシャービスに当てる。


「ぬぅぅ……しかし、甘いのは貴様のほうだ。その様な剣で私を倒せると思っているのか!」


 シャービスは自分の手の甲に傷を入れ、ハンスに向ける。


「血羽」


 手の傷から羽が浮き上がり、ハンスに向かって飛んで行く。


「絶命陣――」


 ハンスは剣を鞘に戻し、居合の構えに入る。血羽がハンスの間合いに入る。


「――三日月」


 抜かれた剣は一瞬にして血羽を真っ二つに切る。描かれた弧は三日月を描き、その鋭さはみる者を魅了する。

 しかし――


「だから甘いと言っているのだ!」


 切られた血羽の一部からシャービスが現れる。シャービスが居た場所には血溜まりしか無く、シャービスはルナ達が居る場所めがけて走る。


「私の血は私の体の一部! つまり、私の体の一部は私そのもの! 私の血から私を生み出すことなど動作でもない!」


 シャービスは剣を構える。


「守りながら戦うのはさぞ辛かろう! せめて私がその重り、とってやろう!」


 シャービスの剣はルナを突き刺す――筈だった。

 シャービスは手ごたえを感じず、下を見る。そこにはルナとラグレッドの姿はなく、剣は地面に刺さっているだけだった。


「どう言う事だ……!」


 シャービスは嫌に静かになった会場に違和感を覚えて、急いで周りを見渡す。だが、観客席には誰一人おらず、ハンスの姿も見当たらない。まるで、世界中から自分以外の生き物が消えた。――それ程までに静かなのだ。


「くそ! どこ行った!」


「ここだよ」


 シャービスはハンスの声が聞こえ、上を見上げる。

 そこには天井に立つハンスの姿があった。


「ようこそ、反転世界へ」


 と、ハンスは言った。

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