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クロノ・レボルト〜2度目の革命〜  作者: 田坂屋台
交流会編
18/26

緊急事態

 ラグレッドはその場で倒れ、倒れた場所からは血が広がる。――立っていた影は形を変え、色がつく。その姿は銀色の長い髪に、紅い瞳、尖った耳に二メートルはあるだろうその姿は、普通の人間ではないことは明らかだろう。


「やあ、久しぶり……いや、先程ぶり……かな?」


 その男はルナを見て、笑う。その笑顔とも言えない顔は不気味で普通なら見ることも拒むだろう。


「い……嫌……!」


 ルナは手足が震え、ハンスを地面に落とす。


「おいルナ! しっかりしろ!」


 しかし、ハンスの言葉はルナには届かない。


「おいおい、感動の再会なのにその反応はないでしょう」


 男は首を横に振り、ため息をつく。


「お、おい……なんだよ、あいつは……」


「ラグレッドは大丈夫なの……」


 ざわざわと観客席が騒がしくなる。


「ロイド君! 生徒たちを早く外に!」


「わかっている!」


 ロイドは急いで実況室の扉を開けようとする。しかし、ドアノブに触ると弾かれ、扉に魔法陣が浮かび上がる。


「なんだなんだ!? 外に出られない!」


 生徒達も押され押し合いながら出口に向かうが、同じように魔法陣に阻まれる。


「くそっ! こんなもの――」


 生徒の一人が魔法陣に向かって攻撃しようとする。――しかし、直後、生徒が攻撃するよりも早く魔法陣の攻撃が生徒に直撃し、その生徒は気絶した。


「お静かに!」


 男は高らかな声で会場中に呼びかける。


「その魔法陣は攻撃を探知すると自動的に反撃します! しかし、ご心配無く! あなた達に手出しするつもりはありません! ただじっとして見てくださればそれでいいのです!」


 特別席で見ていた国王は急いで家臣達に兵士を呼ぶよう伝えようとするが、


「おっと、国王陛下。外部から破壊しようとする根端でしょうが、当然、外部からの対策もバッチリです! それに手出しするつもりはないと言いましたが、私の指先一つで魔法陣が発動し、中にいる生徒達に襲いかかります! 言わば、人質でもありますのでご了承を」


 男の言葉に国王は家臣達に待機するように指示し、手を強く握りしめる。


「さて、ルナ。これで邪魔する者は居ない。ゆっくり話し合おうじゃないか」


 男はゆっくりとルナに近づく。


「おい、お前は何者だ」


 ハンスの言葉に男は答える。


「シャービス。君が例の……それよりもルナ。私の言う通り持ってきてくれたか」


「……ん?」


 ハンスはルナの方を見る。ルナもハンスをチラリと見るが、その顔は青ざめている。


「ち、違う……」


「何が違うんだい? 私は手紙を送った筈だが、(命が欲しければ君が持っている生きた杖を渡せ)と」


「やめて……」


 側から見ればただの脅迫文であるが、ルナの様子は明らかにそれを指すものではない。


「君は更なる長寿を求めてその杖を差し出しに来た! 百年前の様に自己満足の為に集落を滅ぼしたあの頃の様に!」


 シャービスはわざと声を高らげて会場中に聞こえる様にする。


「嫌ァァァァァァァァ!」


 ルナは耳を塞ぎこみ、その場にうずくまる。まるでシャービスの言葉をかき消す様に、奇声を発しながら。


「え? どういう事?」


「百年前……?」


 会場が騒がしくなる。シャービスはそれを待っていたかの様にニヤリとして、しゃがみ込むルナの帽子を弾き飛ばす。

 あらわとなったルナの髪は根元の部分が全て白くなっており、黒かった髪の毛はもう全体の二割ほどしか無い。


「おやおや、随分と変色しましたね。動物の肉で誤魔化しても人の肉が恋しくなるだけですよ」


 シャービスはルナを掴み上げ、倒れているラグレッドの方へ投げ飛ばす。


「ルナ!」


「はい、あなたは少し待ってて下さいね。あなたは処分するように言われているので」


 そう言ってシャービスはハンスを壁の方へ蹴り飛ばす。


「さて、ほうら、あなたの目の前に美味しそうなお肉がありますねぇ。どうですか、どうしますか? まあ、今のあなたがやることは当然――」


 ルナはジッとラグレッドを見る。

 ――ダメ、もう戻りたくない……

 しかし、ルナの手はラグレッドに触れている。血の確かな温かみ、僅かに動く心臓の鼓動。

 ルナの心臓の鼓動が段々と早くなる。ルナの顔はラグレッドのすぐ目の前。――ルナの口が開く。


「はいそこまで」


 シャービスの剣がルナの背中を貫く。


「かはっ……」


 ルナの口から血が飛び出る。そのまま剣を引っこ抜き、ルナはラグレッドに覆い被さるように倒れる。

 シャービスはルナの髪を持ち、引っ張り上げる。


「あげる訳ないじゃないですか。やはり半人喰鬼(グール)は駄目ですね。ここまで追い込まないと人を喰う気が起きない。やはり、完全な人喰鬼にしなくちゃいけないのか」


 シャービスは少し考える。


「あー、そうだ。二種類の血を混ぜて一つの肉体に宿したらどうなるか、試して見ましょうか」


 シャービスは剣を構える。


「さあ、ご覧あれ! 君達は私の研究を目の前で観れることを光栄に思い、記憶に刻め!」


 シャービスの剣がルナとラグレッドに、向かって振り下ろされる。


「――させねぇよ」


 ハンスがシャービスの目の前に飛び出して来て、シャービスは咄嗟に剣の軌道を変え、ハンスと接触する。


「邪魔をするな!」


 シャービスは剣に力を入れ、ハンスを真っ二つに切った。


「ガッ……」


 ルナは微かな意識の中、横を見る。落ちて来たのは二つに割れたハンスの姿。――地面に落ちる直前、ハンスは大きく目を開いたルナの姿を見た。そして、地面に落ちると同時にハンスの意識が途切れる。

 壁端にいたフェアリー・フレンズが形を無くし、崩れ落ちる。


「は……ん……す……ぅぐわっ」


 ルナは弱った体で必死に手を伸ばす。しかし、シャービスがルナの顔を踏み付け、伸ばした手は力無く地面に落ちる。


「ったく、あの杖は苛つくことをしてくれましたねぇ……! まぁ、やる順番が逆になっただけだ。次は外しませんよ」


 シャービスは剣を上に構える。周りには冷気が漂う。


「キャー!!」


 観客席から悲鳴が上がった。


「ルナちゃん!」


 ナーシャが叫ぶ。しかし、シャービスは無慈悲に剣を振り下した。

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