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クロノ・レボルト〜2度目の革命〜  作者: 田坂屋台
交流会編
16/26

姉妹ゲンカの決着

「――! 何……あれ……」


 ナーシャも黒い生物に気づき、動いているのに生気を感じられない――フェアリー・フレンズを初めて見た時感じられなかったことをこの生物には感じた。


「すまない、城に行くのはこいつを始末してからだ。手伝ってくれるか?」


 ハンスは剣を生成し、フレンズに持たせる。


「う、うん!」


 ナーシャも覚悟を決め、黒い生物に立ち向かう。


「嫌な予感がする……急がなければ!」


「――おやおや、言ってくれるねぇ。どうするつもりなの?」


 そう言いながらも、クルシュはしっかりと大剣を構え、ジッとメイアを見つめる。


「お姉様は詠唱魔法って知ってます」


「え? あの欠陥魔法のこと?」


「ふふふ、そう。詠唱に時間がかかり、無詠唱の魔法を使う方が効率がいい……。しかし、それは違う! 詠唱魔法の真髄、見せてあげる!」


 メイアは深呼吸する。


「荒れ狂う雲 渦巻く風 籠の中の鳥よ 逃げ場なき場で抗い 羽ばたき 地に伏せよ」


 クルシュの周りに強い風があらゆる方向に吹く。


逃げ場無き(アンエスケープ・)風の鳥籠(トラップ)


 クルシュの周りに五つの竜巻が発生する。クルシュは咄嗟に脱け出そうとするが、竜巻は円を描くように移動してクルシュの行く手を阻む。まるで鳥籠のように抗うことしか出来ない。

 

『おーっと! 竜巻がクルシュ選手を覆ったー! これではクルシュ選手の様子が見えない!』


『詠唱魔法にあそこまでの力があるとは、素晴らしいですね』


『俺が教えた』


 ロイドは得意げに言った。


『学園長、詠唱魔法とは本来どのようなものなのでしょうか?』


『君等が知っている詠唱魔法は教科書や魔導書にちょびっと載っているだけだ。しかし、本当の詠唱魔法はそんなものには載っていない、いや、載るわけが無い』


『その心は?』


 リリーが興味津々で聞く。


『詠唱魔法は術者のイマジネーションを具現化したものだ』


『イマジネーション?』


『もしも自分だけの魔法があったら……と考えたことはあるかな? 詠唱魔法はそれを可能にした古来からある魔法だ。むしろ始祖の魔法だと言ってもいいだろう。――まあ、今は時間が無いから詳しくは俺の論文、読め』


『おーっと! そうこうしている間に竜巻が晴れて……クルシュ選手が倒れている!? これはどういうことだー!?』


 ――竜巻が発生してすぐの頃、クルシュは脱出することが出来ないこの鳥籠で、せめて飛ばされないようにと大剣を地面に突き刺し、必死に堪えていた。


「さて、どうしようか……」


 クルシュは竜巻が徐々に近づいてくるのがわかった。このままではじきに竜巻に呑み込まれるだろう。――さらに一本の矢が竜巻の中から飛んできてクルシュの横を通り過ぎる。更にもう一本、二本と矢が次々と飛んでくる。


「――ったく、嫌なことしてくるね」


 矢は竜巻の中に入り竜巻の回転により、威力を増して返ってくる。クルシュは少ない動きで矢をかわすが、一本の矢がクルシュの足をかすり、クルシュは崩れるように膝をつく。

 そしてクルシュは力が抜け、宙に浮く。そのまま全ての竜巻が一つに重なり、クルシュは一気に天井に叩きつけられる。


「かはっ……」


 絶え間なく竜巻はクルシュを天井に押し付ける。天井は魔法耐性の付与が施されており、天井が壊れ、流れに乗ることが出来ない。

 ――そして、次第に竜巻の勢いは弱まり、クルシュは力無く地面に落ちる。


「――チェックメイト」


 メイアは膝をついており、だいぶ疲労していた。


『クルシュ選手、ピクリとも動かないが、これは大丈夫なのかー!?』


『このまま、立ち上がらない場合、クルシュ選手はギブアップとみなしますが。――まあ、大丈夫でしょう』


「〜〜〜♪」


 観客席のマカナ学園の生徒が立ち上がり、校歌を歌い始めた。

 その生徒に続き、次々とマカナ学園の生徒が立ち上がって一斉に歌い出す。生徒達の歌は一つに重なり、ルフトラ学園の生徒も魅力するほどの綺麗なハーモニーを奏でる。


「――んしょと」


 クルシュはゆっくりと立ち上がる。


「――うそ……」


 メイアは驚く。確実に肋骨は何本かは折れている。それなのにクルシュの目はまだ諦めていない。


「喝采せよ!」


 クルシュは右手を掲げる。それに答える様に生徒達が盛大に声をあげる。


「刮目せよ 我が同士達 相対するは風の使い 我は帰せず 恐るることなく 我と行こう 」


 天井に巨大な魔法陣が展開される。


「――流星軍」


 魔法陣から隕石が絶え間なく落ちてくる。

 メイアはその迫力に後ずさりする。まるで一つの軍隊がメイアに押しかけてくるような――メイアは動くことが出来ない。


『なんだなんだ!? 隕石が現れてメイア選手に襲いかかる! 会場は無事で済むのか!』


『クルシュ選手は追い込まれるほど力を発揮する。それに加えて、僕等マカナ学園の応援でブーストする! つまり、今のクルシュさんは僕等と一緒に戦っているのです!』


 ――怖い

 隕石が地面に落ち、破片が飛び散る。

 ――怖い

 メイアの足が震える。今のクルシュには自分の詠唱魔法以上の力があると察する。――一撃で仕留められなかった。しかし、クルシュは一撃で仕留めるだろう。

 ――また……負ける……?


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 メイアは怯えながら矢をクルシュに向ける。――しかし、既にクルシュはメイアの懐に飛び込んでいた。


「星一閃」


 クルシュの大剣がメイアを横一直線に切る。メイアを守っていた魔力が途切れ、メイアはその場で倒れる。

 クルシュは右手を掲げる。


『ま、魔力の喪失を確認! 勝者! クルシュ選手!』


 会場に歓声が湧き上がる。マカナ学園はもちろん、ルフトラ学園の生徒も静かに拍手を送る。


「――負けたのね」


 しばらくするとメイアはゆっくりと起き上がり会場全体を見る。


「何で、勝てないんだろう……」


 メイアは膝に顔を埋めて、詰まるような声を発す。


「そんなことないよ」


 クルシュはしゃがみ込んで、メイアと目線を合わせる。


「もし、誰も居ないところで戦っていたら、私はあの攻撃でやられたよ」


 メイアは何も言わず、ジッとクルシュを見つめる。


「私は双子だけど何も知らない。そりゃそうだよ、全て知っている人なんて居ない。だからさ、今度は対立しないでもっとお互いを知ろうとしない?」


 クルシュはメイアに手を差し伸べる。


「お姉ちゃん……」


 メイアは手を出して、クルシュに引っ張られるように立ち上がる。――しかし、すぐにクルシュの手を振りほどき、スタスタと入場口の方へ向かう。


「勝者のお説教なんて要らない。私は私のやり方を通すだけだから」


 しかし、クルシュからは背中しか見えないが、メイアの顔は赤く染まっており、今すぐこの場から去りたいというのは誰も知らない。


「――陛下、泣いているのですか?」


 国王の側近が涙を零している国王の姿を見て、不思議そうに尋ねる。


「だって、あの子達があんなに成長して……父として嬉しいけど、悲しくもなっちゃって……」


「はあ、とりあえずそのままでは示しがつかないので顔、洗って来てください」


 側近が国王を促して御手洗いの方へと行った。

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