プロローグ
「いたぞ!追えー!」
「……っ!」
時空間の中で警備隊が青年を追いかける。青年は傷を負いながらも決して警備隊との距離を縮めない。
「くそっ! このままでは拉致があかない!」
長時間の逃走劇に警備隊がイラつき始めた時、
「おーう、お前ら邪魔だからどいてろ。裏切り者は俺が仕留める」
「……! ライデン様!」
警備隊の後ろから雷を纏い接近してくる男がいた。ライデンと言う男は警備隊より前にいる青年を目視すると、スピードを上げ、すぐ横まで距離を縮めた。
「よお、裏切り者さんよお。そんな満身創痍の状態で逃げようとは随分と余裕だなぁ!」
ライデンは青年に話しかけるや否や雷を纏った拳を青年に振り下ろした。拳は青年に直撃し、青年は下に落とされる。ライデンは追い討ちをかけに接近しようとするが、
「……! なんだ、あれ?」
どこからか現れた黒い影に青年は包みこまれた。包み込んだ影は次第に小さくなっていき、消えてしまった。
「おいっ! 待て!」
「ライデン様! 時空雷が発生しています! 離れて下さい!」
「ああ?この俺に雷が効く訳……」
そう言ってライデンは時空雷に近づき時空雷に触れるが、逆にライデンの雷が持っていかれそうになり、咄嗟に離れた。
「我々もこのように荒れた時空雷見たことありません。やはり時の歯車が他の世界に影響を及ぼしているのでしょうか?」
「ああ、お前達はあの影の行方を捜せ。俺は報告しに一旦戻る」
「はっ!」
警備隊が各所にバラけるのを見送り、ライデンは再び時空雷を見た。
「時間の錆が他の世界に影響し始めたか。そろそろ錆抜きに出かける必要があるな。それにあの影……、まあいい、次会った時は鬼ごっこじゃない遊びをしようじゃないか――」
ライデンは不敵に笑い、叫んだ。
「ハンスゥ!」
―――――
光も無ければ音も無い空間にハンスはいた。今目を開けているのかも分からず、足も手もあるのかすら分からない。ああ、ここが死の世界か。と、ハンスは思っていたが、ガサゴソと音が聞こえると光が漏れ出した。良かった、こんな所で死ぬわけにはいかないからな。と、ハンスはホッとするが、今度はここがどこかと考える。
「カー」
すると鳥の声が聞こえると思えば目の前に鳥がじっと見つめているのでびっくりした。鳥としばらくの間アイコンタクトを取っていると、急に鳥はハンスを掴んで飛び立った。
「……え?」
あまりの出来事にハンスはポカンとするがすぐにあることに気付く。
「あれ? この鳥、人を掴めるような大きさでは無いよな? え? 待って、今俺どんな身体してるの?」
ハンスはともかくこの状況をどうにかしようと身体を動かそうとする。しかし思うように身体が動かず、ハンスに焦りが見えてきた。だが、動かした時の僅かな振動が鳥に伝わったのか、鳥は足を緩めハンスは滑る様に鳥の足から離れる。
「うわああああああ!」
ハンスは落下を緩めようと魔力を放出しようとするが、またしても上手く魔力が出ず、落下する速さは上がっていく。ハンスは今度こそ死を覚悟し、地面に直撃する。
「!?何、今の音!?」
「確か、この辺から音がした筈だよー」
音に気がついた女性が、音のした場所に近づく。
「……ん? あれ? 生きてる?」
落下の衝撃は残っているが、ハンスは今生きている事を確認出来た。
「ん? 君達は?」
ハンスの目の前にはポカンとしている同じくらいの年齢の女性と対照的に目を輝かせている女性がいた。
「つ……」
「杖が喋ったああああああ!」
「……え?」
女性の言葉にハンスはしばらく思考を停止した。