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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

パートタイマー聖女

パートタイマー聖女はどこまでも突き進む

作者: 三同もこ

短編『パートタイマー聖女は立ち止まらない』の続編となります。お楽しみいただければ幸いです。

 その日、私は世界を救った。




「ああ、マリナ。貴女は何て素晴らしい女性なんだ。どうか、私と結婚してほしい」

「いいえ、例え王子殿下であってもマリナは渡せません。どうか、その愛らしい唇で私を選ぶと言ってください」

「マリナ様、私の忠誠は貴女だけのもの。どうか、その美しい手に口付ける事をお許しください」

「マリナ、君こそ僕が長い間追い求めていた女性だ。どうか、僕と生きると誓っておくれ」

「マリナ様、どうか」


 様々なイケメンたちが私に跪く。ああ、なんていい気持ち!


「ゴメンね、皆。マリナはみんなが大好きだょ!」


 自分が一番可愛く見えるポーズでそう言えば、男たちはウットリとした顔で私を見た。

 皆、私に夢中。だって、私は世界を救った聖女様なんだもん!



 ★ ★ ★ ★ ★



 私がこの世界へ転移してきたのは半年前。

 突然、地面にピカピカした文字が浮かび上がってきて、本当にビックリした。

 で、気が付いたらこの国にいて、イケメンたちに囲まれていたって訳。

 皆は私が特別な聖女だっていうけど、私はただの女の子なんだけどな。

 世界を救った後は元の世界に帰れるらしいけど、正直迷ってる。

 皆の為に世界は救ったけど、本当の私はただの恋に恋する女の子。元の世界には好きだった人もいるし、家族もいる。

 この世界の皆は私にこの国に残って欲しいみたい。結婚してほしいとまで言われちゃってるんだよね。


「どーしようかなー。王子様超カッコいいし、侯爵子息様のクールさも素敵。騎士様の凛々しさも捨てがたいし、魔術師様の色気も凄いのよねぇ。いっそ、全員と結婚しちゃう? キャッ!」


 ぶっちゃけ、元の世界のカレピより皆の方がずーっとカッコいいし、優しいし、何でも買ってくれるし、かなりこの世界に残る気になってる。

 でも、もう少し焦らしちゃおうかな? そうすると皆がチヤホヤしてくれるだもん!



 ★ ★ ★ ★ ★



 そんなある日の事。

 いつもなら私にずっと付きっ切りな王子様たちが妙にソワソワとしていた。

 私の事も放って置いて、ウロウロと落ち着きがない。


「皆ぁ、何でそんなにソワソワしてるのぉ?」


 もっと私に構ってよ、と頬を膨らませて言えば、皆は笑み崩れながらも私に言った。


「すまない、マリナ。今日は隣国から特別な客人が来られるのだ」

「特別?」


 それって私よりも?

 ムッとしている私に気が付かず、侯爵子息様や騎士様、魔術師様まで口々に興奮しながら言った。


「大聖女様が来られるんですよ!」

「『大聖女』?」

「ええ、隣国に召喚された伝説の聖女様です」

「あの方は素晴らしいんだよ。なんせ、既に58回世界を救っているからね!」

「58回!?」


 何そのバカみたいな数字!? ついでに58回+私が救った1回で、計59回も危機に陥ってるのかよ、この世界! ヤバくない!?

 ちょっとイケメンを押しのけて帰りたい気持ちが膨らんだが、その聖女に興味も湧いてきた。


(どんな聖女だか知らないけど、58回も救ってるって事は…えーっと、私が一回救うのに半年かかったから…29年かかってるって事!? 生まれた時から聖女やってたって、もうおばさんじゃん! 勝った!)


 私が勝利を噛みしめながら王子たちについて行くと、大歓声を背後に、物凄く煌びやかな集団がやってくる。


 先頭にいるのはザ・正統派という感じの圧倒的な美貌を持つ貴公子。

 その横に、中性的で神秘的な美貌の神官。逆隣には、凛々しくも逞しい男前の騎士。

 更にその後ろに綺麗なお人形みたいな魔導士風の美少年と、排他的な雰囲気を持つクールな美男子。

 目がチカチカした。


(何、あのスーパー美男子集団は!? ここはミスター・ユニバース会場か何かなの…っ!?)


 思わずウェイ…とよく分からない事を呟きながら、手を合わせて拝んだ。あれ、絶対御利益ある系。そういう神掛かった集団だった。

 背後をチラリと見る。


「隣国の王太子は相変わらず大国を統べるに相応しい風格をお持ちだな」

「王太子殿下の横の方は、世界中の神殿を統べる大神官長様でしたよね?」

「ああ。逆隣は世界有数の強さを誇ると言われている剣聖の騎士団長様だ」

「後ろの少年は世界最古の古代魔法まで使いこなすと言われる天才魔術師、その隣は剣も魔法も超一流の魔法剣士だよね。凄い、まさか会えるなんて…!」


 頬を染めてはしゃぐ私の取り巻き達。

 私が転移した国でもトップクラスのイケメン達。


(でも、あの人たちに比べると何か普通だな…)


 急に熱が冷めてきた。

 向こうは見た目だけでなく、肩書きでも圧倒的だ。


(私、向こうに行こうかな…だって、向こうの聖女はおばさんでしょ? 私の方が絶対可愛いし、私の方が絶対に愛されるもの! って、そうだった! その聖女って女は一体どこに……………え)


 私は呆然とその光景を見ていた。


 煌びやかな集団の後から一人の女が、やたらと綺麗な顔をした頭に角のある美幼児と、やたらと可愛くて綺麗な美幼女を横に引っ付けて歩いてくる。


(あの女が聖女なの……っ!?)


 私は愕然とした。

 おばさんだと思っていた。いや、思っていたよりも随分と若いが、確実に年は自分よりも上だろう。けれど、そうじゃない。そうじゃなくて―――




「すっぴん!? 芋ジャージ!? 止めに手には酒瓶!? あんた、正気なの!?!?」




 ――――そう。私と同じ聖女と呼ばれる女。

 その女は、完全に休日の喪女の姿で登場したのだ!


「いやいやいやいや!? ちょっと、待って!? ちょーっと待って!? 普通、その恰好で来る!? こっちは国賓待遇で待ってたんだよ!? 国王様その他諸々お偉いさんも全員でお出迎えしてるんだよ!? そこへ普通、いい年した女がすっぴんで来る!? しかも、芋ジャージ!? 何そのショッキングピンクと蛍光グリーンのレインボージャージ! どこで売ってんのよ!?」

「煩いわねぇ。ギャアギャア騒がないでよ。ったく、こっちはサービス残業と休日出勤でムシャクシャしてるの。酒ぐらい好きに飲ませろ、クソがぁ。げぇぇっぷ!」

「いや、こっちまだ話してる途中! 酒を瓶ごと煽るな! 隣の幼児はツマミのイカを差し出すな! ゲップをするな――――!」


 ゴックゴックと酒を煽る聖女(仮)。どこの荒くれものかな?


「トメ子、私はそなたの体が心配だ。もうその辺で止め…」

「うるせぇ! 私に指図するなイケメンが!」

「ブフッ! ありがとうございます!」

「ああ、王子!」

「王子、ずるいですよ!」


 おい!? この聖女、王子を酒瓶でブッ叩いたんですけど!?

 聖女じゃなくて、完全に破落戸なんですけど!?

 後、発言がアウトの奴いたよね、今!?


「トメ子様は又、恋人に振られたらしい」

「又か。これでもう二十回は越えているじゃないか」

「そして又、別れた恋人はトメ子様の…」

「ああ…又、開いてしまったか、相手の男の新天地が…」


 ヒソヒソと不穏そうな言葉が聞こえる。いや、振られ過ぎだし、振られたヤケ酒風景がアレだから又、振られるんだよ。全然可愛くないからね。確実にドン引きされる奴だからね。

 そう思いながらも、聖女(仮)一行は王宮内へと案内され、持て成されている。

 豪勢な食事会が催されたが、割と早く終わった。ムシャクシャした聖女(仮)が、王様がセクハラをかましてきた瞬間、王様の頭を酒瓶で叩き割ったのだ。

 聖女って絶対嘘だ。ただの無頼漢だよ。オレが法律的な存在だよ。オレのものはオレのもの、お前のものもオレのもの(そのままの意味で)だよ。


 そんな聖女(仮)に呼び出された可愛い私。

 やっぱり私が可愛いから嫉妬されてるのかしら? なーんてね!



「あんた、いつ帰るの?」

「は?」



 聖女(仮)の第一声に、思わず素の言葉を返す。


「さっさと帰った方がいいわよ」

「はああ?」


 冗談が冗談ではなかった。

 この女は自分だけが聖女としてチヤホヤされたいが為に私を追い返そうとしている!

 そう確信した私は、鼻を鳴らした。


「何でそんな事おばさんに言われないといけないの? 私に命令しないで」

「まさか、この世界に残るつもり?」

「ええ。それもいいかなって思ってるけど?」


 おばさんには関係ないでしょ?

 そういう気持ちで睨み返したら、相手は微妙な顔をしてきた。


「まぁ…本人がいいならいいけど」

「私の事は放って置いてよ」

「ただ、忠告はしておくわ」


 聖女(仮)は真剣な眼差しで私を見つめる。


「ねぇ、あんたこちらに来てから一度も帰ってないのよね?」

「そう、だけど…?」

「こっちとあっちの時間の流れが違う事は知ってるの?」

「え、何それ? どういう意味?」

「こちらの時間で一日は、向こうでの一時間に値するの。原理は知らないけど」

「えっと…つまり、どういう事?」


 数字はそんなに得意じゃない。

 よく分からなくて聞き返せば、淡々と答えが返ってくる。


「向こうで1年過ごすと、こちらでは24年の時間が流れるという事よ」

「そ、そんな…それじゃ、私が向こうに帰っている内に皆…」


 想像して、真っ青になった。

 例えば、現在高校一年生の私が高校を卒業するころこちらでは72年も経ってしまうという事。私が少し大人の女性になる頃、皆がおじいちゃんになってしまうという事。

 更に、もっと時間が流れれば…


「そんなの嫌! 皆が、皆が死んじゃうなんて…っ!」

「いや、死なないわよ?」

「え!」


 不思議そうな顔でトメ子はあっさりと言った。


「そこじゃないのよ、この世界の怖い所は。今までこの世界に残った聖女は一人もいない。そして、だからこそこの世界は召喚を繰り返すの。何で誰も残らないのか分かる?」

「わ、分からないわ…」


 この世界には、聖女の血統は一人もいない。それは最初に教えてもらった。

 だからこそ、出来れば残って欲しいと懇願されたのだから。

 でも、分からない。

 だって、皆イケメンで優しくて、私をお姫様みたいに扱ってくれた。

 聖女はこの世界ではとても大切にして貰える。なのに、どうしてこの世界に誰も残らないんだろう?


 その答えは――――




「この世界の人間の寿命は平均2000歳よ」

「………え゛!?」




 思わず変な声が出た。

 2000歳!? ミレニアム!? 嘘でしょ!?


「ここは異世界だって忘れてない? 見かけは同じでも、違う生き物なのよ。例えば、この可愛い幼女。見かけは3歳だけど、実際には72歳」

「え゛!?」

「そこのイケメン。見かけは20歳位だけど実際には480歳」

「え゛!?」

「ついでに言えば、このチビッ子魔王は魔王種で寿命が人間の100倍は長いから、見かけは5歳くらいだけど実年齢は12000歳くらいよ」

「今、魔王って言った!?」


 頭が大混乱している。つまり、つまり………元の世界の家族や友人が1つ年を取る毎に、こちらにいる私は…?


「+24歳」

「きゃぁぁぁぁぁああああ!」

「ついでに言えば、こいつらが外見年齢3歳プラスされる時、私たちは+72歳のヨボヨボ」

「いやぁぁぁぁぁああああ!」

「更に、こいつら若い時代が長いとかいう反則的生命体」

「嘘よぉぉぉぉぉぉぉおお!」



「止めにこの世界、化粧品ねーから。美形に補正はいらない」

「もう帰るぅぅぅぅぅぅうううう!!」

「そんな、マリナ!? 残ってくれると言っていたのに!」

「無理無理無理無理! 死んじゃうから! マジで死んじゃうからぁぁぁぁぁああ!!」



 こうして、私は速攻元の世界に帰る事に決めた。

 一刻の猶予もない。

 だって、こうしている間にも、私と向こうの時間はズレていく。

 向こうの同級生より、私は老けていくのだから! 何て、恐ろしい場所なの異世界!?




 イケメン達を振り切り、私は元の世界へと帰る。

 途中でこの世界に私を連れてきた天使と会ったが、とりあえず渾身の力でビンタしておいた。


「トメ子はもっと絶妙の力加減で叩くのに…」


 知 る か ! !

 後、何お前も目覚めてんだ、ぶっ殺すぞ!?(※これが彼女の素です)



 ★ ★ ★ ★ ★



 こうして、私は無事に元の世界へと帰った。

 今では、大聖女トメ子に心底感謝している。


「彼ぴっぴ、大好きだょ!」

「どうしたんだよ、急に。オレも好きだよ、民子」

「本名で呼ぶな。マリナって呼んで」

「いい名前なのに」


 そう言って笑う彼に、私も笑った。

 そんなにイケメンじゃなくても、一緒に年を取っていけるっていいね!







 ある日、私を救ってくれた彼女を街で見かけた。


「トメ子、待ってくれ! オレはお前の拳が忘れられないんだ…!」

「下がれ、新入り! トメ子様の拳は予約制だぞ!」

「トメ子様、この哀れな豚めをどうぞ踏んでください!」

「ああああんんん! その蔑む容赦のない眼差しが、ビクンビクンしちゃう!」


 …………大聖女、生きろ。頑張れ、超頑張れ。



トメ子は最短5分で世界を救いました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あの手の輩に構うと、期待した目でどこまでも付け回されることをトメ子はよく知っていた。―――よく、知っていた。 被害者(崇拝者)の会は、今も拡大中 (っ・д・)≡⊃)3゜)∵ オチが最高…
[一言] トメ子最高!また続きが読みたいです。お待ちしております。
[良い点] 破落戸、無頼漢と畳み掛けがテンポ良く聖女の人なりを表しているところ。凄く笑った! [一言] トメ子様の次が読みたいです。1話読み切りの続きものとして続くとよいな~
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