初授業よりも情報をどこで手に入れるか。
チャイムが響き、2時限目の始まりの合図がする。
あえて、少し遅れて教室にはいる。そうすることで、クラスの特性が見られる。ざわざわしつつも、仲良い雰囲気だったり、休憩中とのメリハリつけていて予習していたり。はたまた、虐めがあったり。
教室の前で、一呼吸。前の扉を開けて、教卓まで歩く。静かに向きをかえ、前を見ると生徒達と目があった。うん、普通だ。机には教科書、ノート。置き方はバラバラだし、もう、突っ伏してる生徒もいるが、生徒も様子見ってかんじ。
それもそうか。今日初めてみる副担の初めての授業。ここで判断されるってかんじかなぁ。
「起立、令、着席。」
「はい、じゃぁ、これからの授業の進め方と方針を説明します。そこから、できれば教科書進めていきます。」
話ながら、プリントを配る。本来ならここまでやる必要はないが、これから何をやるか、知らないよりは知っていた方が身のはいりがちがうはずだ。配ったプリントには、年間の進め方と目標がかかれている。
「せんせー!この模試目標ってなに?」
「挙手してから、発言して。今から説明します。まずは、年間の授業スケジュールはいいわね?それで、先程質問のあった模試目標なんだけど、定期的に行われる模試で最大限このクラスは90点をクリアしてもらいます。」
「はい!定期テストじゃダメなんですか?」
「学校内でのテストなんてたかが知れてます。ただ単に授業内容の確認ですし。全国規模のテストで自分の実力をはかってください。」
「はい。付属にそのままいく予定なので、公民に力いれてないんですけど。」
「だからこそ、今のうちにちゃんと押さえておいてください。公民は実は他の教科より現実に使うものです。まぁ、私が担当している贔屓目もありますがね。そして、どうしても受験や将来のことを考えたときに、皆さん国語、数学、他言語に力をいれたがります。なので、今のうちに勉強しておきましょう。いざ使うってときに、使えないなら恥ずかしいですからね。」
質疑応答はこれで終わったらしく、早速教科書を進める。
クラスの半数以上は私の言葉を受け入れたのか、元々の気質か、真剣に授業をうけている。しかし残りは、ぼけーっとしていたり、内職しているようだ。目に余るようなら注意はするし、成績が悪ければ対応するが、今はほっておく。そのなかに、柳田がいるのが気になるが。
彼女は終始川村を見ていた。もう、狙いを決めたということだろうか。それとも、ホームルームの後から2限が始まる前までになにかあったのか。
「ふぅ。」
ついため息が出てしまった。やはり、小学校のように全教科受け持ちでない限り、副担の立場で調査対象の生徒を見守るのは厳しいと思う。まだ、生徒との距離感もつかめていないのに、嗅ぎまわるような真似をすれば、悪目立ちするし。
授業も終盤となり、今日の授業内容と去年のセンターの過去問が被っていたので、その部分を配布する。解答後、回収してどのように設問になるのかを体験してもらい、私は理解度具合を確かめる。まぁ、全員が正解してるようだが。
「では、本日はこれで終わります。授業内容の質問やリクエストも聞きますので、何かあったら準備室か職員室探してください。そこにもいなかったら、何かあったと察してください。」
その言葉を聞いて、クスクス笑う女子生徒ににっこり微笑む。
「起立、令、着席。」
教室を出るとすぐに、先程の生徒の林と、林の友人と思われる生徒の雪谷と、神山が追ってきた。
「かなめっちー!しつもーん!」
「かなめっちはやめない?」
「えー、可愛いじゃん!」
にやにやしながら、返された言葉にバカにされてると気づく。初日であだ名。確実になめれた。でも、まぁ、私が高校生の時も先生達に変なあだ名つけてたなと思うと、名前をもじっただけましか。私の時、確か「ハゲ公」ってつけた先生いたもんな。ほんとすみません。
「で?なんの質問?」
「かなめっちって、彼氏いるの?」
「違うって!彼氏じゃないっしょ!旦那っしょ!」
「で!いるの?いないの??」
28歳。彼女たちからすれば、もう結婚している歳なのか。でも、そんなに既婚者いないぞ?まぁ、一次結婚ブームは去ったけどね。先月、3人目妊娠しました報告メールが届いたけどね。数少ない友達から。
「いませんね。旦那も彼氏も。」
「まじ?!寂しいじゃんー!ってうちらもだけどねー!」
ケラケラ笑っている3人に、勝手に寂しいと決めつけるなと、叫びたい。1人も楽しいんだぞ!金の使い方も自由だし。
「皆さんいないの?可愛いのに。てか、クラスに付き合ってるこっているの?」
「結構いるよねー。」
「いるいるー!それに、目の保養はたっぷりだよー!王子6人もいるし。担任はじめちゃんだし、うちのクラスあたりって言われてんだから!」
王子6人は、桜との話に出ていた6人であろう。
「そうなんだ。王子?ねぇ。」
「うんうん。それに、転入生は早速他のクラスで姫って言われてるよー。」
「そうなの?」
「見た目かわいいもんねっ!ちょっと笑えるけど。」
笑えるの部分に違和感をもったが、もう次の授業だ。
「今日お昼暇?」
「何、かなめっち??」
「一緒にごはん食べない?そして、話聞かせてよ。」
「えっ、かなめっち、もうボッチなの?」
「えっ!もう職員室ではぶられてんの?」
「違うし。クラスのはなし聞きたいなってさ。」
「いいよー。準備室いっていい?」
「大丈夫だとおもう。許可とっとくから、お昼になったらおいで。」
「「「はーいっ!」」」
かわいい返事をして教室に戻る生徒に手を降り、振り替えると壁があった。
「佐藤先生は、ボッチで彼氏もいないんですか?」
「桜先生、セクハラです。」
「は?!さっき言ってたの繰り返しただけだろ?」
「受け手がどう受けとるかで、セクハラもパワハラも決まるんです。」
壁、もとい桜を避けながら次の教室に向かう。
「まじ、訴えるとかいうなよ?お前が言うと洒落にならない。」
「大丈夫です。今はそんな暇ないので。」
「今とか言うなよっ!!」
廊下で叫んでる桜を放置し、先程の会話を思い出す。柳田に対する嫌味はなかった。ただ、好奇心はあるような雰囲気。そして、笑える何かがあったのか。
やはり、生徒を味方につけといた方が良さそうだ。距離感を持っておけば、いい話が聞けるかもしれない。定期的に、生徒とお昼をすごそう。流石に毎日だと、監視ができないし。
それでも、さっきまで持っていた自分が見れない時間のことを知れる手段ができたことに、自然と笑みが浮かんだ。