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真面目にお仕事いたします  作者: さくらりん
3/10

1日目ははじまったばかり。

先ほど桜が言った、メンバーをクラス名簿から探す。


山口兄弟。卓人と勇人の双子。一卵性のため、顔立ちは似ているものの、醸し出す雰囲気が違う。卓人はどちらかというと軽い。勇人は優等生。ふたりは全国展開外食チェーンの息子だったはず。


川村総汰。朗らかな笑顔で終始いた彼は、医師家系。祖父が総合病院の院長。姉がガン治療の権威。


中田陸空。桜と同様に柳田の挨拶で吹き出した男。財閥の息子で、私の自己紹介のあとすぐに、パートナーの有無を聞くようなタイプ。


そして、隣にいる、桜はじめ。彼はこの理事の親族に辺り、実は次期常務にとも噂されてる。


「…もれなく金持ち、見た目よしを選ぶんですね。」

「あぁ、クラスメイトの事前資料はないはずだから、それでこの判断。スゲー嗅覚だな。顔がいいやつも他にいたのに、全く目向けなかったしな。」


確かに。桜の言うとおり、今あげたメンバーの他にも爽やかスポーツ系やちょっと影あり系などのイケメンもいた。ただ単にタイプでなかった可能性もあるが、彼らは特待生のため、上記のメンバーよりは金銭的余裕はない。


「…報告書書くのめんどう。」

「だなぁ。でも難しいな。どこまで報告するか。だって、プライバシーもへったくれもなくなるだろ?」

「ええ。でも、それを許可したのは親御さんです。いきすぎだとは思いますが。ただ、もちろん、校内すべて監視できるわけではありませんし、報告書の内容をどのように伝えていくかは兄に丸投げします。」

「勝にねぇ。やつなら判断、はやそうだな。」

「ええ、凡人にはわかりかねますがね。そして、協力はありがたいですが、調査書内容はもちろん、おつたえしませんからね?」

「あぁ、わかってるって。オレは面白きゃそれでいい。それに対処するってなったときには、否応なしに聞かされるだろうし。柳田への好意はどーすんだ?何人かは一目惚れしたぞ?」

「ええ、二人は目に見えてしてましたね。そこは曖昧報告予定です。兄やクライアントの常識を期待します。」

報告しろと言われれば、しなくてはならないのかもしれないが、悪意でも好意でも予測でいちいち報告していたら、大変なことになる。

話はここまでと、職員室の前で別れた。彼は職員室へ。私は社会科の準備室へと足を進める。


「…やっぱ桜先生もくせ者だわ。」

面白そうという理由とはいえ、生徒と普通にやり取りしているなかで、誰にも気づかれず、柳田に対する反応も残さず見ている。桜も兄の友人の一人だ。自分のことをかっこいいと人前で言えるあたりが、私からすると寒イボがでる。そんなことを本人の前で言うと「当たり前のことを認めて何が悪りぃ。」とどや顔で言うだろう。


まぁ、それにしても、ほんと柳田の嗅覚には驚かされる。本人の頭のなかを覗いてみたい。それとも本当にヒロインというやつで、金持ちイケメン察知器官とか備わっているのだろうか。


考えているうちに、準備室にたどり着いた。扉を開けると、少し埃っぽい臭いがした。丁度、他の先生達がおらず、1人だ。そそくさと部屋に入り、扉を閉める。部屋の角に窓側を背にして座り、机おいてあるノートパソコンを開く。3重にかけたロックを外し、ファイルを呼び出す。教室に入ってきてからの顛末を箇条書きにてまとめた。


兄への報告は週1。そして、兄からクライアントへの報告は月1予定。常に対象者のそばにいるわけではないから、判明した中身はなるべく簡潔かつ詳細に報告することを義務付けられている。生徒間の噂話も含めてだ。噂の発信源は自己判断でぼやかしていいとのことだが、柳田が狙いを定めたと思われる生徒は報告しなければならないだろう。

この作業を、通常の授業、生徒指導と共に行わなくてはならない。今思えば、どんだけ働かせるんだって話だ。まぁ、ありがたいのが、暦通りの休みがあることかな。とはいえ、それでも行事打ち合わせでわざわざ出校しなければならないこともあると、桜に脅されたばかりだ。

「兄から離れれば、楽できると思ったのになぁ…」

エンターキーを押し、ファイルを閉じる。

こんな時、律儀に教師も調査もしっかりやらなければと思う自分にあきれる。結果はなかなか伴わないが、真面目に取り組むことだけは、あの兄に誉められたこともある。そのあと、「まぁ、俺ならこんなに時間かからないが。」と付け加えられたが。

でも、性格なのだから仕方ない。だって、調査なんて他の生徒には直接関係ないことだ。なのに、その調査員から授業を、指導を受けなくてはならない。私なら、金返せといいたい。だからこそ、そう思われないために、教師として先生としてしっかり全うするべきなのだ。そして、自由のために、パラリーガルとしてもこなさなければ。


時計を見ると授業終了まであと15分。早速、次は2-Sで授業だ。授業内容には不安はない。このために、前任の先生のところで指導を受けたのだ。定年間際とは言え、数年の早期退職をお願いしたという事で決まりが悪かったが、本人は通常より多い退職金にホクホク顔だった。だから授業よりも、離れていた1時限で柳田がやらかしてないことを祈るしかない。


公民授業の年間授業予定表、指導案のファイルをクリックし、ざっと確認。生徒の理解度に買わせて調整しなくてはならないが、2-Sなら、予定表から遅れることはないだろう。きっと彼ら、彼女らは私なんかより、頭がいいはずだ。それでも少しでも役立つために、授業を進めつつ、該当するセンターの過去問も提示予定だ。まぁ、必要ないようなら止めていくが。

教科書と教材ファイルをもち、パソコンに再度ロックをかける。

続けて授業を受け持つため、パソコンは職員室のロッカーにでもいれておこう。念のためだ。


授業に間に合うように、急いで準備室を後にする。

教師としての1日はまだ始まったばかりだ。


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