表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真面目にお仕事いたします  作者: さくらりん
2/10

教師になった理由。

たんたんとした自己紹介が始まる。そりゃそうだ。高校2年にもなって、ほぼ知り合いのなか自己紹介なんて、かったるくて恥ずかしい。私だったら、名前とよろしくお願いしますで終わらす。同様に思っているだろう生徒達の自己紹介を聞きつつ、視界の端には柳田をいれておく。

特定の生徒の時、これでもかという瞬きをしている柳田に、柳田の隣の女子生徒がひいている。その子は可哀想だけど、当分席替え予定はない。慣れてもらうしかない。


「柳田姫歌ですっ。さっきは遅れてすみませんっ。今日からこの学校に通うことになって、まだわからないことだらけですが、頑張りますっ。みんなよろしくっ。」

先ほどと同じ天使の笑顔で語尾にハートが付きそうなテンションでの挨拶。最後に、お目当てであろうお方達の反応を確めるように、クラス全体を見渡すのが、おもしろい。隣の桜が、吹き出したのを咳払いとして誤魔化している。


「おっほ。あーすまん。これで全部だな?まぁ、1年適当に問題なく過ごしてくれ。進路関係でも、対人関係でもこじらす前に俺か副担任の佐藤にでも相談しろ。もし、嫌ならカウンセラーもいる。溜め込むなよ。」

「…頼りないかもしれませんが、しっかり対応させていただく所存です。これで、ホームルームは終わりです。次は移動教室ですので、皆さん遅れないように。では。」


桜とふたりで、教室の外に出る。廊下を歩き、角を曲がった瞬間、桜がうずくまった。プルプル震えてるのを見ると、笑いが止まらないらしい。

「なにあれ?なにあれ?あれがヒロインなの??あんな仕草するもんなの?ねぇ。うちのクラスほとんどひいてたよ?しかも、何人かは俺と一緒で笑ってたし。」

「知りませんよ。そうなんじゃないんですか?私乙女ゲームも小説や漫画もあんまり興味ないんで。一応調査として、小説は何冊か速読させて貰いましたが、作品によって色々でしたし。…はぁ。早速お気に召す方々がいるようですし。…めんどくさ。」

手元のクラス名簿のファイリングを開きながらため息が出る。仕事は楽な方がいいのに。

「あー。パッと見た感じ、山口兄弟と、川村、中田かな。あと、俺か。」

ニヤニヤしながら立ち上がった桜は、私の事情を知るひとりだ。そう、私はここに教師としてだけでなく、調査員としている。もちろん、理事や校長も承認済み。担任の桜もだ。

調査対象は柳田姫歌。期間は対象者が卒業するまでの2年。状況によって短縮あり。調査内容は学園生活。主に異性に対するもの。依頼者は、柳田の両親、本学理事長、校長の4名。協力者として桜がいる。

きっかけは柳田姫歌の暴走だ。某私立高校に入学した彼女は、それまでの人見知りの性格から、突然人が変わったように男漁りをはじめたらしい。そして、高校中のイケメンといわれる男にすりより始め、色々問題を起こした。なんせ、彼女がいようが、既婚者であろうがお構い無し。もちろん揉めたが、そしたら、そんなつもりはなかったと泣き始める。相手は中学卒業したばかりの女の子。十分良し悪しの判断ができる歳ではあるだろうが、うまく対処できなかった回りの男達(被害者)も悪いし、責任は保護者になる。当然、柳田の両親は呼び出され、後始末に回った。

両親が本人に事情を聴くと、中学時代に乙女ゲームにはまってしまい、自分はきっと主人公でみんなあたしを好きになると思ったとのこと。相手は可愛い可愛い一人娘。両親は、ゲームと現実の違いを説明して注意はするものの、端から見れば甘いものだった。

その後、騒ぎを起こした高校は自主退学し、そのまま受け入れてくれるところを探す。そして、手を挙げたのが今の大学付属高となる。まぁ、柳田の両親が国内有数の大企業であり、寄付金が見込めること、柳田姫歌の学力が高いこと、そして、やり直しがきく若い年齢があげられるだろう。ただし、その際、条件として、柳田の監視報告を義務付けた。付属高とはいえ、中には大企業の息子、医者の息子、政治家の息子、旧貴族の娘などが在学する。子供を預かっているのだ、被害がないようにするのは当たり前だ。

そこで、白羽の矢がたったのが私。それもこれも、最年少司法試験合格者。あまりにも簡単に試験に合格できて暇だと、ニューヨーク州の弁護士資格もノリでとるような、兄の勝のせいだ。産まれたときから、天才と言われ、見た目もよい兄は、妹の扱いだけは酷かった。いや、弁護人として検事や相手の弁護人を完膚なきまでにぶっ潰すのは、十分性格が悪いのかもしれない。

そんな兄に、扱いやすいからといって、パラリーガルとして下僕のごとく扱われている私。溺愛?んなわけない。小説に出てくるようなヤンデレでもない。言うなれば、俺様だ。私と兄は似ていない。容姿も頭も。モデル並みの兄に対して、初対面でも「何処かであったことありましたっけ?」、何度かあってても「えっと、初めてお会いしましたよね?」といわれる何処にでもいそうな印象のない顔の私。天才の兄に対して、公立大学になんとか合格した私。性格は兄よりましだと思っているが、いかんせん今まで兄に振り回されていたため、比較対照が少ない。だいたい、最近回りにいるひとは、兄のクライアントや友人だ。癖があるに決まってる。

その兄の無茶ぶりで、今回の仕事となる。兄の顧客の柳田夫妻に相談され、仲介し、監視の条件での転入をもぎとった。そして調査員として、顔が平凡で目立つようでもない、大学で何となくとった公民の教員免許がつかえるということで私になった。クライアントも、免許持ち、弁護士の妹であればと納得。因みにここまで、私に相談なし。本決まりになり、契約したあとに、書類とともに報告されたのが、赴任になる3か月前。そりゃもう本気で勉強しましたよ?教師になるからには、生徒に失礼のないように公民の復習、付属大学の方針と担当クラスになるだろう生徒の進路希望と家庭環境、それにともない柳田姫歌の過去の事件と小説を読む。死ぬかと思った。大学受験よりも勉強した。兄はそれを横目に笑ってたさ。「がんばってくださーいっ」ってな。

いいんだ。頑張ってみせる!そう、この仕事を引き受けたのは、この調査が終われば、1年間の有給休暇がまるっともらえるのだ!もちろん、書面にしてもらい何度も確認の上だ。

だから、途中で音を上げるわけにはいかない。まぁ、仕事は簡単な方がいいけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ