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真面目にお仕事いたします  作者: さくらりん
10/10

平和な日々が壊れる合図

「おつかれさーん。」

「お疲れさまです。」


ここは歓迎会で使った割烹。この前の大きなお座敷ではなく、こじんまりとした個室に案内された。

今日は個人的な飲み会。というか、桜とのクラスの状況確認である。まぁ、学校でできなくもないが、中間テスト期間中の今、書道を受け持つ桜と、期末までは何もない私は、いつもより、時間に余裕がある。


「ていうか、Sクラスの担任が書道ってどうなんですかね。」

「しゃーないだろ。学校の方針なんだから。Sクラは、基本5教科担当以外がもつんだよ。生徒のフォローにまわりやすいようにって。」

「そうなんですね。知りませんでした。」

「まぁ、説明するほどでもないしなぁ。」

ふたりでビールを飲み干す。追加で注文し、話がかわる。

「ところで、全くもって平和なんだが、どういうことだ?」

「どういう事かと言われましても。あ、この塩辛美味しい!海老の塩辛って白ワインにも合いそうですよね。」

「ここのはどれも旨いんだよ。それより、全然面白くないんだが。」

「普通担任として平和が一番じゃないですか。なに面白味求めてるんですか。」

「真っ当なこと言うなよ。でももう少し色々あるかなって思うだろ?初日にあれだけヒロイン雰囲気醸し出してたらさ。」

「確かに身構えてしまいましたけど。今は平穏ですね。」

「だろ。まぁ、恋する乙女ちゃんって感じはするけどな。」


そう、この2ヶ月何もなかった。桜の言う通り、柳田が暴走するかと思いきや、川村に一途に恋する乙女状態。同時進行で他に手をつけるわけでも、極端に回りを牽制し孤立からのいじめがあるわけでもない。クラスにも馴染んでると3人組も言っていた。まぁ、週一の報告の度に、「楽な仕事で良いよな。」と言ってくる兄は本当にムカつくが。


「テストが終われば校内イベントが始まりますしね。このままでいてもらいたいですけど。」

「確かになぁ、スポーツ祭に、文化祭あるわな。」

スポーツ祭は、球技大会と体育祭を足した感じのもの。それぞれの種目をトーナメントで競いあい、ポイントを稼ぐ。それに、応援合戦、リレーを行う。特に応援合戦は5分間の持ち時間でクラス毎に工夫を凝らすらしく、少人数とはいえ見ごたえがあるというのは、経理の古川主任情報だ。そして、文化祭は2日間行われ、一般開放されたのち、最後は生徒の希望者のみでの後夜祭が行われるらしい。

「楽しみですけど、教師は何もできないですよね。」

「当たり前だ。見回りだけで精一杯だな。あ、一昨年くらいに後夜祭におっさんバンド出てたけどな。」

ここから、自分達の時代の体育祭、文化祭の話題に華をさかせながら、酒をのむ。


「平穏にまずは1年過ごしたいですね。そのためには、テストが終わってからのイベントなんとかしなくちゃ。」

「イベントねぇ。あ、おい!こういうの話すと、意外とそのイベント期間になんか起きたりするよな。なんだっけ?フラグだっけ?」

「不吉なこと言わないでくださいよ。さぁ、もう帰りますよ。明日もよろしくお願いしますね。」

まだまだ飲み足りないとごねる桜を後目に、しっかり割り勘して店を出た。こちらかて、まだまだ飲めるが、明日もあるし、男女ふたりで個室で飲むのがなんとなく嫌だ。


そして、テストも終わり、採点、イベント準備期間にはいった。水曜日のLHRで、スポーツ祭の種目と実行役員をきめ、続く文化祭の役員と出し物候補も決めていく。滞りなく決まり、準備室で今週前半の報告書にもならない文面をみかえしていると、扉をノックする音が響いた。

慌てて、パソコンにロックをかけ、声を返すと、そこにはニヤニヤ顔の桜がいた。


「フラグってやつだな。来たぞ、相談だ。明日の放課後時間空けとけ。内容によって、生徒同士のやりとりの仲介か、職員会議か、弁護士挟むか。まずは今日俺が話聞いてからだな。」

「ちょっとまってください。だいたい雰囲気はつかめますが、誰からの相談ですか?」

「川村だよ。奴が先生(オレ)を頼るということは、結構深いと思うぞ?」

「今日私も同席できませんか?」

「いや、そこはダメだ。まずは窓口として俺が聞く。そこから本人了承のもと、立ち会いだ。内容共有も聞いてからだ。」

「しかし!」

「川村待たせてる。時間がない。報告しただけまず感謝しろ。じゃぁな。」


居たのは数分。今は扉もしまっている。

わざわざ桜が言いに来たということは、きっと相談内容として、柳田というワードが出たのだろう。慌てて、先程閉じたパソコンを開く。ここ最近の調査書を確認してみるが、全く平穏に見える。クラスメイトからのおしゃべりというなの情報収集でも違和感はなかった。柳田本人にも最近は直接声かけしたりしたが、可愛らしい生徒の一人というイメージのままだ。実際、何人かに告白されたという噂もある。

川村と柳田の接触もたまには見られるが、川村が笑顔でかわしてる感じで、そこには川村自身の慣れも見られていた。だてに王子の一人ではない。こういうことは日常なのだなと感心していたのだが。


「とにかく明日を待つしかないんでしょうね。」


これから始まるイベントたち。来年のこの時期では、受験に向けて力を入れないという生徒も出てくるという。だからこそ、クラス全員に楽しんでもらいたい。


ちらりと横を見ると、学年の中間テスト成績優秀者のリストが見えた。上位はもちろんSクラスで占められている。そして、9位には柳田の名前がある。

そう、彼女は頭が良い。そのことを忘れてはいけないのだ。



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