終幕、そして開幕
初投稿で初連載、たくさん至らぬ点が出てくると思いますが私はこれから登場していくキャラクターが大好きです。趣味の合う方もそうでない方も時間つぶし程度でいいので読んでみてください
世界の始まりは何てことはないごくつまらないものだった。
宇宙があって星があって、そしてその中の地球という星に生命が誕生しただけ。世界をそれと認識できる知性ある者が現れたから、その者が住まうそこが「世界」と呼ばれるだけの話だ。
しかし、今と違うことは? と問われれば、あると答えられるだけの違いはあった。
それは、その世界に最初に誕生した知性ある者が人間ではなく、「神」と呼ばれる個として万能、群にして全能な存在であったことだ。
彼らが絶大な力を持つが故に、世界は創造と破壊を太陽と月の廻りより忙しなく繰り返した。ある山が生まれたと思えば半日も経たずに更地と化し、広大な海が生まれたと思えば数日後には深い谷になっている、そんな無茶苦茶なサイクルで世界は動いていたのだ。
そんな無秩序が続いて千年。数柱の神がこのままではこの星が死んでしまう、世界が滅んでしまうのではないかと警鐘を鳴らした。
そこで世界に存在した神や神獣、魔獣や怪物、そして少しずつ繁殖していた人間達は似通った出自をもつ神々の下にその他の生物のグループを作り、その頂点に「主神」という長を置き、「神威領域」という安定した管理を行うべき領土を起こした。
それから五百年、領主である主神の下、各地の神威領域ではそこに住まう者の間での諍いや戦争は起こったものの、世界に有害な影響を及ぼすことは無く、とりあえずは平穏な年月が流れていっていた。
そこまでの千五百年は神々が治める時代として「神代」と呼ばれていた。
しかし、穏やかな日々は突然、ある人間の巫女の予言によって打ち砕かれることとなった。
『太陽と月が喰らわれし時封じられた獣らが放たれる。
それと時を同じくし、放逐された者らは徒党を組み神々と戦を起こす。
獣らは神々を喰らい殺し、忌まわしい軍は神の地の命を狩り滅ぼす。
そしてその地の秩序は崩壊し、それは各地へ波及する。
無秩序がまた世界を覆い、世界は壊滅の一途を辿るだろう』
北方の神威領域の巫女から告げられたその予言は、大多数の神々にとって衝撃的なものであった。
破滅を回避する為に作った「神威領域」というシステム。だがそれで得られた安寧は虚構のもので、結局破滅という結末は変えられないと突きつけられたのだから。
しかもその滅びは世界全てを戦場とした最終戦争の果て。最も忌むべき戦乱に因る最期だった。
世界の頂点に立つ者らとしてそのような終局は絶対に避けなければならぬ。
しかし、どうすればいい。
北方の巫女の予言は絶対的なものと同義。それを覆そうとすることは容易ではない。
各地の主神は幾度も会合を重ねたが、一度として決議することは出来なかった。
だが、北方のある一柱の神が驚くべき案を提示した。
『その最終戦争が神とそれに相対す者達の間で行われてしまうものならば、そのどちらかがこの世界から去ればいいのではないか』
提示した神の名はロキ。
残酷で狡猾な悪神であったが、神々に危険が迫った時には手助けをしてくれる神でもあった。
それを提示された北方の主神・オーディンは驚愕としたが、義兄弟でもあるロキの口から告げられたその驚くべき案を唾棄出来ずにもあった。
結局のところそれ以外に手が無かったのも事実でもある。
だが、オーディンはその案に少し手を加えることにした。
まずこの世界を、神の次に優れた知恵と理性を兼ね備えた『人間』に託すこと。現在はどちらかといえば弱者である人間だが、逆に弱者だからこそ驕らず、様々な視点から治世を行えると踏んだからだ。
次に去る者は自分達神々でいいが、その前に神に匹敵する力を持つ怪物や魔物らを殲滅、あるいは封印すること。神々と同等の力を残してしまえば、結局は何らかの形で予言が的中してしまうかもしれない。さらに弱者である人間の障壁を少しはへらすべきだという理由からだ。
そして最後に、人間にこの世界を託すにあたって、神々の歴史や知恵や一定度の力、そして巫女の予言を残すことにしたのだ。今現在でも人間の持つ知識は神々とさほど変わらない。違いがあるとすればこの世界やそこにある物事の『本質』を全ては知らないことぐらいだ。だが知識の吸収力や探求心であれば神のそれを超える。また、弱いからこそ滅びへの恐れというものをよく理解しており、だからこそ大きな力を持とうとも、それによって世界を壊すことは無いと信じた故だ。
「・・・・・・これでよい。これならば彼の予言に到ることは免れよう」
「ははっ、お前らしい周到さだなオーディン。そんなに俺が信じられないか」
神殿の玉座に座る北の神威領域主神・オーディンが厳かに告げる。
そんな彼に軽薄そうな顔で茶々を入れるのはロキだ。
「信じておらんわけではない、我が義兄弟よ。だが我らにとって巫女の予言は絶対。それを覆すならばそれ相応の事をせねばならんだけだ」
「ふ~ん。まっ、元はお前らの敵たる巨人の出の俺にはよく分からんがね。ところでよ、オーディン」
「何だ」
「お前らの知恵や力を残すったって、一体どうすんだ? まさか頭とかバラバラにして残す訳じゃないだろ? 流石の俺でもそんな猟奇的なのは御免だなぁ」
手で自分の首を切る仕草をしながらロキは言う。だが言葉とは裏腹に表情は軽薄そうなままだ。
しかしオーディンもそんなロキの態度には慣れ切っているのか、全く気にせず、頷き答えた。
「うむ。刻印に魔力を注ぎ、何処と決めずに撒く。ルーン魔術を応用したものだ」
「ほほう、魔術か」
「うむ。魔術故にそれが永遠変化せず残ることは無い。人が自立する時分には大分劣化して残る。だがそれで良い。残ってしまえばそれは我らがこの世界に在り続けると同義だ。それだけは避けねばならぬ」
「ハイハイ、戦争を回避する為にな。もう何百回と聞いたぜそのセリフ。わーかったわーかった」
「ロキよ」
「あん?」
どこまでも真面目さが無いロキにオーディンは語りかける。
「貴様のそれは本来糾されるものであろう。だが吾はそれをしなかった。それが我らにとってすくいとなることが数多にあったからだ。その柔軟さで最後にまた救われたな、感謝するぞ」
「よせやい、きょうだい。お前らをおちょくろうが助けようが、それはただ俺が楽しいからやったまでなんだぜ? 俺は独善的なやつなんだ。んなことで感謝されても身体が痒くて仕方ねぇぜ」
珍しく照れ笑いを浮かべるロキに、オーディンもつられて笑った。
「ならば共に見ようではないか。貴様のお遊びのその後を。世界を託された人間らがどう足掻くかを」
「俺らは神話となって高みの見物かぁ? お前らしくないなぁそういうの」
二柱は共に笑った。これが今生の別れとなるにも関わらず。
確かに彼らは死ぬわけではない。この世界から去り、それがどこか知る術もない所へいくだけなのだから。
最後の会話を終え神殿から出てきたロキはふと呟く。
「俺のお遊びか、違いねぇな」
そしてロキはニヤニヤとしながら歩き出した。
「だが、遊びをしないお前は分からないだろうが一つ違うことがあるぜ?」
神代のトリックスター・ロキは胸の中でそれを指摘する。
――――他人が遊んでいるのをただ見てるだけ、というのは心底おもしろくねぇってことだよ!!
一つの滅びを回避しても神話は終わりに向かう。
話の書き手と登場する者が変わるだけだ。
さぁ新たな神話を始めよう。
散りばめられた伝承をまとめて新たな滅びへ歩を進めよう。
読んでいただきありがとうございます。申し訳ありませんが以降の投稿は不定期となります。「お、いつの間にか続ききてら」という感じで読んでもらえるように頑張って書き続けていきます。まだ始まったばかりですが、感想やアドバイスよろしくお願いします!