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良し悪しの色とりどり  作者: 黒檸檬
一章 能ある鷹は爪を隠す
9/18

9. 金曜日、過去があっての今


 カーテンの隙間から、煩わしくも光が差し込んでいる。


 まだ寝ていたいと思っているのに、太陽が「夜はとっくに明けている、もう起きろ」と伝えてくるように思えた。


 さらに開けっ放しの窓から、木の枝が風に吹かれて、葉と葉がぶつかり合う音。時折耳障りな鳥の声も聞こえてくる。


 外界からの刺激を受け、少しずつ俺の意識も覚醒していく。


ーーーー仕方なく目を開ける。だが、脳も身体も起き上がろうとはしなかった。


 俺は朝が苦手なのだ。目を開けてから、最低でも15分は経たないとベットから出られないぐらいに弱い……。冬になるともっと酷くて、いつまで経ってもベッドから出られない為、大嫌いだ。


 だが、雪の日は嫌いじゃない。我ながら、矛盾していておかしいとは思うが……まぁ、なんだ、理由はちゃんとある。


 いつまでも降り積って、気づいた時には一面が雪に包まれている。中でも朝日に照らされ輝く景色が、これまた素晴らしい。雪の降る日なら、どんなに眠くてと起きれる自信がある。それくらい好きだ。

 そんな雪が造り出す白銀の世界を、俺が愛おしく思うのは……何処かに、彼女を思い浮かべてしまうからだろう。と理由はそんなところだ。

 

 さて、ベットから出られるようになるまで、まだ時間が掛かる。

 それまでの間、ここで英雄を目指した馬鹿な男が、1人の女の子に惚れてしまう『ありふれた物語』を独白しようと思う。


*****


 ある日、そこそこ有名な中学校に、1人のやんごとなき身分の女の子が、体験入学にやってきた。


 女の子の肌は新雪のように白く、肩まで伸ばされた髪は対照的に夜空のような黒さ、それがさらに肌の白さを引き出して美しく魅せていた。顔立ちも整いその完璧さは、容姿端麗そのもの。

 また、自己紹介や授業中に口を開けば、響くのは楽器のような美しい声が。

 詰まるところ、完成された美しさがそこにはあった。誰もが羨むだろう、誰かは妬むだろう。

 けれど、その女の子は貴き存在。学校でも護衛が常に一緒。これでは誰が妬もうとも、手を出せないはずだった。

 


 事件が起きたのは、体験入学期間の終わりが近づいたある日の事。


「全く、俺は何をしてるんだか」


 かつて俺は、英雄を志した。それで得たのは【保護】。本来なら、あらゆる害を退ける筈の力。

 しかし、それは子供ながらの憧れから発生した能力でしかなかった。事実、俺の【保護】は酷く脆い。

 けれど、英雄の力に追いつく道筋は分からず、その努力の方向さえ分からない。

 それを示してくれたかも知れない両親えいゆうは、既に死んでしまっている。


 さらには、2人の成した事を知る度に、今の自分との隔たりを認識してしまい。それが堪らなく苦しく、どう転んでも、同じ事は出来そうに思えなくて、遂には……諦めた。


 俺は英雄には、なれない。


 そして今、俺は他の誰かの貧乏くじを引き続ける人となった。

 何を言ってるか分からないだろう? それは俺もだ。だから「何をしてるんだか」と疑問を浮かべている日々を過ごしている。

 別に、誰かの為に率先して、面倒事を引き受けてる訳じゃない。偶々、良い位置にいたとか、良いタイミングだったとか、面倒事から向かってくる形である。こんなの呪いだ……。


 一度、誰かの能力なんじゃないかと疑って、全身全霊、命に危険が及ぶ程の【保護】を自分に施して、能力を遮断してみようとしたが……失敗だった。

 それもその筈。考えてみれば、態々、俺に呪いのような能力をかける奇特な人間はいなかった。


 そんな感じで、損な役回りをこなして今日まで生きてきたのだが、本日の面倒事は、美術室の掃除手伝い。


 これまた、床にこびりついた絵具が全然取れなくて苛立つのだ。

 それ以上に、頼んできた当の本人が、この場に居ない事が余計腹立たしい。


「何が、ちょうど良いところにだ……さっさと帰れば良かった……」


 今更恨み言を言っても仕方が無いのだが、恨み言の1つでも言ってないと1人きりで掃除はやってられない。


 馬鹿な性格をしていると、自分でも思う。本当に帰れば良かった話だ、それでも頼まれたら断れない。俺の奥底から、断る為の言葉が霧散していくのだ。そして、心に残る何かが、今の俺を責め立てるように、『英雄なら救うべきじゃないのか?』と迷わせにやってくる。

 そう言う状況で、迷って口を開かなければそこで終わりだ。断ることが出来ずに、流されるようにだが、頼みを受けてしまう。困ったものだ。

 こっちこそ呪いなのではなかろうか。どのみち、全力の【保護】で消えてないのだから、呪いは見当違いなのだろうがな。


 このような、変な思考に陥ってしまったりもしたが、概ね掃除が終わった。

 かなりの間、掃除をしていたようで、教室の窓から見える空は、既に夕日が映えた後だった。その特徴たる赤さも弱まり、空に赤さを生み出していた日が沈んでいくのを、まるで夜空が追い掛けて、飲み込もうとするように広がっている。


 正確な時間を確認するべく、教室の時計を見ると18時過ぎ。帰宅部にとっては凄く遅い印象しか浮かばない。この時間帯に残っているのは大半が運動部に所属している生徒だけだろう、騒がしいのは体育館と校庭とテニスコートぐらい……意識し過ぎかもしれないが、もし変な目で見られても困るし、そこは避けて通ろう。


 そう判断してしまったが故に、俺は見たくもない現場を見てしまう。


「な……」


 あれは、学年1位の男と……体験入学をしてる女の子。


 こんな俺でも知ってるくらい、有名な2人だった。女の子の方は席が後ろだから、知ってるのが当然だとも言えるが……素性の方も知ってるとなると、この言い方で間違ってないだろう。


 まずは、男の方。学年1位の根岸ねぎし 貫太かんた。能力は【貫通】。彼の攻撃は防げない、火だろうが、水だろうが、土だろうが、何であろうが貫く。それはつまり、防御の無視……。それだけならまだ良い。彼の【貫通】が真に厄介なのは、その能力を防御に使われた時だ。


 貫通とは、貫き通ること。


 防御においては、貫くと言うより、通ることの方が強く現れる。山を穿つトンネルを造るのが、攻撃による【貫通】だとしたら。山と言う邪魔物を通り抜ける為のトンネルという役割の面が強くなり、凡ゆる攻撃がすり抜けてしまう。それが【貫通】による防御。

 どんな攻撃をも貫き通ってしまう様は、擬似的な透過と言えよう。

 

 頭なんて元が駄目でも、努力で何とかなる。しかし、努力だけじゃ届かない、能力による絶対のアドバンテージ。故に1位。【保護】と言う防御一辺倒の俺なんか足元にも及ばないだろう。


 女の子の方は、雪白ゆきしろ 唯依いより。体験入学に来るような人だ。一般人じゃない。



 この雪白とは、この国に古くからある家名で、古来より使われてきた色の形容詞達(赤、青、黒、白)を起源にもつ『古色こしき』の内の一家だ。ご察しの通り、彼女はその中の【白】を冠する名を持っている。その事が俗世に広まったのは、能力者の増加に所以する。皆が似た力を持つようになり、隠す必要が無くなったのだ。


 古色の、その中でも色にあやかって名前を付けるのがブームになった。それが、ちょうど俺達の代であり、キラキラネーム界の一端を担っている……。


 とまぁ、少し話が逸れたが、古色が最も特徴的なのは、この家系の全員が同じ能力を発現させる事だ。

 そして時代ごとに一族で最も能力が優れているものに先代、親、兄弟、分家の全員が、その1人に能力を分け与え、時代によっては全てを与え、継承させ続けてきた。故に、その能力は只人とは大きく異なると言われている。


 そんな子が偶然にも、教室では俺の後ろにいる。

 俺の日常への弊害と言うなら、プリントを回す度に、恐れ多くて手が震えている事だな。逆に失礼にあたってて、始末されたら困る。気付かれてない事を祈ろう。


 でも、そうか。こんなにも凄い人と2人きりになれる学年1位さんは、さぞ優秀なのだろう。差し詰め、学校内に飽き足らず、外でも通用すると目をかけられているのだろうか。

 いや、放課後に2人きり。まさか、恋ではあるまいな……


 これでも多感な時期の男だ。人様の恋路とやらが気にならないでも無い。そんな、ほんの少しの好奇心から、2人を見続けてしまう。


 しかし聞こえてきたのは、色っぽい話では無さそうで。


「なぁ、雪白さん。そろそろ学校辞めちまうんだろ? ちょっと話をさせてくれよ。なぁ、おい……ちっ、なんだよ、一般人の話は聞いてもくれないのか? お高くとまりやがって、今は護衛もいないってのに良くまぁ、オレの前でそんな態度をとるってなら考えがある」


 うん、これまでにない厄介事だな。面白そうではあるのだが……関わっても良い事は無さそうだ、帰るか。でもな、知らない人じゃないってのが悩みどころだ。

 もし俺に助けられる力があるなら、助けたい。

 けど、雪白 唯依は古色の1人。きっと俺の力なんぞ借りる必要も無い。

 はずなのだが、状況は解決から遠ざかっている。


「…………」


 コミュ障の俺でも、無言はどうかと思う。

 ほら、男の方もさぞ怒っていらっしゃるじゃない……。


「分かった、なら【貫通】」


 放たれる拳はあらゆる抵抗を【貫通】し、加速する。常人には躱せない一撃。それをあろう事か、敵意のない相手に向けて放った。それも女の子にだ。


 許せない。らしくない感情が湧き上がっているのが分かる。


 すると、心の奥底から、またも責め立てるように声が聞こえてきた。だが今回ばかりはありがたい。お陰で背中を押して貰えた気になれる。

 この距離じゃ間に合わないかも知れないが、それは知らない、気にするな。さぁ、走り出そう。そして助けよう。知ってる子なんだ、助ける努力ぐらいしないと寝覚めが悪い。


「きゃ……」


 躱せない一撃に対し、敵意が無かった事が逆に幸いした。突然の攻撃に臆したから、足が竦み後ろに倒れ込むことで、初撃を躱す。

 しかし同時に、危機でもある。倒れたままでは追撃を避ける事は叶わない。

 でも、お陰で間に合いそうだ。


 続く攻撃に雪白 唯依は【白】の能力を使おうと試みるも、彼女は今代の白では無い。故にその能力は常人のそれと同程度でしかなかった。加えて、護衛に守られる彼女は実戦経験が乏しく、荒事に慣れていない。


 いくら由緒正しい能力であっても、使用者が扱いきれてないなら、本領を発揮し得ない。さらに不幸にも相手は学年1位。多少の実力がある彼ならそれで、通用してしまう。

 

「続けて【貫通】。いや、《貫くは槍》」


 まず彼の手が貫手の形をとった。それだけなら唯の武術で済んだ。しかし、そこに能力が合わさっていく。もう一度言うが、彼の【貫通】は、あらゆるものを貫く能力だ。そこに幻覚を見せる力など無い。無いはずなのに、俺には見えてしまう。


 肩から腕にかけて円錐型に分厚い金属で覆われていく。腕の先端にいくごとに細長くなる形状で、先端が恐ろしく尖っている。西洋でいうランスに近い、凶悪な形をした槍だ。


 この事実は助けに向かってる俺にとって最悪だが、考え直そうにも既に手遅れ。一度走り出したら簡単には止まらない。倒れている女の子を護る為、覆い被さる形で割り込んだ。


 瞬間、俺の体に槍が突き刺さる。

 槍に見えているのは、幻覚かもしれないと楽観していたが、如何やら読み間違えた。


 でも、突然の割り込みに目測を誤ってくれたのか、護ろうとした女の子には槍が届いていない。良かった……。と、思わず安堵してしまったのは良くなかった。


「い、痛い! 痛い……。血、血が止まらない」

 

 男が俺の身体から槍を引き抜いた事で、痛みが遅れて脳に到達した。

 それは生まれて初めて体感する種類の痛み、形容し難い程に苦しい痛み、背中から腹に開いてしまった穴から血が溢れ出て、まるで溶岩が流れてるかのように熱い。あ、穴? あぁ、腹に穴が…………


 女の子は確かに護れた。だが俺の身体には、しっかりと槍が【貫通】していたのだ。


 余りの衝撃に、ただの中学生の精神では耐えられない。ならばと、俺が【保護】するのは意識。消えてしまいそうだった意識を辛うじて保つ。

 この時間に彼女に、逃げて貰えたら安心出来たのだが、そうもいかなかったようだ。まぁ、仕方ないか……。目の前で、腹に穴の開いた男が、血を流していたら怖くて動けないよな。

 少しは安心してもらいたくて、苦笑いをして見せた。微笑む事は無理でも、一応笑う余裕はあるんだと示してあげたかった。馬鹿な男の強がりだ。

 

「誰だ、お前。用があるのは雪白だけなんだよ! こっちはな、雪白が手に入らないなら殺してもいいって言われてんだ、邪魔するならお前ごと!!」


 少しは言い返してやりたいが、能力で意識を保っているだけの俺は今、声が出せない。絶え間なく、全身を襲う痛みに耐えているのに必死なんだ。この【保護】もいつまで持ってくれるか……


 もう一度、槍が俺に襲いかかる。俺は先程よりも強く背中を【保護】する。男が既に開いた穴を狙うか、心臓を狙うかは見えないので分からないので、ただただ祈る。

 またも、槍が突き刺さる。場所は……既に開いた穴の横。それを一瞬、耐えられた。逆に言えば、強く【保護】しても、防げたのは一瞬だったと言える。

 

 あぁ、死ぬ。   


 避けられない死を意識した途端、時間が引き延ばされた感覚に陥った。目に映る全ての動きが、スロー再生されているかのように、ゆっくり、ゆっくりと進む。


 本当に……走馬灯なんてものがあるのか、と感心する気持ちを一旦、置き去りにする。


 何もかもが遅いこの世界で、自分の体を動かせればいいのだが、そうもいかないようだ。走馬灯は走馬灯、あくまでも自分の感覚での話だ。


 決して、命の危機に新たな能力に目覚め、時の流れを動かせた訳じゃないのだ。


 だが、死を迎える前に、与えられた猶予ではある。何か、何かをしなくてはならない。それを考える時間だけがある。


 けど与えられた時間がどのくらいか見当も付かない。だが、せめて、彼女の死を……可能なら俺の死も避けたい……


 頭では死を避けようと思っているのに、強制的に思考を埋め尽くしてきたのは、一見関係の無いものばかり。それを俺は抗えず、無理やり考えさせられてしまう。


 俺の血が彼女の服に付いてしまった……これは弁償か


 葬式、人来るかな……


 遺書、残してないや


 あの世にいってもこの有り様じゃ、親に顔向けできないな⋯⋯


 このまま槍に貫かれて死んだら、この子にも槍が刺さって死んでしまうのか…………


 それは……嫌、だな。死にたくないし、死なせたくない。


 だからって、どうしろと言うんだ。時既に遅い…………



⋯⋯⋯⋯人は何処から、どんなエネルギーを利用して、能力を使っているんだろうか?



 考えた事もない疑問が、この期に及んで湧いてきた。例の心の奥底からの声かとも思ったが、これは、違う。もしかしたら、これを考えさせたかったのか……。

 強制的な走馬灯は、この疑問にて終わり。

 なら、そう思う他無かった。



 考えるしかない。時間本来の速度を置き去りにして、思考だけが永遠と回り続けているような感覚。

 故に時間はある。



 もし、世界の側、つまり外側からエネルギーを引き出せるなら、誰もが永遠に能力を使えるし、その威力にも差は現れない筈だ。

 なら、人の内側からエネルギーを引き出しているのか? だとしたら、同じ能力でも差が生じる事の説明がつく。

 

 そうか、人の内側か。なら態々、外側に火や水を生じさせたり、外見を変貌させる類いの能力の使い方は、効率が悪いとも言えるのではないか……


 さらに検討しよう、引き延ばされた時間は、まだまだある。


 能力を使いすぎると、脳にもダメージを受ける。

 これは、何らかのエネルギーを処理して、変換する過程で脳が使用されているからなのだろう。


 また、”想い”が自らの能力を確定するという俺の拙い仮説を鑑みれば、想いを形にしようと想像するのは脳であるし、そもそも想いを形作るのは心であり、考える脳だろう。

 だが脳はあくまでも、処理機関である。

 じゃあ、肝心のエネルギーは、人の内側の何処から……


 生物はエネルギーを、細胞外から取り込んだ有機物や、細胞内で合成した有機物を分解して調達している。


 つまり、この身体でエネルギーを作り出しているのは細胞……能力に使われるエネルギーとの共通性はあるのだろうか? うん、分からない。

 しかし、身体の内側から能力のエネルギーを得ている以上、外側で能力を使うよりも、内側で能力を使う事の方が理に叶っていると、そう言えなくもない。


 なら、試そう。


 実践する為の時間も手段も、世界がゆっくり流れて見える特殊な感覚が、俺に与えてくれている。


 痛みさえも遅れすぎて、気づかなかったが、彼の槍が少しずつだが、俺の身体に刺さり始めている。既に、背中を護るようにして外側・・に展開した【保護】は、槍が触れた瞬間に貫かれてしまって、まるで意味を成していない。


 ならばと、肉を食い破っていく先から、槍と触れている内側の肉と【保護】していく。イメージは槍と肉とを縫い止めるような【保護】。


 違う。肉よりも、もっと細かく、細かく、細かく、細かく、細かく、細かく、細かく…………。

 あぁ、分かる。この身体の内側で生きている細胞が、今なら分かる。

 細胞はエネルギーを作り出している。そのエネルギーと能力に使われるエネルギーに共通性は無いのかもしれない。しかし、共通性が無かろうと、互換性ぐらいはあるだろう。例えば、再建手術において直したい部分とは別の所から、自分の筋肉や皮膚を持ってきて、元通りに戻す事がある。

 身体を構成するものには、多少なりとも互換性が存在している、そう捉えよう。

 

 細胞で作り出されたエネルギーをすぐさま能力へと変換する。すると、どうだろう、無駄な経路を辿っていない分、【保護】が速い。


 ブチッ……ブチッ……

 

 それでも槍が貫くのを止められない。細胞から直接【保護】のエネルギーを工面するのは、速さしか補えない。

 言わば捨身の【保護】なのだが、【貫通】を体現する槍の前では、元々脆い【保護】では引きちぎられてしまう。


 なら、”想い”を足せばいいのか……。


 まだ、槍は身体に刺さったばかりだ。完全に貫いてしまうまでには、もう少し時間がある。


 そもそも、どうして彼女を護りたいのか……

 

 護ろうと走り出した時の言い訳は、「知ってる子が傷つくのは夢見が悪い」だったか。

 脆い、脆いにも程があるな、これじゃ理由としては足りない。


 では、【白】を助けて英雄にでもなりたかったのか。

 脆い、私欲に塗れている汚さも相まって、脆い。


 なら、正義感か、女子に手を上げる男を許せなかったか。

 脆い、そもそも、そんな理由で護ろうとした訳じゃ無い。知らん女だったら見て見ぬ振りをしただろう。



 世の中気づかない方が良い想いもある。その想いを正しく認識したら、地獄の道を、選ばなければならない。それを俺は選ぶ。


 護りたいと思った本当の理由……俺は、雪白ゆきしろ 唯依いより好き(・・)だった。

 プリントを回す時、微笑むその顔が綺麗だと思った。

 時々、前の席にいる俺に、小声で質問してくるその声が素敵だと思った。

 由緒正しい家柄故、英才教育を受けている彼女が、聞いてくる質問は、勿論、勉強に関する事では無かった。クラスの誰かが教室を笑わせると、「何が起こったの?」って、きょとんとした顔して聞くのが殆どで、これがまた可愛かった。

 ただ廊下を歩いてるだけなのに、映画の1シーンに勝るとも劣らない空間を創り出す、その姿が美しいと思った。

 

 あぁ、そうだな、改めて認めよう。俺は彼女が好きだ。ひとつひとつの思い出は小さく、ゴミのようだが……そんなんで好きになってしまう程、雪白 唯依は可愛い。決して、俺がチョロかったわけじゃない。


 さて、確固たる”想い”は手に入れた。

 “想い”が能力と深い関わりがあると信じよう。この仮定が間違ってたら、滑稽すぎて笑えるな。


 槍は今どのあたりまで刺さったか……

 良かった、まだ身体の半分程度。

 

 今の【保護】は、過去最高に堅牢な自信がある。この自信をも【貫通】されたら、結末は死でもいい。それだけ自信があると思って欲しい。


 【貫通】を続けていた槍が、たったいま停止した。

 その停止と共に、走馬灯とも思える時間も終わりを告げ、正しい時間感覚に戻っていく。


「【貫通】しない!? おい、なんだ、なんでなんだ、それが能力か!!」


 そうか、彼の感覚では突然、槍が止まった事になるのか。驚いてくれて少し嬉しいよ、このまま【保護】し続けて絶対に離さない。

 まぁ、もっと嬉しいのは好きな子を護れた事だな。

 だって、このまま【貫通】を使う根岸を止め続ければ、俺は死んでも彼女は死なない。

 

「死にかけなんだから、さっさと離せ!」


「⋯⋯はな、さない」


 意地で声を出す。彼の言う通り死にかけだからな、そんな奴が、まだ声を出せる事に臆してくれたら、儲け物……


「おっ? でも能力の方は弱まってきてるようだぜ!」


 ⋯⋯なるほど、細胞から直接エネルギーを工面し続けてるせいで、全身に行き渡らず、生命活動自体が疎かにされている。そのせいで能力を使うための脳が機能を弱めていた。

 酷く不味い状況だ。折角”想い”至った【保護】が終わってしまう。

 先ず、意識の【保護】が限界を迎えようとしていた。

 少しずつ視界がぼやけ……暗くなって…………頭も回らなくて…………………槍を止める【保護】だけは絶対に、止めない……止められない…………今のうちに逃げて…………誰か、彼女を……雪白を…………助けてください…………


 「白守しろもり流護衛術、『驟雪しゅうせつ』」


 ーーそれはまるで、にわか雨を思わせる強い雪。恐ろしいほど強く降る雪を冠した一撃。それを拳で放つ技ーー

 

 槍になった腕で俺を突き刺していた根岸 貫太が、壁まで吹き飛ばされた。

 彼の槍と俺の身体を縫い付けるように【保護】していたので、一緒に吹き飛び死ぬはず。だと言うのに、刺さっていた槍が抜けて、背中に穴が2つ開いている事を除けば無事だった。それが致命的じゃないか……。


 でも、よかった……助かった…………


 その安心感がとどめとなって、意識を失った。


「御………しな……でーー」

 

 俺を心配する大好きな声を、ちゃんと聞く事も出来ずに……


***


 目が覚めると、知らない場所だった。寝起きの悪さに加えて、全身の倦怠感、腹部と背中の痛みにより、史上最悪の目覚めだ。

 意識を失う前の記憶が、言うなら修羅場であった故に、手短に状況を整理しなくては。


 取り敢えず、カーテンの開かれた大きな窓が見えるな。寝ながら見える景色は、建ち並ぶ沢山のビルと、その隙間の空だけ、何処にも自然は見えず、ここが、都会である事が分かる。

 

 よく見れば、ベッドが大きい……寝返りを3回ほど打てる。それに布団……布団だよな、余りに軽すぎて、俺の知ってる布団じゃない。これが……羽毛布団という奴なのか。

 

 ここが、何処なのかいよいよ怖くなってきた。もう少し調べる範囲を広げたくて立ち上がる。そして気付く、腕に点滴が繋がっていた。

 点滴を使う場所など病院ぐらいだろう。

 

 ベッドの上からでは外が十分に見えなかったので、重い体を引きずって窓の方へ向かう。


 圧巻だった。ここから見えていたビルはほんの先端でしか無く、全てがずっと下に向かって伸びている。

 下を見下ろすと、地上から途轍もない距離があり、歩く人は点が動いているようにしか見えない。


 高所恐怖症というわけでは無いが、自然と冷や汗が噴き出していた。高いのが怖かったのか、ここの治療費が怖かったのか、きっと両方だ。


ーーガラガラ

 

 扉が開かれる。入ってきたのはスーツ姿の知らない女性だ。

 背丈は160cmの俺より断然高く、モデルのようなすらっとした体型、歩く姿が凛々しさ溢れていて、かっこいい大人の女性といった感じか。


「まずは礼を⋯⋯護衛が意識を失っている間、唯依様を守ってくれて感謝する」

 

 唯依……雪白の所の護衛か。そういえば、学校で見たことあるような、ないような…⋯それはさておき。

 あの日は、珍しく護衛がいなかったのではなく、非常事態だったのか。きっと根岸の仕業だ。彼が「殺していい」とか良からぬ事も言ってたしな。


「いえ、こちらこそ助けて頂きありがとうございました。あのままでは、護りきれず死んでいましたから」


 謙遜では無い、事実だ。あれが今の俺の限界だった。


「そうか……病み上がりにすまないが、確かめなくてはならない事がある。協力をしてくれないか? 協力と言っても私の能力に逆らわないでくれるだけでいい」


 そう言って手を差し伸べてきた。何を確かめたいのか分からないが、看病して頂いてる身だ、断るのも印象が悪い。ここは了承の握手で答えを示そう。


「話が早くて助かる。では、『私は貴方を把握する』」


 護衛の方と手が触れ合う。


 瞬間、あの日の事が覗かれるような感覚に襲われる。

 俺が雪白 唯依を護ろうとした理由、彼女をどうやって護ったか、根岸 貫太が何を話し、何をしたのか……。


 そして、回想は遠ざかる。体験入学期間の俺と彼女の関係性。

 

 最後に、俺の人となり、能力、能力の根源たる両親……それは即ち御盾みたて 灰十はいとという人間のルーツを暴く行為。


 全てが一瞬にして目前の女性に、把握されていく。

 

「……今ここに把握した。君は……実に恐ろしい。忠告の意味を込めて、その護り方の答え合わせをしなければならない。能力の使い方、半分正解で半分不正解だ。

 特に不正解が酷い、直接細胞のエネルギーを使う? その無茶は、効果の薄い、余りにも無駄な自殺行為。少しでも治療が間に合わなければ死んでいた……二度としないように」

 

 これは……仰る通りです。護りきれなかった原因が心は平気でも、身体が保たない事だったからな。

 古色の関係者があれを不正解と言うなら、そうなのだろう。

 ん? 半分は正解なんだよな……


「……”想い”は正解でいいんですか?」


「正解だ。だからこそ君のような子供が、その結論に至れたのが恐ろしい」


「ははは……って、つまり、どんな”想い”で能力を使ってたのかご存知……なんですよね」


「まぁ、そうなる」

 

 これは不味い事になった。この人は雪白の護衛、俺は彼女の主人を好いている……詰んだ。

 雪白家の家柄を考えれば、俺は間違いなく邪魔物。恋愛に発展する可能性は限りなくゼロに近いだろうが、もしもはある。なら、そのもしもを消し去るのは護衛の仕事であって然るべきだろう…………


 ただでさえ重症を負って顔色が悪いのに、さらに顔が真っ青に染まっていく感じがした。


「そんな顔しなくていい。”想い”が能力をより強くする、なら君の【保護】は護るべき対象が大事であればあるほど、強くなるのだろう?」


「ですが……」


「口を閉じろ。それ以上は護れた事を否定するに等しい行為だ。だが、良かった。お嬢様を助けたのが純粋な気持ちで……。もし、君がこれを機に取り入ろうとする愚物だったのなら、私は君を排除しなくてはならなかった」


 何も言えなかった。拍子抜けしたのもあるが、その情けに救われた。護りたいと願った”想い”が純粋だと……好き、だなんて不純な理由でも、それは正しいのだと言われた気がした。


「では、失礼する。あの根岸と言う男……あの年でありながら必殺技を使えたとは…………。まさかな、だとしたら警察に引き渡したのは失敗か」

 

 俺が黙り込んでいる間に、護衛の女性は用は済んだと、この場から退室するように扉へ向かってしまう。

 もう、雪白 唯依の体験入学期間は終わりに近づいてはいても、寝込んでる間に終わっていなければいいが、まだ数日はあった筈だ。だが、殺人未遂事件の起こった学校にこれ以上来るはずがないのも確かだ。 


 もう彼女に会えない。そんな言葉が頭に浮かぶ。

 

 身分が違う。住んでる世界が違う。

 会わなければ、俺の【保護】は変わらず脆いままで、適当に護って、適当に壊れる。でもそれに文句は無く、受け入れて、英雄なんぞになれないまま適当に終わる人生だっただろう。


 けど、偶然にも、出会ってしまった。

 出会って、護りたいと想ってしまった。想ってしまったから、それに見合うように【保護】も成長して……


 あの煉獄の日に憧れた英雄にはなれないと既に思い知っている。

 けど、代わりに彼女の英雄になりたいと思えた、思わせてくれた。あの人の為なら命だって惜しくない…………あぁ、やっとだ。あの煉獄の日、全てを護る為に命を懸けた両親えいゆうに、心が近づいた気がする。

 つまり、雪白 唯依は俺という人間を形作るルーツの一部と化してしまう。

 

 だから、起き上がれ。歩み寄り、声を出せ、あの背中を逃してはいけない。

 

「ーー待ってください、あの……貴方達に取り入っては駄目ですか。俺は……雪白さんを護りたい。

 護ると、この胸に抱いてしまった想いが消えてくれません。どうか、お願いします……」

 

 理由が理由だ、言葉にするのは難しい。拙い言葉の数々で、古色の護衛が簡単に折れるとも、思っていない。傷がなんだ、穴が空いていた体であろうと土下座くらいしてやる。


「…………それは、茨の道だ。部外者の君を良く思わない者もいるだろう、その能力も伸び悩めば捨てられる……例え護衛に特化した【保護】であってもだ。

 仮に、運良く護衛になれたとしても、永遠の片想いで終わる悲恋が結末だとしてもか?」


 茨の道か。俺が想定したのは地獄の道だ。あの煉獄に並びうるだろう道。

 だったら諦めないさ、必要ならこの体を、そして想いさえも【保護】して道を歩み続けてやる。

 それにだ、この人は俺の為を思って、ある種脅しのように拒否している。なら、返事はかっこつけて飾り立てよう、虚勢だとしてもいい、その道で良いんだと伝えろ。

 

「構いません。あの人を護れるなら、どんな結末でも幸せだったと言い切りましょう」


 暫しの沈黙。俺を眺め、諦めたように目を瞑る。


「……若者が自ら悩み決めた道なら、大人はそれを尊重するべきか。ならば改めて自己紹介を、私は雪白家護衛、白守しろもり かえでだ。女ながらも、その長をやっている。宜しく頼む。

 あぁ言い忘れていた、お嬢様からの伝言だ。「御盾くん、ありがとう」と仰っていたぞ。ふっ、名前を覚えられてるんだ。さっき、結末は悲恋と言ったが、悲恋とも限るまい。これから頑張ることだな」


 意外な情報も相まって、嬉しさが隠しきれないが、結果往来だ。


「ーーありがとうございます……。これからよろしくお願いします!」


 こうして、1人の男が女の子に惚れる『ありふれた物語』が終わった。

 助けた側が惚れるのではなく、助けられた側が惚れる点だけ、ありふれなかったのが悲しい。現実は非常であり、そう簡単にいかない。


*****


 長い、長い昔語りも終わり。

 思い出す行為で頭を使ったおかげか、頭も回って目も冴えてきた。今日はベッドから出れるまでどのくらいかかったかな?


「うん、15分」


 壁に掛けてる時計を凝視する。時計の針が指し示すのは10時ちょうど。目覚めたのが9時45分くらいだったから、15分。誰が何と言おうと15分だ。何文字分独白してようとも15分だ、異論は認めない。


 さて、せっかくの休日なのだが、今日は奴に頼んでいた物を取りに行かなきゃならない。家に届けてくれたら楽なんだが、用意してもらった側なので贅沢は言えないな。

 

 俺は部屋のカーテンを全て開け、開けっぱなしだった窓を閉める。ファッションに疎いから高校生らしいかっこいい服装は知らないが、最低限外に出ても変じゃない服装に着替える。

 ちなみに、俺の身体に空いた二つの穴は綺麗に塞がっている。今や医療にも能力を取り入れるようになって、医療が革命的に良くなった。それに加えて、あの高そうな病院である。完璧な処置だった……。

 さて、着替え終わったので、とりあえずリビングに行こう。


 うちのリビングは一階にあり、俺の部屋は二階…。地味に階段が辛い……。部屋を変えようか悩む。


 リビングに降りても、誰もいない。それもそのはずで俺には家族がいない。俺が幼い頃に火災で両親は2人とも亡くなっている。

 それでも、無駄に二階建ての一軒家に住めて、食費にも困らないで、学費も不自由していなのは、2人が残してくれた財産と、方々の支援のお陰だ。

 英雄として活躍していた両親はお礼としてお金を貰う事も多かったらしく、加えて、助けてくれた礼にと2人が残していった息子を良くしてくれる。そんなところだ。


 幼い頃は苦労したが、今となっては慣れてしまったな……。そもそも、余り思い出さなくなってもいる。


 誰も興味ないだろう、俺の家庭事情は置いといて……


 リビングで一旦落ち着いて、今日一日のことを考える。


「カフェ行くついでに朝飯も兼ねた昼飯も済ませるか」


 場所は。まぁ、気ままに自転車に乗りながら考えればいいか。家から奴の働くカフェまで、こっから20分くらいある。どうせ道中の暇だけで、考えは纏まるはずだ。そもそも偏食の俺は選択肢が少ないからな


「じゃあ、いってきます」


 誰もいなかろうが、俺が人であるから、家を出る時のこれは欠かせない、言わば家を出る時の人類の習慣。俺の場合、返事を返してくれる人はいないが。

 それでも、一種の儀式としては申し分ない。


 流石に、1人でいってきます、は寂しいな。

 俺は猫派だし、部屋も空いてるし、猫でも飼うか……


 猫っていいよな。懐かれて這い寄ってくるのもいいだろうし、懐かなくて勝手気儘に生きてる猫を眺めるのも楽しそうだ。

 くだらない妄想をしながら、俺にしては珍しく外出に出掛けた。


*****



「よっ、休日は家で過ごすのが当たり前の俺が来てやったぞ……一応言っとくがこの場にいる俺は相当レアだ」

 

 カフェの駐車場に自転車を止めて店内に行こうとした時に偶然、奴が店前で掃除をしていた。

 そのお目当の人物はこっちを一度見たというのに目を逸らしてきた。

 少し癪に触ったから、嫌がらせの意も込めて声を掛けてやった。


「すまない、私の先入観で幻か幻覚かと思ってしまった」


 奴の端整な顔に言われる嫌味はムカつく。女子や俺以外の男子には外面良いんだから、少しは気遣ってほしいものだ。

 嫌味の言い合いを続けていると話が進む気がしないので、今回は俺が我慢しよう。


「自覚はある。それより頼んでたものは?」


「安心するといい。問題なく揃えてある、とりあえず中に入ってくれ」


「あぁ、わかった」


 言われた通り店内に入り、「スタッフ以外立ち入り禁止の部屋」をさらに奥へ進み、綺麗な店内というより店の外見に近い状態の、古びた扉を開けた。


 ーーーー遠い。ここに来る度に思うのだが、もう少し近くしてほしい……気儘に歩くのは好きだが、こうやって歩かされるのは好きじゃない。


「扉に似合わず、部屋の中は綺麗なんだよな」


 汚れがあったら姑みたく嫌味の一つでも言ってやろうと思ったのに、残念だ。埃一つ見当たらない。ブツブツ言いながら部屋を歩き回っていたら、箱を3つ抱えた奴が入ってきた。


「待たせた、この箱に頼まれていたものが入ってる。これが伝導体の銀だ、熱も電気も通しやすい。こっちが半導体のゲルマニウム、最後に絶縁体の雲母。あと一応いつもの糸も揃えてある」


「糸まで準備しといてくれたのか、ほんと助かる。で、今回のお礼はどうする?」


 砂と砂の結合を【保護】して棒のような武器にする事が多いが、長は棒術が専門外らしく、独学で棒を振り回してる。

 一方、糸は搦め手に使い易くて愛用している。俺の能力は護るためのものだから、攻撃に使うのは苦手だ。だから、搦め手は欠かせない。


 あぁ、武器と言えば、最初は武器を使う事を長に咎められると思ったのだが、OKらしい。

 もし護衛対象に武器が当たって、怪我をさせたら危ないし、駄目かと思ったら……。「武器か……それで少しでも届く距離が伸び、お嬢様を護れるのなら、使わない手はない」だそうだ。

 と言いつつ、長は籠手を使う。籠手で伸ばす手を守り、その手がお嬢様を護ろうと、伸ばし続けられるように、らしい。


 話が逸れた。

 今回は量が多いし、準備してもらったものも違う。代金を決めてなかった気がするので、今ある金で足りるのか不安である。


「いや、今回の礼は構わない。今回は橙火様の目的のためだろう? きっと試験で優勝とか言われたのだろ、それなら勝てば必要ない。目的を果たせなかった場合は相応の代金を頂くがな」


「葉月さんの事となると流石だ。だいたいそんな感じだよ。まぁ、約束だから勝つよ。俺の為でもあるしな』


 柄にもなくカッコつけてるように見えそうだが、必ず勝つ。

 ついでにあの、【保護】を壊してきた男のチームを倒さなくては。相性の悪さといい、あの強さといい1番厄介なはずだから……


「ーーそうか、期待している」


「あぁ」


 

******


 奴のあんな顔をするのは珍しい。微笑ましいものを見るような、俺を見ながら葉月さんを見ているような感覚。何故奴が葉月さんに傾倒するのか、あの人柄故か……言い方が悪過ぎるが、まるで悪女だな。


「とりあえず家で色々と練習だな。試験前の休日はそれで潰れそうだ」


 さて、昼食はファミレスでハンバーグを食べよう。ここのハンバーグは、ハンバーグ、ポテト、目玉焼き、コーンというシンプルなものである。つまり野菜が入ってないので、お子様舌の俺に優しい料理だ。

 

 昔は1人でファミリーレストランに行くのは恥ずかしかったーー多分ファミリーの部分が悪いーーが今や1人でご飯を食べる者が珍しく無い社会。本当にいい社会になった。


 あとは、昼食を食べて、家に帰って練習して、夕飯を食べて終わる。男1人での食事シーンはいらないでしょう、割愛させてもらおう…………。

 


次は橙火です

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